著者
林 伸和 川端 康浩
出版者
日本臨床皮膚科医会
雑誌
日本臨床皮膚科医会雑誌 (ISSN:13497758)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.63-67, 2018 (Released:2018-06-27)
参考文献数
8

イボにヨクイニンを奨める広告を見て,脂漏性角化症(老人性疣贅)にヨクイニンの処方を希望して皮膚科を受診する患者が少なくない.そこで,ヨクイニンの脂漏例角化症に対する有効性を文献的に検討した. 【方法】医薬品医療機器総合機構のホームページで一般用を含むヨクイニンに関係する医薬品の添付文書の適応症を確認し,医学中央雑誌とPubMedを用いて,脂漏性角化症に関連するヨクイニンの論文を検索し,該当した論文を精査した. 【結果】ヨクイニンを配合する医療用医薬品は36品目あり,そのうちヨクイニンエキスの2品目は尋常性疣贅と青年性扁平疣贅に適応があり,麻杏よく甘湯エキスはイボを適応症としていた.一般用医薬品・要指導医薬品には,ヨクイニンを主成分とする製剤(狭義のヨクイニン)が7品目,せんじ薬である薏苡仁煎が1品目あり,狭義のヨクイニンの適応症は「いぼ,皮膚のあれ」,薏苡仁煎では,「いぼ,皮膚のあれ,利尿,関節痛」となっていた.医学中央雑誌を用いた検索では,「ヨクイニン」で453,「ヨクイニン」と「いぼ」の組合せで113の論文が抽出され,「ヨクイニン」と,「老人性疣贅」もしくは「脂漏性角化症」で3つの論文が該当したが,いずれもヨクイニンの脂漏性角化症への有効性を述べたものではなかった.また,PubMedではヨクイニンで6論文があるが,脂漏性角化症に関係するものはなかった. 【結論】ヨクイニンに脂漏性角化症の適応はなく,有効性を述べた論文はなかった.一般用医薬品などでは平易な病名にするため「いぼ」と表現しているが,ヨクイニンの適応疾患として老人性疣贅は含まれず,ウイルス性疣贅のみを指すと考えられる.患者の誤解をなくすため,適切な啓発活動が必要である.
著者
川島 眞 加藤 俊之 藤井 千恵 加藤 るみこ
出版者
日本臨床皮膚科医会
雑誌
日本臨床皮膚科医会雑誌 (ISSN:13497758)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.488-496, 2018 (Released:2018-06-27)
参考文献数
11
被引用文献数
1

再発型単純疱疹(口唇ヘルペス,性器ヘルペス)患者に対するファムシクロビル(FCV)の1日治療の有効性および安全性について,ランダム化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験で検討した. 本試験では,FCV 1000 mg(FCV錠 250 mgを4錠)又はプラセボを単純疱疹の前駆症状発現から6時間以内に1回目を服薬し,2回目を1回目から12時間後に服薬した. 1134例の患者がFCV群又はプラセボ群にランダム化された後,531例が治験薬を服薬した(Intent-to-treat).主要評価項目はIntent-to-treatからAborted lesion症例を除いた集団373例を対象に解析した.主要評価項目であるすべての病変部位が治癒するまでの時間の中央値は,FCV群で4.7日,プラセボ群で5.7日であり,FCVの1日治療は,治癒までの時間を有意に短縮した(P=0.008).副次評価項目である病変部位のウイルスが消失するまでの時間およびすべての病変部位が完全痂皮化するまでの時間についても,有意に短縮した(それぞれP=0.042,P=0.004).有害事象の発現率はFCV群で19.0%(50/263例),プラセボ群で11.6%(31/268例)であり,重篤な有害事象は発現しなかった.以上より,FCVの1日治療の有効性が検証され,高用量投与による安全性上の問題は認められなかったことから,本治療法は再発型単純疱疹の有用な治療選択肢の一つとなることが示唆された.試験登録番号JapicCTI-163223
著者
川島 眞 宮地 良樹
出版者
日本臨床皮膚科医会
雑誌
日本臨床皮膚科医会雑誌 (ISSN:13497758)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.732-741, 2017 (Released:2018-06-27)
参考文献数
6

