著者
鄭 惠先
出版者
国立国語研究所
雑誌
日本語科学
巻号頁・発行日
vol.23, pp.37-58, 2008-04

本稿では、方言を役割語の一種として定義した上で、日韓両国での方言意識調査を通して、役割語としての両言語方言の共通点と相違点を具現化した。最終的には、日韓・韓日翻訳の上で、両言語方言を役割語として有効活用することが本研究の目的である。考察の結果、以下の4点が明らかになった。1)両言語母語話者の方言正答率から、韓国の方言に比べて日本の方言のほうで役割語度が高いことが予想される。2)「共通語」対「方言」の対比的な役割語スタイルは、両言語母語話者の方言意識の間で共通している。3)「近畿方言」と「慶尚方言」の間には共通する役割語スタイルが見られる一方で、一部のステレオタイプの過剰一般化が役割語度アップを促進していると推測される。4)「東北方言」と「咸鏡・平安方言」の間には共通する役割語スタイルが見られる一方で、「東北方言」に比べて「咸鏡・平安方言」の役割語度がきわめて低い可能性がうかがえる。以上の結果をもとに、両言語方言の役割語としての類似性を巧く生かすことで、より上質の日韓・韓日翻訳が実現できると考える。
著者
ヴォロビヨワ ガリーナ ヴォロビヨフ ヴィクトル
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
no.12, pp.163-179, 2017-01

本稿では,非漢字系日本語学習者の漢字学習を困難にさせている「膨大な学習対象漢字の量」,「漢字字体の複雑さ」,「漢字を構成する要素の多さ」という阻害要因について検討した。そして「漢字学習能力段階」という概念を定義して,上記の阻害要因を学習者に乗り越えさせるための対処法を提案した。漢字学習の効率化の手段として漢字体系の深い理解を促す漢字学習法が必要である。そのため現常用漢字をカバーする構成要素体系を作成した。漢字の意味を構成要素の意味から推測できるようにすることは重要であり,漢字構成のよりよい理解のために階層構造分解について記した。階層構造分解の際は構成要素だけではなく,構成要素の組み合わせである中間漢字も漢字の要素として扱うことにした。漢字の階層構造分解は漢字を識別する際に重大な役割を果たしている。また学習対象漢字の選択と掲出順序を自由に決められるように「世界観」の漢字意味ネットワークを紹介した。Learners of Japanese from a non-kanji background encounter inhibition factors that cause difficulty in kanji study; such factors require solutions to facilitate the study of kanji. This paper discusses the following inhibition factors that arise from the inherent characteristics of kanji: the large number of kanji to be studied, the complexity of kanji form, and the large number of kanji constituent elements. This paper defines a graded concept of kanji learning proficiency, and proposes a graded method to help learners overcome these inhibition factors. This paper applies a pattern recognition theory to the kanji forms, enabling learners to identify the characteristics of kanji by recognizing their constituent elements. In addition, this paper proposes the concept of "World View," a network of kanji meanings that allows flexibility for learners or teachers to choose the number and order of kanji to study. Finally, this paper discusses evaluation methods of kanji study proficiency, using the JF Standard for Japanese-Language Education as a foundation.
著者
近藤 泰弘
出版者
国立国語研究所
雑誌
国語研プロジェクトレビュー (ISSN:21850119)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.84-92, 2012-10

国立国語研究所共同研究プロジェクト(基幹型)「通時コーパスの設計」では,日本語の史的研究に用いることができる本格的な「通時コーパス」を構築する準備段階として,コーパスの設計にかかわる諸問題について研究している。その中で,「選定した資料をどのように電子化しどのような情報(アノテーション)を付与するか」「古典テキストに対応した形態素解析等をどのように行うか」など,通時コーパス設計のための重要問題を中心に,基礎的な研究を展開している。
著者
鶴谷 千春 Chiharu TSURUTANI
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
no.11, pp.167-180, 2016-07

