著者
鈴木 恵子 岡本 牧人 鈴木 牧彦 佐野 肇 原 由紀 井上 理絵 大沼 幸恵 上條 貴裕 猪 健志
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
Audiology Japan (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.588-595, 2009-12-28
参考文献数
10
被引用文献数
2 4

『きこえについての質問紙2002』のうち “聞こえにくさ” に関わる10項目を, 補聴器適合のための主観評価法として応用することを目指し, 補聴器装用者232例 (軽~高度難聴), および補聴器適合を行った軽中等度難聴82例 (補聴器装用前・装用後ともに資料あり) の回答を解析した。解析結果をもとに, 軽中等度, 高度の群別に得た各項目の回答スコアの中央値, および装用前からの1以上のスコア軽減を評価基準とする補聴器適合のための評価表を試作した。中央値以下のスコアを得た項目数が, 補聴器に対する全体としての満足度, および装用時の語音明瞭度と有意な正の相関を示し, スコアの中央値を評価基準とすることの妥当性が示唆された。以上から, “聞こえにくさ” 10項目と評価表を, 適合評価のために応用できると結論した。
著者
広田 栄子 小寺 一興 工藤 多賀
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.755-762, 1988
被引用文献数
4

The purpose of this study was to provide the methodology how to use speech discrimination test (57-words list by Japan Audiological Society), and its usefulness for the fitting of hearing aids was evaluated. Speech discrimination score of 163 sensorineural hearing-impaired patients with/without hearing aids were mesured by means of speaker methods, and the results were analysed. The results were 1) When speech discrimination score with hearing aids is 10% lower than the score obtained without hearing aids, it is considered that the patient requires refitting of the hearing aids. 2) The improvement of consonants by hearing aids was varified according to the degree of discrimination score without hearing aid in the hearing-impaired. It is possible to predict that the consonant and vowel can be improved by fitting hearing aids after the speech discrimination score of respective subjects is evaluated. 3) Credibility of speech discrimination score without hearing aids increases if this is measured again and compaired with discrimination score with hearing aids obtained 2 months after the initial discrimination score of tained without hearing aids.<br>From this study, it was found that upon comparative measurement of speech discrimination score with/without hearing aids of individual cases, the use of speech discrimination test is usefull for considering the adaptability of hearing aids.
著者
伊藤 壽一
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.175-180, 2014

要旨: 1985年に我が国で最初に人工内耳手術が行われてから30年近くになり, すでに7000人以上の方が手術を受けている。人工内耳は高度難聴に悩む方への福音となっている。各人工内耳機器の改良, 適応の拡大などによって, さらに今後手術を受ける方が増加していくものと考えられる。一方, 現在の人工内耳の適応が適切か, 手術後のリハビリテーション施設数, 言語聴覚士の数の問題, 聴覚以外のコミュニケーション手段との関係, 人工内耳機器の取り換え (アップグレード), 人工内耳に関わる費用の問題など検討すべき課題も多い。本稿では表1の各項目に関し, 人工内耳医療の現状とその問題点を, 医学のみでなく, 社会医学的な問題として解説する。
著者
杉内 智子
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.193-199, 2008
被引用文献数
1

補聴効果の評価には, 補聴器使用時の可聴閾値検査, 語音弁別検査, 質問紙などがあり, これらを総合的に検討して補聴器の適合を判定することが必要である。しかし現実には補聴器の選択や調整は聴覚障害者本人の判断に頼りがちで, 補聴効果を適確に評価できる検査法の確立と適合判定の基準化が望まれている。<br>当施設の補聴器外来では複数の検査法を組み合わせて補聴器の効果測定を行っている。これらの検査は補聴器の適合確認だけではなく, 検査結果と難聴者の訴えを照合することによって調整ポイントが判明することもあり, 極めて有用であった。この当外来の現状を報告するとともに, 今後の課題について概観した。
著者
中市 真理子 廣田 栄子 綿貫 敬介 成沢 良幸
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.209-215, 2014

