著者
村上 千鶴子
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
日本橋学館大学紀要 (ISSN:13480154)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.69-79, 2011

目的:統合失調症者の世界観について、正常対照群と比較して評価した。方法:統合失調症の診断がついている入院患者41 名と正常対照群50 名について、1996 年に世界観調査が実施された。結果:統合失調症者では、対象群と比較して具体性、感情的反応、二極化、分散、断定、自惚れ、被害妄想(女性)、宗教的傾向(女性)、関係性重視(女性)がより頻回にみられた。考察:統合失調症者の回答にみられた傾向は、ほとんどがPiaget の認知発達理論でいう「前操作期」あるいは「具体的操作期」と同様の認知段階を示した。慢性統合失調症患者では、情緒の退行と情緒の不安定性と同様に認知段階の退行が起こり、これが、自閉思考や原始的思考にみられる奇異な論理を惹起し、同時に心の平衡を保とうとすると考えられた。また、統合失調症者は、批判的に体験を受け入れる代わりに、生起した主観的、特殊な体験を無批判に受け入れる傾向があり、また断定的に物事を否定することで自身の意識の明瞭性を印象付ける傾向があることが示唆された。このことは、疾病それ自体だけではなく、環境要因への配慮も必要であることが示唆されており、その意味では、統合失調症者においても環境制限的であり、所与の環境における心理学的影響が注意深く考慮されなければならない。
著者
北村 克郎
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.47-74, 2016-03-01 (Released:2017-11-20)

国際バカロレア(以下IB)の初等教育プログラム(以下PYP)は「概念-操作」カリキュラムである。PYPの「概念-操作」カリキュラムが、他の構成主義の学びの方法に対してたいへん優れているのは、その道具立てがしっかりしているためである。この道具立ての一つである「概念に基づく学び」(concept based learning)はとりわけ重要なものであるが、八つの「概念」は、相互の間の関係が規定されていない。そこで、諸概念との関係や、その位置づけと役割と限界を明らかにした、ヘーゲルの論理学の「概念論」の「主観的概念」における「判断論」を認識論的に読み直すことにより、PYPの諸概念の役割と限界と相互の関係を認識の深化のプロセスの中に位置づけようと考える。そして、その準備作業として、まず、ヘーゲルの判断論を認識論的に概観してみたい。そのためには、特殊の役割に注目して判断論を理解しなくてはならない。
著者
飯森 豊水
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.5-18, 2017 (Released:2017-11-20)
参考文献数
26

ウィーン古典派の作曲家J. ハイドンの研究においては、20世紀終盤に明確な変化があったことが一部で指摘されている。 ハイドン研究史を概観すると、19世紀後半にC.F.ポールによってハイドンに関する学問的研究が始まり、1930年代のデンマークの研究者J.P.ラールセンを先駆として、戦後には活発な資料研究が展開された。20世紀の後半は、組織的で体系的な資料研究と、その成果としての学問的校訂楽譜による「ハイドン全集」をはじめとする諸資料の刊行が中心的課題となった。その課題が一段落する世紀の終盤になって明確な変化が起こり、新たな研究の地平が拓かれた。しかしその目指すところはまだ明らかとはいえない。小論では、この変化を分析し、従来のハイドン研究にはなかった新しい研究の可能性を検討する。
著者
八尾坂 修
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.75-86, 2020 (Released:2020-04-01)

アメリカにおける教育長の養成・研修に着目すると、歴史的に免許資格と養成、更新・上進制の連結が特徴的である。免許資格要件の特徴として以下の点を見出すことができた。①発行される免 許状は包括的な行政免許状あるいは教育長固有の免許状である。②博士号あるいは教育スペシャリスト学位(博士論文を提出する必要のない准博士号)取得の要請。③教職経験や行政経験を要求しているのが歴史的特徴。④インターンシップ充実への州間差異。⑤教育長独自のテストを要求する州の存在。⑥上進制を導入する州(10 州)のなかで更新を認めず上位の免許取得を求める州の存在。⑦伝統的な大学院養成プログラムに対して州教育長会のような専門職団体、民間によるオルタナティブ養成・研修の存在。教育長養成プログラムの課題として、ア.入学募集、選抜、入学、イ.プログラムの目標・哲学、ウ.養成の核となるコースカリキュラム内容、特に実地体験の重視、エ.テニュア教員の存在といった基本的な視点、要素を共通認識して高める質保証が養成関連機関に求められる。
著者
古賀 毅
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
日本橋学館大学紀要 (ISSN:13480154)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.3-13, 2011

