著者
鷲田 任邦
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.1_81-1_104, 2021 (Released:2022-06-15)
参考文献数
35

本稿の目的は、政治的分極化 (党派的分断) がどのように民主主義を後退させるかを明らかにすることである。そのために、多国間パネルデータ (140国、1975~2019年、V-Dem/V-Party) と地域横断的なサーベイデータ (74国、2010~2020年、WVS/EVS) を用いて、マクロ・ミクロな観点から体系的分析を行う。まず、多国間データ分析を通して、エリートレベル・有権者レベルの政治的分極化が選挙の正統性を低下させ、民主的規範を軽視する非リベラル政党の政権獲得・維持に寄与すること、そうした非リベラル政権が民主主義 (特に司法・議会・メディアの自立性や法の支配) を浸食することを示す。そのうえでサーベイデータ分析を通じ、政治的分極化が選挙公平性認識の党派間のギャップ (与党支持者は選挙の公平性を高く評価し、野党支持者は選挙不正を疑う) を拡大するだけでなく、たとえクリーンな選挙を実施したとしても選挙が公平であるという認識を全体的に低下させること、そして、選挙の公平性認識の低下は、政治暴力や権威主義 (強権的リーダーや軍政) の許容につながることを示す。本稿ではさらに、政治的分極化の拡大要因 (選挙タイミングや政権汚職) や政治制度 (議院内閣制や小選挙区制のリスク) が民主主義の後退に与える影響なども検討する。
著者
秦 正樹
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.1_166-1_188, 2022 (Released:2023-06-16)
参考文献数
38

本稿は、ドラマにおける架空の政治劇の偶発的な視聴が、実際の政治空間に対する不信感に対して、なぜ・どの程度投影されるのかについて、ドラマ「半沢直樹」(第2クール)をテーマとしたサーベイ実験を通じて検証した。従来、テレビが有する政治的効果に関する研究は、政治報道など「政治性がある」ことを前提としたコンテンツを中心に検討が進められてきた。しかしこのような研究では、選択的接触などの問題があって、テレビ→政治的態度の明確な因果効果の検証はなされてこなかった。そこで本稿では、極めて高い視聴率を誇る「半沢直樹」において偶然に接触した政治家像が、現実の政治的空間にも影響を与えうるとの仮説を立てて、その検証を行った。実験結果より、「半沢直樹」で描かれる「悪い政治家」への接触は、現実の政治世界における政治家への不信感をも喚起していること、ただし政治的無関心層では、逆に「半沢直樹」の視聴が政治家への信頼感を高める効果を有することが明らかになった。
著者
福原 正人
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.2_224-2_245, 2018 (Released:2021-12-26)
参考文献数
47

民主主義は, どういった決定単位を採用するべきなのか。こうした問いは, 意思決定の母体集団, つまりデモスを特定する課題として, 「民主主義の境界問題」 と呼ばれる。しかし, 同意という現実の手続きは, その個別性ゆえに, 正しいと評価しえない母体集団を特定する一方, 集団構成や行為主体性に注目する境界画定の正当性は, その一般性ゆえに, アジェンダごとの考慮事項に耐えられる母体集団を特定できない。そこで本稿では, D. エストランドが定式化する 「適格な受容可能性」 という正統性条件を参照しながら, アジェンダごとの考慮事項を織り込む仮説的な手続きが, アジェンダごとの母体集団内部における意思決定のみならず, 意思決定の母体集団それ自体を構成する作業に適用されることで, 境界画定の正当性を担保する 「理に適った境界画定」 を構成することを擁護したい。
著者
池田 峻
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.1_316-1_340, 2020 (Released:2021-06-16)
参考文献数
22

代議制民主主義において、有権者から選出されていない官僚を政治家はいかに統制しているのだろうか。本研究は、政治家が審議会への諮問の強制という手段を用いて統制を行っていると主張するものである。 審議会は行政の民主化などを目的に設置される行政機関であるが、その実態は官僚が望む政策を追認する 「隠れ蓑」 に過ぎないという見方が根強く残る。これに対し本研究は、政治家が法令に 「○○審議会に諮問しなければならない」 旨 (これを手続的指示と呼ぶ) を書き込むことによって、官僚の逸脱を防ごうとしている側面があることを示してゆく。 では、いかなる条件で手続的指示が行われるだろうか。本研究ではゲーム理論を用いて政権党・官僚制・審議会の関係を定式化し仮説を導出したあと、2002年時点に存在する全ての審議会を対象とした計量分析によってそれを検証する。 分析の結果、①政官の理想点の乖離が大きい、②審議会の権威が小さい、③審議会と政権党の理想点が近い、④政権党が現状の政策に不満を持っているという四つの場合においてより多くの手続的指示が行われることが明らかとなった。この結果から、官僚は政権党の戦略によって審議会を利用させられており、審議会が統制手段として用いられているという見落とされてきた側面が浮かび上がる。
著者
庄司 貴由
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.2_206-2_227, 2011 (Released:2016-02-24)
被引用文献数
1 1