要旨 本邦の痤瘡診療のさらなる向上のための啓発が求められていることから,現状を把握するために一般人を対象として、痤瘡およびその治療に関する知識,受療行動について実態調査を実施した。 インターネットの一般モニターを対象に調査を実施し,10歳代から50歳代の2,434名(男性1,226名,女性1,208名)から有効回答が得られた。痤瘡に罹患した経験がある人は男性で79.0%,女性で82.5%,全体では80.7%であった。現在,痤瘡の症状がある人では面皰主体である人を含め,男女共に80%以上が軽症であった。 医療機関の受診率は男性で14.6%,女性で18.6%,全体で16.8%であった。受診後の通院継続率は,男性が65.9%に対して,女性では33.3%しか継続していなかった。医療機関を受診しなかった理由としては,自然治癒を期待して待つとの回答が半数以上を占めていた。 受診時に処方された内服薬は,内服抗菌薬が男性で65.8%、女性で43.1%と最も多く、次いでビタミン剤,漢方であった。外用薬はほとんどの受診者に処方されていたが,外用抗菌薬は男性で63.2%,女性で49.7%であった。外用抗菌薬と同時に処方された外用薬は,アダパレンが男性で34.2%,女性で14.9%,過酸化ベンゾイルが男性で21.1%,女性で5.4%であった。一方,外用抗菌薬が単独で処方されていたのは,男性で23.7%,女性で48.6%であった。受診時の総合満足度は,非常に満足が男性9.2%,女性10.8%であった。 今回の調査から,痤瘡患者の受療行動は必ずしも積極的とはいえず,また,医療機関側でも内服抗菌薬の選択や耐性菌回避のための併用療法,維持療法の導入などを勧めた尋常性痤瘡治療ガイドラインが必ずしも遵守されていない現実が示された。また,患者および医療従事者に向けても新しい痤瘡治療薬や維持療法の重要性に関する情報提供が必要と考えた。
著者
相馬 良直
出版者
日本臨床皮膚科医会
雑誌
日本臨床皮膚科医会雑誌 (ISSN:13497758)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.233-237, 2007-04-15 (Released:2009-03-13)
参考文献数
8

ステロイド外用剤の副作用は、外用部位の皮膚に現れる局所的副作用と、吸収されたステロイドの全身影響である全身的副作用に分類される。全身的副作用は、強力なステロイドを長期大量に使用した場合にのみ現れるもので、通常の外用で出現することはない。局所的副作用には毛包炎、ざ瘡、白癬、皮膚萎縮、紫斑、毛細血管拡張、多毛、色素脱失、酒さ様皮膚炎などがあり、使用したステロイドの強さ、部位、使用期間などにより、様々な副作用が出現しうる。皮膚科医はこれらの副作用について熟知し、その予防に努め、適切な対策を講じなければならない。アトピー性皮膚炎における白内障、顔面難治性紅斑、頸部さざなみ状色素沈着が、ステロイドの副作用ではないかする議論がかつて存在したが、今ではほぼ否定されている。使用するステロイドの強さと処方量は、皮疹の重症度と面積で判断するが、外用コンプライアンス上昇のためには、なるべく単純な処方とし、1日当たりのdoseを分かりやすく指示するのがよい。いわゆるタキフィラキシーについては、全く存在しないと考えるのは誤りであるが、臨床的に重大な問題に結びつくほどの影響はないと考えられる。(オンラインのみ掲載)
著者
仲 弥
出版者
日本臨床皮膚科医会
雑誌
日本臨床皮膚科医会雑誌 (ISSN:13497758)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.62-68, 2021 (Released:2021-07-03)
参考文献数
5

