著者
小井土 守敏
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究
巻号頁・発行日
vol.2021, no.31, pp.29-36, 2021

<p> 仮名本『曽我物語』の注釈作業の過程で、問題となる「馬芸」の描写に関する記述について、注釈の試案を提示する。併せて、『曽我物語』が、「弓馬の芸」について詳細な描写を指向していることを指摘する。</p>
著者
柴山 真琴 ビアルケ(當山) 千咲 高橋 登 池上 摩希子
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究
巻号頁・発行日
vol.2019, no.29, pp.236-256, 2019

<p> 本研究では,小学校高学年児の国際児が,親の支援を受けながら現地校と補習校の宿題を遂行する過程で,どのような家族間調整がなされているのかを独日国際家族の事例に基づいて検討した.日本人母親が記録した約4 年間の日誌記録を「生態学的システム」の修正モデルを分析枠組みにして,家族間の調整過程を具体的に分析した結果,次の3 点が明らかになった.第一に,父母間では,対象児の学年に拘らず,自分が母語とする言語の宿題を支援する言語別役割分担を基本とする支援パターンが形成されていた.第二に,この言語別役割分担は,宿題をめぐる親子間調整の基本単位ともなっていた.現地校宿題をめぐる父子間調整は円滑に進んでいたが,補習校宿題をめぐる母子間調整では対立が頻発していた.第三に,対象児は,自分と活動(宿題遂行)との間に不具合が生じた時に,自らの環境認知に基づいて親に働きかけたり自らの行動を変化させたりする調整を行っていた.対象児の調整過程では,「役割期待」「時間展望」「目標構造」という3 つの軸が参照されていたと考えられる.</p>
著者
鈴木 紀子
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2013, no.23, pp.258-276, 2013 (Released:2013-10-22)
参考文献数
21

1950年代に加速するアメリカの冷戦文化政策に,文学はどのような関わりを持ったのか.本論文は,戦後日本で広く名を馳せ,且つGHQや米国国務省の支援を受けた米文学作家-William Faulkner,Pearl Buck,Laura Wilder-とその作品に着目し,戦後アメリカが日本に対し行った「模範的民主国家アメリカ」の自己イメージ形成にこれら米文学作家・作品が果たした役割を考察する.一方日本人読者はどのようにその「アメリカ」を受容したのか.筆者は,日本人読者がアメリカを優越的他者として受容しながら,同時に文学に表象された,また作家自身が体現する「アメリカ」に日本文化との共通要素を積極的に見出そうとする解釈が見られる事に注目する.この独特な解釈には,戦後日本人がアメリカを「内側」に取り込み,自己として消化し,それを足掛かりにすることで形成しようとした新たなアイデンティティの一端を見ることが出来るのではないか.これらの考察を通し,本論文は,戦後冷戦初期に日米両国のナショナルな主体形成の一助を成した米文学の機能と,それを巡る両国間の相互依存関係を提示する.
著者
清水 沙也加 林 恵美子 若林 綾
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.24, pp.73-77, 2014 (Released:2014-05-30)
参考文献数
8

この研究の目的は,近代日本で文化的テクストが読者/オーディエンスによってどのように生産され,翻訳されていたかについて考察することである.とりわけ文化産業が発展した近現代では,文学テクストとメディアの関係はより錯綜し,多様な問題系を生み出している.文学テクストは,新聞や雑誌の記事の一つとして,美しくデザインされた本として,受け取られる.ときには,映画やマンガ,アニメーションに移植されることもある.そこに注目すると,文学テクストは,メディアや読者との協働を通じて,さまざまに変化していると言えるのだ.私たちは,資本主義と文化との関わりに注目しながら,メディアの中で作り上げられたイメージが,文学作品の受容にどんな影響を与えるかを検討した.
著者
安倍 希美
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究
巻号頁・発行日
vol.2019, no.29, pp.65-73, 2019

