著者
東山 智宣 中西 豊文 田窪 孝行
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.209-216, 2013-07-31 (Released:2013-12-10)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(Matrix-assisted laser desorption/ionization-time of flight mass spectrometry:MALDI-TOF MS)を用いた微生物同定法は,MS 法により得られた微生物特有のリボソームタンパク質を主成分とした分子のフィンガープリント(マススペクトルパターン)を,既知標準菌株ライブラリーと検索・照合し,目的菌種を同定する新手法である.従来法に比して特異性・迅速性に優れている.現在,我々の検査室では,主に臨床検体(血液,尿,糞便,喀痰等)から培養で発育した細菌や酵母様真菌の培地上のコロニーを対象に MALDI-TOF MS による微生物同定を実施している.一方,菌血症・敗血症等の起因菌を検出・同定検出する場合は,培養コロニーではなく,血液培養陽性培養液から直接同定する方法も検討している.今回,本法による微生物迅速同定の成績と感染症迅速診断への応用について概説する.
著者
青山 幸二 齋藤 晴文
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.15-22, 2022-01-31 (Released:2022-03-25)
参考文献数
31

室間共同試験で妥当性を確認した公定分析法を用いて,2014~2019年度に日本で流通した飼料中のゼアラレノンおよびその代謝物(ゼアララノン,ゼアラレノールおよびゼアララノール)の汚染実態を調査した.とうもろこし121検体,大豆油かす62検体および配合飼料205検体を調査した結果,90 %以上の試料からゼアラレノンが検出された.ゼアララノールはいずれの試料からも検出されなかった.β-ゼアラレノールはゼアラレノン代謝物の中で最も検出率が高かった.また,原料によりゼアラレノン濃度に対するゼアラレノン代謝物濃度の割合が異なることが示唆された.
著者
久城 真代
出版者
日本マイコトキシン学会
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.19-23, 2015 (Released:2015-10-05)

「黄変米」とは,日本で発生したペニシリウム属カビによる危害を受けた米の総称であり,着生カビの種類により3種類が知られている。初期には毒性の原因はアジアの貧困から来る栄養障害と考えられていたが,継続的な研究により,「衝心性脚気」「カビ毒」「コメ」の関係が突き止められた。戦後の黄変米は,その着生菌の違いにより,「イスランジア黄変米」,「シトリナム黄変米」に分類されるが,学際的な研究により,原因物質が解明された。本稿では,米の有毒かびならびに日本で同定された3種類の黄変米についての研究をまとめた。
著者
日ノ下 文彦
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.123-127, 2003-07-31
参考文献数
10
被引用文献数
1

マイコトキシンの一部は腎臓にも障害を及ぼすことが知られているが,最も有名なものがオクラトキシンである.これは,1950 年代にバルカン諸国からの報告が相次いだ腎・尿路系を侵す風土病で,65 年にWHOが正式に認定した Balkan endemic nephropathy(BEN)の原因物質と考えられている<sup>1,2)</sup>.BEN の病態は主として尿細管の変性・機能障害,間質の繊維化,糸球体の硝子化であり,やがて腎機能障害が進行して腎不全に陥るものである.しかも,BEN に陥った症例では腎盂や尿管に腫瘍が発生しやすいことも知られており,多発地域では無視できない大きな問題となっている.オクラトキシン以外ではチトリニンやルブラトキシン,フモニシン等が腎臓毒性を有するマイコトキシンとして報告されている.ヒトにおけるトリコテセンの腎毒性はまだ報告されてないものの,ニバレノール(nivalenol, 以下 NIV)やデオキシニバレノール(deoxynivalenol, 以下 DON)が腎障害を惹起することが動物実験で確認されているので,これまで得られた知見を中心に報告する.
著者
熊谷 進
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.15-21, 2008 (Released:2008-04-01)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

