著者
藤原 俊義 田中 紀章
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.11-18, 2008-06-30 (Released:2008-12-28)
参考文献数
19
被引用文献数
3 5

ウイルスは本来ヒトの細胞に感染,増殖し,その細胞を様々な機序により破壊する.遺伝子工学技術によりこの増殖機能に選択性を付加することにより,ウイルスを癌細胞のみを傷害する治療用医薬品として用いることが可能となる.Telomelysin(OBP-301)は,かぜ症状の原因となるアデノウイルスを基本骨格とし,ウイルス増殖に必須のE1遺伝子をテロメラーゼ・プロモーターで制御するよう改変された国産のウイルス製剤である.In vitroでは肺癌,大腸癌,胃癌,食道癌,頭頸部癌,乳癌,肝癌,膵癌,前立腺癌,子宮頸癌,卵巣癌などに対して広範な抗腫瘍活性がみられ,in vivoでは腫瘍内投与による有意な増殖抑制が認められるとともに,ウイルスは血中を循環し,遠隔部位の腫瘍内でも増殖することが確認された.固形癌に対するTelomelysinの第I相臨床試験は,米国食品医薬品局(Food and Drug Administration; FDA)の治験承認のもと米国にて進行中である.TelomelysinにGFP蛍光遺伝子を搭載したTelomeScan(OBP-401)は,高感度蛍光検出装置により微小癌組織を可視化することができ,診断用医薬品として応用可能である.原発巣内に投与されたTelomeScanは所属リンパ域へ拡散し,微小リンパ節転移でGFP発現を発する.高感度プローブあるいはビデオスコープにより転移リンパ節を同定することができ,本技術は微小癌,微小転移の早期発見に有用であるとともに,優れた外科ナビゲーション・システムとなりうると期待される.本稿では,従来のがん治療とは異なる新たな戦略として開発されているこれらの新規ウイルス製剤のがん診断・治療への応用の可能性を概説する.
著者
川口 寧 田中 道子
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.255-264, 2004 (Released:2005-06-17)
参考文献数
57
被引用文献数
4 5

巨大なウイルスゲノムを有するヘルペスウイルスの遺伝子改変法は, 約四半世紀にも前に確立された. それにも関わらず, その過程は煩雑であり, 改変には熟練と時間を要した. 1997年, ドイツのKoszinowskiのグループは, 新しいヘルペスウイルスの改変法である‘BACシステム’を報告した. 彼らは, マウスサイトメガロウイルスのゲノムをBAC (bacterial artificial chromosome) にクローニングし, 大腸菌に保持させた. そして, 大腸菌の遺伝学を駆使してウイルスゲノムに変異を導入後, ウイルスゲノムを培養細胞に導入することによって変異ウイルスを再構築させることに成功した. この‘BACシステム’の登場により, ヘルペスウイルスの遺伝子改変は著しく簡便化され, 様々なヘルペスウイルスの増殖機構および病原性発現機構の解析が加速されている. また, ‘BACシステム’は, 遺伝子治療用のヘルペスウイルスベクターの開発をも簡便化し, ヘルペスウイルスの医学的利用の普及に貢献している. 本稿では, ヘルペスウイルス研究における‘BACシステム’について概説する.
著者
菅谷 憲夫
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.111-114, 2005 (Released:2005-11-22)
参考文献数
24
被引用文献数
2 2

最近の数年間で,インフルエンザは,外来やベッドサイドで迅速診断を実施し,抗ウイルス剤で治療する疾患となった.日本では,現在,ノイラミニダーゼ阻害薬のオセルタミビル(商品名タミフル),ザナミビル(商品名リレンザ),およびアマンタジン(商品名シンメトレル)が,インフルエンザ治療に使用されている.世界的に見ると,これだけ広くノイラミニダーゼ阻害薬による治療が普及している国はないが,それだけに,今後は,ノイラミニダーゼ阻害薬の副作用と耐性発現の注意深い監視が肝要である.
著者
滝口 雅文
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.145-154, 2009-12-24 (Released:2010-07-03)
参考文献数
23