本稿の目的は、近代公教育を構成する諸原理の歴史的コンテクストを確認し、20 世紀の社会変化という視点でみた場合にそれが今日的にどのような意義をもつのかを考察することにある。〈義務・無償制〉これらの原理は、18 〜 19 世紀に西欧の国民国家が形成される過程にその起源をもつ。西欧諸国は、キリスト教会に代わって子どもたちを教育し、国力を強化しようと考えていた。当初、民衆が就学義務を受け入れることは難しかったが、社会の工業化が進む中で、義務制はその有用性から国民的なコンセンサスを得ていく。無償制は義務制を有効ならしめるのに不可欠のものであった。今日、社会の変化にかんがみて、これらの原理に対して次の2 つの疑問が示される。1)学業失敗を増やさずに、義務就学期間を中等教育修了にまで延伸することは可能か?2) 初等教育から中等もしくは高等教育まで、完全な無償制を実現するための財源は確保できるか?〈非宗教性〉非宗教性あるいは学校の非宗教化は、国あるいは文化ごとにさまざまな現れ方をするが、教会による主宰権が国家によって否定ないし制限され、教育内容には宗教的教義を含まないという共通点はみられた。とくにフランスでは、19 世紀の政教間の闘争に由来して、この原理が非常に厳格に維持されている。非宗教性は、多文化的動向あるいは非キリスト教徒との共生という事態を前に変容を迫られている。また今日では、ハイパー・サイエンスや高度技術に満ちあふれた社会の中で人間存在がいかにしてその自律性を確保していくかというような問いも、教育の非宗教性に影響を及ぼそうとしている。
著者
金山 弘昌
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
日本橋学館大学紀要 (ISSN:13480154)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.29-51, 2005

上演芸術史において,フィレンツェのメディチ家宮廷がもつ重要性については議論の余地がないであろう。まさにこの宮廷において,ヤーコポ・ペーリによる史上初の音楽劇(オペラ)が上演され,ブオンタレンティ設計の有名なメディチ劇場が開設されたのである。大公国の政治経済的衰退が明らかな17世紀においてさえも,この宮廷で催される祝祭と上演物は西欧の他の諸宮廷にとっての模範であり続けた。本論文では,17世紀前半,より厳密には,いずれも婚礼祝祭の催された1608年と1661年の間の時期において,メディチ家宮廷で用いられた劇場システムについて考察したい。同宮廷では,とりわけさまざまな上演物が催される祝祭においては,上演物自体の類型を考慮しつつ,さまざまな類型の劇場と劇場的場が用いられた。メディチ家が催した祝祭,とりわけ婚礼祝祭の検証を通じて,同宮廷では劇場と劇場的場が概ね二つの類型に分類されていたと推定できる。一つはトルネオ(騎士試合)用の野外劇場であり,もうひとつは演劇と音楽劇の上演のための室内劇場,近代的な意味での文字通りの劇場である。野外劇場に関しては,たとえその形式が変化したとはいえ,中世に起源をもつ「囲われた広場」の伝統が,とりわけその機能において存続していた。しかし演劇と音楽劇のための室内劇場については,宮廷は恒常的に機能する劇場を生みだすことに失敗し,各種の劇場的場の応急的な使用に依存し続けたということを銘記せねばならない。この傾向はとりわけ1630年代のメディチ劇場の解体以後に顕著である。ピッティ宮中庭の使用などさまざまな提案がなされたものの,有効な方策とはいえなかった。それ故に,1661年の婚礼祝祭においては,アッカデミア・デリ・インモービリのペルゴラ劇場が音楽劇の上演に充てられたのである。かくして上演の場の問題は,貴族たちが所有するほとんど私的かつ市民的な劇場を用いて宮廷外で上演物を催すというかたちで解決されたのである。
著者
金山 弘昌
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
日本橋学館大学紀要 (ISSN:13480154)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.29-49, 2007-03-01 (Released:2018-02-07)
被引用文献数
1

