著者
田本 秀輔 金城 達也 佐村 博範 金城 章吾 西巻 正
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.65-67, 2017

<p>症例は47歳,男性。2,3日前から右下腹部痛が続き,その後に嘔気,悪寒および冷汗が出現したため救急外来を受診した。受診時は右下腹部に限局した圧痛および反跳痛を認めたが,発熱は認めなかった。腹部造影CT検査で上行結腸近傍に脂肪織混濁を認め,上行結腸垂炎と診断した。抗生剤治療を開始し,外来通院加療で軽快した。原発性腹膜垂炎は多くが自然軽快する予後良好な疾患である。臨床経過や腹部所見より鑑別診断として急性虫垂炎や憩室炎があげられるが,原発性腹膜垂炎は特徴的な画像所見を示すことが多いため,急性腹症の診断の際に本疾患を念頭に置くことで手術を含め,不要な治療を回避することができる。今回われわれは,造影CT検査で診断し,保存的に加療し得た原発性上行結腸垂炎の1例を経験したので文献的考察を含め報告する。</p>
著者
佐々木 妙子 亀山 哲章 冨田 眞人 三橋 宏章 松本 伸明 大渕 徹 吉川 祐輔
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.32, no.7, pp.1227-1230, 2012-11-30 (Released:2013-03-08)
参考文献数
9

鼠径部ヘルニアは比較的頻度の高い良性疾患だが,嵌頓し絞扼すると生命に関わることがある。今回当院で手術を施行した鼠径部ヘルニア嵌頓例を検討し,嵌頓例への対応を考察したので報告する。2007年1月から2011年6月までの当院で手術を施行した鼠径部ヘルニアは586例であり,このうち嵌頓例は37例(6.3%)であった。診断内訳は外鼠径ヘルニア23例(62.2%),内鼠径ヘルニア2例(5.4%),大腿ヘルニア11例(29.7%),不明1例(2.7%)であった。緊急手術を要した例は31例(83.8%)で,このうち臓器切除を要した例は11例(35.5%)で,腸管切除が7例,大網切除が4例であった。嵌頓例37例のなかで自覚症状発現から来院まで1日以上経過している例が17例(46.0%)存在した。医療者は急性腹症の原因にヘルニア嵌頓がないかを確認すること,また嵌頓時には速やかに受診するように啓蒙していく必要がある。
著者
三浦 弘志 堂脇 昌一 菊永 裕行 熊井 浩一郎
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.161-165, 2015-01-31 (Released:2015-05-13)
参考文献数
19

症例:82歳,女性。腹痛持続で当院緊急搬送され,ショック状態・貧血を認め,腹部CTで肝外側区域の肝細胞癌破裂と血性腹水貯留の診断でTranscatheter Arterial Embolization(以下,TAE)施行し止血を行った。高齢と本人が二期的治療を望まない理由で保存的観察となった。その後肝細胞癌は縮小傾向で腫瘍マーカーも低下し,当院での経過観察上4年4ヵ月再発なく5年7ヵ月生存している。肝細胞癌破裂においてはTAEでの初回止血と二期的手術との併用により生存率向上が得られるという報告が多いが,今回TAEのみで止血に成功し二期的治療を行わず腫瘍退縮が得られている1例を経験した。
著者
清水 哲也 水口 義昭 吉岡 正人 松下 晃 金子 恵子 川野 陽一 勝野 暁 神田 知洋 高田 英志 中村 慶春 谷合 信彦 真々田 裕宏 横室 茂樹 内田 英二
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.79-85, 2016-01-31 (Released:2016-04-26)
参考文献数
19

ERCPは胆膵疾患の診断に不可欠な手技となり,ERCPを応用したさまざまな手技が活用されている一方,ERCPの偶発症は重篤化しやすく慎重を要す手技である。ERCP合併症の中でも後腹膜穿孔は死亡率が高く,その診断と対処が重要である。1999年1月から2015年5月までのERCP自験例 4,076例のうちERCPの後腹膜穿孔を10例(0.25%)に認め,その原因と対応を検討した。穿孔部位は,乳頭部3例,胆管3例,膵管2例,十二指腸2例であり,原因は,乳頭部穿孔ではEST,胆管穿孔では砕石処置具の挿入,膵管穿孔ではカテーテル操作,十二指腸穿孔では内視鏡の挿入による損傷であった。後腹膜穿孔を疑う際にはENBDや胃管で減圧しCTで後腹膜穿孔の重症度を確認する。CTで後腹膜に液体貯留を認め,かつ発熱や疼痛のある症例は緊急手術を行う。後腹膜気腫のみ,もしくは少量の液体貯留のみで無症状の症例は保存的加療を行い経時的に疼痛や液体貯留をフォローし,所見の悪化がある際は緊急手術を考慮する。
著者
佐藤 篤司 桑原 義之 篠田 憲幸 木村 昌弘 石黒 秀行 春木 伸裕 杉浦 弘典 田中 直 藤井 義敬
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.607-612, 2004-03-31 (Released:2010-09-24)
参考文献数
20

