著者
石原 久代 酒井 清子
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要 (ISSN:02867397)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.23-31, 1985-03-01

被服における色彩の温度感と快・不快感について検討するために,カラーシミュレーション装置を用いて実際の服装色を変化させ,視感判定による服装色の温度感および快・不快感の検査を行うとともに,色票における検査を平行して行い,両者を比較検討した.検査の方法はシェッフェの一対比較法の変形により,「あつい」「快い」の2項目について5点法で行った.なお,環境温度にも影響される可能性も考慮して,1月と7月の2回実施した.得られた結果について識別能力があると判断された値をとり出し,平均嗜好度を求の,重回帰分析により色の物理量および実験条件との関係を検討したところ次のような結果が得られた.1.色票による温度感については,7月では暖色系の各色に加えて,寒色系の低明度の色もあつく感じられているのに対して,1月では暖色系の色のみであった.逆に最も冷たく感じられているのは,1月,7月ともにうすい緑とうすいライラックであり,また高彩度の各色および無彩色は,いずれも7月より1月の方があつく感じられている.2.色票による快・不快感については,7月では暖色系,寒色系という色相にかかわらず,高明度の各色が快く感じられているのに対して,1月では暖色系の高明度かつ高彩度の各色が快く感じられている.逆に不快に感じられているのは色相に関係なく低明度の色であり,1月より,7月の方が快・不快の感じられ方が顕著であった.3.実際の服装色の温度感については,7月では色相に関係なく低明度の各色があつく感じられているのに対して1月では暖色系の低明度の色があつく感じられている.逆に冷たく感じられているのは色票同様であった.また,無彩色の各色は色票に比べて服装色の方が冷たく感じられている.4.実際の服装色における快・不快感について,快い色は色票とよく一致しているが,不快と感じられている色は,7月では温度感の検査においてあつく感じられた低明度の各色であるが,1月では一般的に嫌悪色といわれているオリーブ,暗い緑,さえた青紫等であった.なお,温度感,快・不快感ともに1月に比べて7月の方が色による差が明確に現われているといえる.5.重回帰分析により色彩の物理量との関係を検討したところ,温度感には明度が最も大きく影響し,高明度な程冷たく感じられるという結果であり,次には彩度が高い係数を示し,色相はその次であった.また快・不快感についても明度が最も大きく影響し,高明度な程快く感じられ,次には色相が高い係数を示し,寒色系の方が快く感じられるという結果であった.なお,両者とも実験条件よりも色彩そのものの影響の方が強いという結果であった.
著者
栃原 きみえ 斉藤 一枝 坂倉 園江 菊山 弘子 済木 敦子 戸田 光子 菊地 真理子 原 淑子
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要 (ISSN:02867397)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.113-127, 1967-03-01