目的と方法:実臨床における爪白癬患者に対するホスラブコナゾールL-リシンエタノール付加物(ネイリンⓇカプセル,以下ホスラブコナゾール)の有効性および安全性を検討する目的で,2018年8月~2020年2月に当院を受診し,爪白癬の診断の下にホスラブコナゾールを処方された患者を対象としてカルテ情報を収集した. 結果:対象は爪白癬患者360例(足爪白癬340例,手爪白癬28例,そのうち両者の重複例8例)で,男女とも70歳台が最も多かった.ホスラブコナゾール12週投与を終了し投与開始から1年以上経過した足爪白癬84例における治療成績は完全治癒59例(70.2%),転帰不明22例(26.2%),無効3例(3.6%)であった.完全治癒は治療開始後3カ月と6~12カ月に確認できた例が多く,転帰不明例の多くはドロップアウト(最終来院)時に改善傾向を示していた.360例中ホスラブコナゾール12週の投与を完結できた症例は249例(69.2%)で,治験で除外されていた高齢者や若年者,手の爪白癬または難治な爪白癬に対しても本薬の高い有効性が認められた.投薬中の臨床検査にて260例中ALT/ASTは18例(6.9%)に,γ-GTPは61例(23.5%)に異常値を認めたが,皮膚症状など他の副作用を含め重篤な例はなかった. 結論:ホスラブコナゾールは実臨床においても完全治癒率と投与継続率が高く,肝機能検査など適切な対処により重篤な副作用を回避できることから,合併症などで内服が困難な例や外用薬で早期完治が期待できる例を除き,すべての爪白癬症例において早く確実に治すための第一選択薬として用いられるべき薬剤と思われる.
著者
林 伸和 森 直子 内方 由美子 是松 健太 可児 毅 松井 慶太
出版者
日本臨床皮膚科医会
雑誌
日本臨床皮膚科医会雑誌 (ISSN:13497758)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.434-444, 2021 (Released:2021-07-03)
参考文献数
9

過酸化ベンゾイルゲル(ベピオ®ゲル 2.5 %,以下,本剤)は,2014年12月に尋常性痤瘡を効能として承認された,抗菌作用および角層剥離作用を有する薬剤である.2015年7月より本剤の日常診療下における尋常性痤瘡に対する特定使用成績調査を実施し,観察期間12ヵ月間での安全性および有効性について検討した. 安全性解析対象症例の15.2%(169/1109例)に副作用が認められた.重篤な副作用として適用部位紅斑が1例認められたが,それ以外は非重篤であった.副作用発現症例169例すべてに,医薬品リスク管理計画で「重要な特定されたリスク」とされている皮膚刺激症状がみられており,そのうち119例は本剤使用1ヵ月以内に発現していた.女性や乾燥肌,敏感肌の症例等で皮膚刺激症状の発現頻度が高い傾向がみられたが,特に本剤の使用を回避すべき患者層はなかった. 全顔の皮疹数の減少率(中央値)は,12ヵ月後までの最終評価時において,炎症性皮疹が80.0%,非炎症性皮疹が66.7%,総皮疹が73.9%であった.また,最終評価時の全般改善度「著明改善」または「改善」と判定された症例は,顔面で71.4%(788/1103例),顔面以外で64.1%(59/92例)であった.Skindex-16日本語版を用いたquality of life評価において,症状,感情,機能および総合スコアの全てが本剤使用開始時と比べて3ヵ月後に有意に減少しており,本剤使用12ヵ月後においても減少状態が維持されていた. 以上より,本剤は実臨床において,急性炎症期だけでなく長期使用した場合にも有用な薬剤であることが示された。
著者
佐々木 豪
出版者
日本臨床皮膚科医会
雑誌
日本臨床皮膚科医会雑誌 (ISSN:13497758)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.417-423, 2020 (Released:2020-09-30)
参考文献数
12

