著者
田中 宏和
出版者
物性研究刊行会
雑誌
物性研究 (ISSN:05252997)
巻号頁・発行日
vol.93, no.2, pp.143-229, 2009-11-05

脳の働きや人の心を理解したい、というのはすべての人に共通の好奇心であろう。この解説論文では、脳研究における新しいアプローチである「計算論的神経科学」という分野を物理のバックグラウンドがある人向けに紹介する。脳は、生物が数十億年にわたる生存競争の末に生み出した情報処理システムである。ゆえに脳の持ち主である生物もしくはその遺伝子が生き残る確率を最大にするようにデザインされてきたと想像されよう。まず、脳を理解する指導原理のひとつとして、与えられた拘束条件のもとでの最適化の原理、そしてその最適化問題を解くために変分原理が使えることを議論する。そして、脳のモデル化のケーススタディとして、身体運動の計算論について筆者の研究を交えて解説する。
著者
田中 宏和 宮脇 陽一
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.104-140, 2007-06-05 (Released:2008-11-21)
参考文献数
57

Autumn School for Computational Neuroscience 2006 (ASCONE 2006) が2006年11月23日 (木) ~2006年11月26日 (日) 伊豆高原ルネッサ赤沢にて開催された. 本稿は, ATR脳情報研究所所長の川人光男先生の招待講演の講義録である.
著者
田中 宏和 小林 廉毅
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.433-443, 2021-06-15 (Released:2021-06-25)
参考文献数
28

目的 わが国で職業ごとの喫煙習慣にどのくらいの差があるか明らかでない。本研究は日本標準職業分類に基づく職業別喫煙率の推移を分析することで,喫煙対策のための基礎資料とすることを目的とした。方法 国民生活基礎調査の個票データを2001年から2016年までの3年ごとに分析した。喫煙に関する質問項目の「あなたはたばこを吸いますか」に対して「毎日吸っている」または「時々吸う日がある」と回答した人を現在喫煙者と定義し,25歳から64歳までの年齢調整喫煙率を算出した。職業は日本標準職業分類をもとに「管理的職業従事者」,「専門的・技術的職業従事者」,「事務従事者」,「販売従事者」,「サービス職業従事者」,「保安職業従事者」,「農林漁業従事者」,「輸送・機械運転従事者」,「生産工程従事者/建設・採掘従事者/運搬・清掃・包装等従事者」,「無職/不詳」の10区分に分類した。結果 全人口(25-64歳)の喫煙率はこの15年間に男性で56.0%から38.4%に,女性で17.0%から13.0%に低下していた。2016年において最も喫煙率が高かった職業は男女とも「輸送・機械運転従事者」で男性48.3%(95%信頼区間:46.8-49.7%),女性38.5%(95%信頼区間:32.6-44.5%)だった。最も喫煙率が低かった職業は男女とも「事務従事者」で男性27.9%(95%信頼区間:27.0-28.8%),女性9.4%(95%信頼区間:9.0-9.7%)だった。男性では2001年から2016年にかけてすべての職業で喫煙率は低下し,最も喫煙率が低下したのは「事務従事者」で21.0ポイント低下だった。女性では「輸送・機械運転従事者」と「保安職業従事者」を除くすべての職業で喫煙率は低下し,最も喫煙率が低下したのは「販売従事者」で7.2ポイント低下だった。どの年齢層においても「事務従事者」の喫煙率が最も低い傾向は男女とも一貫していた。男性では30-34歳において職業別喫煙率の差が最も大きかった。結論 わが国では2001年から2016年にかけて男女とも「事務従事者」の喫煙率が最も低く,「輸送・機械運転従事者」で最も高かった。喫煙率は低下しているものの職業別喫煙率の差は大きく,とくに若い世代で差が大きかった。職業や働き方は多様化しており,社会的背景や労働環境の変化を考慮した喫煙習慣の対策が必要である。
著者
田中 宏和 宮澤 英樹 林 清永 峯村 俊一 倉科 憲治 栗田 浩
出版者
公益社団法人 日本口腔外科学会
雑誌
日本口腔外科学会雑誌 (ISSN:00215163)
巻号頁・発行日
vol.60, no.10, pp.581-586, 2014-10-20 (Released:2015-07-17)
参考文献数
22
被引用文献数
1 2