被服構成上もっとも重要な身体的因子の研究として静止時の生体測定を行った.まずスカート作製のために必要な41項目を定め,それぞれの長径,幅径,厚径,角度について測定し,それぞれの相関について検討したのでその結果を要約する.各周径の相関について1.ヒップの周径と各周径(各周径とも下半身長に対する割合)との関係については相関が認められ,ヒップ周径が大きくなるに従ってウエスト周径,腹部周径,太もも周径(両足),ひざ周径(両足),ふくらはぎ周径(両足),足首周径(両足)の割合もやや比例してふえて行く.ウエスト,ひざ,ふくらはぎ,足首はヒップより肉のつきかたが少く,腹部,太ももはヒップより肉のつきかたが多いと云う傾向がわかった.2.下半身長に対するウエスト周径,ヒップ周径とのそれぞれの相関について検討したが相関はみとめられなかった.下半身長に関係なく,ウエストやヒップの周径は大小さまざまであると云う一般的な通念をたしかめることが出来た.各幅径,厚径の相関について1.ウエスト,腹部,ヒップ,太もも(両足)(各周径とも周径に対する割合)それぞれの相関について検討したが相関はみられなかった.形態の上ではウエスト,ヒップ,腹部の順に丸い形に近くなり,太もも(両足)が一番偏平である傾向がわかった.2.下半身長と下半身長に対する各幅径,厚径の割合との相関について検討したが,相関はみられなかった.これは下半身長の大小に関係なく偏平な体型,丸い体型が存在するという一般的な通念を実証したものと云えよう.しかし,ひざ厚径は約10cm〜13cmの間に,ふくらはぎ厚径は約9.6cm〜12.5cmの間にあり,下半身長の増減に関係なく近似的な寸法である.各長径の相関について1.下半身長とヒップ丈,ふくらはぎ丈(両足),ひざ丈(両足)(各丈とも下半身長に対する割合)との相関はみとめられなかった.しかしふくらはぎ丈は下半身長の増減に関係なく約65cm〜70cmの近似的な寸法の中にある.2.身長と下半身長(身長に対する割合)との相関はわずかにみとめられた.身長が高いものほど下半身長の割合が大きくなる.つまり背の高いものほど下半身が長くて形がよいという結果が得られた.側面のウエスト・ライン傾斜角度について1.スカート作製上重要な側面のウエスト・ラインの傾斜角度については,後ウエストを基点とした前ウエストヘの傾斜角度は最少1.3°から最大17.8°で平均値は6.7゜で相当傾斜していることがわかった.脇を基点とする前への傾斜角度と後への傾斜角度を比較すれば後への傾斜角度の大きいものが多いことがわかった.2.側面のウエスト・ライン傾斜角度と下半身の各傾斜角度(骨盤傾斜角度,大腿骨傾斜角度,下肢傾斜角度,下半身側面傾斜角度)との相関はみとめられなかった.3.下半身側面傾斜角度と骨盤傾斜角度について 下肢傾斜角度との相関はみとめられなかった.しかし大腿骨傾斜角度とはわずかに相関がみとめられた.これは,下肢傾斜角度は後傾するもののみであるが大腿骨傾斜角度は前傾するものが存在するためにひざ関節で屈折している.従ってわずかながら相関の傾向がみとめられるのであろう.以上本学被験者の体型について種々検討を加えたが,このたびの測定は身体の静止時の実測長並びに角度であるから,これをもって直ちに被服構成にそのまま利用することは当を得ないことであろう.しかし被服構成のために必要な身体的因子の一部を解明する手がかりを得たことは意義あることと考える.この研究を基礎資料として更に次の段階の研究を進めることにする.終りに本研究に被験者として御協力下さった本学服飾の学生に感謝する.
著者
辻原 命子 谷 由美子
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要. 家政・自然編 (ISSN:09153098)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.39-49, 1992-03-05

特異動的作用(Specific Dynamic Action 以下SDAと略す)は,安静状態において食物の摂取による食物の消化・吸収における代謝亢進と体内における化学反応の結果発生するエネルギーで一般に体温保持に利用され,生活活動には利用されないといわれている..そしてこのSDAは糖質のみを摂取した場合は摂取量の約5%であるのに対し,脂質のみの場合は約4%であり,たん白質のみの場合は約30%に達し日本人の日常食のSDA平均値は約10%とされている.たん白質のSDAについては田中らがその発生機構をラットを用いて詳細に研究しており,鈴木らは被検者1〜2名で高糖質食,高たん白食,高脂肪・低たん白食,高たん白・高脂防食による食餌組成の相違およびエネルギー摂取量の相違によるSDAの時間的経過ならびにその大きさについて報告しているが,個体差があり一定の傾向がみられない.一方たん白質のSDAは糖質,脂質のSDAに比して著しく大であり,国民栄養調査においてもたん白質のエネルギー比は昭和50年14.6%,55年14.9%,60年15.1%,62年15.3%と徐々に増加してきており,一日の消費エネルギーにおよぼす影響は大きいと思われる また脂肪の摂取量も年々増加しているがそのSDAへの影響は不明である ところで近年はこのSDAに代わってほぼ同義的に食事誘発性体熱産生(diet-induced thermogenesis DIT)が広く使用されていており,特に一回の食事によるエネルギー代謝反応への影響をみる場合は,一般にDITを使用しているようである.そこで本実験では,ヒト7名を被検者としてエネルギーおよび脂肪量が一定でたん白質量をエネルギー比5%〜47%まで変動させた食餌およびたん白質量が一定で脂肪量をエネルギー比14%〜45%まで変動させた食餌を摂取させ,DITにおよぼす影響をしらべた.また生命維持のための生理的最小エネルギー代謝量を示す基礎代謝は従来より夏季に低く,冬季に高い傾向があるといわれていることよりDITとの関係は興味深いが,その報告はみられないため四季の区別の明確な日本におけるDITの季節変動について検討した
著者
栃原 きみえ 斉藤 一枝 水口 綾子 池田 恵子
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要 (ISSN:02867397)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.1-12, 1979-03-15

