著者
中山 博之 荒尾 はるみ
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.704-713, 1994
被引用文献数
1

三歳児健診用ささやき声聴取検査 (愛知県方式) を考案し, 3-21歳の104名を対象に純音聴力検査との比較を行った。 本検査の特徴は, 主に1kHzと4kHzに, それぞれ音響的特徴を有する検査用語を用いていることである。 その結果, 低音障害型や高音急墜型などの特殊な聴力型の難聴の検出が容易となり, 1・2・4kHzの3周波数平均聴力が20dBを越える難聴の検出が, ほぼ可能となった (95%)。 したがって本検査は, 「軽・中等度難聴児の検出」 という愛知県三歳児聴覚検診の第一の目的を十分に果たせるものと思われる。 ただし, 正しいささやき声を出せず小声 (有声音) になる母親が2割程度おり, この比率を減少させていくことが今後の課題であろう。 しかし, 小声であっても内緒話程度の強さであれぼ, 0.5・1・2・4kHzの4周波数平均聴力が40dB台の三歳児健診対象児は少なくとも50%以上検出されるものと推察され, 母親が家庭で行うささやき声聴取検査の意義は大きいと考える。
著者
南場 淳司 阿部 尚央 井上 卓 武田 育子 新川 秀一
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.70-77, 2011 (Released:2011-04-16)
参考文献数
12

労災認定において詐聴, とくに誇大難聴が存在することは広く知られているところである。今回我々は2006年1月から2009年12月までの4年間に当科を受診し騒音性難聴の労災認定を希望した14症例を対象として, 従来施行してきた検査に加えて聴性定常反応検査 (ASSR) を行った。詐聴の診断はASSR閾値と純音聴力閾値を比較し, 純音聴力閾値がASSR閾値よりも高い場合を詐聴とした。結果は14症例中7例 (50%) を詐聴と診断し, その7例いずれも難聴の存在自体は明らかであり誇大難聴と考えられた。詐聴と診断した7例中6例は, 従来行ってきた検査からも詐聴と診断可能であり, ASSR検査結果と一致した。これまで騒音性難聴の意見書作成の際に, 詐聴の判断に苦慮するケースを少なからず経験してきたが, ASSR検査を行うことによりこれまでよりも正確に詐聴の診断ができる可能性が考えられた。
著者
山岨 達也 越智 篤
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.52-62, 2014-02-28 (Released:2014-11-06)
参考文献数
46
被引用文献数
7

要旨: 加齢に伴う聴覚障害では, 末梢聴覚, 中枢聴覚, 認知の三つの機能が複合的に障害されている。老人性難聴では聴力は高音域から閾値上昇し, 難聴の進行は年と共に加速し, 個人差が大きいことが知られる。語音明瞭度は聴覚レベルに応じて悪化するが, 高齢になるほど聴力レベルよりも悪化する傾向にある。耳音響放射や聴性脳幹反応は主に聴力レベルに応じて障害されるが, 年齢自体の影響も見られる。Gap detection などで評価できる時間分解能も加齢により悪化する。難聴のために日常生活上の会話に不自由を感じる場合には補聴器装用が治療の第一選択となる。補聴効果が無くなった場合は人工内耳が高齢者においても有用であるが, 装用開始年齢が高齢であるほど術後の聴取成績が悪い傾向にある。加齢に伴う聴覚障害に対しては不要な強大音曝露の回避や動脈硬化の予防や治療などが有用と考えられる。また聴覚に基づく認知訓練が時間分解能の改善に役立つ可能性も示唆されている。
著者
佐々木 亮 欠畑 誠治 武田 育子 木村 恵 新川 秀一 松原 篤
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.198-205, 2015-06-30 (Released:2015-09-03)
参考文献数
23
被引用文献数
1