ジョヴァンニ・ルチェッラーイは有名な『雑記帳』の中で、「人の一生で一番重要なことはふたつある。第一は子を産むこと。そして第二は家を建てること」と記している。この言葉はルネサンスの有力者たちが自分たちの邸館に期待していた社会的な重要性について明らかにしている。本稿では、このテーマ、すなわちルネサンス期フィレンツェの パラッツォが持つ社会的機能と意義について概観を試みる。この目的のため、ゴールドスウェイト、F・W・ケント、プレイヤーらの主要な研究に沿いつつ、とりわけこのような活発な建設事業を許した、あるいは推進した倫理的基盤について、そして中世のコンソルテリーア解体後にルネサンス社会が被った、社会や家族の絆の劇的な変動の影響について検討する。社会的変動の影響については、とりわけゴールドスウェイトの仮説に関わる論争についての検証を試みる。すなわち、巨大な規模と豊かな装飾をもつルネサンスのパラッツォは、本当に「施主とその核家族のためのプライヴェートな隠れ家」なのか、それともケントが考えるように、「隣人、友人、親戚」、つまりクリエンテーラの政治的・社会的中核なのか、という論議である。パラッツォの建築的特徴と同時代の史料の検討から、ケント説の妥当性を認めることができる。さらに、パラッツォの大きさや芸術的性格は、中世のコンソルテリーアの基盤となっていた血縁と共住による物理的な絆の代替となって、個人間の関係として成立した新たな社会的ネットワークを表象する、象徴的な価値となっていたと考えられるのである。
著者
大塚 孝夫
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.105-122, 2017 (Released:2017-11-20)

国際社会に於ける国家以外の行為主体(アクター)の代表的存在である、政府間国際組織の典型にして最大の国連に関する研究は、従来から国際機構論としてその目的・構成・機能等に的が絞られており、又その延長線上での「国連改革」であろう。しかしながら「国際関係」の舞台での国連の実相は目的・構成・機能を研究することだけでは探求できない。何故なら国連創設をめぐる諸般の世界情勢に端を発し、以来関係各国の思惑や国際政治力学・経済権益、全人類的課題への取り組み姿勢の相違等々、国際社会の様々な現象が国連諸機関の存在そのものの根源に深い影響を与えているからに他ならない。本稿では従って単なる表面上の事象だけではなく、まず国連創設時の時代背景を観察・分析した上で、国連の本質的側面を分野ごとに責任を持つ国連専門機関、なかでも国連工業開発機関(United Nations Industrial Development Organization – UNIDO「注1」)に焦点を当て、設立に到る経緯、特にその外的要因の分析を経て、担当責任分野であるところの国際経済協力・国際開発援助の主だった視点から国際関係, なかんずく多国間関係の本質を考察する。
著者
中里 弘 田中 友也
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.159-169, 2019 (Released:2019-04-08)

プレイセラピーの中でClは死と再生を繰り返し表現することがあり、死と再生のモチーフは心理療法において重要であるとの指摘がある。本論文ではプレイセラピーにおいてClがどのような過程を経て自身を成長させたかを検討し、自身の問題を乗り越える上で死と再生を繰り返すことの意味について考察することを目的とした。遊びの性質・遊びの流れにおいて重要な点が特に似ているプレイセラピー事例13件を基に架空事例を作成し、①ClとThの関係形成期、②Clが自身の攻撃性・破壊性・グロテスクなものをThに投影し、Thを痛めつけて殺害しては復活させた時期、③ClがThを意のままにコントロールした時期、④ClがThをケアする役割になった時期の4期を提示した。ThがClの死と再生の過程を助ける発想を持ちつつ、プレイセラピー原則の中でClが思いのままに表現できるよう対応することが重要であると考えられた。Thがプレイセラピーの中で死んだままにならず、再生して立ち上がることも肝要である。生物学からの考察では、アポトーシスのような死と再生の働きが心の働きにおいても想定されることを示した。
著者
古賀 万由里
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.83-96, 2022-03-15 (Released:2022-04-28)