被服の着装効果と人の個性との関係を明らかにするために,個性の要素の1つである顔の形態的因子を研究対象とし,本学学生222名を被験者として,1/2大の写真を用いて各部位の計測をした.1.眉,目,鼻,口の長径,幅径,角度 眉,目,鼻,口の各部位の長径,幅径および角度を計測し,最大,最小,平均,標準偏差を求めた.2.眉,目の長径,幅径,角度の左右差と出現率 顔の因子の左右アンバランスは個性の研究に必要と考え,眉長,眉幅,眼裂長,眼開大径および眉頭を基点とする眉尻の角度,眼頭を基点とする眼裂の角度の左右差について検討したが,左右同径,および同角度は極めて少なく,各項目ともに約80〜90%の者に左右差が認められ,高い出現率であった.3.眉,目,鼻,口の相関係数 眉,目,鼻,口の長径,幅径,角度の120項目について相関係数を求めたところ,41項目が有意であった.その中で眉長,眉幅,眉角度,眼裂長,眼開大径のおのおの右と左間の相関係数が特に高い傾向を示した.そこで類型化のための資料には,左右のいずれか一方でよいと判断し,本研究では右を用いることにした.4.眉,目の類型化 4-1 眉,目の長径,幅径による類型化と出現率 本研究を進めるにあたって,先ず顔の因子の類型化が必要と考え,今回は眉と目を取り上げ,長径,幅径の標準偏差±3σを用いて5段階に分け,両者の組み合わせによって類型化を試み出現率を求めた. 4-2 眉,目の角度による類型化と出現率 眉長と眉角度および眼裂長と眼角度の各標準偏差を用いて類型化を試みたが,上り眉は52.7%と過半数を占め,下り眉は31.1%また0度つまり眉頭と眉尻が水平線上にある眉は16.2%であった. 目の場合,上り目の出現率は97.7%と圧倒的に高く,下り目は0.5%,0度は1.8%と低い傾向であった. 4-3 眉の特殊型 眉の形には俗にいう三日月型,への字型などがあるが,これらの形態と個性との関係を追求するために類型化を試みたが,全体の中での出現率は三日月型が22.5%,への字型が14.0%であった. 4-4 一重まぶた,二重まぶたの例 目の形態には俗にいう一重まぶた,二重まぶたがあるが,出現率は一重まぶたが55.4%二重まぶたが33.0%,また左右のいずれか一方が一重まぶた,または二重まぶたのいわゆる左右アンバランスの目は10.8%であった.以上のように一重まぶたの者が圧倒的に多かったのは,東洋人種である日本人の特徴を裏付けているものといえよう. 7-5 眉,目の位置に関する類型化 左右の眉頭間および眼頭間の各標準偏差を用いて5段階の類型化を,また眉の下縁と目の上縁間の標準偏差を用いて眉,目間の類型化を試み,眉と目の位置に関する形態を把握した.以上,眉,目,鼻,口の長径,幅径,角度を数値として確認し,また眉,目について類型化を試みたが,続けて鼻,口の類型化を試みたいと考えている.今後これらの資料をもとにして個性との関係を追求し,更に被服との関係についても明らかにしてゆきたいと考えている.終りに本研究の資料収集に御協力くださった高梨亨子講師,また被験者として御協力くださった服飾専攻の学生諸姉に,深甚の謝意を表します.
著者
大沢 つね子 平野 年秋 南川 幸
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要 (ISSN:02867397)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.73-80, 1970-03-15

日本産の肉質キノコ類の消化に関して,ラットに給餌し,糞の検鏡により形態的に観察,不消化物の状態について試験を行った.その結果は次の通りである.1) BasidiomycetesにおいてはTricholomataceae, Amanitaceae, Cortinariaceae, Russulaceae, AscomycetesにおいてはClavariaceaeのFamilyはよく消化されていた.2)BasidiomycetesにおいてはBletaceae, Strobilomycetaceae, AscomycetesにおいてはCantharellaceae, PhylacteriaceaeなどのFamilyに不消化の種類が多い傾向が認められた.3)特に不消化に近い形で排泄されるのを認められたLeccinum scabrum, L. rugosiceps, Strobilomyces floccopus, Boletellus russelliiについて菌傘部,菌柄部にわけて試験した結果,菌傘部に不消化物が多いことを認めた.4)菌傘部の表面と裏面の管孔部にわけて試験したが,管孔部が特に不消化物が多い傾向を認めた.5)管孔部を除いたイグチ科,オニイグチ科は普通の消化のよい肉質キノコと変りがなかった.
著者
古川 智恵子 豊田 幸子
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要 (ISSN:02867397)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.45-54, 1981-03-31