日本語学習者の増加に伴い,初級以上のレベルでの円滑なコミュニケーションがより必要になってきている。学習者は,日本語の基本的な単語の高低アクセントを学んだあと,それをどうつなぐと母語話者の抑揚に近づけることができるのか,またイントネーションによってどう意図が変わるかという情報は,あまり与えられていない。初期段階のコミュニケーションでは,まず「失礼にならないように話したい」というのが優先される課題であると考え,本稿では学習者が初級段階から使っている丁寧表現「です・ます」に焦点をあてて,その韻律的特徴を考察した。まず,場面別の「です」「ます」表現を使い,東京在住の日本語母語話者に「です・ます」表現の同じ文を丁寧に話す必要がある場面とそうでない場面で発話してもらい,それを別の母語話者に聞かせ,丁寧度の評価点をつけ,音響分析の結果と照らし合わせた。丁寧であるかどうかの判断は,パラ言語情報や,状況などに左右されることから,イントネーションは重視されてこなかったが,母語話者間で丁寧だととられるイントネーションには共通のパターンがあることがわかった。The demands of teaching advanced communication at a level higher than the beginners' level have become more obvious with an increase in the number of Japanese language learners. A key concern of L2 learners of Japanese is the risk of sounding rude in their new language environment. Intonation is one factor that can completely change the interpretation of an utterance. Nevertheless, L2 learners have a limited knowledge of Japanese intonation, such as the use of a falling tone for a declarative sentence and a rising tone for an interrogative sentence.Prosody plays an important role not only in intelligibility but also in speakers' attitudes and emotions. This study focuses on politeness as a variable in investigating possible language specific requirements for Japanese speech. Using desu, masu forms, which are polite forms introduced at beginners' level, two different scenarios, polite and non-polite, were prepared for the same sentence. Ten native speakers recorded sentences for each scenario and ten other native listeners provided politeness scores on their performance.The subject of prosodic features of polite speech has not received much attention in teaching Japanese, since perceptions of politeness can be influenced by various factors and can be difficult to objectively assess. This study identified the common prosodic features used by native speakers in polite speech, which can be used to teach L2 learners the role of these features in listeners' perceptions of politeness.
著者
松森 晶子
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.67-92, 2013-11

琉球諸語の先行研究では,宮古島の与那覇方言は「ごく区別のしにくい」2つの種類の音調から成り立っており,そのためこの方言は型の「曖昧化」の一途をたどっている,と記述されてきた。これに対し本稿では,この与那覇方言の2つの種類の型は,特定の条件を満たした文節の中で非常に明瞭に区別でき,それには「3モーラがひとつの単位となってフットを形成し,H音調はそのフットに実現する」という制約が関与していることを論じる。さらに本稿では,この方言のアクセントが,これまで記述されてきたような「2型体系」なのではなく,れっきとした「3型体系」であることを,特にその「複合語のアクセント」に焦点を当てて示す。また,その3種の音調型のすべてが明らかになるためには,少なくとも「3つ」の音調領域が並ぶ必要がある,ということも提案する。さらに,このような「フットの成立が型の区別とかかわる」ことや「3つの音調領域が並んだ場合に,はじめて3つの型の区別が出現する」といった与那覇方言の特徴は,他の宮古諸島の方言にも共通して見られる特性である可能性を示唆し,このようなことを前提とした新たな観察法や着眼点によって,今後も宮古島に3型体系が発見される可能性があることも,あわせて論じる。
著者
マルチュウコフ アンドレイ
出版者
国立国語研究所
雑誌
国語研プロジェクトレビュー (ISSN:21850119)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-15, 2010-10

本稿は分裂他動性を考察する。即ち,ある出来事を描写するのに,他動詞を用いるか,自動詞を用いるかに関する通言語的な傾向を考察する。本稿は,Tsunoda(1981, 1985)の動詞階層を出発点として,この階層を二次元の階層(または二次元の意味地図)に修正すれば,意味的に一貫したものになることを示す。二次元の階層を用いると,一次元の階層の反例を説明できる。更に,諸言語(例えば英語と日本語)の間に見られる違いを一貫した原理で説明できる。
著者
真田 信治 簡 月真
出版者
国立国語研究所
雑誌
国語研プロジェクトレビュー (ISSN:21850119)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.38-48, 2012-07

アジア・太平洋の各地においては,戦前・戦中に持ち込まれた日本語が,長きにわたって現地諸語との接触を保ちながら使われ続けてきた。その接触によって最も大きな変化を遂げたのは,台湾東部の宜蘭県に住むアタヤル人とセデック人が用いている,日本語を語彙供給言語とするクレオール(「宜蘭クレオール」)である。本論文では,われわれの共同研究プロジェクト「日本語変種とクレオールの形成過程」の一環として,この「宜蘭クレオール」に焦点を当て,これがまさに「クレオール」であることを,その形成の歴史的・社会的背景から検証し,その言語的特徴に関する近年の研究成果を総括する。
著者
ザトラウスキー ポリー
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.95-120, 2013-05

