著者
万年 和明
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.21-25, 2002-06-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
7
被引用文献数
1 2

いったん発症するとほぼ100%死亡する狂犬病はウイルス性の人獣共通感染症であり, 全ての温血動物が感受性を持っている. 人類文明の創生期からすでにその怖ろしさが記録に残っているこの疾病は, 野犬や野生動物が感染環を維持していて, 健康な人や動物が偶発的に発症前後の動物と接触することで感染がおこるが, 幸いにも日本では50年近くも発生が見られない. ここでは, 狂犬病ウイルスについて概略を説明する.
著者
源 宣之
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.213-222, 2004 (Released:2005-06-17)
参考文献数
32
被引用文献数
1 1

狂犬病は, 狂犬病ウイルスの主に咬傷からの感染によって起こる人獣共通感染症で, 人では恐水症とも呼ばれている. 発病した場合, 重篤な神経症状を伴ってほぼ100%死亡する極めて悲惨かつ危険な疾病である. 本病は紀元前23世紀頃より既に人類に知られていたが, 多くの急性感染症の発病が減少した今日においても, 世界におけるその発生状況は旧西欧各国を除いてここ数十年大きな変化はない. 日本では1957年を最後に本病の根絶に成功したが, アジア各国を含めた世界の発生状況には憂慮すべきものがあり, 我が国の防疫対策はおろそかに出来ない.
著者
窪田 英夫
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.24-32, 1962

In order to study affecting factors on development of the paralysis in polio patients, feces were collected from six paralytic polio patients and four inapparent infection cases for the virus infection. Ten strains of poliovirus type 2 were isolated from these specimens, and the difference of these strains were compared with each other in the respects of plaque size of the strains, neuroviruleuce to mice when the strains were intraspinally inoculated into mice, and the quantity of poliovirus excreted in those feces, which were indicating respectively the multiplication efficiency, the neurovirulence, and the extent of virus growth in intestinal tract of those polioviruses.<br>The results were as follows:<br>1) The quantity of poliovirus excreted in feces: The quantitative difference did not depend upon the day of illness when the materials were taken and also clinical types of infections: paralytic forms or inapparent infections.<br>2) The measurment of plaque size of the strains: Plaque size of the strains of poliovirus type 2 from the inapparent infections were 5.19&plusmn;0.37-1.75&plusmn;0.11(mm), and. that of the paralytic forms were 5.29&plusmn;0.36-1.66&plusmn;0.10(mm). These clinical forms did not differ in their range of variation.<br>3) The neuroviruleuce to mice when the strains were intraspinally inoculated into mice: When these viral strains were intraspinally inoculated into mice, there was significant difference between two groups of mice; one group which received viral strains from paralytic polio showed 23.4per cent of mortolity and the other group which was inoculated with viral strains from inapparent infections displayed only 4.3per cent of mortality. The difference can be conciderd significant.<br>From these results mentioned above neurovirulence may play the most important role to convert a poliovirus infection to clinically manifest paralytic form.
著者
河本 聡志
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.103-112, 2013-06-01
参考文献数
26

ロタウイルスは,冬季乳幼児嘔吐下痢症の病因ウイルスである.ロタウイルス胃腸炎により,開発途上国を中心に毎年約45万人の乳幼児が死亡している.先進国においても,ほぼすべての乳幼児が感染し,発症する.これまでに,多くのRNAウイルスにおいて遺伝子操作系(リバースジェネティクス系)が開発され,ウイルスゲノムを任意に改変することでウイルス増殖過程や病原性に関する多くの重要な知見が得られてきた.しかしながら,11本もの多分節2本鎖RNAをゲノムとするロタウイルスでは,過去10余年もの間,精力的な開発の試みが行われたにもかかわらず,如何なる成功も報告されていなかった.我々は,ロタウイルス増殖過程および病原性発現機構の研究を分子レベルで展開させることを目的として,ロタウイルスにおけるリバースジェネティクス系の開発を行ってきた.2006年にヘルパーウイルスを用いた系ではあるが,cDNAに由来するゲノム分節を有する組換えロタウイルスを作製することを可能にするリバースジェネティクス系の開発に世界に先駆けて成功した.このシステムを外殻スパイク蛋白質VP4に応用することで,異なる血清型由来の交差反応性中和エピトープをキメラに発現する組換えロタウイルスおよび,ロタウイルス感染性の獲得に重要な役割を果たすVP4上のトリプシン切断領域にフューリン様プロテアーゼ認識配列を導入した組換えロタウイルスの作製にも成功している.本稿では,これらロタウイルスにおけるリバースジェネティクス系の開発とその応用例,そして今後の展望を紹介したい.
著者
金児 石野 知子 石野 史敏
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.11-20, 2016-06-25 (Released:2017-05-09)
参考文献数
28
被引用文献数
2 4

