著者
巽 俊彰 後藤 正和
出版者
日本万国家禽学会
雑誌
日本家禽学会誌 (ISSN:00290254)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.J8-J13, 2010-04-25
参考文献数
15
被引用文献数
4

鶏舎壁面や飼育器材への付着、および鶏舎に浮遊する粉塵等の有機物に付着した病原体による感染症を防除する対策として、器材の浸漬消毒や鶏舎内の噴霧消毒がある。本研究では、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を塩酸でpH7.0に調整した中性次亜塩素酸水(以下NAHSと記す)の浸漬および噴霧消毒液としての有用性を4つの試験により検討した。最初に、Salmonella Enteritidis(以下SEと記す)に対するNAHS(残留塩素濃度50、80、200 ppm)の試験管内消毒効果を調べた。対照として既存の消毒剤である[モノ、ビス(塩化トリメチルアンモニウムメチレン)]アルキルトルエン製剤、塩化ジデシルジメチルアンモニウム製剤(以下消毒剤Bと記す)の0.05%液と0.2%液を使用した。その結果、残留塩素濃度50ppm以上のNAHSおよび消毒剤B 0.2%液は、有機物が共存していても10秒でSE菌は検出されなかった。次に、NAHS(残留塩素濃度90ppm)および消毒剤B 0.2%液の噴霧が、ろ紙に付着した黄色ブドウ球菌(以下SAと記す)数・大腸菌(以下ECと記す)数に及ぼす影響を有機物が共存した条件で検討した結果、消毒剤B 0.2%液ではSA数が2.16×10(5)CFU/ml、EC数が2.72×10(5)CFU/mlに対し、NAHSではSA数が2.24×10(4)CFU/ml、EC数が4.40×10(4)CFU/mlであった。また、有機物が共存した条件で飛散したSA数・EC数に及ぼす影響を検討した結果、1分間の感作時間で消毒剤B 0.2%液ではSA数が134CFU、EC数が112CFUに対し、NAHSではSAが検出されず、EC数が10CFUであった。さらに、飛散したSA数に及ぼすNAHSの噴霧による影響を検討した結果、1分間の感作時間で無噴霧の1114CFUに対して、NAHS(残留塩素濃度50ppm)の噴霧量が5mlでは79CFU、10mlでは26CFU、20mlでは6CFUで、噴霧量の増加に伴い菌数の減少する傾向が認められた。以上の結果から、NAHSは浸漬および噴霧による消毒効果が認められた。今後は、養鶏分野におけるNAHSの適正な濃度、浸漬時間および噴霧量などを検討する必要がある。
著者
稲岡 徹 大久保 吾良 横田 真良 武政 正明
出版者
日本万国家禽学会
雑誌
日本家禽学会誌 (ISSN:00290254)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.174-180, 1999-05-25
参考文献数
7
被引用文献数
1 17

イエバエの食糞性を利用して鶏の排泄物を分解処理し,その際得られる大量のイエバエ幼虫および蛹の,鶏の飼料原料としての価値を検討した。イエバエ幼虫および蛹の乾燥粉末は,粗蛋白(CP)約60%,粗脂肪約20%を含み,アミノ酸組成は魚粉に類似し,家畜•家禽の飼料原料として,十分な利用価値があると考えられた。幼虫と蛹の比較では,1個体当たりの体重が幼虫の方が重いことから飼料原料としては幼虫がより適していると思われた。幼虫乾燥粉末原物の鶏におけるエネルギー代謝価(ME)は3.79kcal/gと算定された。体成分の分析結果とエネルギー代謝価に基づき,CP,ME,アミノ酸組成が同等となるようイエバエ幼虫乾燥粉末7%含有の試験飼料と,魚粉(ホワイトフィッシュミール)7%含有の対照飼料を調製した。両飼料ともブロイラー前期養分要求量を満たしていることを確認し,孵化直後から24日齢までブロイラーに対する飼養試験を実施した。試験飼料と対照飼料を与えた雛の間に,増体量と飼料要求率に有意差は認あられなかった。24日齢で屠殺した雛の中抜き体重(可食部と骨部の合計)の生体重に対する割合は,試験飼料投与群が対照飼料投与群より有意に高かった。これらの雛の腿肉の,蛋白質,脂肪の含有率,アミノ酸組成に,投与飼料による違いは認められなかった。以上の結果から,イエバエ幼虫乾燥粉末は鶏の飼料原料として,魚粉と同等以上の栄養的価値があることが示された。
著者
カイセド リカルド エンリケ 川島 光夫 上吉 道治
出版者
日本万国家禽学会
雑誌
日本家禽学会誌 (ISSN:00290254)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.36-44, 1997-01-25
参考文献数
28
被引用文献数
2 4

