著者
進矢 正宏
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.116-123, 2017-09-05 (Released:2017-10-31)
参考文献数
28

一定のターゲットを狙って投球した場合,感覚運動系のノイズや運動野の背景活動の揺らぎにより,実際の投球は狙ったターゲットからの誤差を伴い分布する.運動系が最適な運動意思決定を行うためには,誤差の大きさや向きといった確率的構造を定量的に知る必要がある.本研究では,野球の投手の投球する際に生じる投球誤差分布を,二次元正規分布モデルと等確率楕円を用いて解析することにより定量した.特に,これまで考慮に入れられていなかった投球誤差分布の向きに着目し,それが投球フォームによって決定されているということを示した.また,このような投球誤差分布が,最適な投球位置を選ぶ過程で大きなインパクトを持つということを,シミュレーションによって示した.
著者
村田 哲
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.52-60, 2005-03-05 (Released:2011-03-28)
参考文献数
50
被引用文献数
3 2

Many studies have emphasized simulation theory as a core concept for the mirror neurons that are found in the ventral premotor area (F5) and inferior parietal cortex (PF) of the macaque. Imitation, social cognition, empathy and language are linked to mirror neurons. However, function of mirror neurons in the macaque is still missing, because such cognitive functions are limited or lacking in these monkeys. It is important to discuss these neurons in the aspect of motor function. I would suggest that mirror neurons in area PF might have a roll of monitoring of self generated action. This idea may provide neural correlate of self other distinction.
著者
西川 淳 岡ノ谷 一夫
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.79-93, 2007-06-05 (Released:2008-11-21)
参考文献数
64
被引用文献数
2 2

小鳥の歌は, 複数の歌要素が特定の規則に従って並べられた学習性の音声である. その複雑な時系列構造や発達過程の類似性などから, 小鳥はヒト言語の文法的側面を司る神経機構を探るための良い動物モデルとして盛んに研究されている. 本稿では, 小鳥の脳の解剖や局所破壊実験, 電気生理実験, 数理モデル研究について著者らの研究を交えて紹介し, 歌系列の生成と学習を司る神経機構の可能性について述べる. 最後に, 今後検討されるべき問題について議論する.
著者
田中 琢真
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.104-112, 2018-09-05 (Released:2018-10-31)
参考文献数
52
被引用文献数
2

大脳皮質の動作原理は未解明だ.様々な動作原理の候補が提案されているが,そのうち情報量最大化原理(infomax principle)は皮質の性質のある部分を説明する.本解説では,Linsker(1988)やBell & Sejnowski(1995,1997)の古典的な結果を解説し,筆者らの提案したリカレント情報量最大化原理(recurrent infomax; Tanaka et al., 2009)を紹介する.情報量最大化原理に基づくモデルの発展や応用も述べる.特に,深層学習,reservoir computing,神経回路の学習則との関連を詳述する.
著者
山崎 匡
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.22-30, 2011-03-05 (Released:2011-05-20)
参考文献数
51
被引用文献数
1

Marr-Albus-Itoの小脳パーセプトロン仮説は小脳の理論研究のパイオニアであり,その後の理論だけでなく実験すらも牽引してきた.本稿では,パーセプトロン仮説の一翼を担う多数の顆粒細胞によるスパース分散表現が,現代の実験の知見によってどのように支持され,また理論的にどのように発展しているのかを概説する.

9 0 0 0 OA 音楽と脳

著者
大黒 達也
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.135-147, 2022-09-05 (Released:2022-10-05)
参考文献数
89

音楽の神経科学は,脳機能計測技術の進歩に伴い30年余りで急速に発展した分野である.対象とする内容は,音楽認知,作曲や創造性,演奏など多岐にわたる.音楽処理機構の理解は,音楽特有の現象だけでなく,ヒトの本質を理解する上でも重要な鍵となる.例えば,音楽は,聴覚だけでなく,ヒト一般的な,行動,情動,学習,社会コミュニケーションなどの多くの脳機能と密接に関与している.近年,脳の一般原理である予測処理に基づく「統計学習機能」の観点から,音楽と脳の関係を説明しようという動きが活発化している.本稿では,統計学習と脳の予測が音楽認知にどう関わっているのかについて最近の研究動向を述べる.また,統計的学習の観点から音楽の「創造性」がどのようにして生まれるのかについて今後の研究の展望を議論する.
著者
磯村 拓哉
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.71-85, 2018