HIV特異的細胞傷害性T細胞(CTL)は,HIVの増殖している細胞を殺すことで体内でのHIVの増殖を抑制するが,これらのCTLの認識を阻害する変異を持ったHIV(逃避変異HIV)が出現すると,体内ではこれらの変異体が優位になると推定されていた.最近の世界9か所のコホートでの約2800人のHIV-1感染者を解析した最近の研究で,CTLからの逃避変異HIVが蓄積してきていることを明らかにした.このことは,HLAクラスIとの結合やCTLからの認識を傷害する変異を持ったHIVが選択され,HLAクラスIに適合するようにHINは進化していることを意味している.このような免疫から逃避するHIVの進化は,ワクチンの開発に大きな課題を提示した.
著者
藤原 京子
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.9, no.6, pp.550-558, 1959-12-20 (Released:2010-03-16)
参考文献数
13

The mode of invasion of virus from a traumatized area to the brain and to the salivary gland is the most important problem in the pathogenesis of rabies. In order to obtain a clue to solve this problem, suckling mice were used as experimental animals and following results were obtained.1) Adult and suckling mice were inoculated with fixed virus of rabies by various routes, and their susceptibilities were compared. In intracerebral inoculation, the susceptibility of suckling mice was slightly, but significantly higher than that of adult mice. When inoculated subcutaneously, the difference was more evidently observed, suckling mice being about 100 times as susceptible as adult ones. However, the susceptibility of suckling mice inoculated subcutaneously was far below that of adult mice inoculated intracerebrally.2) The virus neutralizing activity of immune serum was tested by two ways, i.e. intracerebral inoculation into adult mice and subcutaneous inoculation into suckling mice. The results showed that the sensitivity of neutralization test could not be enhanced by suckling mice technique.3) The distribution of virus in organs of infected mice was examined. A small amount of virus was always found in the salivary gland of suckling mice, although the same organ of adult mice showed no virus activity.4) Serial passages of brain and salivary gland viruses in suckling mice were carried out by intracerebral or subcutaneous route of inoculation. The four strains thus obtained were examined for their pathogenecity for mice, such as the ability to infect after peripheral inoculation or to appear in salivary gland tissue. But these four strains were not different in any respects from original one.From these results, some points concerning the process of invasion of rabies virus into central nervous system of infected animals were discussed.
著者
堀江 真行
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.47-54, 2022 (Released:2023-10-27)
参考文献数
19

私たち生物のゲノムには内在性ウイルス様配列(endogenous viral element: EVE)とよばれるウイルス由来の遺伝子配列が存在する.EVEの多くは数百万年以上前に宿主生物のゲノムへと組み込まれたことが知られており,太古のウイルスの「化石」として,存在年代・宿主生物・配列(系統)を知る貴重な手がかりとなる.私たちは近年,RNAウイルスであるボルナウイルス由来のEVEの大規模検索と網羅的な「古ウイルス学」的解析によって,約一億年にわたるボルナウイルス感染の歴史の一端を明らかにした.本稿では上記の研究を概説するとともに,得られた知見の中でも特に「古ウイルス学とウイルス学の接点」を詳説する.
著者
松野 啓太 西條 政幸
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.19-30, 2022 (Released:2023-10-27)
参考文献数
78

クリミア・コンゴ出血熱(Crimean-Congo hemorrhagic fever,CCHF)はクリミア・コンゴ出血熱ウイルス(CCHF virus,CCHFV)の感染によって引き起こされる致命率の高い急性熱性疾患であり,エボラウイルス病などとともにウイルス性出血熱に分類される疾患である.CCHF患者はアフリカ,ヨーロッパ,アジアで散発的に発生しており,その発生地域は主なCCHFVの媒介節足動物であるHyalomma属のマダニの分布域と一致する.日本国内での患者発生はない.CCHFVは自然界においては動物とマダニの間で生活環を形成して存在している.家畜を含む幅広い種類の動物種がCCHFV感染に感受性であり,ヒトはCCHFVを保有するマダニの刺咬,あるいはウイルス血症を伴う動物(主にヒツジなどの家畜)との直接的接触で感染する.CCHFは人獣共通感染症である.臨床症状は初期では症状が非特異的熱性疾患であり,重症例では出血,意識障害などの症状が出現する.ダニ媒介脳炎,重症熱性血小板減少症候群,さらには最近北海道で新規ブニヤウイルス感染症として発見されたエゾウイルス感染症など,日本でもダニ媒介性ウイルス感染症が相次いで発生している.世界的に最も重要なダニ媒介性ウイルス感染症であるCCHFについても,その動向を今後も注視していく必要がある.
著者
李 明恩 駒 貴明 岩崎 正治 浦田 秀造
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.7-18, 2022 (Released:2023-10-27)
参考文献数
96

