著者
大野 恭子 浦上 郁子 渡辺 真理 西川 隆 田伏 薫 柏木 敏宏
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.243-250, 1987 (Released:2006-11-10)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

失語症者を対象に, (1) 動物や物品の名称とそれに対応する擬音語の聴覚理解・語想起を比較し,更に, (2) 実際の音響 (環境音) の認知ならびに環境音からの擬音語・名称の想起を調べた.擬音語と名称の成績の間には,聴覚理解・想起とも正の相関が認められた.聴覚理解には失語症型による有意な差はなかったが,想起については, Fluent 群は Nonfluent 群に比べ擬音語が名称より有意に困難であった.また,環境音の認知に障害を示す症例があり,環境音と言語音の認知の成績の間には正の相関が認められた.擬音語が音と意味の繋がりがより直接的であるという特性にもかかわらず名称よりかえって想起が困難な傾向を示した要因として,擬音語も社会的な記号体系である言語の一部で,普通の名称と共通の音韻処理過程を経ること,擬音語の使用頻度の問題,及び失語症者は環境音とその対象との意味的連合に障害が及いでいる可能性があることを考えた.
著者
永井 知代子 岩田 誠
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.16-23, 2001 (Released:2006-04-25)
参考文献数
24
被引用文献数
2 1

Gerstmann 症候群をめぐる論点 (Benton 1992) のうち,四徴は同一の基盤を持つ症候群といえるのか,に関して1症例を通して考察した。症例は左頭頂葉出血の 47歳右利き男性。手指および自己・他者身体の左右認知障害,数の概念理解障害を伴う失算,漢字の想起困難主体の失書を認めた。さらに模写・写字・復唱など模倣は良好だが,視覚的記憶からの描画や口述・動物名想起や特徴口述はできなかった。また辞典を引く際五十音順が想起できず,WAIS-R では絵画完成・配列・積木・類似問題が,WMS-R では対連合記憶が不良であった。以上は (1) ある系列の中での対象の順番や配置を理解・操作できない, (2) 視覚刺激のない状況下で記憶から対象を記述できない,とまとめられ,この中に Gerstmann 症候群の四徴も含む。これは心的イメージ形成における,部分を適切な配置に並べる処理過程 (Kosslyn 1988) の障害ととらえられ,四徴の共通の基盤と考えられる。
著者
吉川 左紀子
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.103-112, 2001 (Released:2006-04-25)
参考文献数
21
被引用文献数
1

最近,Haxby ら (2000) は顔知覚の分散神経機構モデルを提案し,その中で顔の恒常的な情報の処理機構と可変な情報の処理機構を区別した。顔の恒常的な情報は人物同定に必要な情報であり,視線や表情のような可変情報はコミュニケーションを促進する情報である。本稿は可変情報に焦点を当て,表情と視線方向の相互作用を検討する心理学研究を報告した。実験によって (1) 視線手がかりによる自動的な注意シフトは情動を表出した表情によって影響を受ける, (2) 情動を表出した表情の知覚は視線方向によって影響を受け,特に視線が観察者の方向に向いているときに知覚精度が高い,ということが明らかになった。これらの事実は,われわれの神経機構が他者からの社会的メッセージをきわめて効果的に検出するしくみを有していることを示唆している。また,これらの研究から,神経機構に関する知見と心理学の行動実験を関連づけることはきわめて有効なアプローチとなることが示された。
著者
斎藤 寿昭 加藤 元一郎 鹿島 晴雄 浅井 昌弘 保崎 秀夫
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.223-231, 1992
被引用文献数
24

脳損傷者53例, 健常者24例に頭文字およびカテゴリーによる Word Fluency Test および Modified Stroop Test を施行した。前頭葉損傷群の頭文字による Word Fluency Test の成績は他部位皮質損傷群に比較し有意に低下していた, 次に前頭葉損傷群において, Word Fluency に対しステレオタイプの抑制障害が与える影響を発動性要因を考慮した上で検討した。すなわち, ModifiedStroop Test の単純な色名呼称に要する時間を用い, 前頭葉損傷群を発動性低下が強いと考えうる群と発動性低下が少ないと考えうる群に分けたところ, 後者で頭文字による Word Fluency Test の成績と Modified Stroop Test における抑制障害の指標との間に負の相関が認められた。したがって, 発動性欠如の程度が軽度と考えうる前頭葉損傷群における Word Fluency にはステレオタイプの抑制障害が関与すると考えられた。
著者
中村 やす 野副 めぐみ 小林 久子 中尾 貴美子
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.234-242, 1998
被引用文献数
1

