著者
二村 直樹 松友 将純 安村 幹央 立山 健一郎 多羅 尾信 阪本 研一
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.73-77, 2004

餅による食餌性イレウスの2例を経験したので報告する. 症例1: 66歳の女性. 主訴は腹痛, 嘔吐で, 腹部に腹膜刺激症状を認めた. 血圧は74/36mmHgと低下していた. CT検査で小腸の拡張と小腸内にhighdensity tumorを認めた. ショックを伴ったイレウスの診断で緊急手術を行った2. 回腸末端より口側30cmの回腸内に白色調の硬い異物を認め, 同部より口側の小腸が拡張していた. 腸切開を行い餅を摘出した. 症例2: 76歳の女性. 主訴は右季肋部痛で腸閉塞の診断で入院した. 入院日に腹部CT検査で胃内と小腸内にhigh density tumorを認め, 上部消化管内視鏡検査で胃内に餅を認めたため, 餅による食餌性イレウスと診断した. 入院翌日の腹部CT検査で胃内の餅は十二指腸へ移動し, 小腸の餅も移動がみられた. 保存的に治療を行い, 軽快した. 餅はCT検査でhigh density tumorとして腸管内に認められ, 餅による食餌性イレウスの診断に有用であると考えられた.
著者
辻本 広紀 平木 修一 木下 学 愛甲 聡 小野 聡 山本 順司 長谷 和生
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.711-715, 2009-07-30 (Released:2009-09-08)
参考文献数
19

sepsisに派生する免疫抑制状態は,時に重篤な多臓器障害を併発するため,それらの病態形成メカニズムの解明やそれに基づいた対策が重要である。そこでsepsisに続発する免疫抑制状態に関して,制御性T細胞(以下,Treg)の役割に着目して,最近の文献および著者らの検討結果を概説した。TregはCD4+CD25+Foxp3+などの特徴を有し,ほかのT細胞の増殖・活性化を強力に抑制すると考えられている。sepsis患者や腹膜炎マウスの末梢血では,Tregの割合が著明に増加しており,この増加がsepsisにおける免疫抑制状態に深く関与しているものと考えられる。抗IL-10抗体や抗TGF-β抗体投与は,腹膜炎マウスで認められるTregの増加を阻害することができ,さらに抗TGF-β抗体投与により予後が改善した。sepsisに派生する重篤な免疫抑制状態に対して免疫学的特徴,特にTregに着目したimmunomodulation therapyは,今後sepsisの救命率向上に向けた新たな治療法となりうるものと考えられる。
著者
山本 澄治 橋本 好平 久保 雅俊 宇高 徹総
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.35, no.7, pp.955-960, 2015-11-30 (Released:2016-03-02)
参考文献数
18

近年,コーラによる胃石の溶解が報告されるようになり治療に応用され始めている。今回,コーラ飲用による溶解が誘因と考えられる,柿胃石による小腸イレウスを2度発症した症例を経験したので報告する。症例は82歳の男性で,3日前より嘔気を自覚し腹痛も認められたため受診した。CTにて食餌性イレウスの診断となり,保存的治療による改善がみられず腸管切除により異物を摘出した。しかし退院20日後に再度食餌性イレウスを発症し,再度腸管切除により異物を摘出した。2回とも先進部に線維性の塊が認められた。胃石の落下を疑いCT画像を再確認したところ,初回時の胃内に2回目の嵌頓物と同様の塊が存在した。胃石を疑った詳細な問診で,5ヵ月前に柿の食事歴があり,悪臭のある口臭が持続するため,初回入院の5日前に初めてコーラを飲用したことが判明した。このことから柿胃石がコーラにより溶解し,腸管内へ異時性に落ち込んだものと考えられた。
著者
柿原 知 佐々木 愼 寺井 恵美 渡辺 俊之
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.34, no.8, pp.1457-1461, 2014-12-31 (Released:2015-04-02)
参考文献数
14