The Gulf Crisis in 1990, set Japan making United Nations Peace Cooperation Bill to realize theSelf-Defense Force (SDF) dispatch. This report will clarify the Ministry of Foreign Affairs (MOFA) initiatives regarding this bill and its limitation.   Concerning the SDF dispatch, Prime Minister Toshiki Kaifu who insisted on adjustment of the SDF status, deepened conflicts with the Defense Agency and the Liberal Democratic Party executive machine which insisted on cooperation as the existing SDF status. To address this situation, MOFA coordinated approaches by giving concurrent post to the SDF and control by the Prime Minister.   However, the bill of MOFA was accompanied by a reverse effect, prompting decline of political centripetal force of Kaifu as they failed persuading the opposition party under the twisted diet. This resulted in withdrawal of the bill and stagnation of the “International Cooperation Initiative” that was originally the aim of Kaifu and MOFA.
著者
小宮 京
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.1_319-1_339, 2013

This article investigates the reform of Japanese Police System during 1945-55.   Most of the existing studies of Japanese Police System under the Allied Occupation rarely discuss local Police System. Our main focus in this article is the Osaka Metropolitan Police Department (OMPD) during 1949-1954.   In 1948, GHQ ordered the Tokyo Metropolitan Police Department (TMPD) to adopt a patrol system on the model of the American system. TMPD refused the directive. Next, GHQ carried out the same directive to Eiji Suzuki, the chief of the Osaka City Municipal Police. Suzuki founded OMPD which had an American type of the patrol system. After the Allied Occupation, OMPD was abolished because it was faithful to GHQ directives. Thus, OMPD was reorganized to the Osaka Prefectural Police Department.   Japanese Police System returned to a highly centralized system as a result that most of the Police System reform under the Allied Occupation were denied.
著者
山田 真裕
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.2_52-2_69, 2011 (Released:2016-02-24)
参考文献数
13

This paper is a case study of organizational transformation in a prefectural party unit of Japan's Liberal Democratic Party (LDP). Ibaraki prefecture was one of the bulwarks of LDP dominance and the prefectural organization (“kenren”) had been proud of own strength. But, at the defeat in the 2009 gubernatorial election, many conservative local politician and interest organizations were against the “kenren” and supported the incumbent governor, Masaru Hashimoto, and let him win. The defeat broke the previous regime at the “kenren”, and the Ibaraki-kenren was forced to rebuild its organization and to try transforming itself from being a prefectural member-centered organization to becoming a more inclusive organization.   The purpose of this article analyzes the process of the gubernatorial defeat and the organizational reformation in the kenren following that defeat, to claim the necessity of further accumulation of analysis about local organizations of political parties, not only from perspective of national level confrontation among parties, but also local conflict among local politicians and interest organizationswith a peculiar dynamism.
著者
上川 龍之進
出版者
日本政治学会
雑誌
日本政治學會年報政治學 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.2_134-2_155, 2012

It is generally thought that large companies have a more powerful influence on policy making than citizens' groups in contemporary Japan. In 2006, however, it was decided that the maximum interest rate should be lowered, which the groups aiding victims of consumer lending asked for but which the consumer loan companies strongly opposed. How did 'weak' citizens' groups win against 'strong' large firms? Through analyzing this case, this article examines the political influence of large corporations and citizens' groups. <br>&nbsp;&nbsp;This article is organized as follows. To begin with, it traces the history of regulations on the maximum interest rate. Next, it depicts the political process of abolishing the 'gray-zone' interest rates in 2006. Finally, it examines the resources of the consumer loan companies and the success factors of the groups aiding victims of consumer lending by comparing this case with the case of 'defective cars problem' analyzed by Hideo Otake.
著者
松尾 隆佑
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.2_356-2_375, 2016 (Released:2019-12-10)
参考文献数
66

