著者
喜多 悦子 江藤 節代 本田 多美枝 上村 朋子 青山 温子
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

「人間の安全保障」は、個々の人間は暴力/紛争と、適切な保健サービスの利用・就学・就業・移動など、身近な欠乏から護られるべきとする概念だが、世界人権宣言など、古くから理念の集約とする意見もある。しかし、本理念が新たに必要になったのは、近年、多発する地域武力紛争(Complex Humanitarian Emergency、CHE)や国際武力介入、併発するテロ、巨大自然災害・新たな感染症、格差や貧困など、現在の地球上の人間の安全を脅かすものは、これまでの「国家安全保障」の範疇にはなく、改めて個々人の安全が問われているからといえる。一方、世界で最大多数を占める保健医療者として、人々の安全における看護者の役割は明確でない。本研究では、わが国の看護教育をふくめ、類似の概念があったかどうかを検討し、近隣諸国における看護およびその教育での扱いを調査してきた。これまで、わが国および近隣諸国の保健医療面、特に看護者に「人間の安全保障」の概念があるかどうかを調査したが、明確な認識があるとの確証は得られなかった。アジア随一のドーナーでもあるわが国には、160を超える看護大学と数百看護専門学校があり、看護職養成施設数は充足している感があり、また、その多くで国際保健/看護を扱っているが、国内的にも国際的にも、「人間の安全保障」の概念が取り入れられているとは云い難い。近隣諸国の看護職は、なお、その社会的地位の確立がなされていない上、教育においても、技術的に終始していることが多く、理念、ことに「人間の安全保障」の概念すら明確に理解されていない。国際看護師協会(International Council of Nurses,ICN)の謳う看護者の役割とも矛盾しない保健面における「人間の安全保障」の実践に看護職者の関与が期待されることを、研究報告書としてまとめた。
著者
徳永 哲
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学紀要 = Bulletin of the Japanese Red Cross Kyushu International College of Nursing (ISSN:21868042)
巻号頁・発行日
no.13, pp.21-32, 2014

19世紀の中頃、グラスゴーの公衆衛生は最悪の状態にあった。埋葬地に隣接していたグラスゴー王立病院は熱病病棟や外科病棟を拡充し、1860年代には感染症を消毒によって防ぐことに成功した。1885年にグラスゴー王立病院看護師長に就任したレベッカ・ストロングは、急速に進歩する医学に適合した看護師準備訓練学校を1891年に設立し、看護師資格認定試験を第3者の手で行うことを提唱した。 折しも、ロンドンでは看護師資格認定試験及び国家登録をめぐる賛否両論が看護界を2分していた。認定登録推進派の英国看護協会と反対派のナイチンゲールは激しく対立したが、結局女王の勅令によって1887年から3年間続いた闘いに終止符が打たれた。この論争はまさに看護教育の歴史的分岐点を象徴する出来事であった。ストロングの看護教育刷新は英国看護協会側の立場に立っていた。看護教育にとって最も優先されるものは国家資格認定試験合格なのか、あるいは高度な技術と測りがたい人格的資質の育成なのか。そこには今日の看護教育のあり方を再考させる問題が提起されている。Report About the middle of the 19th Century, Glasgow's hygiene was the worst condition in the UK. The Glasgow Royal Infirmary close to the burial places expanded the fever ward and the surgical department, and succeeded in preventing infective diseases by an antiseptic. Rebecca Strong who had become Matron of the Glasgow Royal Infirmary in 1885 established the preliminary training-school for nurses suitable for rapidly developing modern medical science in 1891 and proposed a recognized test of qualification conducted by a third person. On the other hand, the nursing world in London was divided into the two over the pros and cons of a recognized test and nurse registration. While the British Nurses Association promoted the test and registration, F. Nightingale opposed to them and harshly criticized the promoting movement. Their battle continued for 3 years from 1887. Finally Imperial ordinance gave the battle an end in 1891. R. Strong's renovation of nursing education was on the place where the British Nurses Association stood. Their battle was a symbolic event in a turning point of the history of nurse education. Which is more important as the objective for nurse education, "to pass qualifying examination" or "to develop the art and character suitable for nurses"? Today, this question must be also the primary problem which makes us reexamine what the nursing education at college should be.
著者
徳永 哲
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学紀要 = Bulletin of the Japanese Red Cross Kyushu International College of Nursing (ISSN:21868042)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.61-72, 2011-12-28