既製男物浴衣における身丈,袖丈,絎丈,揚下り寸法のサイズ構成について調査し,次の結果を得た.1.身丈,袖丈,絎丈の三元表示によるサイズパターン構成は137種の多サイズがみられた.その中で,まとまって出現したのは,身丈140,袖丈49,絎丈67 cmの8%,次に身丈136,袖丈49,絎丈66 cmの組合わせが5%であり,その他の組合わせはそれぞれ身丈,袖丈,絎丈の間で微妙な寸法のちがいで組合わされ,その出現は0.2〜1%の低率で,組合わせは135種類の分布状況がみられた.2.身丈別にみると,20サイズの分布がみられ,なかでも140 cmの構成が最も多く,次に144cm,136cmの順位であり,以上の3サイズで全体の約64%を占めている.既刊和裁書における着丈の割出し方としての身長×83/100から上記の着丈を考察すると,国民栄養調査による平均身長は167 cmでその換算着丈は139 cmとなる.以上の結果から,既製和服はやや長めの丈が多く作られているといえる.これは生活環境からの体位向上による肩の厚み分として1〜5cmが加算されているものと考えられる.3.袖丈別にみると,49cmが最も多く,次に50cm,45cm,その他に分散してみられた.この袖丈は,既刊和裁書による着丈から割出された基準袖丈に比較してみると,2〜3cm短かい寸法で構成されている.この理由として袖丈49cmは女物と同様に従来からの慣習サイズ1尺3寸(49cm)が人体にとって比率が良いという固定観念があるためと,基準袖丈より短かく裁断することは,コストの低減化にもつながる関係から,メーカー側もこの袖丈寸法を広く採用しているものと考えられる.4.絎丈別にみると,64cm〜73cmまでの10サイズの分布がみられた.最も高率を示したのは66cmで,次に67cm,65cm,68cmの順で,前回調査の既製女物浴衣より2〜3cm長い絎丈寸法であった.これは身長と相関の高い絎丈に,おける男女の身長差による当然の差と考えられる.5.揚下り寸法の分布は49 cmが最も多く,次いで50 cm, 48cmの順にみられた.次に袖丈と揚下り寸法差については,袖丈と同寸法が62%と最も多く,次に1cm差が12%,2cm差が11%の順で,袖丈と揚下り寸法とは大半が同寸法という傾向がみられ,差があるものでも1〜2cmであり,着帯の帯幅の範囲内でおさまる寸法であることがみられた.以上のように,今回の調査では,既製和服の袖丈は,身丈の長いサイズについても,90%以上が2〜3cm短かい袖丈寸法で組合わされ,揚下り寸法も,中には2〜4cm袖丈寸法にプラスして構成されているものも一部認められたが,全般的には,短かい袖丈寸法とほとんど同位置に揚下りの位置が設定されていた.これは仕立上の手間や,コスト上の要因などがからんでいるからではないかと考えられる.身丈は,サイズの種類が割合多く作られていて,カバー率は大であるが,袖丈寸法がそれ程多くなく,やや短かめの寸法で全般に構成されていることが,今後の課題であろうと考えられる.男物長着は,着丈寸法が身長に適合しなければ購入しないので,量販店では寸法の直しは容易でないため,既製和服としては,余程のことがないかぎり,ウールの長着においても余り作らない方針で,注文品として置いているようである.おはしよりの出来る女物長着にくらべ,男物の着丈の設定には,それだけにむつかしさが伴なうものと考えられた.引続き,次報では着丈,袖丈,揚下り寸法についての着用実験を行ない,検討し報告する.
著者
古川 智恵子 中田 明美
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要 (ISSN:02867397)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.9-18, 1986-03-01

今回の実験によって,長い歴史の中で人間の経験上から設定された,仕事着としての腰巻丈は,膝丈から膝上10 cm までの丈に着装されていたこと,また,それ以上の短い場合には,脇スリットを作り,前開きを分散させて,下着としての限界の機能を果させている事の意味が検証できたと考える.即ち,下肢の運動拘束性を,でき得る限り最小に,機能性を最大限に,併せて下着としての股間の隠蔽の機能をも満たす為の限界の丈なのである.腰巻の機能性は,その形態にある.前打合わせ形式である事は,着脱が簡便で,着衣に融通性があり,また,動作姿勢に応じて幅,丈ともに自在に適応出来る.また,構成が簡単で誰にでも作れるという利便性も見逃せない.長方形のシンプルな布,つまり腰巻は,何千年もの間,表着の幾多のめまぐるしい変化に対しても,殆ど影響を受けず,現在まで引き継がれてきた.それは,腰巻が人間工学的な機能美を最も追求した衣であったからである.伝統ある腰巻の形態や機能性は,今後も日本の民族服である和服が続くかぎり,幾世代にもわたって新しい磨きをかけられながら生き続けていくことであろう.
著者
村上 哲生 矢口 愛
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要. 家政・自然編 = Journal of Nagoya Women's University. Home economics・natural science (ISSN:09153098)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.79-84, 2009-03

