著者
田野村 忠温
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.152, pp.123-109,69, 1988
著者
影山 太郎
出版者
日本語学会
雑誌
国語学 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.44-55, 2002-01

「指揮者,作者,該当者」のような動作主名詞は,名詞でありながら動詞的な概念を内包する点で理論的に興味深い。本橋では,まずPustejovsky(1995)の英語分析を参考にして,動作主名詞を,恒常的な機能(特質構造の目的役割)によって規定されるものと行為の成立(主体役割)によって規定されるものに分類するが,この二分法では「参加者,該当者」などが扱えないことが判明する。この第三のグループは,「この件は該当者がある」のような存在文では関係節(「該当する人がある」)と並行的に出来事の発生を表し,また,「本件|該当者」のように句アクセントの複合語(語^+)にも参加する。このような統語的性質は特質構造より語彙概念構造に委ねるのが妥当である。この分析によって,1つの同じ接辞が語彙部門の様々な構造に適用されることになり,派生語全体の意味や統語的性質は適用レヴェルの特性から自動的に導き出される。
著者
玉懸 元
出版者
日本語学会
雑誌
国語学 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.30-43, 2001-06

本稿では,若年層を話者とした調査結果に基づき,仙台市方言の終助詞「ッチャ」の用法を整理して記述する。「ッチャ」の用法は,用例の観察を通して,次の(1)(2)(3)に整理される。(1)対話用法A:そもそも知っているはず・分かるはずの事柄を忘れている・気付いていない,ということが相手から看取された場合に,その事柄を取り上げて「ッチャ」を使用する。(2)対話用法B:相手のそもそも知っているはず・分かるはずの事柄を,後続させる発話内容の土台になることとして取り上げておきたい場合に,その事柄を取り上げて「ッチャ」を使用する。(3)独言用法:自分自身がある事柄を思い出した・ある事柄に気付いたといった場合に,その事柄を取り上げて独言的に「ッチャ」を使用する。(3)は(1)を自己内対話的に拡張したものとしてその関係が理解される。また「ッチャ」の本質を把握することによって,(1)と(2)との関係も理解される。なお,以上のような記述を通して,現代方言において共通語化を免れている方言形式の具体的様相とその理由に関する問いに対して,ひとつの見通しが得られることになる。
著者
松森 晶子
出版者
日本語学会
雑誌
国語学 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.93-108,158, 2000-06

琉球の多型アクセントの諸体系には,型の生産性の片寄りと体系の不均衡が観察されることを,沖永良部島と徳之島のいくつかの方言を例にして示し,この原因は,服部(1979)の仮説を一部取り入れ類別語彙2拍語に1・2/3・4・5(板)/3・4・5(息)という合流の仕方を認める松森(1998)の説により,説明できることを示す。さらに,これら琉球の多型アクセント体系全般を通じて,類別語彙3拍語が生産的な3つの型に所属し,しかもその3つの型に所属する類別語彙の種類が諸方言間で対応することを確認する。このことから,琉球祖語に存在したと推定される3音節語の3つのアクセント型の,各々に属する語彙群のリスト(試案)を提示,これらの語彙群を,各々「形」類,「鏡」類,「刀」類と呼んだ。また,本土の類別語彙3拍語に対応する語彙の,琉球における合流の仕方は,1・2/4・5(鏡)/4・5・6・7(刀)であることを論じ,このように琉球では,類別語彙の2拍語のみならず,その3拍語も,特殊な類の分裂と合流を遂げたことを論じる。
著者
三原 裕子
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, 2000-09-30