エルゴティズム、ATA症(alimentary toxic aleukemia)、七面鳥X病以外にも多数の人や動物の疾病が、かび毒を原因としたものであることが提唱されてきた。その例として、中国等におけるアフラトキシンによる人の肝臓がん、インドやケニヤで発生した人や動物の急性アフラトキシン中毒症、南アフリカ等におけるフモニシンによるウマの白質脳軟化症や人の食道がん、バルカン地方におけるオクラトキシンによる人の腎症などが挙げられる。最近では人の神経管欠損へのフモニシンの関与が提唱されている。しかし、こうした教科書的に語られるかび毒に起因する疾病は、必ずしも疫学的あるいは毒性学的証拠に十分に裏付けられているわけではなく、広く受け入れられているかび毒の毒性機序にも未解決の問題が残っているように考えられる。その例として、アフラトキシンの化学構造と急性毒性との関連、腎症と尿路系腫瘍におけるオクラトキシンAの関与、動物種によるフモニシン毒性の顕著な差異などが挙げられるであろう。
著者
北川 章 細江 智夫 河合 賢一 北川 弘之 河合 清
出版者
日本マイコトキシン学会
巻号頁・発行日
no.2, pp.65-69, 2019 (Released:2019-12-03)

Eupenicillium sheariiから分離された新規のマクロライド系抗生物質であるeusherilideの抗真菌性活性に関する分子機序を明らかにする目的で,新鮮な単離ラット肝ミトコンドリアを用いてミトコンドリアの呼吸機能について検討した。Eusherilideは,L-グルタミン酸系とコハク酸酸化系呼吸の両方を阻害した。この阻害は,ロテノンとアンチマイシンAの阻害部位の上に電子伝達シャントを生成するN,N,N',N'-テトラメチル-p-フェニレンジアミン(TMPD)およびシトクロムcオキシダーゼのための人工基質であるアスコルビン酸によって回復されなかった。シトクロムの酸化還元スペクトルにおいて,シトクロムa,b,cの全てがeushearilide存在下で還元型を保っていた。このことから,eushearilideが電子伝達系のシトクロムcオキシダーゼ(complex IV)を阻害することが示唆された。EusherilideはKCl等張溶液の中で懸濁されたミトコンドリアの膨化を誘導した。このミトコンドリア膨化の誘導は,内膜で透過性孔の生成を示すシクロスポリンAによって阻止された。これらの結果から,eushearilideがミトコンドリアの電子伝達系のcomplex IV部位(シトクロムcオキシダーゼ)の阻害により呼吸機能を減弱させ,ミトコンドリアを膨化させることが示唆された。
著者
横田 栄一
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.119-123, 2004-07-31
参考文献数
18

近年,食品の国際規格策定の場であるFAO/WHO 合同食品規格委員会(コーデックス委員会)において,マイコトキシンに関する議論が活発化しており,コーデックス規格が順次設定されてきている.また,平成13 年2 月にはFAO/WHO 合同食品添加物専門家会議(JECFA)において多種にわたるマイコトキシンのリスク評価が行われており,今後,国際的な基準策定に向けた取り組みが進むものと思われる.この様な状況の中,我が国においても小麦のデオキシニバレノール及びりんごジュース中のパツリンについて規制を行ったところである.今後も健康被害を未然に防止するために,我が国における各種マイコトキシンの実態調査を行い,その結果等を踏まえて規格基準を整備していくことが重要と考えられる.
著者
八木 正博
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.69-74, 2002 (Released:2009-01-08)
参考文献数
12