ナイチンゲールの思想は、1842 にプロシアの特使ブンゼン男爵と知り合いになった時点から急速に進歩、深化した。ブンゼン男爵の豊富な知識は、神学者でありながら異端者として火刑に処されたブルーノやエックハルト、さらにネオ・プラトニズムにまで及んでいた。また、ドイツのカイザースヴェルト学園の情報誌などを届けてくれたのはブンゼン夫妻であり、彼を通して知った宗教思想や哲学はナイチンゲールの看護への意志を支え、励まし続けた。1840 年代後半になると、ロンドンにはプロテスタントとカトリック双方の女子修道会が発足し、貧困者の救済に修道女が活躍するようになった。ナイチンゲールは特に看護修道女の活動を知るようになった。クリミア戦争ではナイチンゲールを支えて献身的に働いた看護修道女のフライやマザー・ムーアから、彼女等の看護への意識の高さを思い知らされた。その一方で、キングス・カレッジのボーマン医師の外科手術に立ち会ったことから医療技術の進歩に直面し、病院看護の新しい方向性を見出す切掛けとなった。また、彼女が自発的に習得した公衆衛生学や統計学の知識は近代看護の確立基盤となった。宗教と科学、この矛盾したものがナイチンゲールの思想の中には一体となって存在し、近代看護は生み出されたのである。
著者
松尾 和枝 本田 多美枝 江島 仁子
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
no.7, pp.29-34, 2009

学生による授業評価に双方向性をもたせ、組織的・即時的に授業改善に活かすシステムづくりは、多くの大学で課題となっており、近年は、コンピュータの利用が注目されている。2002年から2007年の5年間を対象に、コンピュータによる授業評価システムに関する文献検討を行った。その結果、(1)授業評価システムのコンピュータ化は年々増加しているが、看護を含む保健医療分野での取り組みは報告がない、(2)システムはWeb上に作成することにより、組織的に実施することが可能となる、(3)媒体として携帯電話の利用は有用である、(4)授業評価システムは単独ではなく、多機能な学習支援システムの一部として統合できる可能性がある、(5)有用な授業評価システムにするには運用上の工夫が必要である、ことが明らかとなった。
著者
徳永 哲
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report = The Japanese Red Cross Kyushu International College of Nursing, intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.31-41, 2010-03-31

19 世紀に入って、リバプールは造船・港湾都市として急成長し、世紀中頃には、ロンドンに次ぐ国際貿易の拠点として栄えた。その繁栄の半面、アイルランドの大飢饉を逃れた難民が流れこんできた。彼らは地下室や袋小路の共同住宅に住み、劣悪な環境の中で悲惨な生活を送った。政治家であり資産家でもあったウィリアム・ラスボーンは貧民の救済に尽力した。彼は看護を専門職とする看護師を育成し、貧民家庭の病人を訪問させることを考えた。そのためのアドバイスをナイチンゲールに仰ぎ、指示に従って王立リバプール病院に看護師養成学校と看護師宿舎を創設した。さらに、彼は救貧院施療病院看護体制の改革にのりだし、ナイチンゲールの助力を得て、聖トマス病院ナイチンゲール学校の優秀な卒業生アグネス・ジョーンズを看護師長に迎えることができた。ナイチンゲールの最愛の教え子アグネスは貧民の看護に献身的に尽くし、人道の模範を示した。ナイチンゲール、ラスボーン、アグネスこの3 人を結び合わせたものは友愛と平等であり、貧民救済への熱意であった。その力は堕落した病院の看護体制を刷新したばかりでなく、貧困と退廃に満ちた社会に希望をもたらしたのである。看護が社会を向上させることのできた稀に見る例であった。
著者
増成 直美
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