<p> 大和座の音羽屋三代目彦五郎は,戦後日本の再生を願い昭和21 年十六様と昭和25 年津谷木で,同じ三番叟を振り付け指導し,演者は共に井上晢男氏であった.津谷木で今でも継続されているこの三番叟を「彦五郎型」と改称する.百歳まで生きた石川竹次氏は,春日町屋台の修復の節目にお祝いの三番叟を演じ,また戦前も大和座の三枝健市氏の指導にて三番叟を演じていた可能性がある.飯田坂東彦五郎こと浅井宇市氏は,江戸で歌舞伎を修行したと言われ,洗練されたセンスと技の経験が「八井型」に生かされている可能性は大きい.今後,天王座の三番叟については天王座員が行っていた人形芝居等や,また神楽の動きを参考にすること等により,全般的に三番叟の理解が深まる可能性が考えられる.</p>
著者
杉山 実加
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.28, pp.14-19, 2018-01-01 (Released:2019-07-26)
参考文献数
23

これまでの研究において,保育者養成段階の「保育・教育課程論」で使用されているテキストにおいて,計画の連続性への意識がほとんど見られないことなどが指摘されてきた.2018年4月には,新たな幼稚園教育要領・保育所保育指針が施行され,保育者には「カリキュラム・マネジメント」が求められていく中で,養成段階においても,教育課程や指導計画について十分な知識や技術を身に着けることが求められる.そこで,本論文では,2015年から2017年の間に出版されたテキストの記載内容を分析し,編成の目的や意義,各指導計画の連続性に即した作成方法について,どのように解説が行われているのかを検討した.結果,計画の必要性において,保育者間の連携や省察の手がかりとなる記録という部分をきちんと明記していた書籍は一部であること,長期的計画と短期的計画の関連性については全てのテキストで解説が行われていたが,その実際について,資料をもとに具体的に解説したテキストは少なく,解説されている場合も特定の記載内容のみを扱っている場合が多いことを明らかにした.
著者
池上 幸江
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2021, no.31, pp.647-655, 2021-01-01 (Released:2021-12-16)
参考文献数
14

粘性のある難消化性多糖類5種(ジェランガム、タマリンドガム、サイリウムシードガム、グアガム、キサンタンガム)についてラット消化器官に対する影響と粘性の関係について検討した。実験には4週齢のSprague Dawley 系雄性ラットを用い、難消化性多糖類5%を含む飼料とセルロース5%飼料をコントロールとして24日間投与した。 実験1では上記6種の難消化性多糖類飼料を投与し、飼料投与中止後5時間目に解剖し、消化管重量、内容物の重量と粘度、糞重量を測定した。小腸、盲腸の内容物の粘度はキサンタンガム群が最も高く、グアガム群がもっとも低く、難消化性多糖類そのものの粘度とは相関しなかった。また、消化管重量、消化管内容物重量、糞便量にも粘度との関連性は見られなかった。 実験2ではセルロース、ジェランガム、タマリンドガム、サイリウムシードガム、キサンタンガムを含む飼料で飼育し、5時間絶食後を0時間として、飼料5gを投与して2時間後に解剖した群を2時間とした。2時間後の胃固形物量は最も粘度の高いキサンタンガム群が他の4群に対し、有意に低かった。 実験3ではセルロース、サイリウムシードガム、グアガムを含む飼料で飼育し、絶食後を0時間として、飼料5gの投与2、5時間後に解剖した。2時間後の胃固形物量は粘度の高いグアガム群が他の2群に比べて有意に低かった。しかし、グアガム群の胃内容物の高粘度は、小腸と盲腸では顕著に低下した。他方、サイリウムシードガム群では胃内容物の粘度は低かったが、盲腸ではグアガム群より高くなった。 以上の結果より、難消化性多糖類を飼料として投与すると、飼料や消化管内容物の粘度は本来の粘度とは異なることがあり、飼料成分や消化管内での物理化学的影響によって変化することが示唆された。また、従来高粘度の難消化性多糖類は胃から小腸への食物の移動を低下させることによって、血糖値低下などの機能が示されると考えられてきたが、本研究は再考が必要であることを示した。
著者
小関 右介
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2021, no.31, pp.62-67, 2021-01-01 (Released:2021-09-17)
参考文献数
19

