著者
伊藤 得路 土井 正太郎 濱田 徹 安田 武生
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.41, no.7, pp.579-582, 2021-11-30 (Released:2022-06-03)
参考文献数
20

茸による食餌性腸閉塞の2例を経験したので報告する。【症例1】既往歴に脳性麻痺のある56歳の女性。腹部手術歴はなし。腹痛と嘔吐を主訴に受診した。CT検査でair densityを伴う塊状物と口側腸管の拡張が認められた。意思疎通を図ることが困難であり,腸管壊死の可能性が否定できないため緊急手術を施行した。回腸末端から約30cm口側に可動性のある腫瘤を認め,切開して椎茸を摘出した。【症例2】39歳の女性。腹部手術歴はなし。腹痛と嘔吐を主訴に受診した。CT検査でair densityを伴う塊状物と口側腸管の拡張が認められた。前日に茸を含むすき焼きを摂取したことを聴取し,食餌性腸閉塞の可能性を考慮し,緊急手術を行った。回腸末端より50cm口側に塊状物を確認し,腸閉塞の原因と考えられた。腸を切開してエノキ茸を摘出した。腹部手術歴のない腸閉塞症例では食餌性腸閉塞を鑑別にあげ診療にあたる必要がある。
著者
水野 翔大 瀬尾 雄樹 西山 亮 亀山 哲章 秋山 芳伸
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.069-072, 2019-01-31 (Released:2020-03-24)
参考文献数
4

症例は76歳,男性。46歳時に統合失調症を発症し,長期間精神科病院に入院中であった。下腹部痛を訴え,腹部CTでS状結腸を閉塞機転とする大腸閉塞,多発肝転移の所見を認めたため精査加療目的に当院転院搬送された。経肛門イレウス管の挿入を試みたが,ガイドワイヤーが穿孔したために緊急手術をすすめた。しかし本人が手術を拒否したため,保存的に経過観察した。その10日後に一転し手術希望があったため,横行結腸人工肛門造設術を施行した。術後2日目の夜間,人工肛門を自身で牽引し,横行結腸が腸間膜ごと脱出している状態になったため,緊急で人工肛門再造設術を施行した。精神疾患合併患者の術後管理において当院ではさまざまな工夫をしているが,人工肛門の自己抜去という想定外の事象を経験した。精神疾患合併患者の術後管理においては人工肛門も自己抜去の対象となりうることを念頭に置く必要があることが示唆された。
著者
春木 伸裕 佐藤 篤司 杉浦 正彦 呉原 裕樹 辻 秀樹
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.487-490, 2010-03-31 (Released:2010-05-11)
参考文献数
15
被引用文献数
4

症例は1型糖尿病で通院中の55歳女性で,インスリン注射を3日前から自己中断し意識障害を呈し入院となった。血液検査にて糖尿病性ケトアシドーシスと診断し治療を開始した。翌日38℃の発熱と腹部膨満を訴えたため,緊急CTを施行した。腹水,門脈ガス,広範な腸管気腫を認め,腸管壊死による急性腹膜炎と診断し緊急手術を施行した。開腹すると,回腸末端の約200cmの回腸が分節的に壊死しており,S状結腸も暗紫色を呈し虚血に陥っていた。上腸間膜動脈および下腸間膜動脈は本幹から末梢まで拍動を触知できたことから,非閉塞性腸管膜虚血症(nonocclusive mesenteric ischemia: 以下,NOMI)と診断し,壊死した腸管の切除と下行結腸に人工肛門を造設した。NOMIは主幹動脈に器質的閉塞がないにもかかわらず,腸管に虚血あるいは壊死を生じる予後不良の疾患で,自験例は著明な脱水と,高血糖による高浸透圧が増悪因子となり,NOMIを発症したものと考えられた。
著者
荒川 信一郎 阪本 研一 上松 孝
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.983-987, 2016-07-31 (Released:2016-12-28)
参考文献数
21