本研究は,食べ物を評価する際に用いられる「客観的表現」と「主観的表現」について考察する。そのために食べ物を評価する語句が,語句のみの場合(調査A),食べ物を評価する語句が,文脈なしの発話に置かれた場合(調査B),食べ物を評価する語句が,実際の会話で用いられた場合(調査C)のそれぞれにおいて,その語句/発話が肯定的/否定的な意味を持つかどうかの3種類の調査を行った。資料は試食会のコーパスから取った,20代の女性3人が3つのコースからなる食事を食べながら話している実際の試食会の会話を録音・録画したものである。調査Aでは語句のリスト,調査Bでは(調査Aの語句が含まれている)文脈から切り取った発話のリストをもとに,それぞれの語句や発話が肯定的か否定的かを5段階で被験者に判断してもらった。調査Cでは(調査Bの発話が入っている)試食会のビデオを見せながら,被験者にビデオの参加者が評価していると思う発話に対して,それらが肯定的か否定的かを会話の文字化資料に+,-で記してもらった。その結果,いわゆる客観的な語句であっても,個別の語句もその語句が含まれた文脈なしの発話も肯定的/否定的な意味を持つこと(調査A,B),それが試食会の会話の場合では一層顕著であること(調査C)が分かった。このように,いわゆる客観的な語句で主観的な好みが示される。そして試食会の相互作用の中での使用を分析した結果,参加者は食べ物に関する知識と過去の経験との比較に基づいて評価すると同時に自分のアイデンティティを見せ,ほかの人との意見・考えの異同を確認し合い連携し,親疎の人間関係を作ること,食べ物の評価は動的に作り上げられ,時間とともに展開し,変わっていく社会的な活動であることが確認された。「客観的表現」と「主観的表現」は,従来の意味論の研究においては語句中心か文脈なしの文で考察されてきたが,実際の様々な種類の談話の相互作用の中で考察する必要がある。本研究は,食べ物を評価する形容詞等の意味に関する研究,異文化間の理解,食べ物に関する研究にも貢献できるものである。
著者
鑓水 兼貴
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.197-222, 2014-11

「首都圏の言語」を考えるうえで,関連する概念や用語は多くあるが,類似したものが多く複雑である。そのため本論文では用語整理は志向せず,考察に必要な観点を中心にまとめた。1980年代以降,伝統方言形が衰退し,新しい方言形が注目されるようになると,単純な共通語化モデルから,修正モデルが提唱されるようになった。研究背景として社会言語学の概念の導入や,社会における人口構造の変化などが影響している。東京における言語現象を考える場合,かつての「江戸」である「東京」の中心地域は非常に狭い範囲である。従来の山の手・下町と呼ばれる地域も,隣接地域に拡大している。そのため「東京」よりも「首都圏」と考えるのが適当である。言語的特徴についても東京とその隣接地域は連続的である。移住者の多い首都圏では,人口構成上,伝統方言が継承されにくい。こうした「首都圏の言語」を理解するための観点として,「標準語・共通語」「公的・私的」「方言・俗語」「意識・無意識」「理解・使用」の5つがあげられる。これらの観点をふまえ,新しい方言形を説明する術語として提唱された「新方言」と「ネオ方言」の考えを,「首都圏の言語」に適用することにより,より深く考察することが可能になる。
著者
沖 裕子
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.77-94, 2013-05

東京式アクセント言語ではアクセント,イントネーションはともにピッチ変動による超分節的単位であるが,イントネーションはアクセントより上位に位置し,語アクセントにかぶさり,語に付帯するアクセントを弱化もしくは除去する力をもっている。アクセントが語に付帯する所与の単位であるのに対して,イントネーションは,記号列の意味に随伴し,談話表現において話し手が意図的,選択的に使用しうる単位である。イントネーションの働きは,(1)句音調と(2)句末音調に大別される。(1)は記号列の意味的まとまりを表現する機能,(2)は記号列の有する知的意味に話し手の発話態度というモーダルな意味を加算する機能を有している。話し手は,句音調によって音調句を表現しつつ談話を推進させていく。この音調句末において,話し手は,句末音調による表現を記号列による表現に加算することができる。有標となる句末音調の音韻的形式には,/上げ・平ら・下げ/の3種がある。これら3種の句末音調には,それぞれA種とB種がある。A種とは,句末拍とその手前の拍との高さの関係で/上げ・平ら・下げ/が決定される形式,B種とは,句末母音の伸長による漸次的高さの方向性で,/上げ・平ら・下げ/が決定される形式である。A種はプロミネンス,B種はインテンシティの働きによる。表現的圧力がかからない無標の形式では,アクセントがそのまま顕現する。表現的圧力がかかる場合,句末音調は,(i)A種のみ,(ii)B種のみ,(iii)組み合わせ,として結節される。(iii)には,A種とB種,B種とB種の組み合わせがある。
著者
小林 雄一郎 小木曽 智信
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.29-43, 2013-11

