著者
鐘巻 将人
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2009

本助成により、植物ホルモンオーキシンが植物内で引き起こす分解システムを、異種真核生物に移植することに成功した。これにより、非植物細胞において標的タンパク質をオーキシン依存的に分解除去することが可能になり、私たちは本手法をオーキシン誘導デグロン(AID)法と命名した。私たちは本手法が出芽酵母、分裂酵母、ニワトリDT40細胞、マウスおよびヒト培養細胞で機能することを確認し、その成果を論文公表した。さらに、本手法を利用して、出芽酵母内の因子の機能解析に応用し、その成果を論文公表した。また、改良版AID 法を開発することに成功し、特許申請を行った。
著者
倉田 のり 野々村 賢一
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

本研究ではまず、穀類共通のセントロメア配列として知られていたシークエンスをもとに、イネセントロメア局在復配列RCE1516をクローニングした。イネゲノムのファージライブラリーを作り、この配列を複数コピー持つゲノムクローンを選抜し、14kbにわたってその構造解析を行い、1.9kbを単位とする反復配列が存在することを見出した。これらの反復配列がすべての染色体のセントロメア部に存在することをin situ hybridizationで確かめた。さらに、もう一つのセントロメア反復配列RCS2を用いて第5染色体セントロメア領域に位置するYACクローンを選抜した。第5染色体のセントロメア領域に、14のYACクローンを整列化した4つのYACコンティグを形成し、この領域の構造解析を行った。この結果、この領域は1)それぞれがおよそ1Mbの長さを持つ3つのコンティグ(Contig I,II,III)と、1つのYACより成ること。2)セントロメア特異的高頻度反復配列RCS2はBamH1切断した13Kbと15Kbのフラグメントのみにあり、相互にかなり近い距離に存在していること。3)ほとんどのYACがRCE1のコピーを複数個保持しており、RCS2を2ブロックとも持つYACクローンを中心に、左右ほぼ均等にRCE1が分布している可能性が示唆されること。4)この領域には9個以上の遺伝子が存在すると考えられること。が明らかになった。次に、これらの中からセントロメアクローン候補を選び、イネ人工染色体の構築に取りかかった。まずイネ用染色体アームを構築するため、GFP遺伝子、イネテロメア等を挿入し、左右のアームベクターを作成した。これらのアームを用いてイネ人工染色体を構築するため、酵母細胞内での相同組換えを用いたセントロメアYACクローンへのアームの導入を、引き続き進行中である。
著者
五條堀 孝 根路銘 国昭 森山 英明 溝上 雅史 星野 洪郎 下遠野 邦忠 森山 悦子
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1988

AIDS(後天性免疫不全症候群)ウイルスに対して、「総合的視野に立った有効な合成ワクチンの作成を目標とし、その研究開発のための方法論の確立を目指した試験的研究を行うこと」を目的として、相互に関連はしているものの分野的には非常に異なった4つの研究分野(「塩基配列デ-タの分子進化学的解析」、「ウイルス遺伝子の発現実験」、「X線による立体構造の解析」、「ワクチン効果試験」)の最先端技術をもつ研究者達が、有機結合的協力体制の下に研究サイクルを構築して、AIDSウイルスに対する合成ワクチン開発研究の方法論の確立を目指し、本研究は実施されてきた。1.五條堀・森山(悦)・林田は、HIVー1及びー2のenv領域アミノ酸配列デ-タより合成ワクチン開発の候補となるペプチド領域を同定し、さらにアミノ酸置換パタ-ンを推定した。2.溝上・折戸は、同定されたペプチド領域に対する合成ペプチドを作成し、これより抗血清の作成に成功した。3.星野は、HIV感染培養細胞での中和試験及びウイルス増殖抑制試験を行い、ウイルス増殖抑制に多少の有効性を確認した。また,日本人AIDS患者6名より単離されたHIVー1の塩基配列を決定し、海外で単離されたHIVー1との系統関係の解析を行った。4.下遠野・丹生谷は、env遺伝子の大腸菌プラスミドPUC19を用いた大量発現系の研究を行った。5.森山(英)は、1本の合成ペプチドの結晶解析を行った。以上,昨年度に引き続き各研究サイクルの研究が着実に行われ、それぞれ成果を上げることができた。最終的に有効な合成ワクチン開発には至らなかったが、このような研究サイクルの継続が、合成ワクチン開発への有効な手段であるとの感触を得ることができた。
著者
豊田 敦 近藤 伸二
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究では、次世代型シーケンサー(Illumina)を利用してパーソナルゲノム上の多型を検出するための技術開発を行い、その技術を用いておもに家系情報のある脳神経疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症、統合失調症など)患者の全ゲノム配列決定を実施した。筋萎縮性側索硬化症については、新規原因遺伝子であるERBB4(ALS19)を同定した。また、繰り返し配列の異常伸長や遺伝子コピー数多型、大きな挿入・欠失などの構造多型を精度高く検出するために、ロングリード(PacBio)の鋳型調製法や解析技術の開発を実施した。
著者
宝来 聰
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