集合的自己決定としてのデモクラシーには, 決定の主体たるべきデモスの境界画定という根本的な決定を民主的に行うことの困難が伴う。本稿では, こうした 「境界問題」 を解決する指針として, 決定の影響を被る者によってデモスを構成するべきとする 「被影響利害原理」 が有力であることを論じ, この原理に基づく 「グローバル・ステークホルダー・デモクラシー (GSD) 」 の構想を検討することで, 新たな民主的秩序化の可能性を示す。被影響利害原理の解釈は, 1) 影響の意味, 2) 影響の不確定性, 3) 影響を被る者への発言力の配分, などをめぐって多様でありうるが, GSDは, 諸個人の自律を脅かすような影響を蓋然的にもたらす国家的・非国家的な公共権力を, 等しい発言力を認められたステークホルダー間の熟議により統御すべきとする立場である。被影響利害原理に基づく場合にもデモスの境界をめぐる争いは避けられず, GSDが主権国家秩序に取って代わりうるわけでもないが, その制度化は従来の法的デモスに加えて, 機能的・多元的なデモスを通じた集合的自己決定の回路を新たに整備するものであり, より適正な境界画定を導く構想として規範的に擁護しうる。
著者
大竹 弘二
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.2_55-2_81, 2020 (Released:2021-12-15)
参考文献数
26

民主主義の敵に対して寛容である必要はないという戦闘的民主主義の思想は、ナチスの経験を経た戦後ドイツで特に発展したが、今日ではそれ以外の少なからぬ国々でも採用されており、さらにはヨーロッパ人権条約のような国際条約にも見られるようになっている。しかし同時に戦闘的民主主義は、そのエリート主義的な人民不信や恣意的な拡大適用ゆえにそれ自体が民主主義を毀損する危険があるとも批判されてきた。特に2000年代以降、イスラムと自由民主主義の両立可能性が疑われるなかで、ヨーロッパ人権裁判所は世俗主義の擁護を名目とした各国でのムスリムの権利制限を容認する判決を下すようになったが、これに対しては戦闘的民主主義の過剰適用として批判も多い。こうした問題を受けて、近年の新戦闘的民主主義論者は、民主主義の敵を排除するだけでなく、それを包摂する実践も伴った二重戦略を構想するようになっている。それは民主主義を実体的価値として防衛する必要性を認めると同時に、万人が自由で平等な市民として参加するという手続き主義的な民主主義理解も維持するような戦略である。本論文は戦闘的民主主義論の現状を概観したうえで、それが従前批判されてきた欠点の克服に成功しているかどうかを検討する。
著者
濱本 真輔 根元 邦朗
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.2_70-2_97, 2011 (Released:2016-02-24)
参考文献数
48
被引用文献数
1 1

While politicians still seem to see district activities as an important strategy for mobilizing personal votes, elections in Japan are increasingly marked by party competition. Why do they engage in such a strategy and does it really increase votes? By answering these questions, this paper aims to address how nationalized party competition affects politicians' behavior and how they adjust their different reelection strategies in changing environments. We hypothesize that personal-vote campaigning indeed increases votes and that its impact is larger where the incentives to cultivate personal votes are greater. With an original time-series dataset on the schedules of more than 150 Diet members, we offer the first systematic empirical test and find evidence confirming the hypotheses.
著者
真田 尚剛
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.1_163-1_184, 2016 (Released:2019-06-10)

本稿は, 1976年10月に閣議決定された 「防衛計画の大綱」 (防衛大綱) に至る過程について, 1970年代前半における国内環境に着目し, 論じるものである。まず, 世論調査の結果と防衛政策関係者の認識の間に乖離があることを明らかにする。次に, 世界最大の航空機事故である雫石事故, 史上初めての自衛隊違憲判決である長沼裁判, 革新勢力の伸長による保革伯仲, 各地での反自衛隊事件を受けて, 防衛政策関係者が従来にないほどの強い危機感を覚えた点を分析する。最後に, 彼らが国内での個別具体的な事案の発生を受け, 防衛政策や自衛隊の正当化を図るために, 1972年10月の4次防で防衛構想と情勢判断を初めて明示し, 1976年10月にはさらに詳しい内容となる防衛大綱を策定するに至った点について解明する。結論として, 世論調査ではなく, 日本国内での防衛問題に関連する批判的な事案の発生により, 防衛政策関係者が防衛政策や自衛隊の正当化を図るべく, 国民への説明の必要性を認識し, 初めて防衛大綱を策定するに至ったことを立証する。
著者
三谷 宗一郎
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.1_152-1_177, 2020 (Released:2021-06-16)
参考文献数
46