卵巣中の大きさが最大の卵胞,2番目の卵胞と3番目-5番目の卵胞から,それぞれ顆粒層細胞,卵胞膜内層細胞および卵胞膜外層細胞を単離し,それらを0.1-100ng/mlのヒツジLHまたはFSHともに,37&deg;Cで4時間培養した。培養後,培養液中のプロジェステロン(P<sub>4</sub>),テストステロン(T)とエストラジオール17&beta;(E<sub>2</sub>)をラジオイムノアッセイにより測定した。<br>P4とTは共に内層細胞の培養液では認められたが,外層細胞では認められなかった。一方,E2は外層細胞では検出されたが,内層細胞では検出されなかった。内層細胞のP<sub>4</sub>とTの生産はLHとFSHにより増加したが,それらの性腺刺激ホルモンによる効果は大きい卵胞に比べ小さい卵胞の方が高く,また,増加の割合はLHの場合の方がFSHの場合に比べて多かった。一方,外層細胞におけるE<sub>2</sub>生産はFSHにより刺激され,しかもその程度は小さい卵胞の方が大きい卵胞に比べて大きかった。しかし,LHによっては検討した用量内では影響は認められなかった。これらの結果は,卵胞膜細胞におけるステロイドホルモン生産における性腺刺激ホルモンによる刺激効果は小さい卵胞の方が大きい卵胞に比べて高いことを示している。
著者
神 勝紀 唐澤 豊 関川 堅
出版者
日本万国家禽学会
雑誌
日本家禽学会誌 (ISSN:00290254)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.12-18, 2000-01-25
参考文献数
13
被引用文献数
4

飼料誘導性熱産生がニワトリの体温調節に関与するかどうかを調査する目的で,摂食鶏と絶食鶏の耐寒性を比較検討した。ブロイラー雄(3週齢)を26&deg;C(&plusmn;1&deg;C)に調節した恒温室に収容し,摂食区(4羽)には実験開始直前まで,絶食区(5羽)には実験開始2日前まで飼料と水を自由摂取させた。絶食区には実験前の2日間水だけを給与した。実験は30から32日齢の間に行った。環境に順応させるために,ニワトリを26&deg;C(&plusmn;1&deg;C)に調節した温度調節チャンバー内に個別に収容して24時間放置した後に,チャンバー内の気温を26&deg;Cから5&deg;Cまで3&deg;Cずつ低下させ,体表温,直腸温,心拍数およびふるえを耐寒性の指標として測定した。<br>体表温は気温26&deg;Cのとき両区とも約39.3&deg;Cであり,気温低下に伴って両区とも同程度の低下を示したが,摂食区の方がばらつきが大きかった。直腸温は気温26&deg;Cのとき摂食区と絶食区との間に有意差は認められず,摂食区では気温低下に関わらずほぼ一定であったが,絶食区では気温23&deg;Cから低下し始あ,8&deg;Cのとき最低になった。心拍数は気温26&deg;Cのとき摂食区の方が絶食区よりも有意に多く,摂食区では気温低下に伴って漸増したのに対し,絶食区では気温20&deg;Cまで変化せず,その後急激に増加した。最初のふるえが確認された気温は摂食区では4羽とも17&deg;Cであったが,絶食区では5羽中2羽が17&deg;C,3羽が14&deg;Cであった。<br>以上から,飼料誘導性熱産生はニワトリの体温調節に一部利用されること,および下限臨界温度は絶食によって低下する可能性が示唆された。
著者
孫 章豪 唐澤 豊 神 勝紀
出版者
日本万国家禽学会
雑誌
日本家禽学会誌 (ISSN:00290254)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.193-197, 1996-05-25
参考文献数
14
被引用文献数
1 4

本実験では,蛋白質10%飼料あるいは同飼料プラス尿素給与時のニワトリの窒素利用と排泄に及ぼす盲腸結紮の影響を調べた。飼料の蛋白質窒素と添加した尿素窒素の1日当たりの摂取量は,それぞれ体重kg当たり560mg, 280mgであった。盲腸結紮は蛋白質10%飼料給与時には窒素の利用性を高める傾向があったが,同飼料に尿素を添加した場合は低下させる傾向があった。盲腸結紮によって,尿酸とアンモニアの排泄量は,両飼料群で有意に減少したが,尿素排泄量は尿素給与時では対照区の4倍以上に増加し,蛋白質10%飼料群では増加傾向を示した。血液アンモニア,尿素および尿酸濃度は両飼料群で盲腸結紮の影響を受けなかった。以上の結果から,蛋白質含量中程度の飼料給与時にも,盲腸結紮は,尿素給与時を除いて,低蛋白質飼料給与時と同様に窒素の利用と排泄に影響することが示唆された。
著者
巽 俊彰 後藤 正和
出版者
日本万国家禽学会
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.8-13, 2010 (Released:2011-05-10)

