著者
松井 清夫 坂本 弘 石須 哲也
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.10, no.10, pp.489-495, 1968-10-20

The majority of the famale workers in the spinning industries in Japan live in their boading-houses. Therefore, the new-comers have need of adjustment to both the labour and the new mode of living. In this report, the psychological adjustment to the new mode of living in their boading-house was investigated. As new-comers come from all the provinces in Japan, their wordings (dialects) are diverse. This was troublesome for them. Other perplexities for them were: how to spend money well, living with many boaders in a room, etc. The majority of them had adjusted themselves to these within three months. But, workers from Ryukyu had different appearances. They had been afflicted with association with workers from other provinces. After the Second World War, Ryukyu was separated from the mainland of Japan and was shifted under the rule of U.S.A. The state of affairs in the mainland was teached in the school of Ryukyu, but, in the mainland, the state of affairs in Ryukyu was faded away in the school education. Therefore, the workers from Ryukyu have extensive knowledge concerming the mainland. They have passion and nostalgia to the mainland. On the other hand, the workers from the mainland have little knowledge of Ryukyu, and they have not recognized the workers from Ryukyu as compatriots. The workers from Ryukyu were distressed by these dislocation in their consciousness. Therefore, the workers from Ryukyu took aggressive group action occasionally, and then several cases of neurosis or psychosomatic diseases were observed among them. An industrial effort on the mental health of the new-comers were made, i.e. the head of roommates was educated as an opinion-leader in their daily life. Then, though the adjustment to their daily superficial life has been made smooth, the above mentioned dislocation in their consciousness between the workers from the mainland and those from Ryukyu could not be solved. In these problems of adjustment of the newcomers the industrial mental health may be closely related to the school education.
著者
Fujiwara Kyoko Tsukishima Eri Tsutsumi Akizumi KAWAKAMI Norito KISHI Reiko
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
Journal of occupational health (ISSN:13419145)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.313-320, 2003-09

To examine associations between interpersonal relationships in work settings and burnout, a cross-sectional survey was conducted on home care workers in Sapporo, Japan, by using the Maslach Burnout Inventory (MBI) and scales of interpersonal conflict and social support developed by the authors. Questionnaires were distributed among 303 subjects and returned by 243 subjects (80%). Complete answers were obtained from 106 subjects and were used for analysis. In multiple regression analyses, conflict with clients and their families significantly related to emotional exhaustion and depersonalization of the MBI (p<.05). Supervisory conflict significantly related to emotional exhaustion (p<.05), whereas coworker conflict significantly associated with depersonalization (p<.01). It is suggested that conflicts with clients' families, as well as clients, are important indicators for emotional exhaustion and depersonalization of home care workers.
著者
倉田 正一 重田 定義
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.3, no.9, pp.471-479, 1961-11

The Japanese "Kana" typewrite is going to be widely used in offices. But the arrangement of letters and numbers on the keyboard is not standardized among various manufactures. A study was made to determine the ideal arragement in the keyboard for maximum efficiency in man-machine system. On the side of machine, sizes of various keyboards, loads for each row as conferred by hands, and fingers were measured. And on the side of man, the physiological capacities of fingers were analyzed. Working area of fingers or motion of upper extramities related to typwriting, anatomical position of the finger phalanges, electromyogramm, tapping rate and compound reaction time were observed on skilled and unskilled typists. It is suggested from the analysis of the data secured in these investigations that keys of the "Kana" typewriter are not so arranged that the load of each finger is fitted to the physiological capabilities of the finger.
著者
鄭 真己 山崎 喜比古
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.20-30, 2003-01-20
被引用文献数
8

「健康職場モデル」の概念を用い,組織特性を含めた労働職場環境特性が,ストレッサーとして労働者の心身の健康,職務不満足及び離職意向に及ぼす影響を検証することを目的とし,国内の情報サービス産業某社の従業員612名を対象に,2001年7-8月に自記式質問紙調査を実施した(有効回答率96.2%).うち,コンピュータ・テクニカルサポートスタツフ488名を最終的な分析対象とした.フォーカスグループを用いて労働職場環境特性の項目を新たに作成し,因子分析の結果から29項目7因子を得,「評価制度の未熟性」「管理方式の未整備」「キャリア・見通しの曖昧さ」を「組織特性」の尺度,「同僚のサポートの低さ」「上司のサポートのまずさ」「作業環境の低い快適性」「仕事の量・質の要求度」を「作業・職場特性」の尺度とした.重回帰分析の結果,「組織特性」と労働者の健康及び離職意向との有意な関連性が認められ,「組織特性」が重要であるという「健康職場モデル」の概念を支持する結果であった.
著者
寺田 勇人 曽根 智史
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.49-60, 2000-03-20
被引用文献数
3