ヒト上科におけるミトコンドリアDNA(mtDNA)の塩基置換速度と分岐年代をより正確に推定するため、3人のヒト(アフリカ人、ヨーロッパ人、日本人)と3種のアフリカ類人猿(チンパンジー、ピグミーチンパンジー、ゴリラ)とオランウータンの全塩基配列を解析した。時間に対してほぼ直線的に蓄積している塩基置換を用いると、オランウータンとアフリカ類人猿は1,300万年前に分岐したという化石での推定年代のもとでは、ヒトとチンパンジーが490万年前に分岐したという結果が得られた。この分岐年代に基づいて、同義置換速度を推定したところ、3.89x10^<-8>/座位/年という値が得られた。Dグループ領域における置換速度に関しては、7.00x10^<-8>/座位/年の値を得た。同義置換とDグループ領域の置換の両方を用いることにより、ヒトmtDNAの最後の共通祖先の年代は143,000±18,000年前と推定した。アフリカ人の塩基配列が最も多様であるということと、上のヒトのmtDNAの起源年代より、現生人類ホモサピエンスのアフリカ起源説が強く支持された。
著者
嶋本 伸雄 十川 久美子 永井 宏樹 HAYWARD Rich CHATTERJI Di
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究の最大の発見は、バクテリアにおいて初めてプリオン様の調節機構を発見したことである。この意外な発見のため、主要な努力をこのテーマに注ぎ込んだ。転写の大部分に関与する主要転写会誌因子の動態は、病原菌を含むバクテリアを制御するために重要である。大腸菌の主要転写会誌因子σ^<70>因子の細胞内の動態を観察するために、大腸菌のクロモゾーム上のσ^<70>の遺伝子(rpoD)を破壊した菌株を昨年度作製した。この株を利用して、プラスミド上の遺伝子の発現を制御することによって、野生型変異型のσ^<70>の細胞内量を調節した。この結果、σ^<70>は、高い増殖温度や増殖後期に、αヘリックスからβ構造の転移を伴うアミロイド繊維を形成して、転写の活性を低下させ、マイナーσによる転写パターンに切り替えることが明らかになった。アミロイド繊維を形成しやすい変異株、しにくい変異株に置き換えると増殖温度が変化したので、σ^<70>が大腸菌の分子温度となっている傍証を得た。また、σ^<70>の細胞内濃度を変化させながら観察すると、熱ショック遺伝子の定常的発現量と誘導的発現量はともにσ^<70>の存在量に反比例したので、熱ショックσとのスイッチングとアミロイド生成との関係を証明した。また、20年来謎であった、RNAポリメラーゼのωサブユニットの機能を明らかにした。ω欠損株は、野生株と同じ表現型を示すが、コア酵素には、シャペロニンGroELが結合していた。GroELを除いたコア酵素σ^<70>は結合することができず、活性が無かった。つまり、ωサブユニットはコア酵素の成熟因子であり、これを欠く細胞においてはGroELがその役割を代行することが明らかになった。σ^<70>のアミロイド繊維を含む封入体を可溶化する必要から、高濃度のグリセロールを用いた可溶化法を開発した。この手法を、各種生物の蛋白質を大腸菌で量産したときにできる封入体に応用し、8-200倍の改善を観察し、その一般性を証明した。
著者
高橋 文
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、ebony遺伝子というメラニン生合成系酵素をコードする遺伝子の5'領域の変異がその遺伝子の発現量を変化させることによってショウジョウバエの交配相手選好性に直接関与しているかどうかを明らかにするという内容である。ebony遺伝子は、神経系でも発現しており、自然集団内のebony遺伝子5'領域の変異は、表皮細胞での発現量及び脳での発現量を変化させていることが明らかとなった。脳での発現量の変異は交尾行動に影響することも明らかとなり、ebony 遺伝子5'領域の変異が行動の違いと結びついていることを示唆する成果が得られた。
著者
森脇 和郎 早川 純一郎 山内 一也 藤原 公策 山田 淳三 西塚 泰章
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1986

癌研究者に株分与を行うため19系統のマウス基準系統を指定維持し、40施設に26系統合計371匹のマウスを分譲した。これらの基準系統については定期的に遺伝的モニタリングを行い、基準系統としての維持体制を確立した。また7施設から延46系統のマウスについて遺伝的モニタリングの依頼を受けた。近交系ラットについては委員の確立した近交系ラットを4機関で18系統維持している。これらのラット系統については10施設から8系統315匹の分譲依頼があった。この他にも無アルブミンラットを11施設に875匹供給した。また詳細なラットの遺伝的モニタリングについては生化学的マーカーを中心にパネルを完成し11施設の依頼により11系統について検討を行った。近交系モルモットについては予研の14系統の内13系統177匹を15施設に分与した。これらの違伝的モニタリングのための標識遺伝子の検索を進めほぼ完成に近づき系統別に生物学的特性を明らかにした。癌研究にしばしば用いられるコンジェニック系マウスとしてB10系9系統、A系6系統、C3H系5系統、BALB1C系2系統その他細胞表面抗原に関するもの7系統を定めて維持担当者を決め育成維持を行っている。これらのコンジェニック系統については37施設に53系統595匹の分譲を行った。ヌードマウス系統は遺伝的背景の異る3系を25機関に1707匹を供給した。また、新しく育成した遺伝的背景に特色のあるヌードマウス8系統については20件126匹の株の分与を行った。ヌードラットは遺伝的背景の異る3系を育成中であり6件83匹の試験的な分与も行った。受精卵凍結保存については技術的な改良を続けており、系統差による難易の差異の問題を解決しなければならない。微生物モニタリングについては4種の動物について11種の感染因子の検査を行い、10施設から46件2578検体の依頼を受けた。本委員会の活動を癌特ニュースに掲載し、また実験動物のリストを作成し配布した。
著者
舘野 義男 山崎 正明 小林 薫(深海 薫) 猪子 英俊
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