本研究の目的は,中古和文コーパスを分析対象とし,個人文体とジャンル文体の関係を明らかにすることである。具体的には,紫式部の『源氏物語』と『紫式部日記』,そして『更級日記』における助詞・助動詞の使用傾向を調査し,テクスト間の相互関係,言語項目間の相互関係,テクストと言語項目の結びつきのパターンを定量的に分析する。そして,多変量解析の手法を援用し,中古和文のテクストにおいて,書き手による文体差よりもジャンルによる文体差の影響が大きいことを示す。さらに,個々のテクストにおける語彙使用を詳細に分析するために,対数尤度比による特徴語抽出を行い,多変量解析の結果を補完する。
著者
神崎 享子
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-18, 2012-05

「動詞+動詞」型の複合動詞は,使用頻度の面でも表現力の面でも,日本語に特徴的な語彙であるが,統語的,意味的情報を付与してデータベース化している研究はまだ少ない。そこで,本稿では,語彙的複合動詞の形態的,統語的,意味的情報にとって何が必要かを検討する。まず,研究書や辞書などから収集した約2500語の複合動詞について量的観点から構成をとらえる。次に,情報付与の検討にあたって,既存のデータベースの現状を調査し,どのような情報が不足しているかを探る。そして,現在の言語学の複合動詞研究と,既存の基本動詞辞書の両方の観点から,必要な情報をまとめ整理し,それらの情報を実際に付与するにあたり,どのような基準あるいは知見を参考にするかを述べる。最後に,第一段階で構築中のデータベースの一部を掲載する。
著者
斎藤 秀紀 菱沼 透 横山 詔一 柳沢 好昭 大坪 一夫
出版者
国立国語研究所
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本年度は、次ぎに示す4項目の研究を行った。(1) 「漢字符号への二律背反機能の実装」現在、使用されている漢字符号には、種々の機能不足が指摘されている。代表的な事柄には、使用できる文字の拡張に対する要望と、適正規模の文字集合による処理の効率化の対立がある。本報告は、これらの対立する二つの関係を構造化4バイトコードに要求する機能として、構造の要素と構造および構造間の関係を使い規定する方法を述べた。(2) 「インターネットでの日本語教育リソース提供の試み」本研究では,海外で日本語教育大学機関及び富士通と日立ソフトエンジニアリングの協力を得て,協働学習による日本語学習リソースの授受を試行した。これにより,日本語学習リソース提供についての幾つかの課題は,受信側である現地機関側のコンピュータ及びネットワーク環境の整備,送受信双方で使用できるツールやユーティリティの選択,発信側のデータの作成方法の検討により解決することが判明した。(3) 「『新聞電子メディアの漢字』調査について」実際の新聞紙面とそのCD-ROMを詳細に照合して漢字の出現頻度を調査した。紙面に出現したJISにない漢字(JIS外漢字)254字については、TrueTypeFontoを開発し、合計6.611文字の漢字頻度表を作成した。(4) 「中国語情報科学用語における漢字の特性」日本語と中国語の情報科学用語を比較した場合、日本語はカタカナ表記の語が多いのに対し、中国語は漢字表記である。表記上の差異は、中国人の日本語学習者に負担となっている。表記上の差異に関わらず、日本語・中国語とも出自はほとんどが英語である。以上の考え方に基づき英語(原語)を媒介として中国語漢字とカタカナ語を含めた日本語の情報科学用語との対応を調べ、中国漢字1字との対応表を作成した。
著者
柏野 和佳子
出版者
国立国語研究所
雑誌
国語研プロジェクトレビュー (ISSN:21850119)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.43-53, 2013-06

文体研究などへのコーパスの有効活用を図るため,コーパスの書籍サンプルを文体によって特徴づけることを目的に,書籍サンプルの分類指標の設計と付与を行った。対象はBCCWJ図書館サブコーパス収録の全10,551サンプルである。テキスト構造が単純(例:章節構造)なもの(全体の84%)については,内容・表現の文体的特徴により,専門度,客観度,硬度,くだけ度,および語りかけ性度,という5観点による分類指標を定め,主観的評定によって評価値を付与した。また,テキスト構造・紙面形式などの点で上記分類になじまないもの(全体の16%)を見出し,その特徴を表す別の指標を設定した。これらを通じて,図書館サブコーパスに収録される全サンプルの多種多様な形式の類型ごとの分布や,各類型のNDC ごとの頻度が明らかになった。
著者
岡崎 敏雄 Toshio OKAZAKI
出版者
国立国語研究所
雑誌
日本語科学
巻号頁・発行日
no.4, pp.74-98, 1998-10