鶏舎壁面や飼育器材への付着、および鶏舎に浮遊する粉塵等の有機物に付着した病原体による感染症を防除する対策として、器材の浸漬消毒や鶏舎内の噴霧消毒がある。本研究では、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を塩酸でpH7.0に調整した中性次亜塩素酸水(以下NAHSと記す)の浸漬および噴霧消毒液としての有用性を4つの試験により検討した。最初に、Salmonella Enteritidis(以下SEと記す)に対するNAHS(残留塩素濃度50、80、200 ppm)の試験管内消毒効果を調べた。対照として既存の消毒剤である[モノ、ビス(塩化トリメチルアンモニウムメチレン)]アルキルトルエン製剤、塩化ジデシルジメチルアンモニウム製剤(以下消毒剤Bと記す)の0.05%液と0.2%液を使用した。その結果、残留塩素濃度50ppm以上のNAHSおよび消毒剤B 0.2%液は、有機物が共存していても10秒でSE菌は検出されなかった。次に、NAHS(残留塩素濃度90ppm)および消毒剤B 0.2%液の噴霧が、ろ紙に付着した黄色ブドウ球菌(以下SAと記す)数・大腸菌(以下ECと記す)数に及ぼす影響を有機物が共存した条件で検討した結果、消毒剤B 0.2%液ではSA数が2.16×10(5)CFU/ml、EC数が2.72×10(5)CFU/mlに対し、NAHSではSA数が2.24×10(4)CFU/ml、EC数が4.40×10(4)CFU/mlであった。また、有機物が共存した条件で飛散したSA数・EC数に及ぼす影響を検討した結果、1分間の感作時間で消毒剤B 0.2%液ではSA数が134CFU、EC数が112CFUに対し、NAHSではSAが検出されず、EC数が10CFUであった。さらに、飛散したSA数に及ぼすNAHSの噴霧による影響を検討した結果、1分間の感作時間で無噴霧の1114CFUに対して、NAHS(残留塩素濃度50ppm)の噴霧量が5mlでは79CFU、10mlでは26CFU、20mlでは6CFUで、噴霧量の増加に伴い菌数の減少する傾向が認められた。以上の結果から、NAHSは浸漬および噴霧による消毒効果が認められた。今後は、養鶏分野におけるNAHSの適正な濃度、浸漬時間および噴霧量などを検討する必要がある。
著者
高橋 和昭 南都 文香 豊水 正昭
出版者
日本万国家禽学会
雑誌
日本家禽学会誌 (ISSN:00290254)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.J44-J47, 2012-10-25
参考文献数
13

飼料用籾米給与がブロイラー腸免疫に及ぼす影響を腸管免疫関連遺伝子発現から検討した。トウモロコシ-大豆粕を主体とした飼料(対照飼料)または対照飼料のトウモロコシ全量を2種の未破砕籾米(タカナリまたはモミロマン)で代替した飼料を初生ブロイラーオズ(チャンキー系)に孵化後から4週間給与した。メッケル憩室近辺の腸組織の免疫関連遺伝子発現と血漿中免疫グロブリン(Ig)AおよびG濃度を測定した。前炎症性サイトカイン発現(インターロイキン-1,6及びインターフェロン-γ腫瘍壊死因子様リガンド1A)量はタカナリ給与区が対照またはモミロマン区与より統計的に有意に高いか,高い傾向にあった。タカナリ給与区における調整型サイトカイン発現(インターロイキン-10及びトランスフォーミング増殖因子-β)量はモミロマン給与区よりも有意に高かった。指標遺伝子発現量から推定したT細胞数(CD3)とT細胞増殖能力(インターロイキン-2)はタカナリ給与区がモミロマン給与区よりも高く,モミロマン給与区は対照区よりも低かった。免疫グロブリン濃度もタカナリ区でモミロマン区よりも高かった。これらの結果は,腸管免疫に対する飼料用籾米給与の影響はトウモロコシ給与のそれと異なること,飼料用籾米間でも腸管免疫に対する作用は異なる可能性を示している。
著者
松下 浩一
出版者
日本万国家禽学会
雑誌
日本家禽学会誌 (ISSN:00290254)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.J8-15, 2015-04