文献調査にもとづき,佐渡島の淡水魚類相の変遷を調べた.2012年の前回魚類相報告以降,本島の淡水魚類目録には2種の純淡水魚と1種の周縁性淡水魚が加わり,目録掲載種数は46種となった.魚類相の大きな特徴は,通し回遊魚,とくに両側回遊性ハゼ科魚類の種の多さであり,この特徴は過去60年間で大きく変化していなかった.しかし,人為的移入により,種全体に占める純淡水魚の割合がかつての4分の1から3分の1に上昇しており,これら移入種による生態系への影響が懸念された.種の移入防止のために講ずべき施策および侵入の早期発見のために実現すべき環境DNAベースの魚類群集モニタリングについて簡単に述べた.
著者
数土 武一郎 清原 康介
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.438-443, 2020-01-01 (Released:2020-07-21)
参考文献数
14

指差呼称は安全確認やヒューマンエラー防止を目的として,指差しを行い,その名称や状態を声に出して確認することである.我が国では,指差呼称は有効な安全対策として各業界で推奨され,医療現場や製造業等で幅広く実施されている.本研究では,医薬品製造の実生産ラインにおいて,指差呼称の実施回数を増やした際の作業員の肉体的・精神的疲労度およびヒューマンエラーの発生回数の変化について検討した.D製薬会社福島工場の製造作業員30名を対象に,1日の作業終了後に腕,口,目,足,精神の疲労度をVisual Analog Scaleにより10日間測定した.その後,作業中の指差呼称実施回数を通常の3倍として10日間勤務してもらい,同様に疲労度を測定して従前と比較した. その結果,指差呼称実施回数を3倍とした期間は,通常回数の期間と比較して,腕,目,精神の疲労度が有意に上昇した(p<0.05).口と足の疲労度には有意な変化は見られなかった.一方,ヒューマンエラーは全研究期間をとおして一度も発生しなかった. 以上の結果より,指差呼称実施回数を増やすことは作業員の疲労度を増大させる一方で,短期的にはヒューマンエラーの発生回数に影響しない可能性が示唆された.ただし,本研究の調査期間は計20日間と短く,ヒューマンエラー発生回数の差を把握するには十分な観察期間ではなかった可能性がある.今後はより長期的なモニタリングを行い,指差呼称の実施回数とヒューマンエラーの発生との関係を評価していく必要がある.
著者
趙 方任
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.268-282, 2020-01-01 (Released:2020-04-09)
参考文献数
48

喫茶に水は欠かすことができない.中国の喫茶文化において,茶の味をよりいっそう引き出すために,各地,各種の水を飲み比べてその品質を定め,優れた水を選び,水のランキングをつけるということを行う.そうした行為,およびその鑑定結果,判断基準などを中国茶文化では「水品」と言う. 「水品」と言った場合,大別すると二つの異なる概念が含まれている.一つは,実際に水の品質を定める行為と,その判断の結果であり,もう一つは,「水の品質の判定基準」,つまり「良い水の基準」である.そこで本稿では,前者を「水品実践」,後者を「水品基準」と呼ぶことにする. 今までの研究では,古人の「水品」に関する諸説の矛盾について論及したものは見当たらない.また,「水品」に関する理論面での時代変遷に応じた変化,それに伴う各時代の特徴について言及したものは見当たらない.この面で言えば,本稿は中国茶文化研究領域において,「喫茶用水」に関する初の全面的な研究になる. 本稿は,文献を中心に,そして中国の唐・宋・明・清の四代を中心にして,喫茶文化における「水品実践」及び「水品基準」の時代特徴,そして,それぞれの歴史的な変遷について考察して行く. そして,本校は「水品実践」と「水品基準」について,歴代の特徴を述べた上,その時代の変遷の特徴を発見し,まとめた.つまり,「水品実践」の変遷では,(唐)ランク付けをおこない活発な動き→(宋)前時代を踏襲し,地味で新鮮味に欠ける→(明)新しいランク付けが起き,再び活発化→(清)前時代を踏襲し,地味で新鮮味に欠ける,という結果であった.一方,「水品基準」では,(唐)水は「重」を良いとした→(宋)水は「軽」を良いとした→(明)再び「重」に→(清)また「軽」に,という変遷だった. 本稿は最後で表を作り,その原因について,下記のように分析した. 唐代と宋代は多少の変化はあるものの,本質的には同じ喫茶法,同じ茶だった.そして明代と清代も同じ喫茶法,同じ茶だったのである.しかし,「水品実践」と「水品基準」になると,唐代と宋代,明代と清代は異なってしまい,唐代と明代,宋代と清代が同じになるのである.唐代と明代が「水品実践」と「水品基準」が同じなのは,喫茶特徴として挙げた「新しい喫茶法の確立時代」で,宋代と清代が同じなのは,「前時代の喫茶法を継承した」からである. また,「重」と「軽」という「水品基準」の変遷は喫茶法継承の宋代と清代は「繊細さ」を追求するので,中国茶文化では,「淡」と表現するが,「軽」水を好む結果につながったと分析した.
著者
古市 孝義
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2019, no.29, pp.516-521, 2019-01-01 (Released:2020-01-24)
参考文献数
18