筑波大学外国人年少者に対する日本語教育への本格的取り組みは近年開始されたばかりである。現場の教師は手探りでこれに当たり,その中で言語教育観が形成されつつある。本研究は,形成されつつある教師の言語教育観に焦点を当て,日本語教育が必要な金国の外国人年少者の在籍する公立小・中学校の日本語教育に関わる全教師に対して質問紙による言語教育観の調査を行った。クラスター分析,分散分析の結果,全体として(日本語教育と共に)母語保持を重視する言語教育観が教師によって高く支持され,カナダのイマージョン・プログラムに典型的に見られる継続的二言語併用型の言語教育観が形成されつつあることが示された。しかしながら他方,日本の諸条件を反映して,同時に「少数散在型」「受容型」「滞在エンジョイ型」「短期滞在者への注目型」「現行制度枠内型」という性格を備えたものであることが示され,教育制度の異なるカナダのイマージョン・プログラムでの継続的二言語併行型言語教育との相違も明らかにされた。
著者
水谷 修 米田 正人 甲斐 睦朗 賀集 寛 平野 健一郎 江川 清
出版者
国立国語研究所
雑誌
創成的基礎研究費
巻号頁・発行日
1994

総括班:国際シンポジウム(「国際社会の日本語」,1998年12月16,17日於国連大学と総括班会議(3月18日)を実施した。研究班1(センサス):「日本語観国際センサス」の第3次調査を実施した(日本)。また,調査デー夕の整理,分析を行い,一部集計結果を国際シンポジウムおよび学会等で発表した。また,事例調査として「北米日系人社会と日本語新聞」,「海外マスメディア広告における日本語研究」に関して調査および研究会を継続して行い報告書を刊行した。「災害時言語対・策に関する研究」について調査,研究会を継続した。研究班2(文化摩擦):1. 理論研究 「多言語状況と日本語:」研究会の例会で,日本語の歴史的更新と多言語状況のなかでの変容について共同考察を進めてきた。日本語についてグループ特有の理解を得,「駒場『日本語』宣言」としてまとめた。2. 社会言語学研究社会言語語学・対照言語学的観点から行ってきた,日本語母語話者と日本語非母語話者の言語行動的接触の実態,及び国内における日本人の言語行動の特徴について,補充調査を行うとともに,得られたデータの分析に報告書の執筆にあたった。研究班3(実験言語):1. 文字言語研究 「朝日新聞」記事約11万件(延べ字数5500万)と,そのCD-ROMを対象に,電子メディアにおける漢字実態を明らかにする計量言語学的な資料が得られ,新聞社の著作権使用許可を得て本邦初公開した。2. 音声言語研究 99年3月19日に東京外国語大学において研究成果発表会・ワークショップを開催した。日本語韻律習得を支援するためのパソコンソフトのCD-ROMを参加者に配布した。3. 計算機実験研究 分類語彙表の増補用語数を訳9万語までに増補した。第二言語作文・翻訳にみられる第一言語の影響という視点で作文を調査分析し,研究報告書を作成し,データを公開した。研究班4(情報発信):1. 同時通訳技法の体系化 放送通訳・2か国語放送の場面で,日本語の「組み立て]がどのように影響するのか,外国人の理解を妨げているのは何か,などを探るにあたっての前提となる基礎的研究としてグループインタビュー(対象者14人)と在日外国人に対する質問紙調査(有効回答数218件)を実施し,考察を行った。2. コーパスの作成 雑誌『太陽』の15冊文を入力した。これで目標の4分の3に達したことになる。漢字の包摂基準について,報告書をまとめた。さらに1冊分だけ,ふりがなについて調べ,字音表記の傾向をつかんだ。3. 漢字コードの考察 漢字符号に設定する機能を構造の要素と構造及び構造間の関係を使い表現する方法の妥当性を核にするため,中国:語(簡体字・繁体字),日本語,韓国語の三カ国語を処理する漢字入力プログラムを作成し,実験結果を最終報告にまとめた。4. 言語教育方法の確立 第3次段階調査研究のまとめとして以下の事項を行った。(1)新学習指導要領策定に資する基礎資料作成(2)国語教育・日本語教育に関する質問紙調査(3)学校教科書に関する分析(4)基本語彙研究に関する分析(5)公開研究会の開催(6)ホームページで資料公開(http://www.kokken.go.jp/jsl)(7)報告書作成