The number of patients attacked by bears has been rising recently because the opportunity to encounter wild bears has increased. Bear attacks usually focus on the head and neck areas, and the attack sometimes causes fatal injuries.We report two cases of multiple facial lacerations and mandibular bone comminuted fractures caused by a bear attack.A 70-year-old man and a 60-year-old man were attacked by a black bear while mushroom picking. They sustained mandibular bone comminuted fractures with deep lacerations of the face. They were brought to our emergency room. Their lives were saved by immediate surgery. In addition, it was necessary to provide preventative measures against infection.
著者
田中 宏和
出版者
日本情報経営学会
雑誌
日本情報経営学会誌 (ISSN:18822614)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.63-73, 2015-12-18

In the management information field, the language education of a computer is important. In the conventional language education, it is a curriculum centering on grammar. However we are able to learn the essence of a management information system trough developing an operation system. In this paper, we propose the methodology in which beginners can also develop an operation system easily. First, students deepen knowledge of an operation system by experiencing a business game. Next, students develop system. By developing system, students use structured programming and object-oriented approach. Our methodology is also method by active learning.
著者
田中宏和 [ほか] 著
出版者
リーダーズノート
巻号頁・発行日
2010
著者
田中 宏和
出版者
物性研究刊行会
雑誌
物性研究 (ISSN:07272997)
巻号頁・発行日
vol.93, no.2, pp.143-229, 2009-11-05

この論文は国立情報学研究所の電子図書館事業により電子化されました。
著者
香月 祥 田中 宏和 中村 啓信 岸本 泰士郎 狩野 芳伸
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第37回 (2023) (ISSN:27587347)
巻号頁・発行日
pp.4Xin150, 2023 (Released:2023-07-10)

我々はこれまで、診断や疾患評価、音声とその文字起こしや音声・言語学的アノテーションが付与されたUNDERPIN大規模精神疾患会話コーパスを構築してきた。このコーパスを用いて、うつ病患者の分類実験を行った。分類の際は、健常者・軽症患者・中等度以上の患者・うつ病と診断されたことがあるがテストの評価値で症状のない患者の4分類を設定し、4分類のすべてのペア6つそれぞれで2値分類を行った。結果、軽症・中等度以上の重症度に応じた分類ができること、また現在の症状にかかわらずうつ病になった性質で分類可能であることを確認した。分類に貢献した特徴量の分析では、重症度ごとに異なる特徴量や共通している特徴量を確認できた。今後は、新しい特徴量を追加しての学習や、特徴のもととなった人手のアノテーションを自動付与するシステムを構築したい。
著者
片野田 耕太 伊藤 秀美 伊藤 ゆり 片山 佳代子 西野 善一 筒井 杏奈 十川 佳代 田中 宏和 大野 ゆう子 中谷 友樹
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.163-170, 2023-03-15 (Released:2023-03-23)
参考文献数
40

諸外国では,がん登録を始めとする公的統計データの地理情報を用いた研究ががん対策および公衆衛生施策に活用されている。日本でも2016年に全国がん登録が開始され,がんの罹患情報のデータ活用が制度的に可能となった。悉皆調査である全国がん登録は,市区町村,町丁字など小地域単位での活用によりその有用性が高まる。一方,小地域単位のデータ活用では個人情報保護とのバランスをとる必要がある。小地域単位の全国がん登録データの利用可否は,国,各都道府県の審議会等で個別に判断されており,利用に制限がかけられることも多い。本稿では,がん登録データの地理情報の研究利用とデータ提供体制について,米国,カナダ,および英国の事例を紹介し,個人情報保護の下でデータが有効に活用されるための方策を検討する。諸外国では,データ提供機関ががん登録データおよび他のデータとのリンケージデータを利用目的に沿って提供する体制が整備され,医療アクセスとアウトカムとの関連が小地域レベルで検討されている。日本では同様の利活用が十分に実施されておらず,利用申請のハードルが高い。全国がん登録の目的である調査研究の推進とがん対策の一層の充実のために,他のデータとのリンケージ,オンサイト利用など,全国がん登録を有効かつ安全に活用できる体制を構築していく必要がある。
著者
田中 宏和 田淵 貴大 片野田 耕太
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.22-061, (Released:2022-11-28)
参考文献数
36