日本語では,語によってマ行音とバ行音が交替する現象が知られるが,この音韻現象は,表記を通してもうかがうことができる。そこで,本発表では後期咄本に現れた「ま」・「は」・「ば」行表記の推移を観察して,その推移の諸要因を明らかにし,併せて,そこから見て取ることのできる後期咄本の資料性を検討する。現れた表記のうち,交替以前の語形を反映していると思われる表記と,「ふをむと読む」,所謂「読み癖」の表記は文章語的なものと位置付けられ,交替後の語形を反映していると思われる表記は口頭語的なものと位置付けられると考える。このような見地から,各語の状況を整理してみると,以下のようなことが言える。調査した語の表記推移の要因として想定されるものには,(一)「意味分担によって,表記にもその使い分けが反映したと思われるもの」(「灯」ほか)や(二)「語の本義に関する記憶の薄れが,表記変化に拍車をかけたと考えられるもの」(「禿」ほか),(三)文章語として認識されていた語が丁寧な語から日常語へと一般にひろまり,口頭語として広く使われてきた語が,その地位を下げるといった「文体的価値の低下が表記に反映したと思われるもの」(紐)などがある。さらに,調査した語の中には,語形変化の過渡期をうかがえる語(「禿」)や,「ふをむと読む」伝統を踏襲した保守的表記で表される語(「居眠り」「煙」)もあった。従来後期咄本のような口語的性格を持つ表記が現れ易い資料は,口語資料としての価値を有すると考えられるが,その一方で,同資料には伝統的な「は」行表記を比較資料よりも多く残すことなど,表記の保守性もうかがうことができる。咄本製作者には,このような保守的表記を選択するものがおり,読者にもそれを許容して享受するという教養層が存在したことが指摘できる。
著者
鈴木 浩
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.78-79, 2001-03-31

用言句と用言句とを結ぶガの接続助詞化について,石垣説(石垣謙二「主格『が』助詞より接続『が』助詞へ」)をふまえ,平安期にみられるその変化過程に関して若干の変更を提案した。以下,[ ]内は石垣説での用語。1)「用言句+ガ+用言句」の形は初期訓点資料からその例が見出され(公刊されている解読本文での調査に基く),ガが主格をあらわすと認められるもの(→主格型)と,同格をあらわすと認められるもの(→同格型)とに分けられる。2)二類はともに「名詞+ノ(同格)+用言句a+ガ+用言句b」の形を基本形式とし,用言句aは(同格型では用言句bも)先行の名詞を意味上装定する関係になる。この名詞は新出の事物だったり個体としての特定化がなされる以前の意味だったりといった,文脈上の特性が認められる(→基点名詞と呼ぶ)。3)石垣説にあって[主格形式第一類]と位置づけられた例は『竹取物語』以降の和文に見られ,上記主格型(=[主格形式第二類])・同格型よりも文献上の出現が後れる。この類での用言句aは用言句bの知覚対象としての事態で,述定の句であり,異質な面をもつ(→対象型と呼ぶ)。4)主格型・同格型と対象型とは『平中物語』以降の和文では混在して見出され,さらに『大和物語』・『源氏物語』からは主格型での用言句a,同格型での用言句a・bの中に述定の句へと変質したものが見られるようになる。とりわけ主格型における変化では,〈い〉用言句aに先行する名詞が既出の特定個になっていて,もはや後続用言句の装定を得て特定化されるものではなくなっている,〈ろ〉基点名詞とおぼしき名詞が格助詞ヲを伴って現れ連用格成分化している,という例(→述定主格例)が認められ,用言句aの述定化と連動する現象と考えられる。この〈い〉は[主格形式第二類の変化形式]と重なる部分があり,〈ろ〉は[主格形式第三類]である。石垣氏はこれらをガが接続助詞化する上での中間的な形と位置づけたが,そのことは用言句aの述定化を上のように論定することで再認される。
著者
安部 清哉
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.101-116, 2003-07-01

日本語方言の重層性を,関東を横切る方言境界線と河川湖沼沢池地形名の分布から考察し,方言境界線の成立要因を明らかにして,古い日本語の背景としてモンスーン・アジア(M.A.)領域の言語特徴を考慮する必要があることを述べた。全体としては次のことを指摘した。(1)河川名や湖沼沢池名には分布範囲の異なる新旧の相違がある。(2)その境界線は「奥東京湾-柏崎線」「柏崎-銚子構造線」「利根川」等の複合的自然境界による。(3)この境界をもつ方言分布は縄文時代以来直接的間接的にその影響を受けてきた。(4)河川名タニよりも古い分布としてナイがあり,それは東アジアに連続しM.A.領域にも周圏的に分布する。(5)M.A.領域内には類別詞など共通する言語特徴が認められる。(6)M.A.文化領域の形成は旧石器時代にまで溯り,言語だけでなく気候・文化人類学的諸特徴相互の関連性が極めて高く,文化人類学的にも注目すべき領域である。