要旨: 本研究では, 全国の乳幼児補聴器適合施設に対し, 補聴器装用・機能の状況と, 補聴器選択に関して調査した。乳幼児に適合されている補聴器型は, 耳かけ型が最も多く, ベビー型の使用数は低かった。乳幼児の補聴器機能では, ボリューム固定, ハウリング抑制, 雑音低減, ワイヤレス, 指向性の順で使用されていた。常用や装用を妨げる原因にハウリング, 補聴器を嫌がる, 耳から外れやすいがあり, 補聴器の故障原因は, 汗が多かった。乳幼児の補聴器選択において, 経済的負担軽減 (障害者自立支援法: 現障害者総合支援法対応), 耳介にあった形状, ハウリング抑制機能, 装着のしやすさ, 防水性能が重視されていることが確認された。補聴器適合担当者は, 補聴器の日常使用の利便性の向上と, 発達への対応における保護者負担の軽減への要望が高かった。また, 早期難聴診断や補聴・支援に関する社会啓発と, 診断機関と療育・教育機関の情報共有の指摘も高かった。
著者
坂本 圭 小渕 千絵 城間 将江 松田 帆 関 恵美子 荒木 隆一郎 池園 哲郎
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.92-98, 2014

要旨: 人工内耳装用者 (以下CI装用者) の語音聴取における発話速度の影響と, 聴取能を補うための休止区間挿入の効果について検討した。対象は健聴者10名, CI装用者13名であり, 通常の発話速度 (以下, 基準文) を1倍速とし, これに対して2段階に倍速にした音声 (1.5倍速, 2.0倍速, 以下倍速文) の聴取成績を分析した。また, 各倍速音声に休止区間を文節, ランダムの2種の方法で挿入しその効果を実験的に検討した。この結果, 両対象者共に発話速度が速くなるにつれて有意に正答率の減少がみられた。特にCI装用者で顕著であり, 2.0倍速ではほとんどのCI装用者が聴取困難となった。また, 休止区間挿入の効果は, CI装用者で1.5倍速文においてのみ有効であった。倍速音声聴取が困難であるCI装用者であっても休止区間挿入により処理時間が確保され聴取能改善につながるため, 会話時においては意味的に区切って発話することの重要性が示唆された。
著者
笠原 桂子 廣田 栄子
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.66-74, 2015
被引用文献数
2

要旨: 若年聴覚障害者の就労満足度と関連する要因を検討することを目的とし, 企業就労する35歳以下の聴覚障害者を対象にweb調査を実施した。<br> 回答者の聴力程度 100dB 以上は67%, 最終学歴は大学院・大学が多く (60%), 正社員率が74%であった。また,手話理解可能 (92%) であるが, 職場でのコミュニケーションは主に聴覚口話で, 情報保障は印刷資料, 筆談が多く, 手話通訳は僅かであった。入社満足については, 概ね満足が6割に認められ, 回答の因子分析では, 就労満足度は, 職場帰属意識, 職能充実感, 支援関係の3因子で構成されていた。就労満足度に関連する要因として, 年齢 (30歳以上>30歳未満), 聴力程度 (100dB 未満>100dB 以上), 学歴 (大卒等>高卒等) の要因の関与を認めた。<br> 若年聴覚障害者では, 情報保障は十分ではないが, 就労満足度は過半数で高い傾向を示し, 職場帰属意識と職能充実感に注目し, 長期的な定着支援が必要と考えられた。
著者
岡本 牧人
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
Audiology Japan (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.50-58, 2013-02-28
参考文献数
23

日本では2007年より超高齢社会となった。2060年には高齢者は人口の40%を占めると予測される。<br>加齢とともに難聴が進行することは良く知られているが, 数十年前の高齢者に比べ, 現代の高齢者の方が加齢変化は遅く出現しているようにみえる。<br>超高齢社会では, 高齢者は生活の質の維持とともに社会人として役割を分担する必要があるが, 会話域純音聴力は60歳代までは若年者と同様に保たれていると考えられる。加齢による難聴に対して補聴器による聴覚補償は有効である。さらに難聴が高度になると人工内耳による聴覚補償も有効である。<br>高齢化社会では生活の質の維持に聴覚的コミュニケーションが欠かせないが, 補聴器や人工内耳の公的補助は, 医療経済的, 医療倫理的観点からも合わせて考えて行く必要がある。
著者
大原 重洋 廣田 栄子 鈴木 朋美
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
Audiology Japan (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.230-238, 2011-06-30
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