当院を受診中の慢性特発性蕁麻疹患者で,既存の第2世代抗ヒスタミン薬効果不十分 [重症度レベル3以上かつ蕁麻疹活動性スコア(Urticaria Activity Score:UAS)3以上]であった50例について,ビラスチン(ビラノアⓇ)への切り替えによる臨床的検討を行った.UASはビラスチン切り替え後2週間で有意な低下が認められ,その低下は8週後まで継続した.さらに前治療の薬剤が,ピペリジン/ピペラジン系および三環系のいずれであっても,ビラスチンへの切り替え後2週間で有意なスコアの低下が認められた.薬剤別に解析すると,フェキソフェナジン,オロパタジン,レボセチリジン,ベポタスチン,ロラタジンからビラスチンへ切り替えた場合のUASの低下は2週以降も継続したが,エピナスチンからの切り替えによるUASの低下は2週以降継続しなかった.以上の後方視的検討から,ビラスチンはほとんどの第2世代抗ヒスタミン薬からの切り替えで有効であることが示唆されたが,薬剤別のさらなる検討が求められる.
著者
藤広 満智子
出版者
日本臨床皮膚科医会
雑誌
日本臨床皮膚科医会雑誌 (ISSN:13497758)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.298-302, 2007-07-15 (Released:2009-03-13)
参考文献数
2

主として仙骨部褥瘡に対し、台所用穴あきポリ袋を用いたOpen Wet-dressing Therapy (OWT) を行ったところ、褥瘡の急速な改善を認めた。方法は、褥瘡を微温湯で洗浄し、適当な大きさに切った穴あきポリ袋を貼った紙オムツをするという簡単なものである。状態に応じて、デブリートメント、抗生剤軟膏ガーゼ処置の後に行った。その特長は1) 傷が治るのに不可欠な湿潤環境を保つ、2) 穴があるので適度にドレイナージができる、3) ずれによる皮膚障害を防ぐ、4) 皮膚にテープを貼らないためテープかぶれを起こさない、5) ガーゼのような厚みがないので圧迫がない、6) 短時間に実施できる、7) 痛みが少ない、8) 感染をおこさない、9) 安価で入手が容易、ということである。すでに200例以上をこの方法で処置し、その手軽さと治癒の早さから患者、看護師の評価は高く、現在は褥瘡患者の9割をこのOWTで治療している。褥瘡報告書の転帰を集計した結果、OWT導入前78例と導入後の118例の転帰は、治癒の割合が30.8%から51.7%と有意に上昇した。当科ではこの経験から下腿潰瘍などの褥瘡以外の難治性潰瘍にもOWTを用いているが、その有用性は医療用ドレッシング材に劣らないと評価している。(オンラインのみ掲載)

3 0 0 0 OA ペラグラの1例

著者
一ノ宮 愛 西本 勝太郎
出版者
日本臨床皮膚科医会
雑誌
日本臨床皮膚科医会雑誌 (ISSN:13497758)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.477-482, 2016 (Released:2016-12-22)
参考文献数
29

80歳女.初診の1~2年前より逆流性食道炎による胸焼け症状のため摂食不良が続き,約10kgの体重が減少した.鶏肉以外の肉類や乳製品を摂取しない偏食もあった.数か月前から全身倦怠感とふらつき,下痢が出現.1ヶ月前より両手背紅斑を認め,近医でステロイド外用を行うも軽快しなかった.当科初診時,両手背に境界明瞭な赤褐色斑があり,鱗屑,痂皮,びらんを伴っていた.血中ニコチン酸は正常下限値であったが,病歴・症状よりペラグラと診断した.ニコチン酸アミド内服を開始したところ,約10日で皮疹は略治し,その他の症状も数日で軽快した.ペラグラの3主徴のうち,精神・神経症状,消化器症状は特異性に乏しく,ペラグラの診断には皮膚所見が極めて重要であった.栄養を十分に摂取できる現在,ペラグラは非常に稀な疾患であるが,アルコール多飲や摂食不良,消化管切除術の既往などがある患者が,露光部や摩擦部に左右対称性の赤褐色斑を呈した場合には鑑別疾患の一つにペラグラを挙げる必要がある.また,ペラグラの患者では他のビタミンや亜鉛等の欠乏を合併した低栄養状態であることが多く,原因検索を行った上で全体的な栄養状態を把握し,食生活の改善とニコチン酸に加え,総合的に蛋白,亜鉛,ビタミンなどを補充することも重要である.
著者
林 伸和 木村 淳子 渡邉 智幸
出版者
日本臨床皮膚科医会
雑誌
日本臨床皮膚科医会雑誌 (ISSN:13497758)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.601-609, 2018 (Released:2018-11-11)
参考文献数
11