ひとたび成立した政策を終了させることは容易ではない。政策の不必要な継続を回避し、円滑な終了を促す目的で、米国では1970年代から州政府レベルの立法過程において、法制定時に当該政策の失効期限を定めるサンセット条項が急速に普及した。日本には、類似する立法技術として失効条項や廃止方針条項を付す法律 (以下、時限法) が存在するが、その運用実態は判然としない。時限法は当初の期限通りに失効しているのか、どのような時限法がなぜ存続するのかを明らかにし、政策終了論および立法過程論上の空白を埋めることが本稿の目的である。研究の結果、⑴戦後制定された時限法は全208件で、そのうち約半数が当初の期限通りに失効しておらず、中には最大12回延長され、半世紀以上も存続する時限法が存在していたこと、⑵時限法のうち、衆議院議員提出のもの、国土開発分野のもの、法律補助規定を有するもの、制定当初の失効期限が5年以上に設定されているものは存続する確率が高いことが明らかになった。一部の時限法は、失効期限が到来するたびに票と利益を交換する機会を創出し、関係議員の再選可能性に寄与しているため、予定されている期限通りに失効しないという矛盾を抱える可能性があると考えられる。
著者
小野 弾
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.2_209-2_233, 2021 (Released:2022-12-15)
参考文献数
40

本稿では時事通信社の世論調査データの分析から、マクロレベルでの内閣支持の形成と変動の要因を検討する。内閣支持のサブクエスチョンである内閣支持理由にStimsonの再帰的二項モデルを適用し、「政権能力支持」、「漠然支持」 という内閣支持に関する2つのムードを析出した。数値の推移をみると、55年体制期は漠然支持、93年以降は政権能力支持ムードの値が高く、政権交代・制度改革を経て政権支持がより政権能力の評価に基づくものになっている。また、両ムードの組み合わせにより内閣支持率の93%が説明される。ベクトル自己回帰モデル (VAR) によって経済変数とそれぞれの支持ムードの関係を分析すると、日経平均株価は政権能力支持ムード、GDP成長率は漠然支持ムードに影響することがわかった。有権者は経済状況を判断材料として内閣支持を決定してきたが、55年体制期に比率が高かった漠然とした支持が経済成長に基づいたものであったのに対して、55年体制崩壊後に主となった政権の能力評価に基づく支持は日経平均株価からの影響を受けている。
著者
伊達 聖伸
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.1_122-1_144, 2013 (Released:2016-07-01)

The central figure of the Action Frarnçaise, Charles Maurras presented his “religious nationalism” amidst a tense conflict between republicans and Catholics, which culminated with the separation of the Churches and the State in 1905. The Catholic blocs supported him, because he reclaimed the Catholic monarchy from the French Republic by criticizing individualism and representative democracy. This article tries to contextualize his political thought at the dawn of the twentieth century and to analyze it from the viewpoint of political theology.   It primarily focuses on Maurras' so-called “Catholic positivism” which was largely influenced by Auguste Comte. However, Maurras deviates from the founder positivist in that he emphasizes the French “nation” instead of the “humanity”; he didn't acknowledge the idea of separation between temporal and spiritual powers. His monarchical nationalism stands on the positivistic horizon, and the autonomous nation rendered absolute doesn't require a heteronomous religious justification. This scheme of political theology, which appeared through his polemic with Marc Sangnier, bore some resemblance to neo-Thomism, despite its pagan character.
著者
藤田 将史
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.1_393-1_415, 2020 (Released:2021-06-16)
参考文献数
34

国際制度論においては、国家は基本的に国際協調を実現するために国際制度を利用すると考えてきた。しかし現実には、国家行動をあまり変えられないという意味で有効性の低い国際制度を、国家は多く利用してきたと指摘されている。では、なぜ国家は敢えて有効性の低い国際制度を利用するのだろうか。先行研究は、有効性の高い制度を構築することの困難・経路依存性・政策判断の誤りといった要因を提示してきた。しかし、それらの要因が存在しなくても国家は有効性の低い制度を利用する場合があり、先行研究の知見だけでは有効性の低い制度利用の事例群を十分に説明できない。本稿の主張は、国家行動を変化させない制度であっても国内政治上の効用があり、そのために政府によって利用される場合があるというものである。具体的には、政府が対立する国内主体からの批判を回避するために、有効性の低い国際制度を利用できるという仮説を提示する。そして、先行研究の逸脱事例であり本稿の仮説の最不適合事例に当たる、為替操作国認定問題での米国のIMF (International Monetary Fund) 利用の事例を用い、仮説を実証する。
著者
大井 赤亥
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.1_106-1_127, 2020 (Released:2021-06-16)
参考文献数
27
被引用文献数
1