南米出血熱とは南米大陸におけるアレナウイルス科マーマアレナウイルス属のウイルスによる出血熱の総称である.南米出血熱には1. フニンウイルス感染によるアルゼンチン出血熱,2. サビアウイルス感染によるブラジル出血熱,3. ガナリトウイルス感染によるベネズエラ出血熱,4. マチュポウイルス感染によるボリビア出血熱,そして5. チャパレウイルス感染による出血熱の計5つが含まれる.これらのウイルスは系統学的,血清学的,そして地理的にラッサウイルス等が含まれる旧世界アレナウイルスと異なる新世界アレナウイルスに分類される.本稿では,南米出血熱の原因となる新世界アレナウイルスについてその基礎と感染予防・治療法研究の現状を概説する.
著者
高島 謙 押海 裕之
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.33-40, 2021 (Released:2022-05-03)
参考文献数
85
著者
立石 晶子 山本 一彦
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.251-255, 2002-06-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
27

本来, 自己の抗原に対して応答しない (免疫学的寛容) という原則に基づき, 免疫系は成り立っている. この免疫学的寛容に破綻をきたし, 自己の抗原に反応し, さまざまな組織障害や代謝機能異常を引き起こすのが自己免疫疾患である. 自己免疫疾患の発症のメカニズムは明らかにされていないが, 一つの機序としてウイルスや細菌などの微生物感染による自己免疫反応の発現, さらには自己免疫疾患への進展の可能性が以前より想定されている. そのメカニズムとして微生物感染による組織障害が隔絶抗原の露出を引き起こし免疫系へ提示されるという機序や, スーパーアンチゲンによる自己反応性T細胞の活性化, また感染に伴う炎症性サイトカインによる自己反応性T細胞の活性化 (By-stander activation) などがあり, molecular mimicry (分子相同性) もその一つである. (表1)molecular mimicry とは, 本来無関係である感染微生物抗原と宿主抗原の間に一次構造, あるいは高次構造の類似性が存在することをいう. これにより両者の間に免疫学的に交差反応が生じ, 自己抗原に対して抗体が産生されたり, T細胞を介した免疫応答による自己組織の障害が生じ, 自己免疫反応が生じると考えられる. 一方で molecular mimicry とは関係なく微生物感染では多くの場合, 副刺激分子 (costimulatory molecular) の発現の増強やプロフェッショナル抗原提示細胞上の主要組織適合遺伝子複合体 (major histocompatibility complex: MHC) 発現の増強, また末梢からリンパ組織への樹状細胞のリクルートなどにより, T細胞活性は増強される. さらに実験的に組織にサイトカインを強制発現させることで微生物の感染なく自己免疫疾患を発症させることが可能であったり, 微生物の molecular mimicry による特異的自己反応性T細胞の活性化の必要なく, 慢性感染による組織障害や自己抗原の放出で自己免疫疾患を引き起こすとも言われている. 本稿では, 自己免疫疾患における molecular mimicry の関与について最近の知見を交えて概説する.
著者
竹内 薫
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.27-31, 2002-06-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
8
被引用文献数
1 2
著者
谷川 慧三
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.68-74, 1962 (Released:2010-03-16)
参考文献数
8