症例は65歳,男性。間欠的な腹痛と発熱を認め,腹痛が徐々に増悪したため当院救急搬送された。来院時の血液生化学検査で白血球とCRPが上昇しており,腹部造影CT検査でS状結腸に50mm長の緩やかに弯曲する細径の高輝度領域と腸管外ガスを認めた。魚骨によるS状結腸穿孔を疑い,緊急手術を施行した。術中所見ではS状結腸腸間膜側から魚骨が突出しており,後腹膜も一部損傷していた。S状結腸部分切除とS状結腸にて人工肛門造設術(ハルトマン手術)を施行した。摘出した魚骨の長さは57mmであった。誤嚥された異物のほとんどは自然排泄されるため,消化管穿孔や穿通により腹膜炎を発症することや,腹腔内膿瘍を形成する確率はまれであると報告がある。異物の割合は日本人では食生活の影響などから魚骨が50%近くを占める。今回のように50mm超える魚骨が誤嚥の認識なく,穿孔による症状で発見された症例は極めてまれである。
著者
小林 克巳 富沢 直樹 荒川 和久 須納瀬 豊 竹吉 泉
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.631-635, 2013-03-31 (Released:2013-06-07)
参考文献数
19
被引用文献数
2

中結腸動脈瘤破裂により腹腔内出血をきたした2症例を報告する。症例1は60歳男性。腹痛で救急搬送され,腹部CTで腹腔内出血を認めた。血管造影検査で中結腸動脈瘤からの造影剤漏出があり,緊急手術を行った。腹腔内に多量の血液貯留と横行結腸間膜に巨大な血腫を認めた。中結腸動脈左枝より出血があり,同部を結紮し横行結腸切除術を行った。症例2は55歳女性。上腹部痛で前医を受診中にショックとなり,当院へ緊急搬送された。初期輸液に反応し血圧が上昇したため造影CTを行ったが,その後再びショックとなり,挿管後大動脈遮断バルーンを挿入し,緊急手術となった。出血部位の同定は困難であったが,横行結腸間膜付近が巨大血腫となっており,中結腸動脈根部を結紮し結腸間膜を左半結腸とともに切除した。2症例とも病理組織検査で,中結腸動脈の内弾性板の破壊と解離があり,周囲に血腫を伴っていたため,SAMによる動脈瘤破裂と診断し得た。
著者
篠崎 由賀里 隅 健次 山地 康大郎 田中 聡也 佐藤 清治
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.1159-1162, 2014

水上バイク事故により生じた外傷性直腸肛門損傷から縦隔気腫にまで至った1例を経験した。水上バイクの後部座席に乗船した20歳女性が振り落とされて落水。肛門部痛と気分不良を訴え,6時方向での肛門直腸の断裂を確認。胸腹部CTで肛門から直腸周囲と縦隔にまで広がるairを認め,落水した際のウォータージェット推進装置から噴き出した水による直腸裂傷,後腹膜気腫,縦隔気腫と診断した。緊急手術施行し損傷部位を縫合閉鎖,後腹膜ドレナージ,横行結腸人工肛門を造設した。術後致命的な合併症は無かったが,膀胱直腸機能障害が改善しなかったために受傷後22日目,人工肛門形成,自己導尿状態で退院。水上バイク事故による重傷損傷は増加しており,国土交通省運輸安全委員会も注意喚起している。本症例では症状は軽度であるも骨盤神経叢の損傷が疑われ膀胱直腸機能に重篤な後遺症が残る可能性もある。同様の事故を防ぐための行政対策も必要と考える。
著者
黒田 純 西田 清孝 大城 幸雄 丸山 常彦 島崎 二郎 下田 貢 鈴木 修司
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.71-74, 2021-01-31 (Released:2021-08-20)
参考文献数
7