患者の診療情報の電子化に際して、患者の自己情報コントロール権の保障等のために法的整備が必要である。研究等への患者の診療情報の利用を推進するためには、比例原則、組織・手続的保障を備えた憲法適合的個別分野法の制定が必要となる。したがって、行政機関や民間企業の個人情報の取り扱いを監督し、場合によっては直接訪問し、実態調査や監督指導等を行う権限を有し、国民からの苦情処理や被害救済機能を担う独立したデータ保護機関が設置されなければならない。これらの視点からすると、2013年12月に成立した、がん登録等の推進に関する法律には、検討すべき課題があるように思われる。
著者
徳永 哲 江口 雅子
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.72-85, 2004-02-28

本研究は学生の英語リスニング能力を向上させるのに、いかにTOEICのリスニング・セクションPart II及びIIIの問題が使われうるか考察するものである。応答問題のPart II及びIIIの問題を取り上げるのは、コミュニケーションの場における実践につながるリスニング能力を向上させることができ、自然なコミュニケーションにおける応答能力を強化することになると考えられるからである。しかし、リスニング能力に関してまだ未熟な段階にある学生に対してTOEICレベルの問題をさせてみても、リスニング能力が向上するのは非常に難しいと思われる。ではいかにすれば能力向上につなげることができるか。私たち徳永と江口は共同してその方法を研究し、さらに学生に情報提供者になってもらってデータをとって研究を実践した。その研究と実践および結果をここにまとめた。データの対象は2年生のセミナー・グループから成る11名の学生である。データは、リスニング・スキルに関するセルフ・リポート(授業による、学生の進度状況)から成る。授業はリスニング能力向上の為の方法として、3つの活動を取り入れた。1) Warm-up Activity 2) Listening Activity 3) Check-up Activityである。Warm-up Activityでは、事前に学生にヒントを与えた。Listening Activityでは、ディクテーションによりPart II及びIIIの質問文を書きとらせてから、問題のリスニングに集中した。Check-up Activityでは、学生の答えを正し、リスニング能力をチェックした。データとして、週1回の授業で13回分のリスニング・スコアを集積した。冬休みが終わってから、学生にアンケートに答えてもらった。アンケートは、日頃の英語との取り組み方と冬休みのリスニングの宿題との取り組み方に関するものである。アンケートから得たデータによると学生がリスニングに費やした時間はさまざまだった。1月中旬に、再び、学生に同じ練習問題を解いてもらった。受講生の内、5名の学生が、10%から20%の範囲内で、正解率を上げた。5名の中で最も正解率が高かった学生は、70%以上の正解率だった。その学生は冬休みの間、毎日、宿題として課したTOEIC Part II及びIIIの応答問題を長い間、聞いていたことがわかった。我々は練習問題と学生に課した宿題からいい結果を得た。又、長い間、応答問題を聞き続けた結果、一つ一つの単語を聞き取るレベルを超えて、対話全体を聞き取れるレベルになり、リスニング能力が伸びたこともわかった。
著者
坂本 洋子 森本 淳子 藤野 ユリ子
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
no.4, pp.160-170, 2005

集中内観法の有効性に関する事例研究は多く見られるが、集団的に調査をした研究は非常に少なく思われる。そこで15ケ月間にM内観研修所を訪れた内観研修参加者のうち研究協力に同意の得られた265名を対象に調査研究を行った。研究の主たる目的は、参加者の参加動機、内観法実施の前後における感情や意識の変化の状況、内観過程中の辛かった時期やその時の感情や意識、気持の変化が現れたときの状況などを検討し、自己変容の心理的要因を明らかにすることにある。結果として、内観参加者は男女ほぼ同率、各年代による参加に大差はないが、やや20代女性が多く、60歳以上の参加は非常に少なかった。内観過程おいて、心理的身体的苦痛は90.2%の人にあり、2日目頃から起こり3日目がそのピークとなる。苦痛は、雑念が浮かんで内観の深まらない辛さが最も多く、他に内観実施に対する疑問、抵抗,被拘禁感、逃げ出したい気持、内観の進展に伴って起こる自分の醜さ、情けなさを知る辛さ等があった。しかし耐えて続けて実施することにより、後期には84.2%の人に心の変化が現れている。気持の安らぎ、自己覚知と他者理解、ものの見方、見え方の変化が現れ、終了後多くが、達成・成就感、清明感、自己肯定を得ることができていた。
著者
坂本 洋子 藤野 ユリ子 大塚 邦子 石橋 通江 森本 淳子
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-9, 2006-12-22