目的 新型コロナウイルスワクチン接種状況と,旅行や飲食店利用など経済活動の活性化に向けた接種証明書(ワクチンパスポート)の活用に関して人々の意識を明らかにすることを目的とした。方法 2021年9-10月に実施された「日本におけるCOVID-19問題による社会・健康格差評価研究(JACSIS研究)」のデータから,最終学歴および職業ごとのワクチン接種率と接種率比を算出した。また,「ワクチン接種済み(2回)」群と「ワクチンの接種を希望しない」群に分けて「ワクチンを接種した(しない)理由」をそれぞれ分析した。さらに,ワクチンパスポートを「経済回復のために活用すべきだ」と考える割合と性・年齢階級・職業・最終学歴や政府のワクチン情報の信頼などとの関連を分析した。結果 27,423人の調査参加者(20-79歳;女性13,884人,男性13,539人)のうち,「ワクチン接種済み(2回)」が20,515人(74.8%),「接種したくない(接種希望なし)」が1,742人(6.3%)であった。ワクチン接種率は性で差がなく,『大学・大学院卒業者』は『高校卒業者』に比べて有意に接種率が高かった(調整済み接種率比,1.09;95%信頼区間:1.07-1.12)。職業別では『事務職』に対する『専門・技術職』の調整済み接種率比は1.05(95%信頼区間:1.01-1.09)であった。「ワクチン接種済み(2回)」群のうち,接種した理由で最も多かったのは「家族や周りの人に感染させたくないから」の53.0%だった。一方で,接種したくない理由で最も多かったのは「副反応が心配だから」の44.5%だった。ワクチンパスポートについて「経済回復のために活用すべき」と答えたのは「ワクチン接種済み(2回)」群で41.8%であり,「接種したくない」群で12.2%であった。職業別では『営業販売職』(40.4%)で最も高かった。この割合は,「政府のワクチン情報を信頼している」群(49.5%)では「どちらでもない」群(27.5%)に比べて有意に高かった(P<0.01)。結論 学歴や職業でワクチン接種率に差があること,政府のワクチン情報を信頼する人ほどワクチンパスポート活用に肯定的であることが明らかになった。しかし,経済活動の活性化のためのワクチンパスポート活用に関して,人々の期待や関心は社会全体では高くないことが示唆された。

1 0 0 0 OA 妊婦の生理学

著者
田中 宏和
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.533-537, 2018-07-15 (Released:2018-08-29)

妊娠時は週数に応じたさまざまな生理的変化をきたす.血液学的な変化は顕著で,妊娠後期にピークとなる血液量の増加,凝固系の機能亢進と線溶系の抑制が起こる.血液量の増加に伴い心機能は亢進し,循環血液量の増加によって腎機能も亢進する.また呼吸機能は子宮の増大に伴い横隔膜の運動は制限されるが,横隔膜挙上による機能的残気量の減少によって亢進し,酸・塩基平衡にも影響を与える.妊娠による内分泌環境の変化による糖や脂質代謝の変化も特異的である.さらに増大した子宮と内分泌環境の変化は,消化器系,尿路系,骨格系にも影響を及ぼす.それぞれが,妊娠に適応し分娩に対応できるように,合目的的な変化となっている.
著者
田中 宏和
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.276-285, 2021

<p><b>はじめに</b> 2019年末に中華人民共和国湖北省武漢市で初報告された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はわずか数か月で世界的に拡大し,欧州でも多くの感染者を出した。本稿はオランダにおける2020年7月末までの感染拡大とその対応についてまとめ,新興感染症による公衆衛生の海外での体験を一例として共有することを目的とした。</p><p><b>疫学</b> 2020年2月27日に初めての新型コロナウイルス感染症患者が確認されてから感染が急拡大し,第一波は新規感染者・死亡者ともに4月10日ごろにピーク(日別新規感染者1,395人,日本の人口換算で約10,000人)を迎えた。その後,感染拡大は収束したが5月31日時点で感染者46,422人,入院患者11,735人,死亡者5,956人が累計で報告された。死亡のほとんどが60歳以上で発生し,男性は80-84歳で,女性は85-89歳でそれぞれピークとなっていた。地理的な広がりとしてはアムステルダム・ロッテルダムといった都市圏での感染者は相対的に少なく,南部の北ブラバント州・リンブルフ州で多かった。</p><p><b>オランダ政府の対応</b> オランダ政府の対策の特徴は,最初の感染者の確認からわずか2週間で全国的な都市封鎖に追い込まれたこと,比較的緩やかな都市封鎖措置と行動制限を実施したこと,社会・経済活動の再開までに約3か月を要したことが挙げられる。2020年3月12日から段階的に全国的な対策を施行し,3月下旬にルッテ首相がインテリジェント・ロックダウン(Intelligent Lockdown)と呼ぶオランダ式の新型コロナウイルス感染防止対策が形成された。5月中旬以降,子どもに対する規制が緩和されたが対策措置の多くは6月中旬まで続き,段階的な緩和をもって社会・経済活動が再開,7月1日にほぼすべての規制が解除された。それ以降,在宅勤務の推奨,1.5メートルの社会的距離を取ることや公共交通機関でのマスク着用義務化など新しい日常への模索が続いている。</p><p><b>おわりに</b> オランダにおける感染拡大防止策は多様性と寛容に裏打ちされたオランダの国民性を体現したものだったが,感染者数および死亡者数は日本より深刻な状況であった。健康危機管理に関する他国の政策の評価には公衆衛生や医療資源の評価とともに,その背景にある社会の特徴を考慮することが重要である。</p>
著者
稲野辺 英昭 東条 進 西田 憲生 田中 宏和 真崎 繁 盛田 和久
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会 年会・大会予稿集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.737, 2009

