著者
西尾 祥子
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.86-92, 2009-09-15
被引用文献数
1

本論文は,巨大なイベントへの新しい関与形態として近年登場したパブリック・ビューイングについて,ドイツを中心に行われている先行研究の検討と,日本における映像メディア史のマクロ的な観点からの考察を通して,その構成要素を解明することを目的としている。パブリック・ビューイングはこれからますます注目される視聴形態の一つである。映像メディアを「イベント再イベント化」する装置として捉えた上で,筆者は,パブリック・ビューイングを,コンテンツの予測不可能性の高さ,場所の脱個人性の高さ,オーディエンスの匿名性の高さという三要素から成り立つと考える。
著者
山本 圭
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.37-44, 2008-08-01

本稿が目指すのは,今日「ヴァーチャル・コミュニティ」と名指されるオンライン上での人々の集まりを政治理論的観点から分析することである。そもそも人々の共生のあり方である「コミュニティ」はこれまで,政治学や社会科学の領野で議論されできたものであるが,そこで論じられてきたコミュニティは果たして,今日の「ヴァーチャル・コミュニティ」とどのような関連性を持つのであろうか。ヴァーチャル・コミュニティをそのような連関のなかで分析するとき,われわれはそれをめぐる言説の変化に気付かざるを得ない。すなわち,ヴァーチャル・コミュニティの登場ははじめ,理想のコミュニティを実現するものとして歓迎されたが,次第にそれが抱える限界が明らかになるにつれて,その期待は萎みつつあるということである。このようにヴァーチャル・コミュニティが変容するなかで,コミュニティとしてのどのような特質が失われたのかを政治哲学,特にハンナ・アーレントの権力概念に依拠しながら明らかにしたい。ヴァーチャル・コミュニティへの政治哲学からの眼差しは,これまで十分には検討されてこなかった問題を浮き彫りに出来ると考える。
著者
楊 韜
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.44-51, 2009-12-03

本稿では,中国におけるブログ文化の全体的状況及び,ブログと既存メディアとの関係を,統計データと事例分析の両方を通じて考察した。2007年末に,中国のブログ利用者数は,4698.2万人にのぼった。ブログの内容について,個人の感情や日常生活を記録するものが多いなか,社会現象などへの主張を表すものも少なくない。事例として,「紫禁城スターバックス事件」を取り上げ,新興メディアとしてのブログと既存メディアの関係を検討しうえ,中国におけるブログの特徴を考察した。〓成剛のブログ文章は,中国伝統文化の保護と外国商業資本との関係をめぐって議論を惹き起こした。外国メディアは,〓成剛の主張と中国政府の姿勢が一致していると強調しているけれども,『人民日報』の掲載文から異なる一面が見えたように,同じ社会現象に対するブログ(個人)と既存メディア(国家)の間でズレが生じた。このようなズレが生じた原因は個人による発信というブログの本質的な機能と中国の特殊なメディア環境の両方にある。また,公人/私人の境界の曖昧さが顕著となっている点は中国のブログの-特徴である。最後に,中国のブログにおける「エリートブログ」の主導傾向と「草の根ブログ」の弱体化という問題点に注目した。
著者
稲垣 耕作
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.25-32, 1996-11-01
被引用文献数
7

著者が提案した参加型メディアという概念を精密化して, コミュニティウェア(communityware)という概念を提案する。この概念を用いることにより, 情報通信ネットワークにかかわるさまざまな問題に対して, 新たな論拠を示すことができる。ここでは, 反社会的なメディア, 情報の安全性, プライバシー, マスメディアの役割などに関する議論を行う。
著者
稲垣 耕作 嶋 正利 上田 〓亮
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.6-13, 2002-10-20
被引用文献数
3

漢字認識技術は,4半世紀にわたって,正解率99.9%の壁を破れずに停滞してきた。本論文はその困難な壁を破り始めたことを告げる最初の論文である。本論文では,パターン認識技術を複雑系進化という観点から見直すという立場からの考え方を述べる。半導体集積回路の集積度はMooreの法則のいう18ヵ月に2倍の向上を続けてきたが,現在はさらなる機能上のイノベーションを必要とする段階にさしかかっていると思われる。高度なパターン認識と人工知能技術によって,言語情報処理など実世界における情報文化に一層近い機能をコンピュータに付与することが1つの道であろう。我々の実験システムは印刷漢字を対象として,現在,基礎実験段階では単一フォントで99.999%以上の認識率を達成している。
著者
西尾,祥子
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, 2010-09-07