人間関係論演習の一環として看護大学2 年生の希望者を対象に、構成的グループ・エンカウンターを4年間実施した。その結果、参加前後の気持ちや自己イメージの変化は、いずれも肯定的に変化していた。またオープナー・スケールも肯定的に有意に変化していたため、相手をリラックスさせ自己開示を促す能力が向上していることが示唆された。また、実施後3 ヶ月、1 年後にフォローアップ・アンケートを実施した結果、自己理解や他者理解の深まり、新しい人間関係の形成、自己課題の発見など実施直後と同様の結果が得られ効果の持続が示唆された。また、グループ体験が臨地実習やグループワークに活かされているという結果も得られた。今後の課題として、対象が多くなった場合、抵抗を感じる学生やエクササイズを消化すればよいと感じる学生が出てくることが考えられるため、エクササイズの工夫や適正なファシリテーターの指導方法の検討が必要である。
著者
中村 光江 下山 節子 阿部 オリエ
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
no.5, pp.71-77, 2006

ストラウスとコービンは、慢性疾患を持つ人々に関する数多くの事例を基に「慢性疾患の病みの軌跡」という概念モデルを提示した。慢性の病いを持つ人間の反応を一つの「行路」と捉え、病気や慢性状況の行路を「軌跡」とした。この概念枠組みは、慢性の病気を持って生きることに対しての洞察や知識を提供するため、多くの看護実践・教育・研究・政策決定への活用が期待される。そのため、その発展の経緯を理解し、どの程度検証され、有用性や信頼性が確認されているかを明確にすることを目的に、文献研究を実施中である。今回、第一報として国内文献を検討した結果を報告する。「病みの軌跡」をキーワードとして収集した24 件の文献中、解説11 件、学会抄録7件、研究論文・報告6 件であった。比較的新しい枠組みとして活用され始めた段階にあり、大半は看護実践の事例検討において対象者理解や看護の振り返りの視点として使用されていた。「局面」等の下位概念はあまり使用されておらず、軌跡の枠組みを哲学的基盤や理論的前提とするにとどまっていた。国内文献では検証はなされておらず、モデルの発展には至っていないと考えられた。
著者
因 京子 松村 瑞子 西山 猛 チョ ミギョン
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

映画を用いる教材と教師用リソース、日本人学生にも用いることのできる観察と分析の技能養成のための教材および教師用リソース、ドラマを用いた教室活動案を作成した。ストーリーマンガに基づく教材と教材開発の方法論の議論を含む大学院生向け集中講義を海外と日本で行い、受講者、外国人を含む教師および教師志望者を対象に、使用可能性についての判断を調査した。開発した教材や教材開発の方法論等についての招待講演を海外において2回、国内で1回行なった。
著者
松尾 和枝 喜多 悦子 酒井 康江 佐藤 珠美 小林 益江
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