<p>本稿はFristonの自由エネルギー原理(free-energy principle)をわかりやすく解説することを目的とする.まず自由エネルギー原理を導入する理念や妥当性を簡潔に述べる.次に,自由エネルギー原理により説明可能な事象として,基本となる知覚および行動について述べる.簡単に言うと,自由エネルギー原理とは生物が従うとされる法則であり「生物は感覚入力の予測しにくさを最小化するように内部モデルおよび行動を最適化し続けている」と定めている.この原理から外界の認識のモデルとして,予測符号化(predictive coding)と呼ばれる情報表現形式が導出され,「推論・学習とは,予測誤差を最小化するように神経活動・シナプス結合を更新することである」と説明できる.また,行動の生成についても同一の原理から導出可能であり,「行動は,周囲の環境を予測しやすい状態に変化させ自分の好みの入力を得るために起きる」と説明できる.これは能動的推論(active inference)と呼ばれている.最後に,外界の推論の拡張である,他者の思考の推論について議論する.</p>
著者
田中 宏和 宮脇 陽一
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.104-140, 2007-06-05 (Released:2008-11-21)
参考文献数
57

Autumn School for Computational Neuroscience 2006 (ASCONE 2006) が2006年11月23日 (木) ~2006年11月26日 (日) 伊豆高原ルネッサ赤沢にて開催された. 本稿は, ATR脳情報研究所所長の川人光男先生の招待講演の講義録である.
著者
平 理一郎
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3-4, pp.152-164, 2020-12-05 (Released:2021-01-08)
参考文献数
65

本稿は前半部において,まずげっ歯類の脳の神経細胞活動を同時に多数記録する方法としての2光子顕微鏡について,その歴史を概観する.その後,広視野2光子顕微鏡の代表として,筆者が留学していたスミス研(カリフォルニア大学サンタバーバラ校)の最新の2光子顕微鏡を紹介する1).後半では,2光子カルシウムイメージングとニューロピクセルプローブを用いることで数千の神経細胞活動を同時記録した研究論文を3編紹介し2~4),それらが明らかにした点を概観することで,同時多細胞記録によってどのような脳の性質が解明されうるか,またされるべきかを考察する.最後に,そうした特徴の1つの候補として脳の「全体性」について述べる.
著者
近藤 敏之 長嶺 伸 大村 優慈 矢野 史朗
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.87-97, 2016-09-05 (Released:2016-10-31)
参考文献数
33

本解説では,誰もが手軽に導入可能なポータブル実験系の一例として,没入型ヘッドマウントディスプレイ(head mounted display; HMD)の活用を取り上げる.Oculus Riftに代表される没入型HMDは,(1)周辺視野まで覆う広視野角,(2)左右独立の映像提示による立体視ならびに(3)頭部運動トラッキングによる映像追従機能等により,従来のHMDとは一線を画す没入感を実現しており,認知心理学実験において視覚刺激を提示する手段として十分利用可能である.またスマートフォンを用いて没入型HMDを実現するGoogle Cardboardなどの技術もあり,誰もが比較的容易に導入することが可能である.本解説では,現在我々のグループで取り組んでいる没入型HMDの活用事例について述べるとともに,具体的な実装手順について紹介する.
著者
那須 大毅
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.132-137, 2017-09-05 (Released:2017-10-31)
参考文献数
15
被引用文献数
1 2

野球では,投手がボールをリリースしてからわずか400ms程度で打者の手元に到達する.打者は,この極めて短い時間内にボールの球種やコースを判断し,その軌道に応じて時空間的に高い精度で打撃しなければならない.本稿では,実戦形式の投手-打者対戦における打者の運動を計測した結果を例に,バッティングの時間構造について解説する.打者は,ストレートとチェンジアップという球速の異なる球種がランダムに投じられた時,ボールリリース後約300msまではほぼ同じ挙動を示すが,その後の身体重心(腰部)の沈み込みの長さを調整することで遅い球に対応していた.
著者
五十嵐 潤
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.172-182, 2021-12-05 (Released:2022-01-05)
参考文献数
68

脳シミュレーションで「脳を創れるのか」の検討を行う.はじめに,脳シミュレーションの再現性の限界,記述レベル,並列計算の性質を確認し,計算機と脳計測の動向から,全脳シミュレーションの予測を行う.
著者
村田 勉 柳田 敏雄
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.139-146, 2001-12-05 (Released:2011-01-31)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