目的:日本の医師における化膿性汗腺炎の疾患認知度と,治療実態を把握する.方法:化膿性汗腺炎の治療に関係すると予想される診療科の医師にオンラインアンケートを実施し,回答について集計・分析した.結果及び考察:517名の医師より回答が得られた.皮膚科医では,化膿性汗腺炎という疾患名は広く認知されていた.腋窩の病変には化膿性汗腺炎という病名がつけられることが多く,臀部の症例では慢性膿皮症とされることが多かった.腋窩の病変でも,より重症の場合には,慢性膿皮症という診断名がつく傾向が認められた.一方,一般内科開業医などでは化膿性汗腺炎を知らない医師が多く,患者が最初に皮膚科以外の診療科に受診した場合には,正しく診断されない可能性が高いと考えられた.近年, 化膿性汗腺炎の主因は細菌の感染ではなく,毛包における自然免疫の異常に基づく自己免疫異常と考えられるようになっているが,皮膚科医であっても,免疫系の異常が化膿性汗腺炎の病因であると回答したのは半数以下であり,一般的な感染症としての抗菌薬投与が広く行われていることが示唆された.今後,皮膚科医のみならず化膿性汗腺炎を治療する可能性のある医師に対して化膿性汗腺炎の疾患概念や適切な治療に関する啓発が望まれる.
著者
伊藤 雅章
出版者
日本臨床皮膚科医会
雑誌
日本臨床皮膚科医会雑誌 (ISSN:13497758)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.221-228, 2007-04-15 (Released:2009-03-13)
参考文献数
34

生下時から思春期までにヒト毛髪は次第に発達するが、以後、男女差や個人差はあるものの、加齢による形態変化を示す。はじめに、毛器官の構造、毛周期のメカニズム、毛髪色の仕組みについて解説した。続いて、毛髪の加齢現象として、壮年性・老人性脱毛症、老人性多毛症および白髪を紹介した。壮年性・老人性脱毛症は男性型脱毛症と同様のものとされ、頭頂~前頭の軟毛化が起こり、男性ホルモンと毛乳頭細胞の働きが重要とみられている。一方、とくに男性では、逆に、加齢とともに眉毛、髭、耳毛、鼻毛が多毛になる。白髪は、毛母メラノサイトの機能低下ないし脱落によるが、近年、メラノサイト幹細胞の分化・増殖の問題が議論されている。(オンラインのみ掲載)
著者
関口 知佐子 千見寺 ひろみ 戸佐 眞弓
出版者
日本臨床皮膚科医会
雑誌
日本臨床皮膚科医会雑誌 (ISSN:13497758)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.355-360, 2017

当院では2000年より一般的な治療に反応しない痤瘡に対しケミカルピーリングを積極的に行ってきた.ケミカルピーリングを施行した231例のうち痤瘡患者は184例で,グリコール酸,サリチル酸によるケミカルピーリングを施行した.そのうち継続施術した165例中57例が著効,81例が有効と判定し,合わせて約84%に効果が認められた.18例に紅斑,乾燥などの副作用が認められたが,その中の半数以上は継続できた.疾患の改善だけでなく,質感の改善などの付加価値もあり,患者の満足度も高く,治療を継続することを希望される患者が多かった.その中でも印象に残る著効例を提示し,長期間の臨床経験から得たケミカルピーリングの有用性,安全性について強調したい.
著者
月永 一郎
出版者
日本臨床皮膚科医会
雑誌
日本臨床皮膚科医会雑誌 = Journal of the Japan Organization of Clinical Dermatologists (ISSN:13497758)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.8-11, 2007-01-15
参考文献数
9