従来、経済的に困難であった鋼材切断が可能なダイヤモンド工具を用いて、切断に係る基礎データを取得した。一般的に用いられているレジノイド切断砥石と比較して、工具寿命が長く、粉塵や火花発生量が少ないため、原子力関連施設の解体工事等への適用性が高いと考えられる。
著者
田中 宏和
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.276-285, 2021-04-15 (Released:2021-04-23)
参考文献数
20

はじめに 2019年末に中華人民共和国湖北省武漢市で初報告された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はわずか数か月で世界的に拡大し,欧州でも多くの感染者を出した。本稿はオランダにおける2020年7月末までの感染拡大とその対応についてまとめ,新興感染症による公衆衛生の海外での体験を一例として共有することを目的とした。疫学 2020年2月27日に初めての新型コロナウイルス感染症患者が確認されてから感染が急拡大し,第一波は新規感染者・死亡者ともに4月10日ごろにピーク(日別新規感染者1,395人,日本の人口換算で約10,000人)を迎えた。その後,感染拡大は収束したが5月31日時点で感染者46,422人,入院患者11,735人,死亡者5,956人が累計で報告された。死亡のほとんどが60歳以上で発生し,男性は80-84歳で,女性は85-89歳でそれぞれピークとなっていた。地理的な広がりとしてはアムステルダム・ロッテルダムといった都市圏での感染者は相対的に少なく,南部の北ブラバント州・リンブルフ州で多かった。オランダ政府の対応 オランダ政府の対策の特徴は,最初の感染者の確認からわずか2週間で全国的な都市封鎖に追い込まれたこと,比較的緩やかな都市封鎖措置と行動制限を実施したこと,社会・経済活動の再開までに約3か月を要したことが挙げられる。2020年3月12日から段階的に全国的な対策を施行し,3月下旬にルッテ首相がインテリジェント・ロックダウン(Intelligent Lockdown)と呼ぶオランダ式の新型コロナウイルス感染防止対策が形成された。5月中旬以降,子どもに対する規制が緩和されたが対策措置の多くは6月中旬まで続き,段階的な緩和をもって社会・経済活動が再開,7月1日にほぼすべての規制が解除された。それ以降,在宅勤務の推奨,1.5メートルの社会的距離を取ることや公共交通機関でのマスク着用義務化など新しい日常への模索が続いている。おわりに オランダにおける感染拡大防止策は多様性と寛容に裏打ちされたオランダの国民性を体現したものだったが,感染者数および死亡者数は日本より深刻な状況であった。健康危機管理に関する他国の政策の評価には公衆衛生や医療資源の評価とともに,その背景にある社会の特徴を考慮することが重要である。
著者
高澤 麻理絵 町田 治郎 上杉 昌章 古谷 一水 押木 利英子 田中 宏和 野原 友紀子 平井 孝明 松波 智郁 鈴木 奈恵子 岩島 千鶴子 廣田 とも子 脇口 恭生 本吉 美和 岸本 久美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.BbPI1161, 2011