地域産業保健センター事業(以下「地域センター」という.)は, 常勤50人未満の小規模な事業場(以下「小規模事業場」という.)の身近なところで, 無料で産業保健サービスを提供する事業として誕生したが, 利用実績は全国的に低調である報告が多く, 新宿地域センターについても同様である.本研究では, 新宿地域センターを対象に, 1996年10月〜1999年3月に利用のあった78事業場の利用状況の分析とともに, 1998年度1年間に1回以上利用のあった50事業場を対象に, 利用に至った経緯, 利用前に抱いていたイメージ, 利用後の感想などについて質問紙調査を実施することにより, 多くの地域センターの利用状況が低調である要因及び小規模事業場の産業保健ニーズを質的に検討し, 地域センターの効果的な運用について考察した.地域センターの利用状況が低調である要因として, まず, 地域センターの存在とその機能が十分に知られていないことが明らかになった.また, 相談日時・回数などのサービス体制, マンパワー, 予算措置などが小規模事業場数及びニーズに見合っていないといったサービス基盤が不十分であること, サービスエリアが, 市・区役所及び町村役場(以下「基礎的自治体」という.)の保健サービスと一致していない地域があることなど, 多くの課題が浮き彫りになった.その解決策として, 地域センター機能の普及啓発の推進, マンパワーの充実, 初回アクセスへの迅速かつ的確な対応, 規定のサービス内容の充実, 健診などの規定外サービスとの組み合わせること, 事業者団体及び個々の小規模事業場とのパイプを太くすること, 関係機関(医療機関及び関連医師会, 基礎的自治体, 都道府県型保健所及び政令型保健所(以下「保健所」という.), 市区町村保健センター(以下「保健センター」という.), 健康保険組合, 地域の労働衛生機関, 民間健康増進施設等)との連携協力や他の地域センターとの交流が重要である.また, 1997年度から開始された「産業医共同選任事業」の活用, 1998年度から開始された機能を強化する地域センター(以下「拡充センター」という.)や「母性健康管理相談事業」としての指定を積極的に受けることなどが考えられた.さらに, 産業保健推進センター事業(以下「推進センター」という.), 専門労働衛生機関, 労働衛生行政等からの支援も必要である.その他, 早急な解決は難しいと思われるが, さらなる予算措置の拡大とその柔軟な運用, 基礎的自治体とサービスエリアを一致させることなども有効であると思われる.
著者
小宮 康裕 中尾 裕之 黒田 嘉紀 有薗 克晋 中原 愛 加藤 貴彦
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.204-209, 2005-09-20
被引用文献数
1

禁煙や節酒支援への応用の可能性を検討する目的で, GSTM1およびALDH2遺伝子多型の遺伝子診断に対する意識調査を行った.対象は製造業の従業員1,654名(男性1,225名, 女性429名)で1,434名(86.7%)が回答した.GSTM1およびALDH2の遺伝子診断結果を知りたいと回答したのは, それぞれ52.2%と56.6%だった.一方, 知りたくないと回答したのは, それぞれ9.9%と7.2%だった.結果を知りたい理由は, 自分への喫煙の影響を知りたい, 将来の病気予防, 副流煙の影響を知りたい, 自分のアルコール許容範囲を知りたい, など個人の感受性を意識した理由が多かった.また, 知りたくない理由では, 結果を知っても止められない, 止める意志がないが多かった.多変量解析では, 現在喫煙している人(男性: OR=1.66 95%CI 1.29-2.14, 女性: OR=2.33 95%CI 1.37-3.98), 喫煙と肺がんの関連を知っている人(男性: OR=1.81 95%CI 1.25-2.63, 女性: OR=2.77 95%CI 1.42-5.40), CAGE TESTの点数の高い人(男性: OR=1.96 95%CI 1.42-2.68, 女性: OR=2.52 95%CI 1.07-5.94)で双方の遺伝子診断結果を知りたいと回答した人が有意に多かった.今回の調査より, GSTM1およびALDH2の遺伝子診断の禁煙支援や節酒支援への応用の可能性が示唆された.
著者
上田 厚 二塚 信 上田 忠子 有松 徳樹 上野 達郎 永野 恵 野村 茂
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.32-44, 1984-01-20
被引用文献数
2