当院の1ヶ月外来患者数964名のうち、イボの患者は40名、約4%。10歳未満が27%、20歳未満が17%であわせて50%弱である。治療内容は液体窒素による凍結療法が62%、モノクロロ酢酸が23%、サリチル酸と凍結療法が15%であった。治療期間を見てみると、1ヶ月以内が29%、3ヶ月以内が15%、1年以上は8%であった。<br>イボ治療は1960年代に凍結療法、1970年代にブレオ局注、グルタールアルデヒド、5FU外用、DNCB感作療法などがあり、1980年代に入って、レーザー治療などが導入されている。「痛くない」治療は、1970年代から検討されはじめているといってよい。その中にはグルタール、モノクロロ酢酸、5FU、DNCBを用いた接触免疫療法がある。<br>従来当院で行っていたグルタールは取り扱いに注意を要するため代わる治療として、モノクロロ酢酸を使用して週1回通院治療をして比較的良好な結果を得ている。腐食後厚くなった皮膚を削いだ時の疼痛以外大きなトラブルはない。「痛くない」治療としては最近ビタミンD3外用なども行われている。(オンラインのみ掲載)
著者
川島 眞 黒川 一郎 林 伸和 渡辺 雅子 谷岡 未樹
出版者
日本臨床皮膚科医会
雑誌
日本臨床皮膚科医会雑誌 (ISSN:13497758)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.497-507, 2018 (Released:2018-06-27)
参考文献数
5

近年本邦の尋常性痤瘡治療薬,特に外用薬の選択肢が充実し,欧米の治療水準に到達した.それらを選択使用するための治療ガイドラインも策定されている.しかしながら,実地臨床の場では,個々の患者の多彩な症状に応じて薬剤選択を行うが,ガイドラインでの推奨度に応じて自動的に決定できるものではなく,様々な患者背景を考慮して試行錯誤を繰り返すこともある.そこで,日常診療上でしばしば遭遇する尋常性痤瘡の症例を写真で提示し,その患者の年齢,生活様式,経済状況なども考慮したうえで,いかなる治療薬を選択すべきかについて5名の痤瘡治療に精通した皮膚科医により案を作成し,それを27名の痤瘡治療に積極的に取り組む皮膚科医で討議し,コンセンサスを作り上げた.中高生,青年期,社会人の各年代層の顔面の尋常性痤瘡を6ケース,体幹部の尋常性痤瘡を2ケース,特殊な例として下顎部の痤瘡1ケース,アトピー性皮膚炎の合併2ケース,炎症後紅斑,炎症後色素沈着を各1ケース,全体として13ケースについて検討した結果をここに報告し,診療の参考としていただきたいと考える.
著者
貝阿弥 瞳 平田 央 鶴田 大輔
出版者
日本臨床皮膚科医会
雑誌
日本臨床皮膚科医会雑誌 (ISSN:13497758)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.32-36, 2023 (Released:2023-04-08)
参考文献数
21

55歳,女性.初診2年前より外陰部に瘙痒があり,2ヵ月前から外陰部,肛囲に腫瘤を自覚していた.近医で尖圭コンジローマと診断されイミキモドを外用するも改善せず,当科を紹介受診した.初診時は,外陰部から肛囲にかけて鶏冠状に隆起した灰白色の腫瘤を多数認め,肛門部腫瘤は9.5 × 3 cm大であった.有棘細胞癌を鑑別疾患として,肛門部腫瘤より皮膚生検を施行した.病理組織学的所見では,表皮は過角化を伴って外方性,乳頭腫状に肥厚していた.錯角化があり,表皮上層の角化細胞にコイロサイトーシスを認めた.核の異型性は乏しく,悪性を示唆する所見はなかった.臨床所見,病理組織学的所見から巨大尖圭コンジローマ(giant condyloma acuminatum, GCA)と診断した.腫瘤の縮小を目的に亜鉛華デンプン外用を開始したところ,開始から2ヶ月で腫瘤はすべて消退した.その後,通院しなくなり,再発については確認できていない. GCAとはカリフラワー状の腫瘤を形成し,外見上は悪性腫瘍が示唆されるが,病理組織学的に良性を示す腫瘍性病変と定義されている.治療として外科的切除術が最も確実な治療法と考えられているが,外科的切除術後でも再発率は50%と高い.2010年にGCAに対して亜鉛華デンプンによる治療が有効であった2例が報告された.腫瘍サイズが大きいまま外科的に治療した場合,皮膚欠損範囲が大きく,治癒に時間を要する.まず亜鉛華デンプン外用で腫瘍の縮小を目指すことで,治療侵襲性を小さく出来る可能性がある.また,自験例のように完全消退する可能性もある.
著者
林 伸和 佐々木 優 黒川 一郎 谷岡 未樹 古川 福実 宮地 良樹 山本 有紀 川島 眞
出版者
日本臨床皮膚科医会
雑誌
日本臨床皮膚科医会雑誌 (ISSN:13497758)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.629-634, 2021 (Released:2021-10-06)
参考文献数
3