10年あまりの長期訓練経験に基づき独自に心理・社会的側面の評価表を作成し,信頼性を検討した。グループ訓練に参加している慢性期失語症者17名についてその評価表を用いて評価を行った。同評価表は参加態度,対人意識,情緒,自己認知,障害の受容に関する5大項目と15の下位項目から成る。グループ参加年数と良好項目数の割合との関係および評価プロフィールの分析を行った。結果として, (1) 失語症者の自己評価の低下や自己開示への抵抗,障害へのこだわり,頑固さなどの心理・社会的側面の問題が明らかに示された。 (2) これらの問題は特に重度者およびグループ参加年数2年未満の対象者で顕著であり,参加年数の経過とともに軽減する傾向が認められた。 (3) また評価表にはグループ内での個人の心理・社会的側面の状態や変化をとらえやすくなる,スタッフ間で視点の共有が可能となる,グループ訓練の効果を示す1つの指標と成りうる,などの有用性があると考えられた。
著者
小嶋 知幸 宇野 彰 加藤 正弘
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.172-179, 1991
被引用文献数
4

&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;漢字の障害が軽度で,仮名に重度の障害を呈した失書症例1例に対して2種類の訓練法を適用し,訓練効果の比較検討を行った。1つは写字だけの訓練,1つは仮名1文字を,同一の音で始まる漢字1文字と対連合学習させる訓練 (キーワード法訓練) である。<br>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;その結果,写字訓練は効果が訓練期間中のみに限定され,定着が困難と思われた。一方,キーワード法訓練は高い効果が認められ,しかも訓練終了後もself generated cueとして定着,実用化する可能性が示唆された。<br>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;この訓練法は,漢字想起の処理過程を利用した仮名の想起方法であると考えられた。<br>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;障害された処理過程への直接的訓練より,比較的良好に保たれた処理過程をバイパスルートとして活用する訓練の方が有効であったことから,本症例の仮名文字の想起障害は,字形のエングラムそのものの障害ではなく,エングラムヘのアクセスの障害と考えられた。
著者
永井 知代子
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.133-141, 2001 (Released:2006-04-25)
参考文献数
24

相貌認知の特殊性について,相貌失認と Williams症候群研究の立場から言及した。まず相貌失認に関しては,モーフィングによる合成顔画像を用いた新しい相貌認知検査の結果から,相貌失認では相貌弁別精度が著しく低いが,一方でより類似した顔を似ていると判断する傾向は健常者同様であることを示した。これはカテゴリー知覚を反映しており,相貌失認の障害レベルが専門性で規定される可能性を示唆する。近年の fMRI研究ではこの可能性を支持する所見も得られており,従来の相貌認知特殊説に疑問を投げかけている。また,Williams症候群は障害が顕著な視空間認知に比して相貌認知が良好であることから顔モジュール説を支持する疾患とされてきたが,全体情報ではなく部分情報から認知しているとの報告もあり,認知の方法自体が正常とは異なる可能性が指摘されている。このように,相貌認知は特殊である,と断言するにはまだ克服すべき問題が残されている。
著者
山下 主子 大角 幸雄 山下 光 山鳥 重
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.319-326, 2000 (Released:2006-04-25)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

動詞の想起障害と助詞の誤りが顕著な失語症の1例を報告した。症例は60歳の右利き女性で,頭部交通外傷により非流暢性失語症と右不全片麻痺を生じた。頭部MRIでは,左大脳半球の皮質領域に高信号域を示す散在性病変が認められ,右半球の前頭葉内側部にも一部及んでいた。日常会話や物品の使用法の説明課題において,名詞の想起が比較的保たれていたのに対して,動詞の想起障害と助詞の誤りが顕著だった。そこで,動作絵の説明課題を経時的に実施することによって本例の動詞と助詞の回復過程を検討し,動詞の想起障害と文法能力との関係を考察した。6ヵ月後,動詞の想起と助詞の使用はそれぞれ改善した。助詞の選択は動詞の正答,誤答にかかわらず同じように改善したことから両者はある程度独立した能力であると考えられた。本例の多発性病変からは解剖学的考察はできないが,動詞の想起と助詞の選択は異なった神経基盤の上に成り立っている可能性が示唆された。
著者
山下 光
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.140-148, 1997 (Released:2006-05-12)
参考文献数
33