い草農民は,収穫期に短期間ながら高濃度,以後の畳表製織工程により年間を通じ比較的低濃度の染土じん暴露を受ける.染土は,遊離けい酸含量15〜25%の粘土性の粉体で,収穫時にい草泥染として用いられる.い草農民には,約20年間の作業によりその20%にじん肺所見が認められるようになるが,そのX線写真上の症度や肺機能障害の程度は比較的軽度の者が多く,一般に,い草作業者のじん肺は比較的予後の良いものとされている.このことは,染土の生体作用に関する実験的研究によっても裏付けられているが,作業環境の改善はこの10年間でようやく着手された段階であり,作業者が裸手にて発じん源たる乾燥束を取り扱う作業形態よりみて,い草農民の染土じん吸入量は相当量に達しているものと思われ,今後の作業の状況如何ではより重篤な症例の出現する可能性は否定できない.また,かかる緩徐な線維形成をきたす粉体の吸入によるじん肺について長期にわたって追跡した例はほとんどみられない.かかる見地より,著者らは,1970年に調査されたい草農民の対象者を,1980年に再び健診し,この10年間の胸部X線写真所見およびその他の呼吸器所見の変化の様態を観察し,それが作業者の粉じん暴露の実態といかなる関連を持つかを検討した.対象者は男子51名(58.6±5.3歳),女子37名(54.4±38歳)で,前回と同様,胸部X線直接撮影,BMRCによる問診,肺機能検査,その他の内科的検査で,胸部X線像については,同一対象者の前回と今回の写真をともに,1978年版じん肺標準写真(労働省)を参照して同時に読影した.1980年のX線像では,12階尺度1/0以上が,男子49.0%,女子62.2%に認められ,1970年(男子25.5%,女子21.6%)に比し有意な増加を示した(p<0.01).所見は,小粒状影を混えるが不整形陰影を主とし,中下肺野に強く認められた.また,尺度の進展例は男子62.7%,女子67.6%であった.呼吸器自覚症状の有症率は,男子43.1%,女子41.4%で,前回と今回で有意な差異をみないが,男女ともにぜい鳴の有症率が増加の傾向にあった.肺機能検査では,男子19.6%,女子18.9%に一秒率の低下をみ,より深部気管支領域の障害を示す%MMFの低下(80%以下)を,男子51.0%,女子40.5%に認めた.X線写真有所見者やその進展例に,必ずしも,肺機能異常や呼吸器自覚症状有症率が高い傾向は認められないが,これらのおのおのの検査の有所見者は,正常者に比し,い草経営面積,年間畳表生産量あるいは染土じん暴露指数〔Exposure Index=(い草面積×年数)+1/5(年間畳表生産枚数×年数)〕が高値を示し,有症率と作業量との関連か認められた.これらの成績よりみて,以下の3点がい草農民のじん肺に関し重要であると思われる.1)い草作業者のじん肺の本態は,染土じんの吸入,沈着に伴う,とくに細気管支領域および肺胞壁の炎症性病変を主とするもので,さらに,い草自体の有機じんとしての関与も無視しえないものがある.2)い草作業者のじん肺の進展性はそれほど著しいものではないが,作業者には,X線写真上のじん肺所見のみならず,肺機能低下や呼吸器自覚症状が広範に出現し,さらに,それらの有症率には染土じん吸入量との関連が認められる.3)一般に,い草作業者の呼吸器障害の程度や頻度は,女子に高い傾向を認めるが,これは,とくにこの10年間のい草労働に占める女子の労働配分の相対的な上昇に対応している.したがって,本研究により,い草農民のじん肺所見は,畳表製品化作業に伴う長期の染土じん吸入に起因するものであり,今後とも,定期的なじん肺健診と適切な粉じん環境の衛生工学的改善が必要とすることが示唆された.
著者
重松 峻夫 石沢 正一 森川 幸雄 倉垣 匡徳
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.5-15, 1965-01-20

九州の四つの大手炭坑と137の中小炭坑をそれぞれ合して,その従業員及び扶養家族の1961年度における生命表を,社会保険,労災保険の資料により作製した。得られた平均余命・生存率・その他の生命表指数を検討し,次のような結果を得た。 1) 大手炭坑の従業員ならびにその家族の生命表からみた健康度は,全国平均よりも遙かに優れていた。 2) 中小炭坑の従業員並びにその家族の健康度は,全国平均より優れているが,大手炭坑よりも劣っていた。 3) 大手炭坑の20&sim;54才の従業員の健康度は,同年令階級の全国平均よりも非常に優れているが,中小企業では逆に著しく劣っていた。 4) 55才における平均余命は,中小炭坑の従業員がもっとも大であって,全国平均のみならず,大手炭坑よりも優れていた。 5) 大手炭坑の男の従業員ならびにその家族は,55&Sim;60才の年令階級を除き,他のすべての年令階級において,全国平均より健康度において優れていた。55&sim;60才の年令階級においては,大手炭坑の男は全国平均より劣っていた。 6) 大手炭坑について調べたところでは,坑内労働者およびその家族の健康度は,坑外労働者およびその家族よりもかなり劣っていた。家族を除き労働者のみを比較しても,坑内労働者は坑外労働者に比し劣っていた。ただしこの坑内・坑外の差は,過去に比し小さくなったと考えられる。
著者
垂水 公男 萩原 明人 森本 兼曩
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.269-276, 1993-07-20
被引用文献数
9 4