山梨県は南の富士山に代表されるように,西に北岳や間ノ岳,北に八ヶ岳など標高の高い山がそびえており,かつ八方を山に囲まれていることから,その斜面を利用した果樹生産が盛んな地域である。甲府盆地は8月に気温が40℃になったと思えば,11月には氷点下を記録するという寒暖差の激しい地域である。そのため家畜を飼育する環境としては決して恵まれた地域ではない。そのような地域での養鶏産業といえば,採卵鶏は30戸足らずで約62万羽,肉用鶏はブロイラーだけでなく,甲州地どりや甲州頬落鶏などの特産鶏の生産を含めても20戸にも満たない状況である。このように決して養鶏が地域の主産業になっているわけではないものの,それぞれの養鶏農家が高い意識をもって経営に取り組んでいる。畜産試験場も養鶏科は技術面で,畜産普及科は経営面で養鶏農家をバックアップすべく農家との交流を頻繁にするように心がけており,良好な関係を維持している。一方,高病原性鳥インフルエンザの発生に伴って,衛生面を重視する必要から農場間の行き来は少なくなったものの,電話を使ってさまざまな要望が出されてくる。これを解決するために,基礎研究をベースに応用研究として極力農家の生産形態に近い状況で飼育することを心がけている。研究内容は品種改良や飼養管理から飼料栄養に至るまで実施しているが,中でも飼料栄養の調整による技術は農家レベルで実用化されやすく,成果発表会などでも反応が良い。本内容は,生産性向上や品質向上を目的に,飼料栄養の調整により実施した研究のうち,山梨県内を中心に農家レベルで実用化された技術の一部について紹介するものである。
著者
桑山 岳人 小川 博 宗近 功 河野 友宏 一戸 健司
出版者
日本万国家禽学会
雑誌
日本家禽学会誌 (ISSN:00290254)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.89-95, 1996-03-25
参考文献数
6
被引用文献数
3

赤色野鶏,緑襟野鶏,セイロン野鶏,日本鶏16品種,および白色レグホーンの鳴声を録音し,声の高さ,長さ,音節数についてサウンドスペクトログラフィーを用いて分析した。声の高さは,灰色野鶏とセイロン野鶏が最も高く,赤色野鶏,緑襟野鶏および矮鶏では比較的高く,声良鶏が最も低かった。声の長さは,東天紅鶏が最も長く,唐丸鶏および声良鶏が長かった。音節数は,野鶏では3~5,日本鶏では2~4,白色レグホーンでは4であった。
著者
イダマルゴダ アルナシリ 杉山 道雄 小栗 克之 荒幡 克己 甲斐 諭 柳 秦春
出版者
日本万国家禽学会
雑誌
日本家禽学会誌 (ISSN:00290254)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.234-244, 1998-07-25
参考文献数
7
被引用文献数
1

世界主要都市における鶏卵価格の内外価格差は,かなり大きいことが指摘されてきたが,その卵価水準に最も影響する生産費と流通マージンの国際比較分析について飼料費を除き,殆ど研究されていない。研究は国内でなされても国際比較はなされていないのは,生産費の概念が統一されず,不明確であったことにもよっている。<br>本研究は鶏卵生産費の概念を直接費(飼料費十ひな費)と間接費(労働,建物費,機械,道具費,農薬費等)として,1996年世界20ヵ国の政府,大学機関にメールメリッドで調査票を送付し,15ヵ国につき回答を得て比較分析を行ったものである。調査国にはアメリカ,カナダ,イギリス,オラング,ブラジル,インド,中国,バングラディシュ,ネパール,スリランカ,イラン,サウジアラビア,日本,韓国,台湾の15ヵ国である。これらの国は低生産費国,中生産費国,高生産費国に大別されるが,低生産費は高生産費国である日本の1/3近くで生産している。低生産費国の主な要因は単に飼料費が安いばかりではなく,安い労働費の影響が大きい。中生産費国は主としてアメリカなどで,近代的技術ばかりでなく,飼料費が安いことに基づく。高生産費国は飼料の輸入国であり,やや高くなるばかりでなく,賃金が高くなる。高労働費を節約するため施設化が進む場合,労働費や施設費を個々に比較するのでなく,同じく労働節減機能をもつものとして施設&bull;労働費として比較されるべきである。<br>マーケティングマージンをみると,日本はその近代的設備を導入しているものの,労賃率は高く,飼料費も高い。<br>これらの結果から,各国に生産費,価格水準の比較に当たっては飼料費,雛費の直接費ばかりでなく間接費が重要となる。とくに間接費のうちでも労働費,施設費を合体した施設&bull;労働費として比較すべきである。