ヒトゲノムには,LTRレトロトランスポゾン由来の獲得遺伝子が30以上存在している.これらの多くは哺乳類(真獣類)特異的遺伝子として存在しており,哺乳類の進化との関係に興味が持たれている.筆者らは,sushi-ichiレトロトランスポゾン由来のSirh遺伝子群に関する網羅的なノックアウトマウス解析から,Sirh11/Zcchc16遺伝子が注意や衝動性など認知に関わる脳機能に関係すること報告した.胎盤機能に関係する複数のSirh遺伝子に加え,この発見は哺乳類における胎生の起源と進化だけではなく,大きく発達した脳機能の進化にも獲得遺伝子群が関与した可能性を示すものである.興味深いことに,この遺伝子は真獣類の幾つかの系統において大きな構造変化を起こした後,それらの系統内で種特異的な機能の多様化を起こしたと予想される.Sirh11/Zcchc16は個体発生には必須な遺伝子ではないが,恐竜の絶滅後に起きた哺乳類の大規模な適応放散のプロセスにおいて,脳機能の調節に関わることで生存の適応度の向上に寄与した可能性があるのではないかと考えている.
著者
大庭 道夫
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.1-10, 1984-06-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
137
著者
福原 敏彦
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.45-50, 1998-06-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
21
著者
高崎 智彦
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.199-206, 2007-12-22
参考文献数
21
被引用文献数
1 2

ウエストナイルウイルスはフラビウイルス科フラビウイルス属のウイルスで,蚊によって媒介される.1937年にアフリカ・ウガンダで発熱患者から発見され,1999年には米国で初めて患者が報告された.ヒトにおける病態は,非致死性の急性熱性疾患であるウエストナイル熱と脳炎,髄膜炎,脊髄炎などの中枢神経系の症状を呈するウエストナイル脳炎がある.北米での主たる媒介蚊は,アカイエカ(<I>Culex. pallens</I>),ネッタイイエカ(<I>Cx. quiquefasciatus</I>),<I>Cx. restuans, Cx salnarius, Cx. talsalis</I>などイエカ属のカであるが,媒介可能なカは60種以上である.米国での患者数は,1999年以降2007年までに27000人以上であり,カナダでの患者数も2002年以降,4600人以上の患者が報告されている.日本においても2005年9月に米国渡航者によるWN熱の輸入症例が初めて確認された.北米のウエストナイルウイルスは,依然として強い病原性を示しているが,2003年のテキサスとメキシコでの分離株の中には,弱毒株が存在することが報告されている.ウエストナイルワクチンの開発状況はヒト用のワクチンは開発中でまだ実用段階にはない.ウマ用のワクチンは,不活化ワクチンが2001年から使用され,DNAワクチン,キメラ生ワクチン,レコンビナントワクチンも認可されている.
著者
倉根 一郎
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.63-68, 2005-06-30
参考文献数
25
被引用文献数
1

ウエストナイルウイルスは自然宿主であるトリと蚊の間で感染環が形成され維持されている.米国においては約200種のトリがウエストナイルウイルスに感染し,さらに,40種以上の蚊からウイルスが分離されている.このように,多種の蚊からウイルスが検出されることは,他のフラビウイルスに比し,ウエストナイルウイルスがより多くの種類の蚊によって媒介され,さらに多種類の動物に感染しうる性質を有したウイルスであること示唆する.ヒトにおいてはウエストナイルウイルス感染者の約20%が症状を示すと考えられている.急性熱性疾患であるウエストナイル熱が多数を占めるが,髄膜炎,脳炎(髄膜脳炎),さらに近年脊髄,末梢神経症状として弛緩性麻痺,多発性神経炎の報告もなされている.このようにウエストナイルウイルスは,ヒトにおいては多様な症状を引き起こす性質を有するウイルスであるといえる.近年,アメリカ大陸やロシアにおいて侵淫地域が拡大している.日本への侵入も危惧されており,今後一層注目すべきウイルスといえる.
著者
温川 恭至 清野 透
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.141-154, 2008-12-24 (Released:2009-08-13)
参考文献数
84
被引用文献数
9 8

