著者
能川 知昭 根本 幸児 長谷川 雄央
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.182-189, 2014

複雑ネットワーク上の協力現象はユークリッド格子上のそれとは本質的に異なる場合があることが,近年明らかになってきた.本稿ではスモールワールド性を持つネットワークでしばしば観測される臨界相に注目する.臨界相とは,2次相転移の臨界点が有限のパラメータ領域に広がったようなものである.このことからスモールワールドネットワークは臨界的な状態を,パラメータ変化に対してロバストにする構造を持っていると考えられる.本稿ではいくつかの代表的なネットワークのボンドパーコレーションについて,それぞれの相図と基本的な性質を概観し,ネットワーク構造と臨界性の関係を考察する.
著者
佐村 俊和 林 初男 酒井 裕 相原 威
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.50-56, 2014-06-05 (Released:2014-07-31)
参考文献数
24

記憶に関与する脳の海馬にはCA3と呼ばれるリカレントネットワーク構造の領域が存在する.我々はCA3領域における指向性を持つ神経活動伝播が,海馬の時系列記憶形成機構の解明の鍵になると考えている.リカレントネットワークを用いた神経活動伝播に関する計算機シミュレーション結果より,抑制性結合の回路構造から推測される抑制(静的抑制構造)と活動中のネットワークに生じる抑制性結合の回路構造から推測されない抑制(動的抑制構造)の2つによって神経活動の伝播方向が制御されることを紹介する.また,これらの神経活動の伝播方向の制御機構とCA3領域との解剖学的な対応から,静的抑制構造と動的抑制構造によってCA3領域の神経活動伝播が制御されていることが示唆される.最後に,静的および動的抑制構造を生み出す抑制性介在細胞の軸索投射の異方性と偏りへの着目や,神経活動伝播に基づく海馬の時系列記憶形成機構の解明を目指す研究の必要性に関して議論する.

1 0 0 0 OA 編集後記

出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.e3-e3_2, 2012-09-05 (Released:2012-10-29)
著者
夏目 季代久 中司 弘樹
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.3-6, 2013-03-05 (Released:2013-05-17)
参考文献数
22
被引用文献数
1

脳内には様々な周波数を持ったリズム現象が観察されている.私たちはラット脳から作成した海馬スライスに,アセチルコリン作動薬であるカルバコールを投与すると,周波数15-20Hzのβ波様振動が出現する事を明らかにした.それらはまた周期30-40秒ほどでバースト的に誘導される.一方ラットを12時間12時間の明暗(LD)サイクルの環境下におくと,そのサイクルに引き込まれて行動する.L,D期それぞれのラットから切り出した海馬スライスにカルバコールを投与すると誘導したβ振動は異なった.この結果は,脳内神経の異なる周波数リズム間に相互作用がある事を示唆している.
著者
増田 直紀 郡 宏
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.173-185, 2007-09-05 (Released:2008-11-21)
参考文献数
77

In this paper, we first explain basic concepts of complex networks, which have attracted broad interests in the last decade. Then, we introduce a recent study on the relation between spike-timing-dependent plasticity and the emergent structure of neural networks. Synaptic plasticity facilitates formation of feedforward structure in neural networks with pacemakers, and it lessens the threshold for frequency synchrony in comparison to the case of networks with quenched synapses.
著者
稲垣 圭一郎 臼井 支朗
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.135-144, 2012-09-05 (Released:2012-10-29)
参考文献数
80
被引用文献数
1

The eyes are continuously fluctuating even during fixation. The fluctuations are called miniature eye movements and consist of microsaccades, drifts, and tremors. It has been revealed that these miniature eye movements aid our vision. Although the functional roles of the miniature eye movements have gradually been uncovered, their generation mechanism remains a mystery. Here, we focus on the microsaccade, and review the related neuronal circuit, and generation mechanisms from the viewpoint of neurophysiology and computational neuroscience.
著者
樺島 祥介
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.70-78, 2010-06-05 (Released:2010-07-30)
参考文献数
29
被引用文献数
1

スパース性(多くの成分がゼロであること)によって特徴づけられる高次元の信号を少ない数の観測データから復元する枠組みは,しばしば,圧縮センシング(compressed (compressive) sensing)と呼ばれる.近年,信号処理の文脈で盛んに研究されているが,その数理の本質は“スパース性”という事前知識を利用したベイズ推論にある,と捉えることもできる.このことは圧縮センシングが同様にベイズの公式を用いて定式化できる通信理論,学習理論の諸問題とも浅からぬ関係があることを意味している.本稿では,最近著者らが行った統計力学の方法に基づいた圧縮センシングに関する性能評価の概要を紹介するとともに,そうした圧縮センシングの数理に関する“横のつながり”について述べる.
著者
吉塚 武治 庄野 逸 宮本 弘之 岡田 真人 福島 邦彦
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.266-272, 2007-12-05 (Released:2008-11-21)
参考文献数
19
被引用文献数
1

It is known that the object recognition is processed in the ventral pathway of the visual system in humans and monkeys. The neocognitron that was proposed by Fukushima is a hierarchical neural network model for pattern recognition. In this paper, we show that the neocognitron can be regarded as a proper biological model of the ventral pathway. From the biological point of view, the model of the ventral pathway should satisfy the following conditions. The model should be hierarchical, the synaptic connections should spread locally, and each component in the hierarchy should be homogeneous. The network architecture of the neocognitron satisfies these conditions. Thus, we investigate the functional similarity between the neocognitron and the ventral pathway. We compared the response property of the neocognitron with that of IT cells. On comparing our results with those obtained by Logothetis et al., we found that the result were very similar qualitatively. Thus, we conclude that the neocognitron is a proper model for the ventral pathway.
著者
大脇 大
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.162-171, 2017-12-05 (Released:2018-02-05)
参考文献数
39
被引用文献数
1