経口イソトレチノインは,皮脂の分泌と毛包漏斗部の角化異常を抑制することで痤瘡を改善することから,海外では集簇性痤瘡あるいは重症・最重症の尋常性痤瘡に対して推奨されているが,本邦では未承認である.そこで,本邦における集簇性痤瘡や重症・最重症の尋常性痤瘡の患者数や現状での治療状況,イソトレチノインに対する考え,使用実態などについて日本臨床皮膚医会(日臨皮)と日本美容皮膚科学会(美容皮膚)の会員を対象に調査を行った. 日臨皮会員4,539名中565名(12.4%),美容皮膚会員2,711名中の158名(5.8%)から回答を得た.その結果,「男性に好発し、顔面のみならず胸背部に、多数の面皰と嚢腫・結節の多発をみる難治性の痤瘡ないし膿皮症の一型」と定義した集簇性痤瘡を両学会会員の85.6%が経験し,うち48.6%が年間1~2例を経験していた.また,経験者の81.7%は「標準治療だけでは治療不可能」と回答し,81.5%は経口イソトレチノインが「必要」,あるいは「必要性がとても高い」と考えていた.従来の治療で十分な効果が得られない重症・最重症の尋常性痤瘡については,90.8%が何らかの形で経験しており,そのうちの75.0%が経口イソトレチノインが「必要」あるいは「必要性が高い」と回答していた.また,何らかの手段でイソトレチノインを現在処方している医師の割合は全体の5.1%(美容皮膚会員15.8%,日臨皮会員2.1%)であった. 本調査では,集簇性痤瘡および従来の治療で十分な効果が得られない重症・最重症の尋常性痤瘡は,稀ではあるが皮膚科医が経験する症状であり,それに対して海外のガイドラインで推奨されている経口イソトレチノインへの期待が高いことが示唆された.経口イソトレチノインの必要性は高く,一部の皮膚科医がすでに処方している実態がある.しかし,催奇形性等の重大な副作用を伴うことから,十分な管理の下で経口イソトレチノインは使用されるべきである.現状の使用状況をより好ましい形にするために,安全性と有効性を確認する臨床試験を経たうえで,早期に薬事承認を目指す必要があると考えた.
著者
松立 吉弘
出版者
日本臨床皮膚科医会
雑誌
日本臨床皮膚科医会雑誌 (ISSN:13497758)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.754-756, 2021 (Released:2022-01-20)
参考文献数
8

COVID-19ワクチンによる副反応は様々なものがあるが,遅延型投与部位反応(COVID arm)は十分に認識されていない.COVID-19ワクチンの初回接種後1週間程度で生じるそう痒を伴う紅斑,硬結,圧痛を特徴とし,通常4~5日程度で消退する.2回目の接種でも同程度もしくは軽度の反応がみられることが多く,初回より出現までの期間が短い傾向にある.アナフィラキシーや蕁麻疹などの即時型過敏反応とは異なり,以後のワクチン接種は禁忌ではない.今後の集団接種の拡大に伴い,診察する機会が増えると思われる.本症状を認識しておく必要があると考え,経験した2例を報告する.
著者
朱 瀛瑤 木花 いづみ 大喜多 肇 栗原 佑一
出版者
日本臨床皮膚科医会
雑誌
日本臨床皮膚科医会雑誌 (ISSN:13497758)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.567-571, 2022 (Released:2022-09-22)
参考文献数
9