冷戦終焉に伴う 「革新」 の一方的衰退をへて、1990年代以降の日本政治は、コンセンサス型意思決定によって利益配分を担ってきた 「守旧保守」 と、強いリーダーシップによって行政機構の縮小再編成を断行する 「改革保守」 との対立軸へと変容した。ここにおいて支配的趨勢となったのは 「改革保守」 であり、「改革」 が 「革新」 を代替して現状打開のための結集軸を担うようになった。 親社会主義と憲法9条を旗印とした 「革新」 と、規制緩和や民営化と日米同盟を基軸とする 「改革」 とは似て非なるものである。55年体制下において 「革新」 が左から自民党政治を攻撃したとすれば、ポスト冷戦下においては 「改革」 が自民党政治を右から解体しようとしたのであり、その方向性において二つのシンボルの出所は真逆であった。 しかしながら、「革新」 と 「改革」 とは、いずれも官僚主導や自民党の利益配分政治を否定する点において類似してもきた。二つのシンボルはいずれも現状変革の結集軸となり、ある種の等価物として機能してきたのである。 本稿はそのような 「革新」 と 「改革」 の意図せざる共振と 「改革」 が孕んだ二面性を考察するものである。
著者
本多 倫彬
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.1_178-1_200, 2020 (Released:2021-06-16)
参考文献数
24

民主党政権の外交・安全保障政策は、一般に評判が悪い。しかし、国際平和協力について民主党政権は、ハイチと南スーダンという二つの国連PKOへの自衛隊部隊派遣、東南アジア地域での防衛省・自衛隊による能力構築支援の開始、さらにジブチでの海賊対処を目的に自衛隊初の海外拠点の整備など、従来の枠を超える積極的な試みを行っている。 それにも係わらず、2011年の自民党への政権交代後、第二次安倍政権が進めた 「積極的平和主義」 に基づく国際平和協力強化の試み、就中、平和安全法制に対して、野党民主党は強固な反対姿勢を示した。これにより、批判者としての印象が先行し、民主党政権期の国際平和協力は正面から検討されることのないままとなっている。 本稿は、民主党政権の実施した国際平和協力について、後の自民党政権との相違と共通性に着目して検討を行うことで、国際平和協力における民主党政権の再評価を行った。分析を通じて、民主党政権の役割が、積極的平和主義に基づく国際平和協力の試みの基盤整備にあったことを示すとともに、自民・民主両党の国際平和協力政策の根本的相違は、国際平和協力の考え方にではなく、対米関係の考え方にあることを明らかにした。
著者
竹島 博之
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.1_11-1_30, 2016 (Released:2019-06-10)
参考文献数
29

日本では, 18歳投票権への引き下げを機に, 小中高等学校における有権者教育に大きな注目が集まっている。有権者教育を充実させることで政治への関心を高め, 若者の低い投票率を改善するためである。しかし, 近年の意識調査は, 若者の政治的関心が高まっているにもかかわらず投票率が下がるという矛盾した傾向を示している。本稿は, こうした若者の政治意識の現状を分析して若者の投票率向上に資する対策を探り, その中で有権者教育が果たす役割とその限界について考察している。若者の低投票率は, 仕事やアルバイトの忙しさ, 政治的無知や政治的無関心, 政治的有効性感覚の欠如に起因する。そのため, 投票率の向上には, 有権者教育の充実だけでは限界があり, むしろそれ以上に, 投票環境の改善や情報発信の工夫といった総合的な対策が求められる。有権者教育が効果を発揮するのは, 主には政治的有効性感覚の改善である。ただし, 投票の質を高めるという点では, 政治的リテラシーを育むシティズンシップ教育の導入が有効であると考えられる。
著者
乙部 延剛
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.2_236-2_256, 2015 (Released:2018-12-15)
参考文献数
33

政治理論は現実の政治に対してどのように関わっているのか。本稿では, 現在の政治理論が現実政治に即していないと批判する政治的リアリズムの議論を検討し, その射程と可能性を明らかにすることを目指す。バーナード・ウィリアムズ, レイモンド・ゴイスらを中心とした政治的リアリズムの潮流は, 過去10年ほど英語圏を中心とした政治理論の世界で大きな注目を集めているが, その主張内容には曖昧さが残り, 議論も続いている。本稿ではウィリアムズ, ゴイスが説く 「現実政治」 の曖昧さに注目し, それが通常政治としてイメージされる権力行使にとどまらない広範なものであり, 特定の領域への固定化に抗するものであることを明らかにする。現実政治の境界を定義できないという問題は, 現実と理論の二分法という, 政治理論で通常想定されてきた区分を揺るがすが, このことは, 必ずしもリアリズム政治理論の破綻を意味するものではない。むしろ, 固定不可能な 「政治的なもの」 を明るみに出すことを旨として, リアリズム政治理論はその独自性を主張することができる。