本論文は,スポーツ競技場の"メディア化"の中で,情報媒体としての大型映像装置を機にスポーツ視聴形態が変遷していく過程を情報文化学的な視点で考察することを目的としている。スポーツ選手によって競技が行われ,大勢の観客が生のスポーツを観るための場として想定された競技場に導入された大型映像装置は,競技場内のオーディエンスの視聴文化に変化を起こし,生のスポーツ抜きにオーディエス同士を媒介するインターフェイスとなった。この本論で扱うのは,競技場を舞台に行われるプロスポーツである。大型映像装置の集団映像視聴は競技場の外へと広がり,仮想競技場を街中に出現させるに至る,大きな可能性を持つと筆者は考える。
著者
設樂,剛
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, 2011-07-31

本研究は,ブランディングにおける物語の効果を実証的に検討するものである。ここではロレックスに焦点をあて,物語が,生活者の好感度および購買意欲の変化に与える影響について,実験的方法を用いて明らかにした。物語論の観点から,物語の構成要素として,語り手,世界観,登場人物が設定された(本論では,語り手に,ロレックス社社長,大学教授,フリー・ライターを,世界観に,社会的責任,オープンな革新性を強調する世界観を,また同社を支持する登場人物として,著名人集団,不特定多数のクラウドを配した)。これら各要因と水準を組み合わせ,計12条件の物語を作成した。本研究では,語り手,世界観,登場人物を説明変数とし,生活者の好感度と購買意欲を目的変数として,3元配置分散分析を行った。その結果,好感度に対する効果として,語り手および登場人物で主効果が,語り手と登場人物で交互作用効果が有意であった。また購買意欲に対する効果として,世界観で主効果が有意であった。物語ごとの効果の相違が明らかになり,相対的に小さな効果にとどまる物語が特定される一方,同社が現在採用している物語以外に,より効果の高い物語が存在することを示した。
著者
茜 拓也
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 = Journal of the Japan Information-culture Society (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.48-54, 2006-08-31
参考文献数
27

1990年代半ば以降,インターネットという新しい技術に象徴される情報通信技術の進展によって,ジャーナリズム活動がマス・メディアだけの問題ではなくなった。これまではマス・メディアが発信する情報の受け手に甘んじてきた人々が自分の求める情報を検索したり,対話的に情報を処理したり,自ら情報発信や意思決定の主体になったりするなど,能動的な情報行動が可能となった。また,マス・メディア側も,失った市民の信頼を回復しようと,米国のパブリック・ジャーナリズムに見られるように,このような能動的な情報行動を行う人々との往復運動の中で,オーディエンスとの双方向性,オーディエンス同士の多方向性を重視したジャーナリズム活動を実践し始めた。そこで,本論文では,日本においてインターネットのウェブログを活用しながらパブリック・ジャーナリズムを実践している既存のマス・メディア,特に地方新聞社による新たな取り組みの一つとして,神奈川新聞社のウェブログ「カナロコ」と中国新聞社の「ふれあい」を取り上げる。そして,「世論」という概念から検討し,日本におけるパブリック・ジャーナリズムの一モデルを提示し,その可能性について論じたい。
著者
稲垣,耕作
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, 2005-10-31

意思決定の基礎理論は,一方で民主主義社会の根本原理にかかわるものとして,社会科学理論の大テーマとなってきた。また他方では,アルゴリズム的な知能の機械化の根幹をなす問題として,近年の必要が増していると思われる。本論文ではこの問題をArrowの一般不可能性定理を参照しつつ,機械知能のゲーム理論的研究の一環として分析する。囚人のジレンマ,ムカデのゲーム,投票のパラドックスなど,知的で合理的な判断が望ましくない解を与える実例が含まれる。限定合理性が完全合理性を生まないだけでなく,根本的に完全合理性が成り立たない。類似のパラドックスはパターン認識や人工知能分野において頻繁に出現する。今後の人工知能型情報処理機器や知能ロボットなどの開発に関連して,情報文化学的にこの種の問題意識を明確にもつ必要があることを指摘し,知能の不完全性のテーゼを提唱する。
著者
水野 加寿 柴岡 信一郎 鳥谷尾 秀行 小林 裕光 渋井 二三男
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 = Journal of the Japan Information-culture Society (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.53-59, 2011-12-13
参考文献数
13