【目的】Dynamic spine brace(以下DSB)は、梶浦らにより開発された脳性麻痺の側彎変形に対する体幹装具で、従来の硬性コルセットと比較し可撓性に富み、利用者の受け入れが良く、長時間の装着が可能という特徴を持つ。また介助者側からみた特徴としては、装具の着脱が行い易い、患児の体幹が安定するなどがあり介助量の軽減も報告がされている。今回、当院においてDSBを作製した患者に対し、介助者の主観的評価として満足度・介助負担感、機能的評価として側彎進行度・1回換気量について調査を行ったので報告する。<BR>【方法】対象は当院でDSBを作製した患者で、使用前と使用1M後、3M後に比較可能であった男児1名女児5名であった。GMFCSはレベル4が2名、レベル5が4名であり、装具使用開始の平均年齢は9歳5か月であった。評価項目は、介助者の主観的評価として、1) DSBへの満足度、2)介助負担感(装着・移乗・更衣動作・排泄)、3)動作や姿勢の変化点、その他の気づいたことを自由意見として聴取した。満足度と介助負担感は10点満点で、負担感は大変なほど点数が高くなり、満足度は、満足しているほど高くなる。介助者への聴取は同一検者が行った。機能的評価として、1) コブ角測定 ( 整形外科医師によるレントゲン画像読影 ) 、2) 1分間の平均1回換気量測定(IMI社製Haloscaleを使用)を行った。平均1回換気量は、分時換気量を呼吸数で割って求め、これを3試行し平均値をとった。主観的評価は、6人分を平均して、使用後1M後と使用3M後の2群に分けて比較した。機能的評価(コブ角、平均1回換気量)は使用前と使用1M後、使用1M後と使用後3Mにおいて対応のある2群の中央値の差の有無をウイルコクソン符号付順位和検定を用いて調べた。<BR>【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、対象者および保護者には事前に書面および口頭にて説明を行い、アンケートの提出をもって同意を得るものとした。<BR>【結果】主観的評価:1)DSBに対する満足度は使用1M後7.2点、使用3M後7.3点であった。満足度の主な減点理由として、全員から熱がこもる、汗をかくという意見があった。2)装着に関する負担感は、使用1M後3.5点、3M後3.3点で、装着する位置が難しい、装着動作が大変という意見があった。移乗介助の負担感は使用1M後5 点、3M後4.5点で、身体にフィットせず抱きにくいという反面、低緊張なので装具がある方が抱きやすいという意見もあった。更衣介助の負担感は使用1M後3M後ともに平均3.0点、排泄介助の負担感は使用1M後4.5点、3M後6.5点であった。排泄介助に関しては、1日に何度も着脱し汚れの配慮が必要との声があった。3)家族から聴取した動作や姿勢の改善は全例で認められ、臥位・座位姿勢の改善、座位時間の延長、座位で上肢が使いやすい、座位が自立した等があった。機能的評価:コブ角は使用前平均49.5度と使用後1Mで44度、3Mで45.9度であった。使用前と使用1M後、使用1M後と3M後で統計学的有意差は認められなかった。平均1回換気量は、使用前平均108.4 ml、使用1M後94.3 ml、 3M後133.3mであり、使用前と使用1M後間で有意な低下(p<0.05)、使用1M後と3M後間に有意な改善がみられた(p<0.01)<BR>【考察】DSB使用後の動作や姿勢に関する家族の評価は概ね良好であり、満足度も高い評価を得られたが、介助負担感(装着・排泄・移乗・更衣)については、先行研究のような長所のみでは必ずしもないことが明らかになった。装具適応については介助者に対しての事前の十分な説明や教育が必要であると思われた。今回の対象者は、全員が初めての装着であり負担感が少なからずあったと考える。さらに調査期間が3Mと短かったことから、もっと長期の使用があれば装具を常用することへの習熟や慣れが生まれて負担感は軽減する可能性があると考えた。機能的評価でも、コブ角は有意な改善が見られず、平均1回換気量に関しては使用前と使用1M後間で有意に低下し、その後の使用1M後と3M後間で有意な改善がみられた。このことから機能的改善も使用直後には見られず、改善がみられるには3M以上を要することが推察された。今後、機能改善の評価に適切な評価項目を吟味するとともに、追跡調査を続け長期間にわたるDSB使用に関する機能評価をする必要があると考えた。<BR>【理学療法学研究としての意義】脳性麻痺などの中枢神経系障害に起因する二次的な側彎変形に対して、新たに開発された装具の効果について検討を行った。重度重複障害児の側彎変形は児の生命やQOLに関わる重要な問題であるにもかかわらず科学的根拠を求める研究は少ない。本研究は重度重複障害児の側彎変形に対する試みであり、得られた知見は小児分野の理学療法学研究に寄与するものである。