水上バイクからの転落事故による小腸穿孔の1例を経験したので報告する。症例は28歳男性で,水上バイクの後部座席から転落し近医に救急搬送された。左大腿骨頸部骨折と診断され,前医入院となった。受傷から2日後に腹痛を訴え,消化管穿孔の疑いで当院へ転院搬送された。CT検査で腹腔内遊離ガスを認め,消化管穿孔と診断した。緊急手術施行し,損傷部位を含め小腸部分切除後端々吻合で再建し,腹腔内洗浄した。同日整形外科により大腿骨頭挿入術も行われた。術後は保存的治療を継続し,13日目には整形外科に転科した。水上バイクからの転落は,全身打撲とジェット水流による衝撃のため,高エネルギー外傷として扱う必要がある。とくに,経時的な全身観察を続けることで,遅発性の臓器損傷の早期発見につながり,治療予後の改善にかかわると考え,若干の文献的考察を含め報告した。
著者
加藤 洋介 尾山 佳永子 村杉 桂子 奥田 俊之 太田 尚宏 原 拓央
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 = Journal of abdominal emergency medicine (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.923-926, 2013-07-31
参考文献数
13

要旨:右胃大網動脈を用いた冠状動脈バイパス術既往歴がある急性胆嚢炎を2例経験した。症例1は70歳男性。無石胆嚢炎穿孔による胆汁性腹膜炎と診断。造影CT検査でグラフト血管の走行を確認し,緊急開腹手術を施行した。症例2は72歳男性。急性胆嚢炎(中等症)と診断し,保存療法を行った。血管再構成3D-CT検査でグラフト血管の走行を確認し,待機的に腹腔鏡手術を施行した。いずれも術中にグラフト血管を損傷なく確認し,合併症なく退院した。開腹,腹腔鏡下いずれの術式においても胆嚢摘出術を施行可能であったが,低侵襲性と,安全にグラフト血管を確認し得る点から,腹腔鏡手術の利点は大きいと思われた。右胃大網動脈によるバイパス術既往歴がある急性胆嚢炎に対しては,でき得る限り緊急手術を避け,十分な術前計画のもとに手術を施行することで,より安全性が担保されるものと思われた。
著者
村上 真 森川 充洋 小練 研司 廣野 靖夫 五井 孝憲 飯田 敦 片山 寛次 山口 明夫
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.33, no.8, pp.1237-1243, 2013-12-31 (Released:2014-07-02)
参考文献数
20

消化器外科手術において汎発性腹膜炎などの創分類classⅢ以上の症例ではSSIは依然高値である。今回,消化管穿孔による汎発性腹膜炎手術でのincisional SSI(以下,I-SSI)予防に持続吸引皮下ドレーンが有用かをretrospective検討した。2006年4月から2011年12月までの期間で,上部消化管を除く消化管穿孔例97例を対象に,持続吸引タイプ皮下ドレーンの有無でI-SSIの発生率を比較した。全体における皮下ドレーン留置群のI-SSIは12.9%で,非留置群の37.9%と比較し有意(p=0.0097)に低率であった。特に大腸穿孔でI-SSIが54.5%から7.1%まで低下した。皮下ドレーンは,使用症例を創分類Ⅲ以上の汚染手術とし,ドレナージチューブの抜去時期,効果的な留置に留意すれば,I-SSIの予防に有効な手段である。
著者
北村 勝哉 吉田 仁 池上 覚俊 佐藤 悦基 田中 滋城 井廻 道夫
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.565-569, 2009-05-31 (Released:2009-07-07)
参考文献数
10