A. D. Baddeleyによって提唱された (Baddeleyら 1974) ,ワーキングメモリー・モデルの成立と発展の過程と,臨床神経心理学との関係について論じた。Baddeleyがワーキングメモリーの3項モデル (ワーキングメモリーが,言語情報の一時的保持を行う音韻ループ,視空間情報の一時保持を行う視空間スケッチパッド,それらをコントロールする中央制御部の3つの下位システムから構成されている) を提案した契機になったのは,Warringtonら (1969) による短期記憶症候群の発見であり,当初は音韻ループと言語性短期記憶に関する研究が注目された。しかし,その後はワーキングメモリー (特に中央制御部) と,前頭葉機能の関係に関する研究が増加している。最近,脳科学における学際的な研究領域として認知神経科学が活況を呈しているが,ワーキングメモリーはそのもっとも重要なキーワードとして広く認知されつつある。
著者
井上 和子
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.116-123, 1991 (Released:2006-11-10)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1
著者
吉田 玲子 浅川 和夫 佐藤 公典 栗坂 昌宏 北村 守彦
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.664-670, 1984 (Released:2006-08-04)
参考文献数
14
被引用文献数
2 3

A case of semantic aphasia (Luria) with difficulty in understanding logico-grammatical relations was reported. The patient, 28-year-old left-handed woman, was injured in a traffic accident in the right parieto-occipital area. After fifteen months of recuperation, she was noticed to suffer from mild word-finding difficulty, agraphia, acalculia, minimum right-left discrimination deficit and disturbance of logico-grammatical operations, in the context of excellent verbal I. Q. on the WAIS Test and almost normal performance on the Token Test and other syntax tests. Spatial organization and representation ability showed some decline. Difficulty of understanding logico-grammatical relations became apparent mostly in the case of double comparative constructions or triple constructions which required the subject, for instance, to draw a circle to the right of a triangle and to the left of a square. To decipher these logico-grammatical constructions according to grammatical rules, it seemed neccessary for the subject to consider the elements of the sentence simultaneously in order to know which is the main element acting as the basic point of judgment, to represent mentally the relation of elements as a spatial constellation, and to reverse mentally the word order in the sentence. It was difficult for the patient to meet these requirements.
著者
谷 哲夫 天田 稔 清水 倫子 飯塚 優子 荒木 吏江子
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.153-163, 2002 (Released:2006-04-24)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

失語症を伴わない Foreign Accent Syndrome (以下FAS) の 1症例を経験した。 本例は 54歳の左利き女性で, 左半球の被殻から放線冠に梗塞巣がみられた。 本例には構音障害とプロソディーの異常が観察されており, これらが組み合わされて外国語の印象を与えると考えられた。 本稿では, FASが失語や発語失行, あるいは構音障害などの回復過程で生じる症状なのか, それともこれらの障害とは異なる独立した症候群なのかを明らかにするために, 非言語的な構音器官連続運動検査を実施した。 その結果,発語失行例に観察された錯行為は本例と麻痺性構音障害例には観察されなかった。 複雑連続運動では麻痺性構音障害例に比して有意に運動回数が低下した。 また本例は運動課題別の運動回数の変動が大きかった。 したがってFASの要因の 1つが, 構音に至る前段階の運動障害である可能性を示唆した。 本例の場合, 非言語的構音器官運動の編成パターンの違いによって著しく偏った運動麻痺に類似する障害の存在が示唆された。
著者
山鳥 重
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.237-240, 2002 (Released:2006-04-25)
参考文献数
11

ヒトの記憶はその使われ方の違いによって大きく 5つのタイプに区別できる。すなわち,作業記憶,出来事記憶,予定記憶,意味記憶,および手続き記憶である。このうち出来事記憶,意味記憶および,手続き記憶はその人の生活史および行動パターンの基盤を形成する。作業記憶は意識と密接に関係し,心理的現在を可能にする。予定記憶は現在を未来へつなぐことを可能にする。この 5種の記憶の神経心理学的特徴,および解剖学的基盤について著者らの考え方を述べた。
著者
目黒 祐子 藤井 俊勝 月浦 崇 山鳥 重 大竹 浩也 大塚 祐司 遠藤 佳子
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.251-259, 2000 (Released:2006-04-25)
参考文献数
20
被引用文献数
1