1992年1月から2002年12月までのステロイド投与患者に対する腹部救急手術18例を対象とした。ステロイド投与適応疾患は関節リウマチ7例, 進行性全身性硬化症+皮膚筋炎1例, 全身性紅斑性狼瘡1例, 悪性リンパ腫2例, 骨髄性白血病2例, 再生不良性貧血1例, 潰瘍性大腸炎2例, 急性呼吸循環不全1例, 脳外科手術後1例であった。1日平均ステロイド投与量はprednisoloneに換算して54.5mg, 平均投与期間は41.9ヵ月, 平均総投与量は10.9gであった。術後合併症は, 14例 (77.8%) にみられ, 創部感染, 縫合不全, MOF, DICなどであった。在院死亡を6例 (33.3%) に認めた。ステロイド投与患者では合併症を起こしやすいことから, 原疾患の活動性, ステロイド投与歴を十分把握した上で腹部救急疾患の治療を行うことが重要と思われた。
著者
和久 利彦
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.169-172, 2016

症例は26歳,女性。自転車同士の衝突の際,ハンドル先端で上腹部を強打した。増強する上腹部痛で受傷4時間後に救急搬送された。腹部全体の圧痛,上腹部の腹膜刺激症状,血中アミラーゼ高値,腹部CTでの液体貯留,膵体部の30mm大の高吸収域から主膵管損傷を疑い,受傷6時間後に緊急手術を施行した。膵体部でⅢb型の膵損傷を呈していたが,他臓器に損傷は認めなかった。術式は,膵脾機能温存を図るためBracey法を選択した。術後は,縫合不全や膵液瘻もなく経過し,第28病日目に退院した。術後8年目の現在,膵内外分泌能に異常はなく,尾側膵管の開存性は保たれていると考えられた。バイタルが安定したⅢb型膵体部損傷の術式として,Bracey法も安全な術式であると考えられる。
著者
山下 貴司 卜部 憲和
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.34, no.8, pp.1441-1444, 2014-12-31 (Released:2015-04-02)
参考文献数
9

34歳男性が左前胸部上部刺創で救急搬送された。諸検査で左血気胸,左横隔膜損傷ならびに横隔膜ヘルニアの診断となり,腹腔内臓器損傷は否定的であった。循環動態は安定しており,準緊急手術で対応可能と判断され,搬入後17時間で手術が行われた。手術所見では肺損傷は存在せず,胃穿孔が認められた。横隔膜は経胸的に縫合され,経腹的に胃損傷を修復した。十分に洗浄して閉創とし,術後に膿胸,腹腔内感染の発症はなく軽快退院した。昨今系統的な外傷診療が普及しても,体表の損傷状況から,ある程度の範囲の損傷が想定される場合は,体表受傷部位を中心とした診療となり,遠隔部位の損傷判断は疎かになりがちである。胸部穿通性外傷において横隔膜ヘルニアが存在する場合には,腹腔内臓器損傷は高率に起こり得て,消化管内容物が胸腔内へ漏出すると重症化する可能性が十分あるため,緊急手術に踏み切るべきであった。
著者
松田 真輝 澤野 誠 大河原 健人
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.321-323, 2015-03-31 (Released:2015-06-11)
参考文献数
9

劇症型A群溶血性連鎖球菌感染症は,敗血症から死亡することも多い重篤な疾患である。今回,骨盤内炎症性疾患 (以下,PID)を呈した本疾患例を経験した。症例は58歳女性で,敗血症性ショックを伴うPIDの診断で当院転院となった。WBC 18,800/μL,CRP 51.5mg/dLと顕著な炎症所見を認め,急性腎不全も併発していた。造影CTでは子宮附属器の炎症所見ならびに少量の腹水を認めた。開腹所見では,骨盤内臓器および後腹膜の著明な炎症を認めた。その後もショック状態の改善はなく,劇症型A群溶血性連鎖球菌感染症の可能性が高いと判断した。後腹膜開放ドレナージ術を追加し持続的血液濾過透析も開始したが,入院後43時間で死亡した。後に腹水および膣培養からStreptcoccus pyogenesが検出された。PIDと判断した症例でも,敗血症など重篤な経過を辿る場合は本疾患を考慮する必要があると考えられた。
著者
安井 良僚 河野 美幸
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.941-945, 2013-09-30 (Released:2014-01-10)
参考文献数
9

