著者
原 弘久
出版者
国立天文台
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本研究では私が発案したマルチスリットを製作し、それを用いて太陽コロナを観測することで、(1)高い時間分解能で太陽コロナの分光観測を行うこと、(2)コロナ中を伝播していると予想されているアルフベン波の存在の有無をマルチスリット分光観測によりつきとめること、という二つの目標があった。昨年度と今年度の前半にそれらの観測を可能とするマルチスリット製作を行い、7月より国立天文台乗鞍コロナ観測所で観測時間をもらって観測を行った。しかしながら、7月,8月,9月中に計4週間の観測を行ったが、観測期間のうち晴れた日が数日で、それも雲間をぬうようなものであったため今回解析するのに十分なデータを取得することができなかった。現在、観測所が閉まる直前の10月後半に取得したデータを解析中である。スペクトルデータの初期処理を終え、視線速度データをもとに定在波・伝播波を捕まえようとしているところである。したがって、現段階でアルフベン波の存在の有無については十分な考察のもとで答えることができない。これについては、結果が肯定的でも否定的でも重要な結果となるので、解析終了後に論文にまとめる予定でいる。それでも今回の目的の一つであった高い時間分解能の観測は達成することができ、太陽活動領域中のコロナの速度構造が3分程度の間にかなり変化しているという様子を捉えることができたことは大きな収穫であった。このスリットを用いた観測を来年度も引き続き行い、コロナ運動の様子を高い時間分解能で観測してコロナ加熱領域の研究を継続することを考えている。
著者
渡部 潤一 青木 和光 河北 秀世
出版者
国立天文台
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

太陽系天体の中でも、低温で凍ったまま46億年間経過している彗星は原始太陽系の化石である。太陽に近づくと熱によりその成分を蒸発させることから、その成分分析によりどの程度の温度で氷結したかが推定できるが、一般に上限値に限られ、また揮発成分を失った短周期彗星には使えない。本研究では、低温領域で温度と明確な相関がある水素原子の核スピン状態の差:オルソ・パラ比によって彗星氷結温度を求めようとしたものである。水分子でこの方法を適用しようとすると、地球大気の水蒸気が邪魔となる欠点があったため、水素原子が三つあって彗星に含まれるアンモニアに注目した。アンモニアは蒸発後、光解離により、NH2という分子となって、母分子のアンモニアの情報を保ちながら、オルソ、パラそれぞれの輝線を発する。高分散分光で輝線分離ができれば、オルソ・パラ比を知ることができ、さらにはアンモニアのオルソ・パラ比を推定できる。平成16年度は、国立天文台ハワイ観測所の口径8mすばる望遠鏡の高分散分光器HDSを用いた観測結果をもとに、ヨーロッパのデータも用いながら、本研究のまとめを行った。これによって、7つの彗星についてのスピン温度がすべて30K前後に集中していることがはっきりした。この解釈としては、彗星が誕生した場所の温度を示しているという可能性の他に、元々アンモニア分子が誕生した原始太陽系星雲のもととなった分子雲の温度を示している可能性もある。これらの可能性のどちらが正しいかを検証するためには、アンモニア分子以外の観測を行う必要がある。そこでわれわれは急遽メタン分子のオルソ・パラ比を考慮に入れ、すばる望遠鏡などによる観測を行ったところ、これについてもアンモニア同様30Kの温度を示すことが判明した。現在、これらのデータを慎重に検討しているところであり、本研究によって、当初の目的よりも先に進んでしまったことは、望外の喜ばしい結果である。
著者
縣 秀彦 宇山 陽子 CHABAY Ilan DOUGHERTY James 篠原 秀雄 奥野 光 大朝 摂子 郷 智子 中川 律子 高田 裕行 室井 恭子 藤田 登起子 野口 さゆみ 青木 真紀子 鴈野 重之 臼田 功美子 (佐藤 功美子)
出版者
国立天文台
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

従来の博物館、科学館等における様々な科学コミュニケーション・シーンにおいての「物語る」ことの役割を分析し、科学ナラトロジー(物語り学)について考察した。主な成果として、国立天文台構内に三鷹市「星と森と絵本の家」を平成21年7月開館予定。絵本の家での有効なラナティブの活用として「星の語り部」の活動を提案した。また、市民に科学を物語る場として、平成20年11月より三鷹駅前に「星と風のサロン」を開設し定点観察を継続している。
著者
日置 幸介 田村 良明
出版者
国立天文台
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