一般に言語性短期記憶は音韻情報の保持容量を指標としているが,言語情報は通常,意味と結びついているはずである。そこで単語レベルについては音韻の短期記憶 (音韻性ループ) に加えて意味の短期記憶 (意味性短期貯蔵庫) を仮定した。標準失語症検査の単語レベル課題の成績がほぼ同じ2症例に,単語系列を聴覚的および視覚的に提示し,口頭反応 (音韻情報保持) と線画指示 (意味情報保持) の成績を比較した。前頭葉損傷の症例1は刺激を聴覚提示した場合には指示スパンが低下しており,視覚提示した場合には聴覚提示に比べて明らかに成績が低下していた。一方,側頭-頭頂葉損傷の症例2では課題により成績に差を認めなかった。すなわち,症例1では複数情報が継時的に入力された場合,音韻情報と意味情報の保持に乖離を認め,さらには視覚情報から音韻情報への変換過程にも障害が見られた。しかし症例2では音韻性短期貯蔵庫の容量が削減していても意味情報として保持可能であることが明らかとなった。
著者
倉持 裕子 長谷川 啓子 山本 弘美 河村 満
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.188-196, 1996

Wernicke 野 (左上側頭回後部) の梗塞性病変により典型的 Wernicke 失語を呈した2症例の読字・書字障害を検討した。小学校1~3年生で学習する教育漢字一文字およびそれに対応する仮名語,ならびに仮名一文字 (清音46字) の音読と書き取り検査を施行した結果,2症例とも,漢字・仮名のいずれにおいても音読のほうが書き取りより良好であった。漢字・仮名語の音読・書き取りいずれにおいても,課題字 (正答字) と音韻が類似した誤りが多く認められた。これは, Wernicke 失語の口頭言語における特徴である "音韻の選択障害" と "音韻の聴覚的処理障害" が,文字言語においてもみられたものと考えられた。仮名一文字の書き取りにおいても2症例は類似した傾向を示し,正答字に余分な文字を付け加えて書く反応 (付加反応) が多くみられた。書き取りにおける付加反応は, Wernicke 失語の口頭言語での特徴である, "流暢な多弁傾向" を反映しているものと考えられた。
著者
久保田 競
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.284-290, 1982 (Released:2006-08-11)
参考文献数
15

Previous studies on the so-called language learning skill of chimpangees were briefly reviwed and discussed. Backgrounds why we trained three young chimpangees to use lexigrams through a matching-to-sample method were explained. A skill to name 25 different colored objects developed without previous experience at requesting particular objects using the lexigrams. Future plans to study the brain mechanisms related to language acquisition are briefly mentioned.
著者
森 悦朗 山鳥 重 須山 徹 大洞 慶郎 大平 多賀子
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.450-458, 1983
被引用文献数
1 2

Two cases with the mildest form of Broca's aphasia were studied neuropshychologically and neurologically. In case 1, a 58-year-old right-handed man had dysarthria, literal paraphasia, and literal paragraphia because of development of glioma. Comprehension was excellent. There were the right central and hypoglossal paresis and abolition of gag reflex. The site of lesion confirmed by computerized tomography and operation was in the lower part of the left precentral gyrus. A month after the resection of the tumor, only paragraphia improved. In case 2, a 58-year-old right-handed man developed the essentially same neurological and linguistic symptoms as those of case 1. Computerized tomography demonstrated a small hematoma probably restricted in the left inferior precentral gyrus. Three months later, the symptoms subsided except for slight dysarthria and dysgraphia. On the basis of literature and our two cases, it may be concluded that the left inferior precentral gyrus plays an important role not only in articulation but also in writing, and that this area is a more critical zone for Broca's aphasia than the foot of the left third frontal gyrus.
著者
柏木 あさ子 柏木 敏宏 西川 隆 田辺 敬貴 奥田 純一郎
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.105-112, 1994 (Released:2006-06-06)
参考文献数
38

半球損傷例に出現する半側空間無視(Unilateral Spatial Neglect, USN)から方向性注意の半球機能差が推測されているが,脳梁離断症状としての USN の存在は最近まで受け入れられていなかった。しかしながら,脳梁の自然損傷例では既に少なくとも数例に右手における左 USN が記載されている。詳細な検索が行われた自験例YYにおいては,反応が左半球に依存する課題で顕著な左 USN が検出されたのみでなく,右半球に依存する課題で軽度右 USN が検出された。他方,明らかな USN は出現しないとされていた脳梁の外科的全切断例においても,一部の症例に右手における左 USN の記載がある。難治性てんかん患者では,幼少期からの脳損傷やてんかんの持続のために脳の機能差の形成が健常人より弱いことが推測されている。外科的全切断例の多くに USN が観察されないのはその反映と推察される。これらのことからわれわれは脳梁離断症状としての USN の存在を認めてよいと考えた。背景となる半球機能差としては, Mesulam の「右利き健常人では,左半球は主に右空間に,右半球は左空間に加えやや弱いながら右空間にも注意機能を持つ。」との説が有力である。