症例は42歳の女性。統合失調症で他院通院加療中に突然の希死念慮のため文化包丁で自分の腹部を刺し受傷1時間45分後に救急搬送された。来院時包丁は腹部に刺さったまま固定された状態であった。造影CT検査で膵頭部,胃前庭部~十二指腸の損傷を疑い受傷4時間15分後に緊急開腹術を施行した。包丁先端は十二指腸球部を穿通し膵頭部上縁実質を約5mm幅で穿通し椎体腹側に達していた。助手が包丁を固定した状態で慎重に損傷部位の検索を行い主膵管・胆管・主要血管の損傷がないと判断した時点で包丁を抜去し,穿孔部を含む胃十二指腸切除+膵頭部縫合閉鎖を行った。術後経過は良好で術後17日目にかかりつけ精神科に転院となった。本邦の腹部外傷は鈍的外傷が多く刺創に遭遇する機会は少ない。自験例では成傷器が残存した状態にあり詳細な術前評価は困難であったが,注意深い手術操作のもと検索を行うことで良好な経過を得ることができた。
著者
加納 由貴 淺井 哲 松尾 健司 竹下 宏太郎 一ノ名 巧 赤峰 瑛介 藤本 直己 山口 拓也 城田 哲哉
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.727-731, 2018-05-31 (Released:2019-12-07)
参考文献数
18

症例は92歳の女性。Press through package(以下,PTP)を誤飲しその後呼吸苦・胸痛が出現し当院へ救急搬送された。胸腹部CTで食道・胃内に7個のPTPを認め緊急内視鏡的異物摘出術を施行した。内視鏡を挿入すると実際には食道・胃内にそれぞれ4つ合計8つPTP異物を確認し,摘出した。翌日胸腹部CT・上部消化管内視鏡検査でPTPが小腸・大腸含め消化管内に残存していないことを確認した。PTP誤飲は消化管穿孔を起こす危険があり緊急内視鏡的異物摘出術の適応となる救急疾患である。今回われわれは1つの症例で8個のPTPを誤飲した希少な症例を経験した。実際には胸腹部CTで想定された数よりも多くのPTPが摘出されており,PTP誤飲ではCTでは検出されないPTPの存在を念頭に置いて処置および経過観察をする必要があると考えられた。
著者
野中 隆 福岡 秀敏 竹下 浩明 日高 重和 七島 篤志 澤井 照光 安武 亨 永安 武
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.491-493, 2010-03-31 (Released:2010-05-11)
参考文献数
11
被引用文献数
1

患者は50歳男性。性的嗜好にて肛門に長さ15cm,直径10cm程度の薬瓶を挿入。自身でペンチを用いて取り出そうとしたが摘出できず,ビンが割れて出血してきたため当院救急外来受診となった。腹部単純X線では小骨盤腔内にはまり込んだ破損したガラス瓶を確認し,腹部CTの3次元再構築画像でガラス瓶の破損部位などの詳細な状況を把握しえた。経肛門操作による摘出は困難と判断し,同日緊急手術を施行。肛門より破損したガラス瓶の入口部より自動吻合器(サーキュラーステイプラー)を挿入し,直腸RS部を切開し逆行性にガラス瓶を摘出した。直腸切開部は離断し人工肛門を造設し手術を終了した。直腸異物は,性的嗜好や事故により肛門から器具などが挿入され,抜去不可能となったものである。破損したガラス瓶摘出を行う際には,事前に形態や破損状況を確認し,状況に応じた適切な手段を選ぶ必要がある。
著者
箕輪 啓太 下村 克己 高階 謙一郎
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.079-084, 2017-01-31 (Released:2017-04-03)
参考文献数
12

要旨:Meckel憩室が腸閉塞の原因になっている頻度は腸閉塞全体の0.3~1.5%であり,比較的まれな疾患である。過去9年間に当院で経験したMeckel憩室が原因である腸閉塞4例について報告する。全例が男性で,0~76歳であったが,術前CTでMeckel憩室由来の腸閉塞が指摘されたのは3例であった。全例とも外科的治療を施行した。腸閉塞の原因は,術中所見から3例が憩室関連の内ヘルニア,1例が憩室炎による癒着性腸閉塞と判明した。術式は小腸部分切除術2例,楔状切除1例,単純切除1例であった。病理検査で異所性組織を認めたのは1例のみであった。術後経過は良好であった。原因不明の腸閉塞の場合は造影CTが診断に有用であり,原因の1つとしてMeckel憩室を念頭に置くべきである。
著者
田村 暢一朗 山川 達也
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.919-921, 2017