1996年12月に発表された本田技研工業(株)の「P2」は,ロボット研究者のみならず一般の人々にも大きな衝撃を与え,人とともに生活するヒューマノイドロボットの実現という未来が近いことを実感させた.この登場から20年以上が経ち,さまざまなロボットが開発されてきたが,生物のように実世界をきびきびとしなやかに動き回るロボットは著者の知る限りいまだ存在しない.本稿では,生物のように実世界環境下を適応的に移動(ロコモーション)する脚式ロボットの実現を最終目標とし,著者が実施してきた研究について紹介する.
著者
伊藤 正男 廣瀬 智士
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.93-97, 2009-06-05 (Released:2009-08-14)
参考文献数
16

去る2008年10月31日~11月3日に開かれた“第三回日本神経回路学会オータムスクール(ASCONE2008)”の4日目(11月3日)に伊藤正男先生(理化学研究所)の講義が行われた.本稿はこの講義の記録に執筆担当者が解説を加えたものである.
著者
坂本 一寛
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.136-148, 2014-09-05 (Released:2014-10-31)
参考文献数
30
被引用文献数
2

脳の神経細胞は多くの入力を受け,多くの出力を出す.つまり,脳の神経配線は,拡散·収束構造を持つ.脳には,神経配線が全くのランダム構造であれば出現しないような解剖学的構造や神経細胞応答が見られる.ここでは,神経配線の拡散·収束構造を,画像処理で広く使われるハフ変換に代表されるパラメータ空間への投票と仮定したとき,どのような処理が可能なのか,どのように生理実験結果を説明するのか,について,大脳皮質視覚関連領野のモデルを通じて例示する.また,パラメータ空間への投票とアブダクション(仮設生成)とのアナロジーについて私見を述べる.
著者
中村 亨 山本 義春
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.123-134, 2013-09-05 (Released:2013-10-29)
参考文献数
24

精神行動異常に関する情報は,精神疾患の客観的評価への重要な生体指標となり得ると考えられる.近年,著者らは日常生活下での自発的身体活動の連続計測を行い,身体活動時系列における活動/休息期間の持続時間分布に行動統計則(行動組織化則)が存在することを確認した.これにより,様々な精神疾患における行動異常の特徴を抽出することに成功するとともに,行動統計則の種を超えた普遍性,時計遺伝子変異マウスにおけるヒトうつ病様変化などを報告し,自発的身体活動の生成に関わる行動制御機構の存在とその破綻に関する知見を得た.さらには,確率的優先性待ち行列モデルにより行動統計則とその変化が説明できることを示した.本解説では,これらの研究成果を紹介するとともに,疾患の発症や増悪·軽快といった精神疾患の動的側面を理解するのに有用であると考えられる双極性障害に関する最近の研究成果を報告する.
著者
麻生 英樹
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.136-140, 2009-09-05 (Released:2009-10-30)
著者
兼村 厚範 福田 航 前田 新一 石井 信
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.181-192, 2008-09-05 (Released:2009-01-30)
参考文献数
21
被引用文献数
1

超解像は,複数枚の観測画像を利用することで高解像度の原画像を推定する 画像処理手法である.超解像においては,高次元変数の推定という計算コストの 問題があったが,近年の計算機の発達と変分ベイズなどの近似手法の開発によって それが克服されつつある.本稿では,我々が行ったベイズ統計の枠組みに基づいた 超解像アルゴリズムについて述べる.
著者
那須 大毅
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.132-137, 2017
被引用文献数
2

野球では,投手がボールをリリースしてからわずか400ms程度で打者の手元に到達する.打者は,この極めて短い時間内にボールの球種やコースを判断し,その軌道に応じて時空間的に高い精度で打撃しなければならない.本稿では,実戦形式の投手-打者対戦における打者の運動を計測した結果を例に,バッティングの時間構造について解説する.打者は,ストレートとチェンジアップという球速の異なる球種がランダムに投じられた時,ボールリリース後約300msまではほぼ同じ挙動を示すが,その後の身体重心(腰部)の沈み込みの長さを調整することで遅い球に対応していた.
著者
宮脇 陽一
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.44-57, 2007-03-05 (Released:2008-11-21)
参考文献数
45

経頭蓋磁気刺激 (Transcranial Magnetic Stimulation, TMS) は, ヒト脳内の神経活動を非侵襲的に「操作」できるユニークなツールであり, 神経活動と知覚との因果関係を問うための重要な実験手段を提供してくれる. しかしながら, その神経活動への作用メカニズムにはいまだ不明な点が多く, 得られた実験結果の解釈に困難を伴う場合が依然少なくない. 本稿では, TMSがいかにして神経活動に干渉効果を与えるのかを理論的に検証すると同時に, 初期視覚野へのTMS印加実験を例に取り上げ, 視知覚に重要な初期視覚野の神経活動の可能性について議論する.
著者
鳥飼 弘幸
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.64-69, 2014-06-05 (Released:2014-07-31)
参考文献数
18

本稿では様々なニューロハードウェアの幾つかの側面からの比較を概観します.そして我々のグループで近年開発を進めている非同期分岐プロセッサとその位置付け,そしてそのニューロハードウェアへの応用例について解説します.