Stenopsyche marmorata Navas(Trichoptera, caddis fly)larvae boiled down in soy sauce are commonly eaten in the Ina District, Nagano Prefecture, Central Japan. The origin and habit transition of eating aquatic insects("Zazamushi")are introduced in this paper. The term "Zazamushi" originally referred to larvae of the stone fly Plecoptera). Eutrophication of Lake Suwa, the water head of the Tenryu River that flows through Ina Valley, has caused shifts in dominant riverine insect species from stone flies to net spinning caddis flies since the 1930s. The benthic community of riffles in the Tenryu is now dominated by net spinning caddis flies such as S. marmorata and Hydropsyche sp., the biomass of which reaches 4 gm-2 in dry weight. The large biomass, supported by the supply of particulate organic matter from Lake Suwa, has made it possible to commercialize canned "Zazamushi". The products available now are mostly composed of S. marmorata larvae(98%)and a small atio of other aquatic insects.
著者
柴村 恵子 望月 照子
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要 (ISSN:02867397)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.53-61, 1982-03-31

東南アジアの大陸部には伝統文化を異にする幾種類もの少数民族が入り交って分布しているが,これらのうちケシ栽培で知られ,少数民族の中でも多数の人口を占めるメオ族の,タイ国における生活と民族服について調査研究を行い,彼らの生活習俗において次の諸点を把握することが出来た.1.タイ国でのメオ族は,チェンマイ,チェンライ,ターク,カンぺンぺト,ロエイ,ぺチャブーンの北部を中心に分布している.その由来については,「メオ」とはタイ人がつけた呼び名である.彼らは本来は水田耕作を行う種族で「苗」つまり「ミャオ」と呼ばれていたが,それがなまってメオとなり,支配者に不服従な野蛮人という意味に解されるようになった.しかし,彼ら自身は「自由な人」という意味の「フモン」あるいば「モン」といっている.2.彼らの衣生活は,夏冬,日常着,外出着,儀式用といった区別が基本的にはない.現在タイ国には青メオ族が約58%,白メオ族が約42の割合で住んでいるが,これは主に衣服の色の違いによって区別されたものであり,青メオ族の女性は,ろうけつ染めのプリーツ・スカート,白メオ族は白のプリーツ・スカートにその特色が見られる.3.食生活は米と野菜が主食であるが,正月には精霊に豚や鶏のいけにえをささげ,それを食する.しかし,この間野菜は食べない.4.部落の構成は小村集落であり,20軒位が平均的部落の規模である.又,一戸当たりの住人は6〜7入が標準となっている.家屋は平土間式であるが,貯蔵庫は湿気とねずみの浸入を防ぐため高床式となっている.5.メオ族は宗教としてアニミズムを信仰し,種祖神は「槃瓠(ばんこ)」と称する霊犬であり,聖霊には豚や鶏のいけにえをささげる習慣がある.6.メオ族の結婚は,男女の結びつき以前に霊の結合という思想が強く,徹底した同姓不婚である.7.民族服は彼らの仲間意識を強調するものであり,特に女子の衣服や装身具には種族固有の色彩感覚や,デザイン思想が山地民族の生活と調和して着用されている.しかし,衣服本来 の機能との関係については今後の課題であると考えられる.8.近年ではタイ政府の政策により,小学校の建設,政府指導の産業の奨励などにより,山地民族特有の生活も平地化されてしまう日もそう遠くはないのではないかと思われる.最後に本研究を行うに当たり,終始懇切な御指導を賜わった岐阜大学教授中野刀子先生,御助言及び御校閲をいただいた名古屋女子大学教授栃原きみえ先生,又,資料の提供を下さった国立民族学博物館並びに現地調査に当たり格別の御協力をいただいた鈴木自動車工業株式会社社長鈴木修氏をはじめ,タイ鈴木モーター株式会社のチャチャイ,カネーの両氏に対し深く感謝の意を表する次第である.