The susceptibility of JTC-3 cell incubated at 40°C and/or 36°C to poliovirus Type 1 and Coxsackie Virus B-5 has been studied.Results were as follows:1) The intracellular and extracellular viral yields were produced less in cells held at 40°C than 36°C.2) The CPE was developed more slowly in cells held at 40°C than 36°C.3) Infected cells incubated at 40°C were transferred at 36°C after 2 days, on the contratry, the another infected cells incubated at 36°C were transferred at 40°C after the same hours.In the former group the CPE was developed more rapidhy than in the latter group.4) Any inactivator of virus could not be recognixed in the infected cell incubated at 40°C.5) The high temperature prior to the infection was not responsible to the alteration of viral susceptibility of cells.
著者
窪田 英夫
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.24-32, 1962 (Released:2010-03-16)
参考文献数
45

In order to study affecting factors on development of the paralysis in polio patients, feces were collected from six paralytic polio patients and four inapparent infection cases for the virus infection. Ten strains of poliovirus type 2 were isolated from these specimens, and the difference of these strains were compared with each other in the respects of plaque size of the strains, neuroviruleuce to mice when the strains were intraspinally inoculated into mice, and the quantity of poliovirus excreted in those feces, which were indicating respectively the multiplication efficiency, the neurovirulence, and the extent of virus growth in intestinal tract of those polioviruses.The results were as follows:1) The quantity of poliovirus excreted in feces: The quantitative difference did not depend upon the day of illness when the materials were taken and also clinical types of infections: paralytic forms or inapparent infections.2) The measurment of plaque size of the strains: Plaque size of the strains of poliovirus type 2 from the inapparent infections were 5.19±0.37-1.75±0.11(mm), and. that of the paralytic forms were 5.29±0.36-1.66±0.10(mm). These clinical forms did not differ in their range of variation.3) The neuroviruleuce to mice when the strains were intraspinally inoculated into mice: When these viral strains were intraspinally inoculated into mice, there was significant difference between two groups of mice; one group which received viral strains from paralytic polio showed 23.4per cent of mortolity and the other group which was inoculated with viral strains from inapparent infections displayed only 4.3per cent of mortality. The difference can be conciderd significant.From these results mentioned above neurovirulence may play the most important role to convert a poliovirus infection to clinically manifest paralytic form.
著者
菊田 英明
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.173-181, 2006 (Released:2007-04-20)
参考文献数
68
被引用文献数
6 3

ヒト・メタニューモウイルス(human metapneumovirus: hMPV)は,2001年に発見されたウイルスで,パラミクソウイルス科,ニューモウイルス亜科,メタニューモウイルス属に分類された.hMPVの遺伝子は,8個の遺伝子を持ち,N-P-M-F-M2-SH-G-Lの遺伝子配列を示す.hMPVのアミノ酸配列は,トリに感染するトリ・ニューモウイルスに最も類似している.ヒトのウイルスの中で遺伝子が一番類似しているウイルスは,臨床症状も似ているRSウイルスである.hMPVは,2つのグループ,さらにそれぞれ2つのサブグループに分れる.ウイルス表面には,F, G, SH蛋白が存在する.血清中に存在するhMPVに対する主な抗体は,F蛋白に対する抗体で,中和活性を持ち,2つのグループ間に交差反応性がある.ウイルス性の呼吸器感染症の中で小児では5~10%,成人では2~4%は,hMPVが原因と推測されている.乳幼児で喘鳴をきたす急性呼吸器感染症の原因ウイルスであることが多く,乳幼児,高齢者,免疫不全状態の患者では重症化の危険がある.本邦における流行のピークは,春である.再感染を防ぐための十分な終生免疫が一回の感染では得られず,幼小児期においても何度も再感染を受け症状を呈する.診断は,現在RT-PCRによるhMPV RNAの検出が最も感度が高い検査法である.
著者
伊藤 壽啓
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.53-58, 2009-06-25 (Released:2010-02-01)
参考文献数
7
被引用文献数
3 3