<p>症例は62歳の男性で,職場の同僚に作業場にある工業用エアコンプレッサーを殿部にむけ噴射され受傷し,当院に来院した。エアコンプレッサーと患者の殿部との距離は約50cm離れており,患者は長ズボンと下着を着用していた。来院時頸部から前胸部にかけての皮下気腫と下腹部に反跳痛を伴う圧痛を認めた。胸腹部CTで直腸穿孔による後腹膜気腫,縦隔気腫,皮下気腫への進展と診断し,緊急開腹術を行った。開腹したところ,腹膜反転部直上から約4cm口側にわたって直腸間膜対側に腸管軸方向に漿膜筋層の裂創と,その裂創の一部に全層性の穿孔部位を認め,Hartmann手術を施行した。術後,縦隔炎や後腹膜膿瘍を形成することはなく,第23病日に退院となった。エアコンプレッサー自体を肛門に挿入せずに,患者とある程度の距離から送気されたとしても,十分に直腸損傷を生じる可能性があると考えられた。</p>
著者
高橋 玄 佐藤 雅彦 大久保 剛
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.91-94, 2009-01-31 (Released:2009-03-03)
参考文献数
7
被引用文献数
1

症例は79歳男性。近医に脳梗塞・認知症で入院中であった。既往に内痔核があり痔疾用軟膏を1日1本投与されていた。2008年3月上旬に腹痛・嘔吐が出現。腹部所見は板状硬であり,腹部CT検査でfree airが認められ当院転院となった。消化管穿孔・汎発性腹膜炎の診断で同日緊急手術施行。腹腔内は糞便で汚染されており,洗浄後観察すると直腸Raに深達度SSの直腸癌と思われる腫瘍が認められた。その1cm口側に10mm大の穿孔部位があり,痔疾用軟膏のケースの1部が露出していた。術式は腹腔ドレナージ+ハルトマン手術とした。病理組織結果はSS,N0の高分化腺癌であった。その後,不幸にして患者は呼吸不全となり永眠された。痔疾用軟膏のケースにより消化管穿孔をおこした直腸癌は極めてまれであり,今後このように不幸な転機をとる患者を減らすためには本人以外が薬剤を投与するなどの予防策を考慮すべきであると思われた。若干の文献的検討を加え報告する。
著者
伊藤 暢宏 大輪 芳裕 堀越 伊知郎 黒川 剛 鈴村 和義 野浪 敏明
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.645-648, 2004

症例は64歳, 男性。留置所内において, 自殺目的で腹部に箸を突き立て, 壁にぶつかり受傷し, 当院に搬送された。来院時, 意識状態良好で, バイタルサインも安定しており, 腹部は平坦, 貧血を認めなかった。箸は膀部より刺入, 固定されていた。腹部CT検査にて, 箸は1下大静脈を貫通後, 腰部椎体にまで達していたが, 明らかな腹腔内出血, 遊離ガス像は認めなかった。箸刺創による下大静脈損傷と診断し, 緊急手術を施行した。箸は, Treitz靱帯より約30cm肛門側の空腸と, 総腸骨静脈合流部より約2cm頭側の下大静脈を貫通し, 椎体に刺さっていた。下大静脈貫通部を縫合止血後, 空腸貫通部も一次的に縫合閉鎖をした。他の損傷は認めなかった。術後経過良好で, 第16病日目に退院した。腹部刺創では, 受傷状態のまま搬送することが肝要であり, 全身状態が安定していれば, 損傷部位の診断にCT検査は有用である。
著者
進士 誠一 田尻 孝 宮下 正夫 古川 清憲 高崎 秀明 源河 敦史 佐々木 順平 田中 宣威 内藤 善哉
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.815-819, 2003-07-31 (Released:2010-09-24)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