化学物質過敏症やシックハウス症候群といった室内空気中の化学物質による健康被害について社会的関心が高まっており,厚生労働省の⌈シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会⌉は既にホルムアルデヒド,トルエン,キシレンなど12物質の室内濃度指針値案及び暫定指針値案を策定し,総揮発性有機化合物(TVOC)の暫定目標値を定めた1).個別の指針値案はリスク評価に基づいた値であり,その濃度以下であれば通常の場合はその化学物質は健康への悪影響を及ぼさないと推定された値である.上記検討会は今後も引き続き他の化学物質の指針値案を策定していく予定である.しかし,実際の室内空気には複数の化学物質が存在すること,リスク評価を行うためのデータが不足していること及び指針値を決めていない化学物質による汚染の進行を未然に防ぐ目的からTVOCの暫定目標値も定められた1).ところで,最近の室内空気問題というのは新建材の開発や建築技術の発展などに伴い,種々の化学物質が用いられ,それらが室内空気中に揮散され,さらに住居の気密化が進んだことにより室内空気中の有機化学物質濃度が高まったために問題が生じてきたと考えられている.家具や電気製品などの家庭用品についても種々の化学物質が用いられており,これらも有機化学物質の発生源になっていると推定されている.今回,室内空気中化学物質の濃度指針値案が策定されたことにより,建築物や家庭用品等の関係者が室内空気中化学物質の濃度を下げる工夫をすることが期待され,今まで原因がわからず,健康被害があった人々の多くが健康を取り戻すことができると思われる.さらに調査研究が進み,有害な化学物質の発生の少ない,地域の風土に適した21世紀型住居が建てられ,その住居に適した住み方が検証されることにより,室内空気中化学物質による健康被害で悩む人が減ることが期待される.
著者
安田 正昭
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.67-72, 2013-01-31 (Released:2013-04-25)
参考文献数
11
被引用文献数
2

豆腐ようは沖縄以外の我が国ではほとんど見られないユニークな豆腐の発酵食品である.この食品は琉球王朝時代の 18世紀頃に中国から渡来した紅腐乳を琉球王府のお料理座で改良して造り出されたものと考えられる.発酵にかかわる主な微生物は, Monascus 属カビと Aspergillus oryzae である.豆腐ようの主要な構成成分は大豆タンパク質グリシニンの塩基性サブユニットおよびその他のポリペプチド(分子量 10,500-15,000)である.それら成分が豆腐ようのテクスチャーに関係している.発酵過程で大豆タンパク質はプロテアーゼの作用により低分子化され,一部はアミノ酸やペプチドに変換される.遊離アミノ酸は呈味にかかわる.発酵で生成したペプチド(IFL, WL)は血圧上昇抑制にかわわるアンギオテンシンⅠ変換酵素の阻害効果を示した.両ペプチドは消化酵素による連続処理後においても高い ACE 阻害活性を有していた.高血圧自然発症ラットを用いた動物実験においても豆腐よう投与群はコントロール群に比べて有意に血圧が低下した.豆腐ようには血圧上昇抑制効果のあることが期待された.
著者
漆山 哲生
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.89-93, 2019-07-31 (Released:2019-08-27)
参考文献数
9

日本の気候は温暖で湿潤のため,麦類赤かび病が発生しやすく,穀粒が赤かび病菌が産生するデオキシニバレノール(DON)等のかび毒に汚染される.安全で高品質な食料の安定供給を担う農林水産省にとって,麦類のかび毒のリスク管理は重要な課題である.当省は,効果の高い農薬による適期防除,適期収穫,乾燥調製の徹底等を内容とする指針を作成し,生産段階における麦類のかび毒低減を進めている.国産麦類のかび毒実態調査から,赤かび病の発生により玄麦のDON濃度の著しい変動があることや,DON暴露による未就学児の健康リスクが無視できるほど小さくないことが示されている.気候変動の影響等により赤かび病の発生が増える可能性もあるため,継続的な調査と低減対策の一層の徹底が必要である.
著者
横山 耕治 川上 裕司 陰地 義樹 久米田 裕子 高橋 治男
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.143-149, 2008 (Released:2008-10-07)
参考文献数
20
被引用文献数
2 2

Aspergillus section Nigri によるオクラトキシンの産生性や産生菌の分離頻度,分布に関する日本における報告はなく,Aspergillus section Nigri の詳細な分類に基づく調査研究が必要となった.山梨で行った調査の結果,A. niger チトクロームb 遺伝子に基づくDNA タイプAN-D-5, AN-D-7 の菌は,ほとんどはオクラトキシンを産生しないが一部の株でわずかながら産生が見られた.DNA タイプAN-D-4 のA. carbonarius は,オクラトキシン産生の主要な株で,産生量が多く産生株がほとんどではあるが,一部の株では同じ培養条件で産生が認められなかった.ぶどう園土壌および空中浮遊の菌は,ほとんどが,DNA タイプAN-D-1, AN-D-2 のA. japonicus とAN-D-5, AN-D-7 のA. niger であり,DNA タイプAN-D-4 のA. carbonarius は,土壌分離株129 株中1 株であり分離頻度は非常に低かった.収穫後の管理を適正に行えば,食品への汚染は極めて少ないと考えられる.
著者
高橋 治男 植松 清次 大泉 利勝 森 悦男 柳堀 成喜 一戸 正勝
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.1995, no.41, pp.53-59, 1995
被引用文献数
3