本邦の急性膵炎診療ガイドラインでは,急性胆石性膵炎における緊急内視鏡治療は,胆道通過障害や胆管炎合併例に推奨されているが,治療時期や方法は施設間で相違がある。当施設において,入院72時間以内に内視鏡的逆行性膵胆管造影(endoscopic retrograde cholangiopancreatography:ERCP)を施行した急性胆石性膵炎25例を対象に治療成績を検討した。年齢は,30歳から89歳,男性が14例,女性が11例であり,厚生労働省急性膵炎旧重症度判定基準における軽症・中等症が11例,重症が14例であった。胆道通過障害や胆管炎合併を有する急性胆石性膵炎に対し,早期にERCPを用いた内視鏡治療を施行することで,膵炎の病態は改善した。しかし,内視鏡的胆管ドレナージ術(endoscopic biliary drainage:EBD)単独と内視鏡的乳頭括約筋切開術(endoscopic sphincterotomy:EST)併用EBD,および早期結石除去術と待機的結石除去術において,入院期間,結石除去率,偶発症発生率に有意差を認めなかった。偶発症として,EST後出血,およびEBD後胆嚢炎に注意する必要がある。
著者
鯉沼 潤吉 加藤 航平 黒田 晶 山村 喜之 村川 力彦 大野 耕一
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.1065-1067, 2014-07-31 (Released:2015-01-23)
参考文献数
16

症例は86歳女性。腹痛を主訴に近医受診しイレウスの診断で当院紹介された。受診時腹部CTで腹水を認め,S状結腸付近に異物を思わせる高濃度の構造物を認めた。腹部所見が軽度であり当院内科に経過観察入院となったが,翌日腹部所見の増悪を認め,腹部CTで腹水の増加,遊離ガスを認めたことから消化管穿孔を疑い緊急手術を施行した。腹腔内には汚染腹水がみられ,全腸管を検索したところS状結腸に3mm大の穿孔部を認め,ピンク色の異物が穿孔部から突出していた。穿孔部を含むS状結腸を切除し,人工肛門造設術を施行した。術後経過は特に問題なく第31病日に退院した。発症の数日前に歯科医院で義歯を作製したエピソードがあり,歯科医に異物の照合を依頼したところ義歯作製時の印象材であることが判明した。歯科用印象材が穿孔をきたした例は報告が無く,非常にまれな症例であり報告する。
著者
大屋 久晴 永田 二郎 西 鉄生 森岡 祐貴
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 = Journal of abdominal emergency medicine (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.29, no.7, pp.1021-1023, 2009-11-30
参考文献数
7
被引用文献数
2

症例は65歳の男性で,腹痛・発熱で発症し近医を受診。回盲部周囲の炎症を指摘され当院を紹介された。腹部では,臍部・右下腹部に圧痛を認めた。CTでは回盲部付近回腸側に34×28mm大のlow density areaを認め,内部にbone densityが確認され周囲fatの炎症所見を示した。発症前にぶり大根を食べていたことから魚骨穿孔による腹腔内膿瘍と診断した。抗生剤・絶飲食のみでは改善が得られないため,最終的には手術を行った。開腹所見では虫垂先端に穿孔部を認め,同部位に骨片が確認され,これを中心に周囲膿瘍が形成されていた。虫垂切除術・洗浄ドレナージを施行した。誤嚥魚骨による消化管損傷は特異的な症状がないが本症例では詳しい食事歴の聴取とmulti detector-row computed tomography(MD-CT)により診断が可能であった。
著者
水村 直人 奥村 哲 豊田 翔 小川 雅生 川崎 誠康
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.783-785, 2018-05-31 (Released:2019-12-07)
参考文献数
10

経肛門異物では患者から正確な情報が得られない場合がある。十二指腸潰瘍の既往がある50歳代の男性が,食後からの心窩部痛で救急搬送された。CT検査では十二指腸周囲に遊離ガスと大量腹水を認めた。十二指腸潰瘍穿孔と初期診断したが,直腸診での鮮血,高い腹水CT値より外傷性下部消化管穿孔の可能性を考えた。最終的にプライバシーに配慮した問診を行い,肛門から同性パートナーの前腕を挿入したことが判明した。開腹所見では,直腸Rsが穿孔,S状結腸に漿膜筋層断裂を認め,ハルトマン手術を施行した。本症例は十二指腸潰瘍穿孔に極めて類似していたが,伏せられた受傷機転が穿孔部位の術前診断に重要であった。
著者
蒲田 敏文
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.603-606, 2012-03-31 (Released:2012-06-11)
参考文献数
6