今から25年前Harald zur Hausen博士らによって子宮頸がんから16型ならびに18型ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus: HPV)のDNAが発見され,その因果関係が初めて示唆された.その後の疫学的・分子生物学的研究から,子宮頸がんはHPV感染によって発症することに疑いの余地はなくなり,HPVは子宮頸がんの原因ウイルスとして確定している.90%以上の子宮頸がんでは16型を始めとする一群のHPVがコードするE6とE7が必ず発現しており,それぞれp53,pRBがん抑制遺伝子産物を不活化することが明らかになっている.E6はテロメラーゼを活性化する機能も有しており,E6とE7は共同してヒト初代上皮細胞を高率に不死化することができる.これらの機能は本来,分裂能を失い最終分化に向かう細胞をウイルス増殖に利用するために備わっていると考えられる.E6とE7の発現のみでは細胞はがん化しないが,E6,E7は細胞の不死化からがん化に至る多くの過程に関与していることが明らかになってきた.実際,実験的にはE6とE7の発現に加えH-rasの変異さえあれば正常子宮頸部角化細胞に造腫瘍性が付与されることも示された.HPV感染と子宮頸がん発生との因果関係が確定的なものであることから,HPV感染予防ワクチンが対がん戦略として有効なものであることが推測される.しかしながら,HPV感染は性交渉開始後の大多数の女性で見られるほど蔓延しており,第一世代HPVワクチンの現プロトコールでの長期間に渡る有効性やHPV型特異性について課題を残している.また,既感染者には無効である.従って,HPV感染の自然史やウイルス蛋白の機能に関する分子基盤を解明していくことは,HPVワクチンを用いた感染予防のみならず新たな治療法の開発にとって不可欠である.本稿では,最近明らかになったE6,E7の機能を紹介するとともに,HPV感染から子宮頸がんへ至る機構について概説したい.
著者
高崎 智彦
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.199-206, 2007 (Released:2008-06-05)
参考文献数
21
被引用文献数
2

ウエストナイルウイルスはフラビウイルス科フラビウイルス属のウイルスで,蚊によって媒介される.1937年にアフリカ・ウガンダで発熱患者から発見され,1999年には米国で初めて患者が報告された.ヒトにおける病態は,非致死性の急性熱性疾患であるウエストナイル熱と脳炎,髄膜炎,脊髄炎などの中枢神経系の症状を呈するウエストナイル脳炎がある.北米での主たる媒介蚊は,アカイエカ(Culex. pallens),ネッタイイエカ(Cx. quiquefasciatus),Cx. restuans, Cx salnarius, Cx. talsalisなどイエカ属のカであるが,媒介可能なカは60種以上である.米国での患者数は,1999年以降2007年までに27000人以上であり,カナダでの患者数も2002年以降,4600人以上の患者が報告されている.日本においても2005年9月に米国渡航者によるWN熱の輸入症例が初めて確認された.北米のウエストナイルウイルスは,依然として強い病原性を示しているが,2003年のテキサスとメキシコでの分離株の中には,弱毒株が存在することが報告されている.ウエストナイルワクチンの開発状況はヒト用のワクチンは開発中でまだ実用段階にはない.ウマ用のワクチンは,不活化ワクチンが2001年から使用され,DNAワクチン,キメラ生ワクチン,レコンビナントワクチンも認可されている.
著者
倉根 一郎
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.63-68, 2005 (Released:2005-11-22)
参考文献数
25

ウエストナイルウイルスは自然宿主であるトリと蚊の間で感染環が形成され維持されている.米国においては約200種のトリがウエストナイルウイルスに感染し,さらに,40種以上の蚊からウイルスが分離されている.このように,多種の蚊からウイルスが検出されることは,他のフラビウイルスに比し,ウエストナイルウイルスがより多くの種類の蚊によって媒介され,さらに多種類の動物に感染しうる性質を有したウイルスであること示唆する.ヒトにおいてはウエストナイルウイルス感染者の約20%が症状を示すと考えられている.急性熱性疾患であるウエストナイル熱が多数を占めるが,髄膜炎,脳炎(髄膜脳炎),さらに近年脊髄,末梢神経症状として弛緩性麻痺,多発性神経炎の報告もなされている.このようにウエストナイルウイルスは,ヒトにおいては多様な症状を引き起こす性質を有するウイルスであるといえる.近年,アメリカ大陸やロシアにおいて侵淫地域が拡大している.日本への侵入も危惧されており,今後一層注目すべきウイルスといえる.
著者
西條 政幸 森田 公一
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.89-94, 2015-06-25 (Released:2016-02-27)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

日本ではエボラウイルス等バイオセーフティレベル4(BSL-4)に分類される病原体を取り扱うことはできない.1981年に国立感染症研究所は世界に先駆けてグローブボックス型のBSL-4施設を建設したが,30年以上が経過している現時点においてBSL-4施設として稼働されていない.2014-15年にかけて西アフリカにおいて過去にない大きな規模のエボラウイルス病(EVD)が流行している.また,致死率の極めて高い新興ウイルス感染症が世界各地で発生している.このような致死率の高い感染症対策に貢献するための研究がなされている中で,日本においては稼働しているBSL-4施設がないことから,感染性のあるBSL-4病原体を取り扱うことができず,公衆衛生対応や研究領域において十分な力を発揮できていない.多くの高病原性ウイルス感染症の病原体は動物由来ウイルスであり,地球上から根絶させることはできず,これからも流行が続くことが予想される.日本においてもBSL-4施設を用いて,BSL-4病原体による感染症対策のための研究や検査が実施できる体制を整備する必要がある.
著者
多屋 馨子
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.161-164, 2019 (Released:2020-09-16)
参考文献数
5
被引用文献数
1