Trichothecium roseum causes pink mold rot of muskmelons and tomatoes cultivated in greenhouses, and also produces trichothecin, a 12, 13-epoxytrichothecene. To clarify the pathogenicity and trichothecin production of T. roseum, mycological examination was carried out in 8 greenhouses in Chiba Prefecture. The contamination of muskmelon and tomato fruits with trichothecin was also examined. Trichothecium roseum was isolated from almost all of the moldy or discolored muskmelon and tomato fruits, as well as tomato stem dumped near the greenhouse. The fungus was found in the air of a greenhouse in which many moldy tomato fruits were present, but in none of the soil samples from the greenhouses tested. In an inoculation test, T. roseum isolated from muskmelon and tomato invaded and decayed the flesh of matured muskmelons. Moreover, almost all the isolates of T. roseum tested produced trichothecin on Czapek-Dox broth supplemented with 0.2% corn steep liquor cultured for 21 days at 25&deg;C. Trichothecin was detected in moldy muskmelon and tomato fruits collected in the greenhouses.
著者
髙橋 治男
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.33-39, 2018-01-31 (Released:2018-02-27)
参考文献数
42

1. マイコトキシン汚染玄米粒では侵入菌糸とマイコトキシンの分布は,ほぼ一致し,主として,胚芽部付近に集中した.汚染カビは胚芽部付近に生じる空隙で増殖した.マイコトキシンは精白過程で糠区分に除去されたが,汚染が進むと完全に除去されず,白米区分に残存した.2. 南西諸島のサトウキビ畑にはAspergillus parasiticus,A. nomius,A. flavusの多様なアフラトキシン産生菌が生息した.分離株の分子生物学的な解析はA. parasiticusとA. nomiusがタイプ種とは系統的に異なり,サトウキビと特異的な関係にあることを示した.
著者
山田 修
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.187-190, 2013-07-31 (Released:2013-12-10)
参考文献数
7
被引用文献数
1

黒麴菌は,沖縄の泡盛や九州地方での焼酎造りに使われている有用糸状菌であり,製麴中に大量のクエン酸を生産することでもろみを酸性にし,暖地での醸造に適しているとされている.黒麴菌は,1901 年乾により Aspergillus luchuensis として初めて報告されたが,その後も A. awamori など複数の株が報告されており,その分類には混乱が見られる.そこで,黒麴菌について分子生物学的な解析を行い,黒麴菌は,A. niger などとは違う種であること,また,カビ毒 OTA 非生産性であることを明らかとした.黒麴菌の有用性,安全性から A. luchuensis とすることを提案している.
著者
加藤 雅士 志水 元亨
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
pp.70-2-2, (Released:2020-04-14)
参考文献数
9

2015年の国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)が,最近特に注目を集めています.持続可能な世界を実現するための17の目標の内いくつかの目標は,微生物研究が対象とする課題と少なからず関係があると思われます.本稿では,SDGsとの関連を考慮しつつ,糸状菌によるバイオマス分解に関して筆者らの最近の研究について紹介をいたします.
著者
局 博一 花房 真和
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.129-143, 2016-07-31 (Released:2016-09-06)
参考文献数
78
被引用文献数
2

トリコテセン系カビ毒の毒性をT-2トキシンおよびDONを中心にして述べた.これらのトキシンは急性影響および慢性影響として,生体の形態や機能に対して広範囲の毒性をもたらす.in vitro,in vivo の多くの実験系で濃度・用量依存性の細胞障害や臓器障害が報告されている.アポトーシスが広範囲の器官,細胞系列において観察されており,細胞障害における酸化ストレスの役割が注目されている.近年,トリコテセン系カビ毒によるアポトーシスの発現メカニズムや酸化ストレス障害が詳しく調べられている.アポトーシスを起こす機序として,リボソーム-MAPK(JNK/p38),DNA損傷,デスリセプター/カスパーゼ-8の各経路を介する経路が考えられている.
著者
堀江 義一
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.1983, no.18, pp.2-5, 1983-12-30 (Released:2009-08-04)
参考文献数
22