急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン初版では,胆管炎による炎症そのものは画像(CT,US,MRI)では診断できないので,画像診断の意義は胆道閉塞の有無やその成因を診断することであると記載されている。しかしながら,造影ダイナミックCTを施行することで,胆管炎に特徴的な所見を得ることができる。すなわち,胆管炎ではダイナミックCTの動脈相で肝実質に一過性の不均一濃染が高率に認められる。この濃染は門脈相~平衡相では消失する。この不均一濃染の成因は,胆管炎に伴う炎症の肝内グリソン鞘への波及により末梢門脈血流が低下し,代償性に末梢肝動脈血流が増加するためと考えられている。胆管炎の治療により炎症が改善すれば,この不均一濃染も改善ないし消失する。臨床的に胆管炎が疑われる場合には,迅速な診断と治療を行うためにもダイナミックCTの施行が勧められる。
著者
古川 浩一 神田 達夫 舟岡 宏幸
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.31, no.7, pp.1039-1043, 2011-11-30 (Released:2012-01-27)
参考文献数
15

非閉塞性腸間膜虚血症(NOMI)は,腹部の動脈の攣縮・狭小化による血流低下で,広範囲の腸間膜虚血や腸管壊死が惹起されことが知られている。しかし,この腸間膜虚血症を従来の検査方法で,早期に選択的に簡便に評価することは困難と言える。一方,重症急性膵炎においてもNOMIはしばしば発生し,その病態や予後への関与が報告されている。今回,膵炎に発生するNOMIに対し,小腸粘膜に特異的に分布する腸管由来の脂肪酸結合蛋白(I-FABP)を測定し,NOMI診断への臨床的意義につき検討した。IFABPは急性膵炎の重症度に関連する病態を示し,腸間膜血流に関連する造影CT検査におけるグレードの膵外進展度に相応した数値上昇を認めた。潰瘍性大腸炎例での計測とI-FABPの小腸粘膜への特異的な分布を考慮すると,急性膵炎に併発する小腸粘膜傷害を直接的に反映していると言える。以上より,I-FABPは急性膵炎時のNOMIの早期診断や病態評価に有用な指標と考えられる。
著者
大石 康介 小泉 貴弘 諏訪 大八郎 井田 勝也 石原 康守 大貫 義則 鈴木 章男 中島 昭人 神谷 隆
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 = Journal of abdominal emergency medicine (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.525-528, 2007-03-31
参考文献数
13
被引用文献数
2

腹部緊急手術後の, 感染による腹壁欠損症例を2例経験した。症例1 : 26歳, 男性。交通事故による左側腹部広範囲挫滅創, 腹腔内臓器損傷に対し緊急手術を施行した。術後, 創周辺に感染, 壊死を起こし, 15&times;10cmの腹壁全層欠損が生じ, Bard Composix Mesh<sup>&reg;</sup> (以下, メッシュ) で欠損部を充填し, 腹壁を閉鎖した。創部感染の収束を待ち, 腹直筋皮弁を用いた腹壁再建術を行い得た。症例2 : 77歳, 男性。閉塞性大腸炎による大腸穿孔をきたし, 横行結腸部分切除, 人工肛門造設を行った。術後, 空腸皮膚瘻による人工肛門周囲の感染を併発し, 同部周囲に腹壁欠損を生じた。人工肛門閉鎖時, 欠損部は5&times;10cmとなり, メッシュで欠損部を覆った。感染収束後メッシュを除去, 閉創を行った。高度感染を伴う腹壁欠損の2症例において, メッシュを用いた二期的再建が有効であった。
著者
坂谷 彰彦 今村 綱男 田村 哲男 小泉 優子 小山 里香子 木村 宗芳 荒岡 秀樹 竹内 和男
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.1023-1026, 2013-09-30 (Released:2014-01-10)
参考文献数
22