症例は61歳男性. 1995年8月に十二指腸潰瘍穿孔のため上腹部正中切開開腹下に幽門側胃切除術施行. 1996年5月頃より手術瘢痕部に直径約10cmの半球状に膨隆する腹壁瘢痕ヘルニアを生じ, 近医でフォローアップされていた. 2002年9月4日排便時に腹壁破裂を生じ, 救急外来受診. 小腸脱出を伴った腹壁破裂と診断され緊急手術となる. 腹壁破裂創は約10×20cmで, 脱出した腸管の色調は良好であった. 腹腔内の感染が危惧されたため, 腹腔内を洗浄後, 腸管を腹腔内に戻し, 一時的に皮膚一層のみを縫合した. 術後感染を合併せず順調に回復. 術後26日目の9月30日に待期的に腹壁形成術を行った. 腹直筋前鞘と後鞘はメッシュを用いて補強した. 腹壁瘢痕ヘルニアは腹部手術における比較的多い術後合併症であるが, 破裂に至る症例はまれである. 今回, 腹壁破裂を生じ二期的手術により治療し得た1症例を経験した.
著者
浮山 越史 伊藤 泰雄 韮澤 融司 渡辺 佳子 吉田 史子 牧野 篤司
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.63-68, 2009

当教室の小児腹部外傷患者の経験をもとに,診療のコツ,について考察した。重症度判定では腹部外傷スコア(ATS)が有効であった。交通外傷,転倒・転落では実質臓器損傷が多かった。自転車転倒によるハンドル外傷では,十二指腸損傷が多く,疑われる場合には,上部消化管造影や造影CTが有用であった。膵仮性嚢胞は最大径60mm以上で,40日以内に軽快しない場合には手術適応であった。実質臓器損傷は保存的治療を基本としているが,急変の可能性を考慮し,繰り返す診察と検査,24時間モニターによる観察が必要であり,急変時に備えて,IVR・手術の24時間体制の構築が重要である。
著者
小島 洋平 下位 洋史 渋谷 学 長尾 美智子 大倉 史典 百名 佑介 菊池 友允
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.943-947, 2012-07-31 (Released:2012-10-01)
参考文献数
7

症例は60歳男性で,30年来の脊柱管狭窄症でNSAIDs(Diclofenac sodium)を常用していた。腹痛,貧血精査で他院に入院したが,イレウスと診断され治療目的に当院へ転院となった。腹部単純X線検査,腹部CT検査で小腸の著明な拡張と,イレウス管造影で小腸に高度の狭窄像を認めた。転院時,極度の低栄養を認め,転院後に呂律不良,四肢感覚麻痺などの進行性の神経障害が出現したが原因は不明であった。イレウス管留置,高カロリー輸液で改善なく,入院21日目に小腸部分切除術を施行した。術後,神経症状,低栄養を含め全身状態は劇的に改善した。病理所見上,深い潰瘍を認めた。また,非乾酪性肉芽腫などの異常はなく,NSAIDsを常用していることから,NSAIDs小腸潰瘍と診断した。NSAIDs投与中止後は,再発を認めていない。
著者
石原 寛治 田中 肖吾 橋場 亮弥 大畑 和則 上西 崇弘 山本 隆嗣
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.33, no.7, pp.1223-1226, 2013-11-30 (Released:2014-02-05)
参考文献数
13

要旨:症例は30代の男性。3日前,左下腹部鼠径靭帯頭側を圧挫し出張先で近医受診,腹部所見・腹部X線検査で異常なく自宅安静となったが腹痛と発熱が増強し当院受診した。循環動態は安定し左下腹部の鈍的外傷痕も軽微であったが,腸蠕動音減弱と腹部全体の筋性防御を認めた。腹部単純X線・CT検査で両横隔膜下・S状結腸間膜側に遊離ガス像を認め下部消化管穿孔を疑い緊急開腹手術施行した。糞便による汚染はほとんどなく肉眼的にS状結腸間膜側の穿孔は1cm程度であったが,挫滅穿孔部を含めS状結腸部分切除し一期的端々吻合した。切除標本の検索で穿孔は間膜側半周におよんでいた。腹部鈍的外傷が軽微で受傷早期に消化管穿孔の所見がなくとも,腸間膜側損傷の場合は遅れて所見が出ることがあり,経時的腹部所見の観察が必要である。