H5N1亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスが世界規模の大流行を引き起こし、今尚、各国の養鶏産業界に甚大な被害を与え続けている.またインフルエンザウイルスは鳥類に由来する最も重要な人獣共感染症の病原体の一つであり,本ウイルスの人への直接感染事例もまた増え続けている.本ウイルスは鶏やアヒルなどの家禽以外にも多くの鳥類が感受性を有することから,とくに野生鳥類が本ウイルスの伝播,流行拡大に重要な役割を果たしている可能性が示唆されている.しかしながら,自然界における本ウイルスのレゼルボアとしての野鳥の役割は未だ完全には理解されていない.そこで高病原性鳥インフルエンザウイルスの生態に果たす野鳥の役割を明らかにする目的で,渡り鳥を含む国内野鳥を対象としたウイルス保有状況調査が環境省,山階鳥類研究所および鳥取大学で実施された.これまで3株のH5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスが分離されている.その一つは2007年1月に熊本県相良村において衰弱して発見されたクマタカから分離された.他の2株は2008年4月と5月に青森県十和田湖において斃死したオオハクチョウから分離された. 渡り鳥は季節性に地球規模で移動することから,同様の問題は他の国々においても常に起こり得る.野鳥を対象とした広範囲な共同疫学調査が高病原性鳥インフルエンザの国際防疫に重要であると考えられている.
著者
忽那 賢志
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.37-44, 2020 (Released:2021-05-08)
参考文献数
25

新型コロナウイルス感染者(COVID-19)はSARS-CoV-2による呼吸器感染症である.発症から数日〜1週間ほど上気道炎症状が続き,一部の患者では肺炎症状が悪化し重症化する.基礎疾患のある患者および高齢者は重症化のリスクファクターである.鼻咽頭スワブまたは喀痰のPCR検査でSARS-CoV-2を検出することで診断する.治療は対症療法が主体となり,現時点ではレムデシビルのみ臨床症状を短縮する有効性が示されている.感染対策は標準予防策に加え,接触予防策,飛沫予防策を遵守し,エアロゾル発生手技を行う際には空気予防策を行う.
著者
宮下 脩平 高橋 英樹
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.199-208, 2015-12-25 (Released:2016-10-19)
参考文献数
31
被引用文献数
1 3

植物は獲得免疫をもたない.その代替として,多数のNB-LRR型免疫レセプターによりそれぞれの病原体を特異的に認識し,抵抗性反応を誘導する機構を持っている.NB-LRR型免疫レセプターをコードする遺伝子は,これまでに植物で報告された優性抵抗性遺伝子(R遺伝子)の大半を占める.本稿では植物ウイルスの認識に関わるNB-LRR型R遺伝子について,抵抗性メカニズム・進化・農業上の利用の観点から概説するとともに,近年明らかになったmiRNAやイントロンによるNB-LRR型R遺伝子の発現調節機構について紹介する.また,NB-LRR型R遺伝子が引き起こす興味深い現象の一つにウイルス感染開始点周辺のプログラム細胞死があるが,それが植物の生存戦略にもたらす意義については明らかでない.これについて,筆者らの実験結果や生態学的見地からの推論をもとに議論する.
著者
北村 敬
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.89-97, 1984-12-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
17
著者
近藤 一博
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.117-122, 2002-06-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
8
著者
谷 英樹
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.99-108, 2011-06-25 (Released:2012-03-20)
参考文献数
37
被引用文献数
1 1

ウイルスは特定の生物の細胞内でのみ増殖可能な偏性細胞内寄生性微生物の一つとして定義付けられている.この性質を巧みに利用し開発されたウイルスベクターは,医学生物学の基礎研究から遺伝子治療への応用まで広範な分野で利用されている.私たちの研究グループではこれまでに,バキュロウイルスと水疱性口内炎ウイルス(VSV)の特徴を生かしたベクターの開発に取り組んできた.バキュロウイルスを用いた哺乳動物細胞用ベクターの開発により,従来のバキュロウイルスベクターより効率良く細胞や個体へ遺伝子導入することが可能となった.また,VSVを用いて,C型肝炎ウイルス,日本脳炎ウイルス,バキュロウイルス等のエンベロープ蛋白質を搭載したシュードタイプウイルスおよびこれらの遺伝子をVSVのゲノムに組み込んだ組換えVSVを作製し,エンベロープ蛋白質の性状および細胞内への侵入機構を解析した.