2015年秋にわが国では、エンテロウイルスD68の検出数が増加するとともに重症の気管支喘息患者および急性弛緩性麻痺症例の多発が認められた。当時のわが国では、WHO加盟194か国中174か国で実施されているAFPサーベイランスを実施していない国であったが、2018年5月から「急性弛緩性麻痺(急性灰白髄炎を除く)」が感染症法に基づく5類感染症全数把握疾患に指定され、15歳未満の急性弛緩性麻痺症例は診断後7日以内に全例を管轄の保健所に届け出ることが義務づけられた。2018年10月頃からAFPの報告数が増加し、5〜11月に98例が届けられた。就学前の幼児期の報告が多く、年齢中央値は4歳であった。
著者
本田 知之
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.145-154, 2015
被引用文献数
2

ボルナ病ウイルス(Borna disease virus: BDV)は,強い神経指向性を持ち,中枢神経系へ持続感染するマイナス鎖RNAウイルスである.自然感染した動物では,致死性脳炎から軽微な神経症状まで,様々な神経症状を呈する.BDV感染による病原性発現の分子メカニズムについては,未だ不明な点が多い.細胞非傷害性であるBDVの病原性は,必ずしもウイルス量に相関せず,感染細胞の質的変化・機能異常によるものと考えられる.これは多くの細胞傷害性ウイルスの病原性がウイルス量と相関するのと大きく異なる.本稿では,BDV感染による病原性発現機構について,私たちが見出した2つの現象を紹介する.グリア細胞は,BDV Pタンパク質発現により,周辺のIGFシグナルの異常を引き起こし,BDV感染病態を誘導する.一部の感染細胞では,BDV mRNAの逆転写と宿主ゲノムへのインテグレーションが起こる.この挿入配列は,BDVタンパク質のバランス変化,BDVを認識するpiRNA産生,周辺遺伝子の発現変化などを引き起こしうる.BDV感染動物では,これらが複雑に絡み合い,様々な症状を呈しているものと考えられる.
著者
清水 博之 吉田 弘 宮村 達男
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.161-178, 2005 (Released:2005-11-22)
参考文献数
39

本稿は,WHO global action plan for laboratory containment of wild polioviruses (Second edition) の全訳である.天然痘やSARSコロナウイルスの例を挙げるまでもなく,実験室に由来する感染症流行の社会的リスクは,きわめて現実的な問題である.野生株ポリオウイルス根絶が間近となり,ポリオワクチン接種停止について議論されている現在,野生株ポリオウイルスの実験室封じ込めについても具体的な行動が求められている.日本語訳作成の主たる目的のひとつは,必ずしも周知されていないポリオウイルス野生株の定義や実験室封じ込めの基準に関する現時点におけるWHO指針を明確にすることにある.同時にまた,感染症以外の広範な施設がポリオウイルスを保有する可能性について,担当者に理解していただくための基本的資料を提供することを目的としている.
著者
染谷 雄一 清水 博之
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.31-40, 2018 (Released:2019-05-18)
参考文献数
36

経口弱毒生ポリオワクチンに用いられるセービン株ポリオウイルスから製造された不活化ポリオワクチンは,世界に先駆け,わが国で初めて定期接種ワクチンとして実用化された.セービン株は弱毒化されたウイルスであることから,野生株から不活化ワクチンを製造するよりも比較的安全であるという考えのもとにセービン株由来不活化ワクチンの開発が進められてきた.また,品質管理試験のひとつ(ラット免疫原性試験)においてもセービン株を用いてワクチンの有効性を評価する方が安全性が高い.しかしながら,世界ポリオ根絶が目前に迫ってきた現在においては,野生株,ワクチン株に関わらず,ポリオワクチン製造や品質管理試験を行う施設では,ポリオ根絶最終段階戦略計画2013-2018に基づいて,WHOにより求められているバイオリスク管理規準に準拠したポリオウイルスの取扱いが必要とされる.現時点では,ワクチン株を含むすべての2型ポリオウイルスが封じ込め対象である.2型ポリオウイルス感染性材料を取扱い,保有する施設では,作業従事者ばかりでなく,環境・地域社会へのウイルス伝播のリスク評価に基づいたリスク管理対策の整備が必要とされる.その後,2型ポリオウイルス取扱い施設は,WHOにより示された施設認証計画に従い,施設認証を受ける必要がある.