本研究では,高齢者福祉における介護の質の向上を目指した取り組みについて制度の側面から記録を通した質の向上に向けた考え方について研究を行った.本研究で検討した介護福祉士の質と,介護福祉士が残す記録との関係から,介護福祉士が残す記録によって質の向上を図ることができることが分かった.しかし,介護の質を評価するには,先に述べた評価手法や評価方法だけでは,現在の介護に即した評価ができているとは言い難く,さらに,介護の提供内容を正確に評価するといった手法も定まっていない.介護を受けている利用者にとってどのような介護に対して安心して自分の生活を任せることができるのか,現在行っている利用者満足度調査といった取り組みに加えて利用者に確認する仕組みを新たに検討作成していく必要があるといった示唆を得た.
著者
鹿野 美由紀
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2015, no.25, pp.314-318, 2015-01-01 (Released:2020-03-14)
参考文献数
1

平安貴族女性の正装である裳唐衣装束は袴,単,袿,表着,唐衣,裳などから構成されている.その中で今回は,袿と衵の着用について着用実態の若干の整理と用例の分析を行った. 袿と衵を辞書で確認すると区別は,袿は裾の長いもので女性用のものとし,衵は裾の短いもので男性や幼童用のものとされている.しかし王朝物語を確認すると,袿の着用者にも男性はおり,同様に衵の着用者にも女性は見られる.また被物として使われることが多く,これは男女ともに贈られていた.また有職故実書で書かれていた説明も矛盾しているものも多く,実際の形状・着用について不明なことが多い.そのことを受けてか,現代の辞典類や注釈書類類の説明も曖昧なところが多くなっている.この研究の目的は,文学作品と古記録における用例の分析を行って,「衵」の着用実態の若干の整理と検討をしていくことである. なお,今回は特に男性の着用について検討を行う.そのため,童と僧侶の着用の用例は除いた.
著者
山名 章二
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2019, no.29, pp.119-128, 2019-01-01 (Released:2020-01-24)

これは草稿転写の報告だが, 解読に詰めも残しており, 資料の紹介ノートと呼ぶのがふさわしい. 原本は日本放送協会のラジオ放送劇の脚本で, 金沢市在石川近代文学館に北村喜八関連資料の一として所蔵されている. 放送は日本の連合国軍への降伏からほぼ三年後, 1948年8月であった. 築地小劇場に始まり演劇界で広範に活躍し, 英米さらにドイツの文学作品を幅広く翻訳出版, 数多の著書を公刊, 晩年には日本の劇界を代表して国際的に活動し, その中でオニールにも上演に翻訳に深く取り組み続け,文通もあった北村喜八の執筆による. その内容はオニールが波乱の青年期を終え演劇に確固たる基盤を築く頃をセリフ劇形式で跡付け, その後の主要戯曲および近作情報を紹介し, オニールの一層の活躍への期待も込められている. 1946年初演の The Iceman Cometh はいち早く触れられているが, 没後25年を経て公開するよう遺言されることになる Long Day’s Journey into Night への言及はない.当然ながら. アメリカ文化に大いに関心を寄せその影響も色濃い1920年代, 30年代の日本がアメリカ演劇を受容した熱気を戦後に復興しようとする意欲をも窺わせる資料である.
著者
児玉 成未 西河 正行 古田 雅明 齊藤 圭 中村 純子
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2016, no.26, pp.98-102, 2016-01-01 (Released:2020-03-18)
参考文献数
7