都市部の企業に勤務する21〜60歳のホワイトカラー(男子)を対象に,労働に起因する精神心理的負担と血圧との関連性についての横断調査を行った.高血圧を招来しうる可能性がある疾患を有するものを除外した570名について検討した.このうち,健康診断時の血圧値の変動が大きい109名を除いた461名を対象に,血圧区分を目的変数(正常血圧群: 386名,高血圧群: 75名)に,従来から指摘されている血圧変動要因である年齢,肥満,飲酒,喫煙,運動習慣,客観的な労働負担要因として労働時間,通勤時間,年次有給休暇取得,家族との同居,また主観的な労働負担要因としてKarasekのjob strainの10変数を説明変数とするロジスティック回帰分析を行った.その結果,job strainは,従来からの血圧の変動要因や客観的な労働負担要因を調整した上で,統計的に有意なodds比を示した.しかし,その関連性は,job strainが低い場合に高血圧の頻度が高くなる方向で関連していた.その理由として,高血圧の家族歴に代表される個人特性が介在していることが推測された.一般的な理解とは逆に,Theorellは,高血圧の家族歴を有するものでは,外界の刺激に対する反応性が低い傾向があることを指摘しており,こうした個人特性が今回の結果にも関連していると考えられた.労働に起因する精神心理的負担は,最近問題になっている作業関連疾患の概念とも関連して重要であり,さらにこうした個人特性や客観的な労働負担を勘案した追跡調査によってその影響が検討される必要がある.
著者
平田 衛 熊谷 信二 田渕 武夫 田井中 秀嗣 安藤 剛 織田 肇
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.190-201, 1999-11-20
被引用文献数
11

小規模事業所における産業保健サービスの実態を明らかにするために,大阪市に隣接する市の一部地域765の小規模事業所から回収された質問紙(回収率69.3%)を解析した.1&sim;4人事業所は358(46.8%),5&sim;9人事業所は203(26.5%),10&sim;29人事業所は163(21.3%),30&sim;49人事業所は41(5.4%)であり,主な業種は,製造業(374, 48.9%),卸小売飲食業(153, 20.0%),サービス業(132, 17.3%),建設業(72, 9.4%)であった.健康診断は47.7%でおこなわれ,それを実施しない理由は「時間がない」(不実施事業所の33.3%),「従業員が受診を望まない」(28.1%)であった.健康増進活動は29.2%の事業所でおこなわれていた.小規模事業所が望む産業保健活動として,健康診断(59.0%),健康増進(36.5%),メンタルヘルス対策(25.9%),労使への情報提供(25.5%)が挙げられた.財政的支援および経済的誘導策が各々46.4%,28.8%の小規模事業所から希望があった.地域産業保健センターはあまり知られていない(8.2%)が,健康診断(48.4%),情報サービス(37.5%),作業方法の評価および改善の助言(19.8%),環境測定(12.4%)の希望があった.
著者
藤野 善久 堀江 正知 寶珠山 務 筒井 隆夫 田中 弥生
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.87-97, 2006-07-20
被引用文献数
8 34 19

労働環境をとりまく厳しい状況のなか,労働者のストレスやうつ・抑うつなどメンタルヘルス不全が増加していると指摘されている.これに伴い,精神障害等の労災補償に関する請求件数,認定件数ともに著しい増加傾向にある.労働時間,対人関係,職場における支援,報酬などは労働者のメンタルヘルスに影響を与える要因と考えられている.平成16年には厚生労働省が「過重労働・メンタルヘルス対策の在り方に係る検討会」報告書を発表し,長時間の時間外労働を行ったことを一つの基準として対象者を選定し,メンタルヘルス面でのチェックを行う仕組みをつくることを推奨した.しかしながら,上で示されたメンタルヘルス対策としての長時間労働の基準は,企業・産業保健現場での実践性を考慮したものであり,労働時間と精神的負担との関連についての科学的な確証は十分に得られていない.一方で,労働時間が様々な労働環境要因,職業ストレス要因と関連して労働者の精神的負担やメンタルヘルスに影響を与えることは,過去の研究からも合理的に解釈できる.そこで本調査では,労働時間とうつ・抑うつなどの精神的負担との関連を検討した文献の体系的レビューを行い,労働時間と精神的負担の関連についての疫学的エビデンスを整理することを目的とした.PubMedを用いて131編の論文について検討を実施した.労働時間と精神的負担に関して検討した原著論文が131編のうち17編確認された(縦断研究10編,断面研究7編).それらのレビューの結果,精神的負担の指標との関連を報告した文献が7編であった.また,労働時間の評価に様々な定義が用いられており,研究間の比較を困難にしていた.今回のレビューの結果,労働時間とうつ・抑うつなどの精神的負担との関連について,一致した結果は認められなかった.