- 著者
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岡部 信彦
- 出版者
- 日本ウイルス学会
- 雑誌
- ウイルス (ISSN:00426857)
- 巻号頁・発行日
- vol.57, no.2, pp.171-179, 2007 (Released:2008-06-05)
- 被引用文献数
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8
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2007年前半我が国では麻疹の流行があり,大学や高校の休校や,海外への持ち出しなど,社会的にも大きな話題になった. 麻疹ワクチンの導入以来,「皆が罹る重い病気,はしか」は順調にその発生数が減少してきたが,近年では2001年20-30万人の患者発生を見た.この時の流行は圧倒的に幼児に多く,ワクチン接種率50-60%と低い1歳児を対象に「1歳のお誕生日には麻疹ワクチンのプレゼントを」というキャンペーンが全国的に展開された.ほどなく1歳児の麻疹ワクチン接種率は80-90%となり2006年までに麻疹の発生数は1万人を切るとこところにまでなったが,2007年,20歳前後の若者を中心に麻疹の流行が発生した.小児の麻疹は2001年をはるかに下回るものであったが,15歳以上で届けられる成人麻疹の報告数は2001年の流行を上回ったものである. 今回の麻疹流行をきっかけに,国内での麻疹対策はすすみ,2006年6月から導入された麻疹(および風疹)ワクチンの2回接種法(1歳児,小学校入学前1年間)に加えて,中学1年,高校3年年齢も対象とした補足的接種を5年間行なう方針となった.また麻疹はこれまでは小児科定点および基幹病院からの成人麻疹の報告であったが,トレンドの把握ではなく,きちんとした発生の把握とそれに基づいた対策実施のために,全数報告のサーベイランスに変更する方針となり,我が国において麻疹の排除(elimination)を大きい目標とすることが決定された. 本稿では,我が国における,最近の麻疹の疫学状況,WHOの示す麻疹排除(elimination),そして我が国が今後取るべき方向などについてまとめたものである.