要旨:【目的】小児期の卵巣茎捻転(以下,本症)の自験例を検討し,診断および治療について考察した。【対象および方法】2000年から2011年に,女性の急性腹症で,腹部CTにて卵巣嚢腫など卵巣腫大を認め,腹腔鏡手術を施行した7例を対象とし,年齢,腫瘍のサイズ,CT所見,治療法などにつき検討した。【結果】平均年齢は11.3±4.2歳。CTでの卵巣の最大径は平均75±26mmであった。7例中5例が本症と診断され,これらの症例では単純CTで卵巣壁および周囲にhigh densityな部位を認めた。本症に対しては卵巣切除術が行われてきたが,3例で病理学的にviableな原始卵胞が確認された。悪性の卵巣病変は認めなかった。また1例で術後,対側卵巣に卵巣嚢腫が出現した。【結論】本症の確定診断および治療に腹腔鏡が有用である。しかし卵巣捻転に対しては卵巣が肉眼的壊死と考えられても,可能な限り温存を優先するべきと考えられた。
著者
山本 博崇 本間 陽一郎 浜野 孝
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.81-84, 2010-01-31 (Released:2010-03-03)
参考文献数
11

症例は22歳の男性。緩徐に増強する腹痛と嘔吐を主訴に当院救急外来を受診した。身体所見,画像所見より腸閉塞が疑われた。腸管虚血も否定できないため,緊急手術を施行した。開腹し腹腔内を検索したところ,Meckel憩室が食塊で充満され,小腸の通過障害をきたしていた。憩室を含む小腸を切除し,手術を終了した。切除した組織には炎症所見は認めなかった。本症例はMeckel憩室による腸閉塞の分類(Rutherford分類)に当てはまらず,まれな症例と考えられた。
著者
伊在井 淳子 盛口 佳宏 堀切 康正
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.34, no.7, pp.1337-1340, 2014

症例は91歳女性で,繰り返す腸閉塞の治療目的に,当院へ紹介された。CTでは,骨盤内の拡張小腸内腔に気泡を含む長径3.5cmの塊状物を認めた。イレウス管を挿入し,腸管減圧後に行った小腸造影で,イレウス管先端付近の小腸内腔に,楕円形の陰影欠損を認めた。以上より,食物残渣の陥頓をきたした食餌性イレウスと診断した。食物残渣を溶解する目的で,1日計500mLのコカ・コーラゼロⓇを,100mLずつ間歇的にイレウス管先端から注入した。注入を5日間行ったところ,イレウス管の排液が著明に減少し,イレウス管先端が右側結腸まで達して,腸閉塞の解除が確認された。食餌性イレウスがイレウス管による減圧で解除されない場合,経イレウス管コーラ注入が有用な可能性がある。特に超高齢者では,手術回避の観点から考慮すべき方法であると考えられた。
著者
内野 基 池内 浩基 竹末 芳生 冨田 尚裕
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 = Journal of abdominal emergency medicine (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.1033-1039, 2012-09-30
参考文献数
19

潰瘍性大腸炎(UC)手術では貧血,ステロイド使用など手術部位感染(SSI)のリスクが高い。そこでUC手術でのSSI危険因子を検討した。【方法】創分類2のUC192手術症例のSSI危険因子について検討した。さらに創分類3,4を含む準緊急,緊急手術90症例のSSI危険因子についても検討した。【結果】創分類2では皮切部SSI12.5%,体腔/臓器1.6%であった。ASAスコア≧3(Odds ratio(OR):3.5,p=0.03),プレドニン総投与量≧10,000mg(OR:3.3,p=0.04)が皮切部SSIの危険因子であった。緊急,準緊急手術90例では皮切部SSI:31.1%,臓器/体腔SSI:6.7%であった。皮切部SSIの危険因子は術直前プレドニン≧50mg(OR:3.0,p=0.049),創分類≧3(OR:12.3,p<0.01)であった。また創分類≧3(OR:11.7,p=0.04),ハルトマン手術(直腸断端)(OR:15.7,p<0.01)が体腔/臓器SSIの危険因子であった。【結語】UC手術では高用量ステロイドが皮切部SSIの危険因子であった。体腔/臓器SSIの予防に緊急,汚染手術では粘液瘻造設を第1選択とすべきである。
著者
黒田 達夫
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.35-38, 2009-01-31 (Released:2009-03-03)
参考文献数
9

本稿では自験例の検討を交えて小児急性腹症診察のポイントをまとめた。当科で入院した小児腹部救急疾患症例の内訳では,急性虫垂炎が全体の半数を占め,さらに腸重積症,イレウス,胆道拡張症の4疾患で全体の95%以上を占めた。小児の急性腹症ではこれらの頻度の高い疾患が多様な症状,経過を呈していることが多く,これらの疾患は必ず念頭に置かなければならないものと考えられた。一方で外科の立場からは,急性腹症のprimary surveyとして,原因疾患の鑑別診断よりも,手術を要する緊急性の高い腹痛を見分ける病態診断が最優先されるべきであると考える。このため小児の急性腹症においては,初療段階より小児救急医,小児内科医,小児外科医の緊密な連携が必須であり,こうした連携を勘案した地域の小児救急医療体制を整備してゆく必要があるものと思われる。