近年,人の心に関わる臨床心理士は医療・福祉・教育・司法・産業など様々な現場において幅広く活躍している.本研究では臨床心理士訓練途中である大学院生と大学院を修了して数年の臨床経験を経たカウンセラーを対象とし,カウンセリング場面における初心者カウンセラーの特徴を抽出し,それらがどのように作用しているのかを検討した.そして大学院を修了したカウンセラーの特徴を抽出し,初心者カウンセラーとの違いを探索的に検討し,それらの違いを明らかにすることで,臨床心理士養成教育へ提言することを目的とした.その結果,大学院生はクライエントの問題を十分に理解していない,うまく対応できていないと感じていた.また,「自分がカウンセラーとして技量を試されているようなプレッシャー」「中断の恐怖」を感じていた.そして,「今後カウンセラーとして働いていく上で適性が脅かされる不安」が明らかとなり,クライエント,指導教員の期待に応えていない葛藤の背景に,より根本的な適性不安があることが示唆された.しかし,大学院を修了したカウンセラーには大学院生に見られたような特徴は見られなかった.これらのことから,大学院生には「誰に何を期待され,自分自身は何を期待しているのかを考えさせる機会を持たせる」などの「型」への固執を引き起こす要因への配慮なり対策が講じられなければ根本的な解決にはならないことが示唆された.
著者
早川 公康 小林 寛道
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.24, pp.78-95, 2014-01-01 (Released:2014-06-30)
参考文献数
64
被引用文献数
1 1

知的障害児の身体的側面や体力・運動能力に関する調査・研究は部分的,限定的なものも含め,様々な報告が見受けられるが,わが国の文部科学省によって推進されている新体力テストを踏まえた測定および考察については,まだそれほどのデータや研究知見はほとんど見当たらない.今回は文部科学省の新体力テストを主な項目として定め,一般健常児と知的障害児の身体的側面および体力・運動能力を比較し,知的障害児の実態に迫ることで,知的能力への対応だけでなく身体的側面や体力・運動能力の向上に寄与することを目的として本研究を行った.東京大学生涯スポーツ健康科学研究センターにおいて身体的側面および体力・運動能力を評価するために各種測定を行った.被験者は知的障害児24名で,そのうち男子が20名(16.0±5.5歳),女子が4名(13.3±3.4歳)であった.身体的側面については,身長,体重,体脂肪率,筋量等を測定した.体力・運動能力の測定については,主に文部科学省・新体力テスト実施要項等に則り,握力,背筋力,長座体前屈,股関節開脚角度,10m歩行,10m障害物歩行等を実施した.一般健常児等の全国平均値と比較できる項目については,比較の上,検討を行った.男子において身長,体重,体脂肪率,筋肉量いずれも個人差が大きく,特に体脂肪率については10%を下回る人と60%に迫る人との差が顕著であるなど,発育の改善,適正な体組成維持のための各種要因について検討される必要があるものと考えられた.長座体前屈について,健常児の全国平均では年齢とともに向上するのに対して,今回の被験者の場合,向上していく人と低下していく人の両極端なケースがあり,個人差を大きくする生活要因が存在する可能性も推察された.背筋力について,男子においては同年齢(13歳)で85kgの差がある被験者2名が存在したが,その原因については筋量,筋-神経系,認知機能の状態等が関係しているものと考えられる.10m歩行については,歩行それ自体は生活の基本動作でもあるため,著しく能力の低い人にとっては日常生活に支障を感じている機会が多いことが推察される.10m障害物歩行能力については男女ともに全被験者が一般高齢者の全国平均よりも低く,50m走能力についても男女ともに全被験者が健常児の全国平均よりも低いことが示された.背筋力,握力および10m歩行,10m障害物歩行,50m走については,有意差は認められなかったものの男女ともに筋量が多い群のほうが筋力や運動能力が高い傾向がうかがえた.しかし,標準偏差が大きいことや知的障害児の心身の状態が多岐にわたり個人差も大きい実情についても理解する必要がある.
著者
松岡 美香
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2016, no.26, pp.129-131, 2016-01-01 (Released:2020-03-18)
参考文献数
1