MHCは原索・脊椎動物が偶然に獲得し進化的に精緻化を重ねてきた生物機能であるが、MHC遺伝子群だけではなく、その周りのゲノム配列を進化的に解析することにより、その進化的起源や過程を明瞭に示すことができる。この研究では、ヒト(H)、チンパンジー(C)並びにアカゲザル(R)の3種について、MHCクラスI遺伝子群中のBとC並びにクラスI関連遺伝子MICAとMICBの2組の遺伝子の起源と進化に注目をして解析を行った。2組の遺伝子は2組のゲノム重複断片に存在することが分かっている。これらの重複が進化的に何時起こったか正確に推定することにより、2組の遺伝子の起源を明らかにすることが可能となる。ただ、ここで問題になるのは、これらの遺伝子は自然選択を強く受けているので、一定の速度で進化してはいないことである。従って、重複ゲノム断片中でこれらの遺伝子と一緒に進化している中立的な配列部分を選択する必要があり、私達はLINEの断片配列に注目して解析を行った。分岐時間の推定にはLINE断片の進化速度を求める必要があるが、私達はHとCの種分岐時間を、他の研究から得られた値、5.4百万年、をもとに推定した。この速度は、中立遺伝子の速度の範囲内にあることを確認して、BとC遺伝子の分岐時間を、2.23千万年と推定した。同様にMICAとMICB遺伝子の重複時間を1.41千万年と推定した。ゲノム解析の難点は、特定のゲノム領域に存在する遺伝子や他の配列がそれぞれ異なった進化要因を受けて進化しているので、一様に解析する訳にないかないことである。従って、問題としている領域の基本的な進化関係を正確に把握しないと誤った結論に導かれる危険性がある。そこで、H、C、Rのオーソログ領域のそれぞれの進化距離を求め、Rの分岐時間を2.70千万年と推定した。このような方法でRの分岐時間を推定したのは、おそらく世界で初めての試みであり、推定値も妥当と考えられる。上記の推定値もこの推定値に照らして妥当と結論される。
著者
岩里 琢治 糸原 重美 加藤 裕教 西丸 広史
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

Rac特異的GTPase activating protein(GAP)の一つであるαキメリンに着目し、中枢神経回路の形成と機能におけるその役割を明らかにすることを目的として研究を行った。全身性およびCre/loxPシステムを用いた領域特異的αキメリン変異マウス、さらに、α1およびα2イソフォームのそれぞれに特異的なノックアウトマウスを作成した。それらのマウスを行動学的、および、組織学的に解析することにより、海馬機能におけるαキメリンの働きの一端を明らかにした。
著者
岩里 琢治
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

高等動物の高度な行動の基盤となるのは,精緻に構築された神経回路である。神経回路の精緻化には,発達期の限られた期間における神経活動が重要な役割を果たすことが知られているが,その機構はほとんどわかっていない。本研究課題では,神経回路の活動依存的発達のモデルとして,バレル形成を中心としたげっ歯類体性感覚(バレル)野発達の分子機構の研究を行った。特に注目した分子は,1型カルシウム依存的アデニル酸シクラーゼ(AC1)とNMDA型グルタミン酸受容体(NMDA受容体)であり,領域としては,特に視床,脳幹における役割を解明することを目的とした。われわれは前年度までの研究において,視床特異的Creマウスの開発に成功しているが,その時空的組換え特性を,レポーターマウスを用いて,さらに詳細に解析した。視床特異的AC1ノックアウトマウスのバレル形成の解析も前年度から行っているが,今年度も引き続きさらに詳細に解析した。今年度はさらに,視床特異的CreマウスをNR1 floxマウスと交配することにより,視床特異的NR1ノックアウトマウスを作製した。脳幹の解析に関しては,共同研究として海外のグループから,領域特異性の異なる2種類の脳幹特異的Creマウスの譲渡を受け,輸入を行った。これらのマウスは体外受精によるクリーニングを経て,国立遺伝学研究所に無事導入された。現在,レポーターマウスを用いて,Cre組換えの特異性を確認しているところである。同時にAC1 floxマウス,NR1 floxマウスとの交配も行っている。脳幹特異的AC1,NR1ノックアウトマウスが手に入れば,それらの大脳皮質体性感覚野第4層におけるバレル,視床VB核におけるバレロイド,脳幹三叉神経核におけるバレレットの組織学的解析を行う予定である。