マレーシアのエスニシティについて語る際、「マレー人」、「華人」、「インド人」という分類がよくなされる。これは政府が政策上分けたものであり、フォーマル・エスニシティといえる。インド人コミュニティは、出身地別、宗教別、カースト別に細分化されており、多数のサブ・エスニック集団が存在する。代表的な事例として、タミル人、テルグ人、マラヤーリ人、スリランカ・タミル人、ヒンドゥー教徒、ムスリム、シーク教徒、チェッティアールとサービス・カーストをとりあげた。結論として、マレーシア全体のエスニシティは、1)マレーシア人であるというナショナル・エスニシティ、2)インド人であるというフォーマル・エスニシティ、3)タミル人やテルグ人といった文化エスニシティから構成されるといえる。誰しもが二重、三重のエスニシティを持っている中で、時と場に応じてエスニシティが揺れ動いている。またエスニシティの複雑性は、各々の文化維持を可能にしているのと同時に、インド人として団結できない要因となっている。
著者
土屋 陽介
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.41-54, 2018 (Released:2018-03-01)

本稿では、今般の道徳教育の拡充において主要な授業方法の改善案として掲げられている「考え、議論する道徳」を取り上げ、「考え、議論する」ことは道徳教育にとってなぜ必要なのかを明らかにする。本稿の議論によれば、「考え、議論する」ことは、「道徳性」を構成する三要素の一つである「道徳的な判断力」の教育に特に寄与する。本稿では、このことを、古代ギリシアの哲学者アリストテレスが提起したフロネーシスの概念と、それをめぐる徳倫理学上の議論を参照することによって明らかにする。 本稿では、まず、道徳的な判断とはどのように下されるものであるかを検討することで、適切な道徳的判断を下すためにはフロネーシスと呼ばれる知性の働きが不可欠であることを明らかにする。次に、フロネーシスとは正確にはどのような種類の知性の働きであるかを明らかにする。その上で、私たち人間はフロネーシスをどのように獲得するのかについて、アリストテレスはどのように考えていたのかを明らかにする。最後に、子どもの哲学の創始者であるMatthew Lipmanの議論を参照して、哲学対話を通した「考え、議論する」教育が、フロネーシスの教育(すなわち、「道徳的な判断力」の育成)にとって理想的な方法であることを明らかにする。
著者
西山 渓
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.65-76, 2022-02-15 (Released:2022-04-28)

現代選挙制度と代表制民主主義その正統性は、いわゆる「民主主義の危機」と呼ばれる一連の議論から大きな疑問を投げかけられている。本論文では、こうした現代選挙制度と代表制民主主義の改善策あるいはオルタナティブとして近年注目を集める、籤引きを用いた民主主義の構想であるロトクラシー(Lottocracy)に着目し、その展望と課題をそれぞれ考察するものである。ロトクラシーはこれまで「選挙制度と比べてどの点で優れているか(あるいはいないか)」という点に焦点が当てられ議論されることが多かったが、本論文ではロトクラシーの 3 つのシナリオ(二院制、法案拒否権に限定した市民院、選挙なきロトクラシー)同士を比較・検討することでロトクラシーの可能性と限界を論じていく。これらの 3 つのシナリオの比較を通し、ロトクラシーの理論上の魅力を出来る限り保ちつつも、実現可能性のあるロトクラシーのあり方を考察する。
著者
符 儒徳
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.59-70, 2021 (Released:2021-03-15)

本稿では,情報セキュリティの構成要素に焦点をあてて,情報セキュリティの特性などを踏まえつつ,要素間の相互関係を見える化できるような構造モデルの構築を試みる。そのために,情報・セキュリティ・文化という視点から情報セキュリティ対策を見直し,情報システムの RASIS を参考に中核的な要素を抽出した。その結果,三方陣とプラトン立体との関係によりバランスのとれた構造モデルと要素間の相互作用サイクルが得られた。その考察においてはモデルの合理性はあるということが示唆された。
著者
川嶋 正志
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.15-24, 2022 (Released:2022-04-28)