イギリス文学の背景的特徴として,階級が挙げられる.現在のイギリスにおいて,階級という仕組みは表面上ではかなり隠ぺいされているが,実際には依然として,社会に何らかの影響を及ぼす力を持ち続けている.本研究では20世紀に焦点をあて,階級の変遷,階級を反映させた小説が一体どのようなものなのか,ということを考察していくことを目的とする.
著者
村里 好俊
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.32, pp.82-94, 2022-01-01 (Released:2022-04-14)
参考文献数
14

一六・一七世紀イギリス・ルネサンス期の詩人たち、サー・フィリップ・シドニーとレディ・メアリ・ロウスは、叔父と姪との間柄で、時代を代表する詩集・長編の散文ロマンスを残した。二人の作風には共通点もあるが、叔父の作品を強烈に意識して、女性の立場から家父長制への反撥を意識して書いたロウスの作品には、大きな違いも見られる。二人の作品を時代思潮の相違を観点に入れ、ここでは美術史的立場から解明し、その共通点と相違点とを明らかにしたい。
著者
大喜多 紀明
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2019, no.29, pp.15-21, 2019-01-01 (Released:2020-01-24)
参考文献数
37

裏返し構造は,異郷訪問譚にみとめられる構造であるとされてきた.しかし,近年,異郷訪問譚ではないにもかかわらず,裏返し構造が見いだされる事例が聖書テキストにおいて紹介されている.こうした裏返し構造の出現が聖書全般にみとめられる特徴か否かを検証するため,本稿では,新約聖書に収納されたテキストの一つである「ヤコブの手紙」の分析を,裏返し構造の観点から行った.
著者
大喜多 紀明
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.353-357, 2020-01-01 (Released:2020-05-12)
参考文献数
15

ユダの手紙は,新約聖書に収納された巻の一つである.本稿では,ユダの手紙の構造を,裏返し構造をあてはめる観点から分析した.本稿の分析により,ユダの手紙は,合計5対の対応を持つ裏返し構造であることがわかった.
著者
厚東 芳樹 森下 純弘
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.549-559, 2020-01-01 (Released:2020-09-24)
参考文献数
32

本研究では,小学校低学年(2年生)の子どもを対象に,ボール操作を伴わずに相手との駆け引きが存在する鬼遊びゲーム教材「カバディ」の体育授業を実施し,単元内で子どもたちがどのような「戦術の立案」をいくつ考えるのか,また「戦術の実行数」はどうかといったチーム戦術を事例的に検討することで,低学年で「ゴール型」ゲームにつながる戦術学習の導入可能性を明らかにすることを目的とした. まず,態度測定による体育授業診断の結果,男女共に比較的高い評価になった.これより,実施した「カバディ」の単元計画は低学年2年生にとってある程度妥当な内容であったことがわかる.また,「プレイ数」「戦術(ゲーム様相毎も含む)の立案数」「戦術の実行数」は,単元計画や企図した戦術的気づきに関わった内容構成とよく対応していた.これらより,実施した鬼遊びゲーム教材「カバディ」の体育授業は,低学年の子どもたちに戦術学習の「わかる」と「できる」の両面を保証できていた可能性が示唆された.以上のことから,低学年の体育授業でも「ゴール型」ゲームにつながる戦術学習を導入することは可能であることが示唆された.