視覚的意識のダイナミクスを明らかにするため, 人間被験者における知覚闘争の生起時間の統計的分布を精密に解析したところ, 意識にのぼる見えの切替りの背後に量子的(不連続)な脳の状態とその間の確率的遷移過程が存在することがわかった. その神経メカニズムのてがかりを得るため, 機能的磁気共鳴法により脳の関連賦活部位を調べたところ, 大脳皮質の広域的ネットワークが関わっていることがわかった. 統合された知覚像が意識されるために, システムとしての脳がいかに動作すべきなのかという点についてもダイナミクスの観点から議論したい.
著者
甘利 俊一 尾関 智子 朴 慧暎
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.189-200, 2003-12-05 (Released:2011-03-14)
参考文献数
40
被引用文献数
2 2

多層パーセプトロンなどの神経回路網の全体を多様体として幾何学的に考察するとき, ここには階層構造に由来する特異点が本質的に含まれることがわかる. これには, 学習の遅滞, 精度の劣化など, 実際の多くの問題が関係している. 本稿は, 主に日本で発展している, 特異構造を含むモデルの統計的推論と学習のダイナミックスを取り扱い, その考え方を示し, 現在までに著者らが得ている研究の成果と構想について解説する.
著者
吉田 正俊
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.3-12, 2014-03-05 (Released:2014-05-16)
参考文献数
54
被引用文献数
2 1

サリエンシーとは視覚刺激が空間的配置によってボトムアップ性注意を誘引する特性のことを指す.サリエンシー·マップとは計算論的な概念で,視覚の基本的な特徴,たとえば輝度や方位によるサリエンシーが平行して計算された後に足しあわされて作られた単一のマップのことを指す.本解説ではサリエンシー·マップとその視覚探索解析への応用について記す.とくに,著者が以前行った,盲視モデル動物としての第一次視覚野損傷サルへの応用について詳述する.
著者
疋田 貴俊
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.35-40, 2016-03-05 (Released:2016-05-06)
参考文献数
23

我々は,大脳基底核の直接路と間接路のそれぞれに特異的な可逆的神経伝達阻止法を開発し,直接路は報酬行動に,間接路は忌避行動と行動柔軟性にそれぞれ関与していることを示した.腹側被蓋野からのドーパミン入力が側坐核の直接路D1受容体と間接路D2受容体を介してスイッチングを行う,意思決定行動における大脳基底核神経回路の制御機構を概説する.
著者
坂田 秀三
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.205-217, 2007-09-05 (Released:2008-11-21)
参考文献数
78

システムの構造は機能の拘束条件となる. 大脳皮質は構造・機能的に区分けできる領野が連絡しあったネットワークである. その領野間の結合パターンはこれまで詳しく調べらてきたが, 近年, 計算論的なアプローチにより, 皮質結合の構成原理を定量的により深く理解することが可能になってきた. 一方, 多くの複雑系ネットワークには高頻度に含まれる構成要素, ネットワークモチーフ, が存在することがわかってきた. ここでは, そのネットワークモチーフと大脳皮質の構成原理との関係について議論し, この研究分野の課題と展望についてまとめる.
著者
金子 祐子
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.238-243, 2007-09-05 (Released:2008-11-21)
参考文献数
10

本稿は, ASCONE2006の3日目に玉川大学 脳科学研究所 鮫島 和行氏・ATR脳情報研究所 田中 沙織氏により行われた神経経済学をテーマとした講義をまとめたものである.
著者
南 哲人
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.13-19, 2014-03-05 (Released:2014-05-16)
参考文献数
33

ヒトにとって,顔は,一般的な視覚刺激であり,重要な社会刺激である.われわれは,顔からは,個人,性別,年齢,感情状態などのさまざまな情報を得ることができる.これまで,行動実験やfMRIや脳波などの脳イメージング研究から,顔認知処理に関して,さまざまな研究が行われてきた.その研究のほとんどが,顔の輪郭や顔のパーツ配置など,顔の構造情報に関係するものであった.しかしながら,近年,顔色などの,顔の表面情報も顔認知に重要なことが示されてきた.そこで,われわれは,これまで,顔の色情報が顔認知処理にどのような影響を与えるのかを調べるために,通常の顔色から逸脱した顔色の視覚刺激を見たときの,脳波成分について調べてきた.その結果,顔に関係するN170成分の振幅が大きくなった.N170は顔の初期検出の指標ではないかといわれていることから,本研究におけるN170振幅の増大は,顔色を顔の初期検出の際に使用している可能性を示唆している.