難聴幼児通園施設に併せて, インクルーシブ環境 (保育園・幼稚園) に通園する聴覚障害児9名を対象として, 聴力正常な幼児 (聴児) 集団における社会的遊びの発達段階とコミュニケーション行動について観察し, 聴力レベル, 言語能力等の要因の関与について分析した。対象児は平均聴力71.2dB (SD18.0) で, 3歳4ヶ月から6歳1ヶ月児であった。その結果, 協同遊び段階3名 (33.3%), 一人遊び段階1名 (11.1%), 並行遊び段階3名 (33.3%), 保育士との遊び段階2名 (22.2%) に分類できた。聴覚障害3~4歳児では, 聴児の発話の受信が困難な傾向を認めたものの, 全例で概ね聴児とのコミュニケーションの成立を認めた。対幼児のコミュニケーション行動の発達は, 聴力レベルや言語能力よりも生活年齢の要因の関与が大きかった。
著者
冨澤 文子 塚原 清彰 河野 淳 野波 尚子 鮎澤 詠美 梅村 大助 西山 信宏 河口 幸江 白井 杏湖 斎藤 友介
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.500-508, 2017

<p>要旨: 人工内耳装用児の言語力に関する研究は本邦でも増加しつつあるが, 語彙力に関する詳細な研究は少ない。 今回我々は, 小学校就学前後期以前における人工内耳装用児の語彙力を, 良好群~不良群の6群に分類した。 88例中32例 (36.4%) が就学時期までに健聴児の生活年齢相当の理解語彙力を獲得していた。 一方で63.6%にあたる56例の装用児の理解語彙力は, やや不良~不良な状態であり, 健聴児との顕著な成績差が認められた。 手術時期に注目すると, 4歳時点で語彙発達指数が85以上になった群において手術時期が早い傾向がみられた。 他方, 補聴器開始年齢, 人工内耳装用閾値については, 各群で大きな差は認められなかった。 就学時期までの幼児期段階では, コミュニケーション方法として主に聴覚を使用する症例が多い傾向があり, 手話併用例は少なかった。 しかし, 小学校就学以降は, 理解語彙の不良例においては手話併用例が増加する傾向が認められた。 聴覚障害児の療育や教育の目的は幼児期の言語発達を促し, 就学以降の教科学習や社会生活に求められる書き言葉の獲得にある。 今後は語彙以外の言語の側面も含めた言語活動全体の発達を考慮し, 長期に渡って経過をサポートしていく必要がある。</p>
著者
大金 さや香 城間 将江 小渕 千絵
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.60-68, 2015
被引用文献数
2

要旨: 軽度から重度までの補聴器 (HA) 装用者13名と人工内耳 (CI) 装用者12名に対し, ピアノ音による2~12semitone の幅の2音のピッチ弁別検査と12曲の文部省唱歌の旋律識別検査を実施し, 両者の違いについて比較検討した。 この結果, HA 装用者では, 軽中等度例でピッチ弁別, 旋律識別共に良好であったが, 聴力程度が重度になるほど両者の成績が低下する傾向を示した。 一方, CI 装用者では, 1オクターブのピッチ弁別も困難な例が多いにも関わらず, 旋律識別率では10~90%と個人差が大きかった。 ピッチ弁別が困難な重度の HA 装用者や CI 装用者でも, 既知の曲であればトップダウン処理により識別できる場合があるため, 音楽知覚の可能性が示唆された。
著者
三輪 レイ子 伊丹 永一郎
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.654-662, 2000

高齢難聴者が補聴器装用を簡便におこなえる「改良型イヤモールド」を開発した。 特徴は, (1) 回さなくても押すだけで挿入できる仕組み, (2) 体温で膨張する素材の採用, (3) イヤモールドの先端を外耳道の第2カーブまで伸ばす, の3点である。 この結果, (1) 容易に挿入できる, (2) ハウリングを生じない, (3) こもり現象が抑制される, ことを確認した。<br>「改良型イヤモールド」の開発により, 今後, 高齢難聴者の補聴器装用は大幅に改善されると期待される。
著者
神林 潤一 鈴木 康弘 沖津 卓二
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.41-48, 2004

教室と廊下の間が, 壁や窓によって区画されないオープン型の普通教室が増えているが, 従来型の教室に比べ騒音環境の悪化が懸念される。そのため, 全教室がオープン教室である仙台市立の3小学校ならびに従来型普通教室をもつ小・中学校4校において, 教室内の騒音測定と現場の教師に対するアンケート調査を行い, それぞれの騒音環境について比較検討した。その結果, オープン教室の騒音レベルは, 明らかに学校環境衛生の基準値50dB (A) を超えていること, オープン教室内では児童も教師も隣接教室からの騒音に少なからず影響を受けていることが分かった。以上のことから, 学校の新設に際しては, 騒音に対する十分な配慮が必要であり, 既存のオープン教室に対しては, 適切な防音対策が望まれる。