科研費申請時には年周地殻変動は現象のみが知られておりその原因は謎であったが、本研究により原因がほぼ究明されただけでなく、地震活動の季節変動との因果関係もある程度明らかにすることができた。昨年度は国土地理院のウェブページより取得したGPS全国観測網の2年間のデータと、アメダス積雪深度データを対比することにより、東北地方で顕著に見られる年周成分の主な原因が積雪荷重による弾性変形であることを解明した。この成果は初年度に米サイエンス誌の論文となり、わが国でも主要なメディアに取り上げられる等大きな反響を呼んだ。また田村は、年周視差によって銀河系の測距を行うVERA計画に年周地殻変動が及ぼす影響について詳細な、検討を行った。日本列島の地震活動には季節性が見られるが、海溝型地震は秋冬に多く内陸地震は春夏に多い傾向が昔から知られている。今年度は内陸地震特に積雪地域に発生する地震の季節性を調べ、積雪荷重との因果関係を研究した。地震に先立つ歪の蓄積速度と積雪荷重による断層面でのクーロン破壊応力の増加を定量的に比較し、前者の一年分のほぼ10%におよぶ応力擾乱が積雪荷重によって発生することがわかった。両者の相対的な大きさから、雪どけ時期にピークをもつ地震発生頻度は最小時の三倍程度になることが予測される。もっとも新しい日本の被害地震のカタログから、内陸地震の発生時期を積雪地域で発生したものとそれ以外について統計処理した。その結果モデルから予測されるのと調和的な季節変動が積雪地域で見られ、一方積雪のない地域ではそのような傾向が見られないことを明らかにした。これはEarth Planet. Sci. Lett.誌に2003年2月に掲載され、Nature(http://www.nature.com/nsu/030210/030210-13.html)及びNew Scientist(http://www.newscientist.com/news.jsp?id=ns99993409)の外国の科学雑誌にニュースとして取り上げられただけでなく、国内で、も大きな話題となった(http://slashdot.jp/articles/03/02/19/122254.shtml)。補助金額を考えると極めて投資効率の良い研究補助であったと言うことができよう。
著者
川辺 良平 河野 孝太郎 北村 良実 鷹野 敏明 井田 茂 中村 良介 阪本 成一 石黒 正人
出版者
国立天文台
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
1999

星と惑星系の形成の問題は、現代天文学の重要課題である。ミリ波干渉計による観測の進展で、太陽系外の惑星系の形成現場を直接観測が可能となった。これにより、観測と理論との直接比較から、惑星系形成論の構築が可能になった。一方、太陽系外の惑星系が発見され、その惑星系の多様性が明らかになってきた。これにより、太陽系が普遍的な存在なのか、その多様性をコントロールする物理は何かなど新たな問題が提起されている。ここでは、新たにサブミリ波の領域で、サブミリ波の特徴を生かし、星形成に伴う原始惑星系円盤の形成や、その構造(円盤の初期条件)を干渉計観測で詳細にしらべ、惑星系形成のシナリオを構築することを目指した。また、観測的研究で、円盤の形成・進化、巨大惑星の形成に制限を与えるガス成分の消失時期、固体惑星の形成の形成に制限を与えるダスト成分の消失時期を抑え、理論と比較することにより惑星系形成のシナリオ構築を目指した。また、惑星系の多様性を説明する独自のパラダイムを提案し、観測との比較を行うことや理論的な実証を行った。既存の野辺山ミリ波干渉計を用いてサブミリ波干渉計を目指し、干渉計実験に成功した。本格観測までは実現できなかったが、南半球領域で世界初の10mサブミリ波望遠鏡の実現へと結びついた。一方、波長1300ミクロン等での牡牛座の天体の干渉計観測により、原始星としては初めてガス円盤が存在する証拠を捕らえ、また円盤の進化する様子、降着円盤としての膨張を捕らえることに成功するなど、円盤の形成・進化の様子を世界で初めて捕らえた。また、惑星系円盤(初期条件)の多様性を観測的に捕らえた。理論的には、独自のパラダイムの理論シミュレーションによる実証ができた。また観測的に発見された系外惑星系が、このパラダイムで説明可能であることを明らかにすることができた。ダストとガスの消失時期について、理論的には推定できた。ガスの消失時間を、観測的には抑えるために、チリに設置した10mサブミリ波望遠鏡による観測を今後実行する予定である。これらにより、惑星系形成論の構築に大きく前進した。
著者
宮崎 英昭 和田 節子 一本 潔
出版者
国立天文台
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