社会の中で「コミュニケーション能力」という言葉が多様化し、強い力を持つようになった。社会学の視点から「コミュニケーション能力」について考えると、コミュニケーションの高度化と個人化という状況が見えてくる。同様の問題は国語科教育でも起きており、過剰な「メタ認知」への注目によって求められる知識や技能が高度化していく事態を招いている。従来の国語科教育の理論的基盤はハーバーマスの理論であったが、これまでもその理論の不十分さが指摘されてきた。そこで、本論ではハーバーマスと論争を繰り広げていたN.ルーマンに注目する。高度化していく「コミュニケーション能力」とは別の視座を得るため、ルーマンのコミュニケーション理論に注目し、「コミュニケーション・システム」という新たな捉え方を提案する。 ルーマンのコミュニケーション理論の特徴として注目した点は①「移転」というメタファーからの脱却、②「三重の選択」、③「二重の偶発性」の3点である。まだ課題は山積しているが、わかりあえないことを前提とした新たなコミュニケーション観には可能性があるように考えられる。
著者
寺本 妙子
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.25-37, 2022 (Released:2022-04-28)

本研究では,キャリア教育における主体と自己に関する概念整理をおこない,教育実践上の課題について検討した。OECD 2030プロジェクトにおけるエージェンシーの概念にはラーニング・コンパスが目指すウェルビーイングに向かう方向性が見出され,学習指導要領における主体には一元的な自己観が反映されていた。教育哲学,心理学,社会学における主体や自己の概念には,関係性や公共性との関連付けや,多元的かつ構成的な性質が確認された。これらの概念を整理した枠組みを提案し,キャリア教育の実践上の課題について検討した。
著者
ゴルシコフ ビクトル
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要
巻号頁・発行日
vol.18, pp.67-85, 2019

欧米による経済制裁やウクライナ危機などの負の外的影響を受け、ロシアの銀行は資金調達のために、アジアなどの新しい資本市場へのアクセスを図っている。本論文では、ロシア政府がスローガンとして掲げているアジアへのシフトが、銀行部門においてどの程度まで見られるか検討した。本論文はロシアにおける中国・日本・韓国を含むアジアからの外国銀行の行動様式(business activities)を研究対象とし、とりわけ、その活動内容を分析している。著者は、アジアの銀行の世界ランキングが高いにも関わらず、ロシアにおけるその活動が非常に限定的であると指摘した。ロシア銀行部門対内外直接投資におけるアジアの銀行の割合が少なく、短期資本が大きな割合を占めている。アジアの銀行の多くはロシアが世界市場の原油価格の高騰によりもたらされた高度経済成長を経験した2000年代に参入している。中国の銀行は先発者として参入しているが、日本からの銀行は国内子銀行支店数において首位を占めている。概して、アジアの銀行の現地法人の財務諸表を用いて貸出残高及び預金残高の分析を行い、その主な活動はホーム国の顧客へのサポート、ロシア大手企業及び外資系企業への融資、ロシアの銀行への貸出業務であり、一部の銀行はロシア中小企業向けの融資とロシア政府の国債を購入していることが明らかとなった。リテール業務は主に自動車ローンで構成され、自動車ビジネス関連の日本の銀行がこのニッチ市場を積極的に展開している。加えて、本論文では、アジアの銀行の貸出残高構成が少数顧客へ集中していること、融資は特定産業へ傾斜していること、短期的な融資が圧倒的であることを指摘した。したがって、アジアの銀行はロシアが極めて重要としている製造業への海外直接投資の資金調達を積極的に行なっているとは言い難い。対ロシア制裁の中で、ロシアはアジアへのシフト、とりわけ、中国との政治経済の協力強化を余儀無くされているが、短期的にこのような政策が新たな機会を生み出すかどうかは不明である。
著者
安田 比呂志
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
日本橋学館大学紀要 (ISSN:13480154)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.27-41, 2009