要旨 : 突発性難聴に対する副腎皮質ステロイド (以下, ステロイド) の鼓室内投与による治療の報告は約10~15年間で数多くみられるようになってきた。しかし, 治療や聴力改善の基準が統一されていないことや症例数が少ないことなどから, その効果は明らかなものではない。我々は突発性難聴に対する治療として短期間連日デキサメサゾン鼓室内注入療法 (IT-DEX) を第一選択として行っている。CO2 レーザーによる鼓膜開窓をステロイドの注入ルートとして用い, 原則として単独治療を行っている。本治療を行った96例における治癒率は39.6%であった。また, 厚生省研究班による突発性難聴に対する単剤投与の有効性の検証に症例の基準を合致させて IT-DEX 単独初期治療の効果を検討したところ, 対象症例27例中治癒は20例, 治癒率は74.1%となり, 厚生省研究班の単剤投与の成績と比較しても良好であった。症例数が少ないことが問題と思われ, 多施設での検討などが必要ではないかと考えられた。
著者
片倉 光宏 吉田 登美男 岡本 途也
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.49-55, 1969 (Released:2010-04-30)
参考文献数
7

In order to find out the most suitable sound quality and sound volume for the hard-of-hearing people with nerve impairment, we investigated the relation of frequency pattern and sound level to articulation score and comfortableness.The frequency pattern was one that compensated for a patient's individual hearing loss by “mirroring” his audicgram, and flat one.The results were as follows.1) The maximum syllable articulation scores were more than 60% for almost all subjects even if the hearing loss was at the range of 60-80dB.2) The “mirroring” was especially succesful for the subjects with the maximum articulation scores at the range of 40-80% (in the flat frequency pattern).3) For the subjects with hearing loss less than 40 dB, the most comfortable level was nearly equal to the sound level which gave the maximum articulation score. On the other hand, for the subjects with hearing loss more than 40dB, the sound level which gave the maximum articulation score was higher than the most comfortable level, occasionally it reached uncomfortable level (in the flat frequency pattern).4) The difference between the most comfortable level, uncomfortable level in binaural listening and those in monaural listening was about 6 to 7 dB.
著者
田中 美郷
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.16, no.6, pp.489-504, 1973

The detailed development of speech and language in a young girl with very severe hearing losses of 100dB was described. She begun to wear a hearing aid as soon as the diagnosis was made at the age of two years and four months. Language education was conducted mainly by her mother who participated in our home training program. The girl entered a school for the deaf at the age of four years and eleven months. The data were mainly collected through the mother's diary specially kept for describing the development of human relation and language comprehension as well as verbal or nonverbal expression in her deaf girl. The results obtained were summarized as follows:<br>1) A marked growthh of a vocabulary as well as the development of syntax was noted after the age of three years and three months when she found that all things have their own names.<br>2) The pattern of the development of speech in the girl was essentially not different from that observed in normal children.<br>3) A residual hearing was indispensable for her acquisition of speech and language even though the hearing losses were as severe as 100dB.
著者
中瀬 浩一 大沼 直紀
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.763-768, 2013

要旨: 聴能マトリクステストの教育実践上の活用の有用性を聴覚障害幼児50名147回の検査結果から検討した。その結果, 補聴閾値と本テストの素点の間には相関は認められなかった。67式20単語了解度検査と本テストの素点にも相関は認められなかったが, 1語ずつ呈示して実施する単語了解度検査から複数語の連続である文聴取検査への移行は困難を伴う場合もあることが確認できた。また, 語音聴取評価検査 「CI2004 (試案) 」 の幼児用オープンセット文検査と本テストの素点には比較的高い相関が認められた。本テストが34/40以下であれば, 素点が高ければ語音聴取評価検査 「CI2004 (試案) 」 の幼児用オープンセット文検査のキーワード正答数も多くなる傾向があるが, 35/40以上では必ずしも関係があるとはいえないことが確認でき, 既存の語音検査と併用することで相互補完的に子どもの聴取能の評価が行えることが示唆され, 本テストの有用性が認められた。
著者
立本 圭吾 塔之岡 彰子 山崎 祥子 進藤 昌彦 志多 真理子 安野 友博 村上 泰 大島 渉 寺薗 富朗 小宮 精一 真島 玲子
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.755-762, 1989

京都市の難聴学級健康診断結果を報告する。 結果は以下の通りである。<br>1) 児童の裸耳および矯正聴力の平均はそれぞれ93.7dBHL, 57.6dBHLであった。<br>2) 発語明瞭度は平均が37%であったが, 矯正聴力より裸耳聴力に強い相関を示した。<br>3) 聞き取り検査では絵カードを参考させることで有意に正解率が上昇した。<br>4) 難聴学級児の構音は確立されたものではなく容易に変化を示した。<br>5) 就学前教育として一般保育・幼稚園へ通園していた者が未経験者より発語明瞭度が有意に高かった。