オクラトキシン(OCT)は1965年にScottによって,南アフリカ産トウモロコシから分離されたAspergillus ochraceusから最初に発見されたマイコトキシンで,わが国ではNatori et al.によってアズキ,トウガラシ粉より分離されたA.ochraceusから最初に報告され,ついで宮木ら,Yamazaki et al.によって宮城県および千葉県産の精白米,玄米より分離されたA. ochraceusからも報告されている. オクラトキシンは発見当初,肝毒性を示すとされていたが,近年では強い腎毒性について注目されている.しかし,わが国においてはA.ochraceusの分布は一部食品をのぞいて比較的少なく,また,家畜などに対する中毒例も見られず,穀類をはじめとする食品への自然汚染例も極めてわずかで一部の研究者をのぞいて注目されるにはいたらなかった.しかし,近年,北ヨーロッパを中心にPencillium viridicatumを原因菌とするブタの中毒や,アメリカにおけるA. ochraceusを原因菌とする家禽の中毒が多数報告され,Kanisawa and SuzukiによるオクラトキシンA(OCT-A)の発ガン性が報告されるにいたり,近年再評価されつつある. 今回,ここでは現在までに報告されているOCT生産菌と,その分類について報告し,若干の評価を加えたい.
著者
橋本 ルイコ 浅野 勝佳 渡嘉敷 唯章 陰地 義樹 廣瀬(安元) 美奈 高良 亮 豊里 哲也 吉野 敦 池端 真美 劉 瑩 久米田 裕子 横山 耕治 髙橋 治男
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.179-186, 2013-07-31 (Released:2013-12-10)
参考文献数
19
被引用文献数
4 6

最も普遍的に存在するカビのひとつ,A. niger にマイコトキシンの産生性が発見され,食品工業上重要な役割を担う A. niger や沖縄で泡盛の醸造に伝統的に用いられてきた黒麹菌の安全性が問題視されている. また,A. niger とその近縁種である黒麹菌は形態的に類別することは困難であることから,ミトコンドリアチトクローム b DNA 遺伝子などを用いて分子遺伝学的に解析し,これらの菌を正確に分類するとともに,マイコトキシン産生性との関係を明らかにすることによって黒麹菌など実用株の安全性についての検証を行った.
著者
一戸 正勝 斉藤 朋子 岡野 清志
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.109-114, 2001-07-31
参考文献数
8
被引用文献数
1 2

イラン産の輸入ピスタチオナッツについてアフラトキシン生産性を有する<i>Aspergillus flavus</i>の汚染状況について調査研究を行った.輸入港において,検査対象となった生ピスタチオナッツおよび生産地が特定された生ピスタチオナッツについてアフラトキシン生産菌の分布状況を調査したところ,行政検査でアフラトキシン陽性となった試料では<i>A. flavus</i>のアフラトキシン生産菌の比率が高く,陰性試料では<i>A. flavus</i>の検出量が多い場合でも生産菌の比率が低かった.種実の内果皮と仁に分けて菌分離を行ったが,個々の検査粒により異なっており,一定の傾向はみられなかった.イラン国内のピスタチオ生産地域により,アフラトキシン生産菌の分布が異なっていた.
著者
Kyoko Kanamaru Saki Hayashi Kensuke Kojima Tetsuo Kobayashi
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.49-56, 2015-01-31 (Released:2015-04-22)
参考文献数
24
被引用文献数
1

Reactive oxygen species (ROS) are high reactive compounds, which are produced on the process of oxygen consumption in aerobic organisms. ROS can be vanished by several enzymes, but excess of ROS cause damage on the organisms by the oxidation of DNA, proteins and lipids and so on. In this short review, you will see the general information about ROS (how and where ROS are produced and vanished), and then our resent reports, which show the involvement of His-Asp phosphorelay signal transductions into the control of ROS production in Aspergillus nidulans.