要旨:症例は30歳女性。当院受診9日前に強い右季肋部痛が出現し近医を受診。血液検査では炎症所見の上昇がみられたのみで腹部単純CT検査と腹部超音波検査で異常がみられなかったため経過観察とされた。その後,痛みの範囲が腹部全体に拡大したため他院胃腸科を受診し上部内視鏡検査を施行され,婦人科も受診したが痛みの原因は不明であったことから精査目的に当院紹介となった。造影CT検査施行した結果,動脈早期相で肝表面に層状の濃染像を認めたため肝周囲炎を疑い,クラミジアを標的とした抗菌薬投与したところ症状は速やかに改善した。後に膣分泌物クラミジアトラコマチスPCRの結果が陽性と確認されたことからFitz-Hugh-Curtis症候群と確定した。今回われわれは造影CTが診断に有用であったFitz-Hugh-Curtis症候群の1例を経験したことから若干の文献的考察を交えて報告する。
著者
田中 肖吾 石原 寛治 倉島 夕紀子 大野 耕一 山本 隆嗣
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.99-103, 2013-01-31 (Released:2013-04-17)
参考文献数
41

患者は86歳,女性。以前から左鼠径ヘルニアを自覚していたが放置していた。また認知症があり食べ物を飲み込む習慣があった。平成23年10月発熱を主訴に来院。触診上,腹部全体に圧痛および筋性防御を伴っていた。左鼠径ヘルニアは疼痛もなく用手還納は可能であった。血液検査上著明な炎症所見の亢進を認めた。腹部CT像上,わずかな遊離ガスおよび左鼠径ヘルニアを認めたが,穿孔部位は同定できなかった。また異物の描出も認めなかった。汎発性腹膜炎の診断で緊急開腹したところ,Douglas窩膿瘍の中に爪楊枝を認め,左鼠径部に陥入していた小腸に穿孔部位を認めたために小腸部分切除を施行した。術後経過は良好で,術後6日後に鼠径ヘルニア修復術を施行した。その後家人より受診2日前に作った串揚げにつかった爪楊枝と串が数本無くなっていたとの報告をうけ,術後8日後にCTを撮影したところ,盲腸に線状の高吸収域を認めたため遺残異物と診断した。線状高吸収域は術後13日後には横行結腸に移動していた。術後15日後に大腸内視鏡を施行したところ横行結腸に串を認め,摘出した。経過良好で術後22日後に退院となった。異物誤飲に対しては詳細な病歴聴取と術後症状がなくても遺残がないかCT検査を行うことが重要と思われた。
著者
藤原 聡史 福井 康雄 伊達 慶一 齋坂 雄一 上月 章史 尾崎 和秀 中村 敏夫 志摩 泰生 西岡 豊
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.679-682, 2015-07-31 (Released:2015-10-31)
参考文献数
19

症例は84歳女性で高血圧症,関節リウマチ,逆流性食道炎がありcelecoxib,lansoprazoleなど内服中であった。発熱,下痢,血便が出現し,発症から17時間後に前医で腹膜刺激症状を指摘された。腹部単純CTで穿孔性腹膜炎が疑われ,当科に紹介された。腹部CTで結腸脾弯曲部からS状結腸にかけて壁外にair densityを伴う全周性の壁肥厚を認めた。虚血性腸炎による後腹膜穿通と診断し緊急手術を施行した。手術所見では下行結腸壁が菲薄化,穿孔しており,穿通部位を切除しハルトマン手術を施行した。病理組織学的検査でcollagenous colitisと診断された。celecoxib,lansoprazoleの内服を中止し,術後12ヵ月以後再燃なく外来経過観察中である。