太陽内部の三次元構造とダイナミクスを探るために、太陽表面に見られる大規模な振動、速度場、磁場等を高い精度で測定し、太陽内部構造を研究しようとする目的で、我々は、新しい光学フィルター(磁気光学フィルター・MOF・Magneto Optical Filter)の開発を1986年に着手した。磁気光学フィルターは、極めて狭い透過巾、大きな透過率、波長の絶対精度が保障されているという、天体の速度場、磁場測定用として極めて優れた性能を持つフィルターであるが、その構造からくる不安定さのため、他国の研究開発に於ても、未だ完全なものは作られていなかった。このフィルターは、強い磁場中に化学的活性度の高い高温のナトリウム蒸気を長時間安定に保持し、磁気光学効果(逆ゼーマン効果とファラデー効果)を利用して、極めて狭帯域の透過帯を実現するもので、その製作は困難なものであった。MOFは、イタリアのCaccianiによって試作されたコールドセル型が存在するが、この方式は、フィルターセルの入出射窓の温度が、ほぼ室温に冷えているため、ナトリウム溜めを加熱して発生したナトリウム蒸気の一部が、露点現象でセルの内面に付着、反応して入出射窓が曇ってしまうため、長時間の使用に耐えない。我々は、半恒久的に使用できる高温ガス還流型のフィルターの開発を数年に亘り手懸けてきたが開発課程で見出だされた問題点を一つ一つ解決した結果、観測に応用できる安定なフィルターの製作に成功した。我々の開発したフィルターは、セル全体を一定の高温(200℃前後)に温度制御したホットセル型で、内面が曇ること無く、また、ナトリウムとの反応性の低い材料の開発等により、長時間に亙り使用可能なフィルターを実現した。ここに、その開発過程および成果について報告する。太陽表面の速度場データの取得が始まったばかりなので、データ解析の結果に関しては、今後、別の形で報告する事とする。
著者
家 正則 高見 英樹 早野 裕 柏川 伸成 高見 英樹 早野 裕 柏川 伸成
出版者
国立天文台
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2007

レーザーガイド星補償光学系をすばる望遠鏡の共同利用装置として完成させ、すばる望遠鏡の視力を10倍に改善した。その結果、補償光学系を用いた新観測装置の開発などが始まり、高解像観測の利用が大幅に増えた。代表者を中心とする研究では赤方偏移7.215(距離129.1億光年)の最遠銀河を発見し、宇宙初期の銀河の計数から宇宙の再電離(宇宙の夜明け)が、ほぼこの時期に起きたことを解明した。
著者
梅本 智文
出版者
国立天文台
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本年度に行った研究によって以下のような成果が得られた。●分子流天体でありH_2Oメーザー源でもあるL1287(IRAS00338+6312)について分子ガスエンベロープの空間的・速度的構造を明らかにした。H^<13>CO^+(J=1-0)とC^<18>O(J=1-0)分子輝線から、高密度ガスは分子流に垂直なディスク状をしていることがわかった。そのサイズは0.30パーセック×0.21パーセックである。ディスク状エンベロープの中心付近では、ディスクの長軸に沿って大きな速度勾配が見い出され、これはH_2Oメーザによって得られた数十AUスケールのディスクのそれと同じ傾向を示したことから、半径7800天文単位で速度0.44kms^<-1>で回転しているディスク状エンベロープであることをあらわしている。さらに短軸方向に沿っても非常に大きな速度勾配が見い出され、これは半径4700天文単位で速度0.84km s^<-1>での原始星方向への動的降着運動を見ていることがわかった。降着運動の大きさから中心(星)の質量を求めると約2M【of sun】となる(M【of sun】は太陽質量)。これらの結果から、半径4700天文単位での質量降着率を計算すると、5.6×10^<-5>M【of sun】yr^<-1>となった。この比較的高い質量降着率は、赤外線源IRAS00338+6312が1100L【of sun】と高い光度をもつ原因となっていると考えられる。
著者
佐々木 晶 永原 裕子 杉田 精司 山中 千博
出版者
国立天文台
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

月岩石・隕石の実験室での反射スペクトルと月・小惑星の天体観測スペクトルには大きな違いがある。観測スペクトルは、全体的に暗く、波長が短いほど反射率が低い「赤化」の傾向があり、輝石やカンラン石に特有の1ミクロンの吸収帯が相対的に弱い。この月・小惑星表面の反射スペクトルの変化は、シリケイト中に含まれる酸化鉄が、ダスト衝突により還元されてナノメートルスケールの金属鉄微粒子となる「宇宙風化作用(Space Weathering)」と呼ばれる過程で天体表面が変成されたためと考えられている。研究申請者のこれまでの研究では、世界で初めてパルスレーザーを用いたシミュレーション実験でこの微小鉄粒子の生成を確認した。これまではサンプルをペレット状に固めるときに均等に圧力がかかるという理由で円形のサンプルホルダーを使用していた。昨年度は微小量サンプルの照射のために、皿状のサンプルホルダーを製作して使用した。本年度は、それを改良して微小量の隕石サンプルを照射できるようにした。また、導入した試料粉砕システムにより、隕石中に含まれる金属鉄も250ミクロン以下に粉砕できるようにした。この結果、これまでの隕石粉末試料照射と比較すると鉄の影響を正確に見積もることができるようになった。「はやぶさ」ターゲット天体のイトカワの反射スペクトルを再現するため、LL・Lタイプの普通コンドライトを中心として様々な隕石試料の照射実験を行った。粉末試料だけではなく、隕石固体表面へのパルスレーザー照射を行い、反射スペクトルの変化が起きることを確認した。岩石表面の色変化の確認は世界で初めてである。