77歳,男性.初診3ヶ月前から右鼠径部の皮疹に気づき,増大傾向のため切除目的に当科を受診した.右鼠径部に径1 cm大の境界明瞭な紅色結節を認め,結節の表面は角化を認めず,一部浸軟し乳頭腫状を呈した.病理組織像は,乳頭腫状の表皮変化を呈し,過角化,不規則な表皮肥厚を認めた.表皮全層に有棘細胞様の異型細胞が増殖し,核腫大,異型分裂像,細胞の大小不同を認めた.コイロサイトーシスを認めず,異型細胞の真皮内浸潤を認めなかった.免疫組織染色において,p16 INK4aは表皮異型細胞の核と細胞質に陽性を示した.ボーエン様丘疹症と診断し,有棘細胞癌に準じて腫瘍の辺縁より5 mm離して病変を全摘した.切除断端に腫瘍細胞の残存はなく,2年間経過した時点では再発を認めない.切除組織よりHuman papillomavirus (HPV)のDNA検査を行い,HPV 66型を検出した.一部のHPV型はヒトで発癌性があることが確認されており,子宮頸癌,陰茎癌,肛門癌,および中咽頭癌を引き起こす.発癌性の高いHPVはハイリスク群に分類され,皮膚でも爪部,外陰部の有棘細胞癌,Bowen病,ボーエン様丘疹症において子宮頸癌における粘膜ハイリスク型HPVの検出率が高く,性感染症としての側面を指摘されている.本症例で検出されたHPV 66型は粘膜ハイリスク型の一型であった.HPV 66型はボーエン様丘疹症での検出は稀であるが,皮膚においても発癌性がある可能性が示唆された.近年,子宮頸癌に対するHPVワクチンは世界的に広まっている.現在HPVワクチンは一部のHPV型の感染しか防ぐことができないが,本邦での普及がHPV関連腫瘍の発症率低下に寄与する可能性が期待できる.
著者
野口 博光 仲 弥 西尾 和倫 松田 哲男 中野 眞 比留間 政太郎
出版者
日本臨床皮膚科医会
雑誌
日本臨床皮膚科医会雑誌 (ISSN:13497758)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.583-592, 2022 (Released:2022-09-22)
参考文献数
12
被引用文献数
1

ホスラブコナゾール L-リシンエタノール付加物(ネイリン®カプセル,以下ホスラブコナゾール)は,日本で開発され,2018年より爪白癬治療に使用されている新規トリアゾール系抗真菌薬である.実臨床におけるホスラブコナゾールの有効性,安全性および治療継続率を検討する目的で,多機関共同後ろ向き観察研究を実施した.2019年6月から2020年4月までにホスラブコナゾールで治療を開始した350例の患者が登録された. ホスラブコナゾールの治療継続率は12週後で83.4%,48週後で32.6%であった.ホスラブコナゾール投与開始48週後の臨床的治癒率は78.9%,完全治癒率は57.8%であった.ホスラブコナゾール投与開始36週以降に臨床的治癒する症例が多かった.臨床的治癒までの期間の中央値は41.9週であった.副作用は350例中64例(18.3%)に76件認められ,そのうち15例がホスラブコナゾールの投与を中止した.重篤な副作用はなかった.臨床検査はホスラブコナゾール投与開始10週後までに実施された症例が多かった. 本研究の結果,実臨床におけるホスラブコナゾールの高い有効性と忍容性,および治療継続率の高さなどが確認された.ホスラブコナゾールによる治療は,患者のコンプライアンス・アドヒアランス維持に貢献すると思われる.