著者
小川 晶
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.51-62, 2011-08-30

高学歴・高齢初出産母子の中には,子どもが生まれたことでそれまでの仕事中心の生活の変換を余儀なくされることも多く,そのような家庭への支援には困難を伴うのが常である。増加傾向にある高学歴・高齢初出産母子への支援の難しさを解くことは保育実践上の今日的課題と言えよう。そこで本論文の目的は,高学歴・高齢初出産母子への支援のあり方について一つのモデル構築を試みることである。そのためにここでは,母親との関係構築に困難を伴った筆者自身の母子支援実践過程から保育者と子ども,母親と子ども,保育者と母親の関係性の変容過程を取り出し,エピソード記録を中心とする質的研究の方法をとって分析した。その結果,母親の価値観を変えるためには,子どもがより良く変わるプロセスを可視化して示すことが必要であること。また,社会的志向が高く,職業キャリアを積んでいる女性としての母親への寄り添いが必要であること。さらに,複雑化する双生児の母子関係形成を解かり易く示す必要があることが分かった。
著者
松井 剛太
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.12-21, 2009-08-30

The purpose of this study is to clarify the structure of teacher conferences where teachers have the opportunity to reflect on their personal childcare practices and consider the frameworks in which these practices occur. During teacher conferences, the author analyzed the content of teacher questions and examined how these questions worked as change agents to transform the teachers' childcare practices. The change agents included fundamental questions about their own frameworks of childcare based on their experience. The result suggests that the change agent plays an effective role to reconsider and improve their childcare practices. It is clear that an effective teacher conference has a structure based on an essential intention to support teacher reflection on their personal childcare practices.
著者
真鍋 健
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.85-95, 2011-08-30

本研究では,特別な配慮が必要な幼児ならびにその保護者に対する移行支援について具体事例を通して検討を行った。具体的には,水平的・垂直的移行等,多様な移行の種類・形態が存在することを前提に移行支援モデルを開発し,それに基づいた支援を,保育所入所を控えていた1名の幼児に適用した。移行支援モデルは,目的レベル・活動レベル・機関間連携のレベルの3つから構成されるものである。そのような移行支援モデルのもと,特に,本稿では「幼児の新たな環境への適応」を支援の目的とした。事例の結果から,実行可能な支援活動を展開させるためには,支援者や支援機関間の関係性に配慮を行う必要があることが示唆された。また今後移行支援を展開させるにあたって必要な事項について考察を行った。
著者
ポーター 倫子
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.73-84, 2011-08-30

この縦断的ケーススタディでは,自閉症児の制限された興味(こだわり)を発展する援助方法としてのプロジェクト・アプローチの有効性を検討することを目的とする。研究対象は,高機能自閉症児である筆者の息子であり,幼少の頃より列車に特別な興味を示してきた。幼児教育者である筆者は,息子が3歳半より列車に関するプロジェクトを家庭保育の中で導入してきた。実践の結果,プロジェクト・アプローチの形態を参考にした3つの方略,(1)ウェブを作成することで興味の対象を計画的に様々な方向へ広げること,(2)熟練した遊び手と関わる経験を提供すること,(3)様々な媒体を通して自分の思いやイメージを表現するドキュメンテーションの機会を与えること,が自閉症児のこだわりに教育的意義を持たせ,遊びのスキルを高める効果的な方法であることが示唆された。
著者
足立 里美 柴崎 正行
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.213-224, 2010-12-25

本研究の目的は,保育者がどのような問題や落ち込み(揺らぎ)の中で,保育者アイデンティティを形成していくかを明らかにすることである。本研究においては,保育経験別,所属別の合計24名の保育者を対象にインタビューを行い,SCQRM法を用いて分析を行った。結果,保育者にはその成長に応じた様々な問題や落ち込み(揺らぎ)があった。そして,その解決のためには相談できる重要な他者の存在など保育者を取り巻く職場環境が大きく関与していることが明らかになった。
著者
横井 紘子
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.189-199, 2006-12-25

The purpose of this study is to clarify how we grasp the concept of "play in early childhood through examining two episodes from the author's experience. The analysis is based on some phenomenological theories, especially those of J. Henriot, M. Merleau-Ponty and F. Kummel. Findings are as follows. First, "play" exists when we name a child's behavior "play" or recognize it to be "play" Second, the above-mentioned action is not only useful but also a cause of "misunderstanding" in my process of comprehension. Third, when I grasp a child's experience, it synchronously transforms my existence. Finally, it is necessary to break away from a tendency of closed perception in order to transcend this misunderstanding and reach a new understanding.
著者
瀬野 由衣
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.157-168, 2010-12-25

本研究では,2〜3歳児の遊び場面を半年間にわたって幼稚園で縦断的に観察し,遊びにおいて子どもたちが生み出す共有テーマの特徴を調べた。その結果,遊びを特徴づける共有テーマは時間経過に伴い,質的に変化していくことが示された。前半の3か月間は,相互模倣によって共有テーマを生み出す子どもの姿が観察された。相互模倣において,子どもたちは同じモノ,同じ動きを介して関わりながら,"同じ"であることを体感したり,互いの間にコンタクトが成立していることを確認しあう姿がみられた。その後,徐々に,ごっこの開始を誘いかける言葉が契機となって開始されるごっこのテーマが共有されるようになった。初期のごっこ遊びはルーティンに支えられていたが,徐々に皆で目標を共有しながらテーマを共有する姿がみられるようになった。