ジョージ・コールマンの『ポリー・ハニコム』は、18 世紀のイギリスに見られた感傷小説愛好の風潮を、巧妙かつ滑稽に風刺した笑劇として一般に評価されている。しかし、この笑劇には、単なる感傷小説批判にはとどまらない、破壊的とも呼べる特徴が見られる。ヒロインのポリーは、幕が下りる最後の瞬間になっても、感傷小説が若者に鼓舞するロマンティックな恋愛を決して放棄しようとしない。そればかりか、エピローグで再び姿を現すと、改めて感傷小説を賞賛し、この笑劇を通して自分の「精神」を知った女性は、裁縫や料理といった伝統的な女性の仕事を放棄し、「従順を求める時代遅れな教訓」を捨て去り、ついには男性の代わりに武器を取り、戦争でも戦うべきだと、観客に向かって主張するのである。本論は、フェミニズムの発想をさえ思わせるポリーの主張に対する当時の観客の受容の様相を明らかにすることを目的とする。この目的のために、本論では、最初に、この笑劇に描き出されている「ロマンティックな恋愛」と、これまでの批評では注意が向けられることのなかった「夫婦愛」のふたつの愛情の形を、コールマンが『鑑定家』の中でどのようなものとして描き出しているのかを検証し、次に、これらふたつの愛情の形を、ロレンス・ストーンが語る「情愛的個人主義の発達」が見られた18 世紀のイギリス社会の文脈の中に位置づけることによって、劇中に描き出されるこれらふたつの愛情が、18 世紀の観客にとってどのような意味を含蓄し得ていたのかを明らかにする。この考察によって、これらふたつの愛情が、『ポリー・ハニコム』の中で嘲笑の対象として描き出されながらも、同時に、未来における実現の可能性を秘めていたことが浮き彫りになり、最終的に、この笑劇が、単なる感傷小説批判にとどまらない、よりダイナミックな反応を観客の中に喚起していたことが明らかになるはずである。
著者
丸山 啓輔
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
日本橋学館大学紀要 (ISSN:13480154)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.27-36, 2004

筆者は,日本経営学会誌第9号にて統合経済合理性という概念を発表した。統合経済合理性は,環境性,人間性,社会性,経済合理性(以上を4つのサブ原理とする)を統合したかたちでの概念としてとらえたものである。しかし,先の論文では,次の諸点を今後の課題として残した。(1)4つのサブ原理の堀り下げ(2)統合経済合理性の展開 本論文は,上記課題のうち(1)の合理性の堀り下げ,その一考察を試みたものである。本論文の概要は,次のようなものである。1.辞典から見た合理性・・・合理性をどうとらえているか,合理性とはどのような意味合いを持っているのか,について辞典を中心にとらえてみた。2.経営上の合理性の内容・・・ここでは活動的側面からとらえた経営の仕組みおよび経営上における合理性の内容の明確化を試みた。3.統合経済合理性とH.A.サイモンの合理性および前提との関係・・・統合経済合理性は,意思決定をする場合に配慮すべきものととらえているが,H.A.サイモンの客観的合理性,限定合理性,実体的合理性,手続合理性,さらに価値前提および事実前提を吟味し統合経済合理性との関係を明らかにした。
著者
八尾坂 修
出版者
学校法人 開智学園 開智国際大学
雑誌
開智国際大学紀要 (ISSN:24334618)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.17-34, 2021 (Released:2021-03-15)

教育長の離職の構造要因として、「学区の特徴」、「教育委員会の特徴」、「教育長の特性」、「教育長の職務遂行能力」の 4 つのカテゴリーがある。これらのカテゴリーに存在する要因(例えばストレス、コンフリクト、プレステージ、給与、有能さ、子どものテスト成績など)が複合的に教育長自身の離職の決断、あるいは教育委員会による雇用満了の決定という、離職をもたらしている。 教育長のキャリア定着とともにリーダーシップ能力向上、社会的役割の促進、学区の改善効果をねらいとして、現職教育長、特に新任教育長の職能開発の機会が図られてきた。通常は教育長免許状の更新・上進制と連結して大学での単位取得や州・学区主催の研修会が運営されている。 ケンタッキー州が画期的な試みと評されるのは、インダクションプログラムの体系的な構造化である。しかも州独自のリーダーシップに焦点化した 7 つの有効性基準に基づき、新任教育長が自己評価を行い、自身のパフォーマンスのエビデンスを提供する点に特徴がある。