高齢者、障害者、生活習慣病者等の社会的弱者を対象とする"WAPT:プールリハビリ講座開設"を基軸とする市民参加型社会福祉健康文化プログラムを実施していくなかで、市民の健康増進を計り運動の日常化を推進し、健康意識の向上による健康への自己管理意欲をたかめることを目的に、講座開設をモデル化し、プログラム内容の充実と定着をはかり、講座開設の継続と広がりを促進する。また、上述する要旨の具体化として"水中リハビリ運動教室"を開催し、参加者に対し運動機能テストおよび体組成測定をおこない水冶運動療法訓練による生理的応答の変化を臨床的に考査した。こうした市民参加型社会福祉健康プログラムの取り組みがモデル化され具現化されることによって地域社会の活性化が促進されるものと考える。
著者
岡部,大介
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, 2008-08-01

本稿では,人々が日常的に持ち歩くポータブルデバイス(「モバイルキット」)がいかに都市空間において利用されているかを検討する。22人の調査協力者を対象に,携帯電話,音楽プレーヤー,クレジットカード,ラップトップ,PDA,IDカードといったようなモバイルキットの日常的利用について,インタビューと同行調査,そしてモブログによりデータ収集した。その上で,人々の都市空間における行動が,いかにモバイルキットを介してなされているかを分析したい。例えば人々は,音楽プレーヤーや携帯電話を用いて電車内などの空間を私的空間として再構築しようとするし,ポイントカードやメンバーシップカードで消費行動の「足跡」を蓄積する。このようにモバイルキットは,都市空間の持つ特徴を再構築し,私的な空間を形成する。従来の携帯電話の利用に関する研究では,主に対人コミュニケーションに関して焦点があてられてきた。本稿ではその視点を拡張し,場所やインフラと人との関係を媒介する存在としてのポータブルデバイスの存在に注力した。
著者
佐野 昌己
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 = Journal of the Japan Information-culture Society (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.88-93, 2006-08-31
参考文献数
17

本稿は,日本製アニメ(以下,日本アニメ)の制作に3次元コンピュータグラフィックス(以下3DCG)技術を持つ人材の育成が重要であることに注目し,次世代の3DCG技術者を生み出す方策を見出すことを目的としている。日本アニメは,国内はもちろん海外から高い評価を得ているだけでなく,有力なビジネスとして政府や経済界からも注目されている。しかし,アニメ産業は深刻な人材難と後継者問題を抱えており,各方面からの期待に応えるどころか自身の改革に迫られているのである。そして,このアニメ産業の諸問題を技術面から変革するのが3DCGであり,今後益々人材が必要となるのである。そこで,本稿において日本アニメの現状を考察し人材不足の要因を示す。そして,3DCGが人材不足という難題を解決するために重要な役割を果たすことができることを明らかにする。さらに,今日の3DCGの普及に大きな影響を与えた日本の商業CG先駆者達が,CG制作に惹きつられた動機を,直接インタビューすることから調査することで,次世代3DCG制作者育成について考察する。
著者
石川,幹人
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, 2000-11-18

本論文は, メディアがもたらす環境変容に関する意識調査の一例を報告し, それを通して, メディア環境の設計における意識調査の役割の重要性を指摘する。本研究では, 電車内の携帯電話使用は控えるべきというマナーに注目し, 大学生の意識を調査した。いくつかの社会学の文献では共同体仮説(マナーは携帯電話が電車内の一時的な共同性を破壊することに由来する)が提唱されているが, 本調査では音仮説(マナーは単に音がうるさいことに由来する)のほうが有力であるといった結果が得られた。しかし, 共同体仮説を支持する少数意見も得られた。また, 心理的な不安傾向との相関も調査したが, 顕著な相関傾向は得られなかった。情報メディアの発展に伴って我々の生活様式に急速な変化が及んでいるので, こうした意識調査を機動的に行って, その結果がメディア環境の良好な設計に反映されることが望まれる。
著者
山本,圭
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, 2008-08-01

本稿が目指すのは,今日「ヴァーチャル・コミュニティ」と名指されるオンライン上での人々の集まりを政治理論的観点から分析することである。そもそも人々の共生のあり方である「コミュニティ」はこれまで,政治学や社会科学の領野で議論されできたものであるが,そこで論じられてきたコミュニティは果たして,今日の「ヴァーチャル・コミュニティ」とどのような関連性を持つのであろうか。ヴァーチャル・コミュニティをそのような連関のなかで分析するとき,われわれはそれをめぐる言説の変化に気付かざるを得ない。すなわち,ヴァーチャル・コミュニティの登場ははじめ,理想のコミュニティを実現するものとして歓迎されたが,次第にそれが抱える限界が明らかになるにつれて,その期待は萎みつつあるということである。このようにヴァーチャル・コミュニティが変容するなかで,コミュニティとしてのどのような特質が失われたのかを政治哲学,特にハンナ・アーレントの権力概念に依拠しながら明らかにしたい。ヴァーチャル・コミュニティへの政治哲学からの眼差しは,これまで十分には検討されてこなかった問題を浮き彫りに出来ると考える。
著者
大江,宏子
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, 2007-09-15

伝統的情報通信手段である手紙の価値や機能に関する利用者の意識データをもとに,極力,定量的に,その機能と今日的意義を考察することを試みる。手紙をめぐる数少ない先行研究が着目する論点および,今日隆盛を誇る情報通信技術に基づく新媒体であるメールとを比較考察しつつ,計量解析手法を援用し,手紙を書く行動を規定する要因を分析した結果,広く一般的に言われているように,「若い者は書かない」や「手紙はメールという新メディアと競合関係にある」,あるいは,「昨今の手紙離れは,メールの普及により加速された」といった仮説は否定された。
著者
田島 悠史 大西 未希 小川 克彦
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.27-34, 2013

本研究は、情報コミュケーションに注目することで、小規模アートプロジェクトの持続要因を明らかにするものである。近年日本各地で急増している、地域活性化を目的とした小規模アートプロジェクトは、特殊な魅力を持つ一方で、持続性に問題がある。そこで、アートプロジェクトの関係者の役割と変遷に注目して、関係者間の情報コミュニケーションを分析し、その持続要因を探った。結果としてA期とB期のコミュニケーションにおいて「場所」「意識」「人」における有意差を見出すことができた。そこから「中心スタッフによるプロジェクトの共有」「関係者のゲートキーパー化」「周辺スタッフによるプロジェクトの様式化」という知見を見出した。これらの知見は、コミュニケーションが、一部の人間に占有されている状態から、関係者全体に共有される状態へと変化していることの現れであると考えられる。そこで本研究では「個別役割型から自発共有型へのコミュニケーション構造の変化がアートプロジェクトの持続性に関係している」と結論づけた。
著者
小川 晴也
出版者
情報文化学会
雑誌
情報文化学会誌 (ISSN:13406531)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.47-54, 2006-11
被引用文献数
2

本稿の目的は,筆者が前考において提示したリスク・コミュニケーション改善のための「3つの限界」モデルを援用し,BSE対策見直しの事例を基に,リスク・コミュニケーションの構造をモデル化して提示することである。見直し後のBSE対策(米国・カナダ産牛肉の輸入プログラム)は日米両政府間におけるリスク・コミュニケーションの結果と考えられる。そこで本稿においては,米国・カナダ産牛肉に対する輸入禁止~解禁~再禁輸までの経緯を概説し,そこでの議論を本モデルにより分析可能であることを示す。また,本モデルを用いることによりリスクに関する議論を整理できることが可能となることを示す一方,議論が混乱する原因を考察し,リスク・コミュニケーション改善の可能性を考察する。