昨年の調査で得られた『雪の季節の出産が大変である』この住民の声を踏まえて、雪の季節の出産を避ける。また出産時、救急車で運ばれなければならない状況を早期に発見し、対処方法を検討する。この2つの目的のために、「予防と早期発見」が必要であることを住民達自身が気づくように、健康学習会と意見交換会を行った。女性集団、男性集団をそれぞれに集めて、日本から持参したマギーエプロンを用いて、出血や分娩の経過に異状をもたらす妊娠中の母体の状態を視覚的に示した。その体内で起きている異常を視覚的に理解すると、住民達は、早期発見の必要性と検診の必要性を理解することができた。現地ナース、助産師が健診受診による早期発見対処の可能性について補足説明をした。助産師は、パクリット村の方言を加えたペルペル語でアズロのマタニティ病院での制度、システム、経費について説明を加えた。最初は、雪の季節を避けた計画妊娠について、神のみが知ることと、全く聞く耳を持たなかった年配の女性達も、助産師の説明で理解をした。また、男性たちも雪の季節に妻や子を救急車で搬送をすることの負担や、その結果、娘を失った辛く悲しい経験を共有し、今回の健康教育内容を家族や地域に広めていくことを約束した。今回の健康学習会は、バクリット村住民の約20数名に伝えたに過ぎない。村の住民に妊娠出産についての正しい情報提供と、その正しい知識に基づく適切な保健行動の形成については、今後も継続的な啓蒙普及活動が必要であると考える。今後は、B村のナースとデレゲションの助産師と継続的な連携を持ちながら、活動の定着、妊婦・乳幼児死亡ゼロの村を目指した住民の意識・行動の変容やスタッフの活動の評価も行って行きたい。今回の調査活動並びに健康学習会の一連の過程を、現地看護職に紹介し事例検討を行なった。彼らは、病院で患者を待っていたことを反省し、医療職が現地に出向いて地域の問題に気づき、住民と共に健康問題の改善に努力するアウトリーチの活動の必要性に気付いた。
著者
下山 節子 水町 淑美 平川 オリエ 田中 利恵
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.159-167, 2005-03-01

腹膜透析および血液透析者の家族が抱える健康問題を比較し、透析者家族のQOL向上を目指した看護援助の課題を明らかにすることを目的として研究を行った。対象は、腹膜透析者の家族22名と血液透析者の家族43名。健康関連QOL尺度SF-36日本語版1.2による質問紙調査を実施した。調査期間は、2002年3月(腹膜透析者の家族)と2003年9月(血液透析者の家族)であった。腹膜透析の家族と血液透析者の家族のQOLを比較した結果、腹膜透析者の家族は、精神的負担感が強いことが明らかとなった。特に、精神的健康感が低かったのは、腹膜透析者の家族の年齢60歳以上、女性、家族自身が病気をもっている、透析歴5年未満の家族であった。週3回外来通院する血液透析とは異なり、腹膜透析が在宅療養であることも家族の精神的負担を強くしていると考えられる。腹膜透析者の家族がもつ精神的健康問題については、家族に対するカウンセリングや家庭訪問など積極的な介入の必要性が示唆された。
著者
古賀 節子
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.84-104, 2005-12-25

この研究は、問題解決場面における、熟達者と初心者の思考の相違を明らかにすることを目的とし、看護師と看護学生を対象に、「生命の危機状態を想定したビデオ」を用いて、情報処理的アプローチによるビデオ映像の再生実験を行った。実験結果は、1.記憶再生では、初心者と熟達者が再生した内容に差はなかった。ただし、細部の記憶では初心者のほうが熟達者より誤想起した者が多かった。2.「生命の危機状態」の問題解決場面のif-thenルール導出は、初心者より熟達者の方が多かった。ただし、初心者もif条件部分の導出は出来ている人は多く、then行為部分の導出に差があった。3.問題解決において用いられた知識の表象は、情報としての知識は、初心者と熟達者でほぼ同じであったが、知識間の関係性に違いがみられた。熟達者では、初心者よりネットワーク化されており、高次の中心概念があった。初心者と熟達者の問題解決において、短時間の情報処理での思考の違いは、持っているはずのif-thenルールを導出できるかできないかにあった。ACT理論はコンピュータシミュレーションモデルとして実装され、記憶、認知技能の獲得、問題解決などの現象を説明できる。ACTモデルでは、熟達者は、宣言的知識と手続き的知識が刺激の繰り返しで強化され、記憶が呼び出されやすくなっているといえる。以上のことから、初心者が熟達化に向かう手がかりとして、ネットワーク構造形成を促進させることや、高次の中心概念の教授の工夫がある。さらにif-thenルールと高次の概念との関連付けを強化することが重要となることが考えられた。情報処理モデル以外の、人間の認知の全体像から熟達化の手がかりを探ることは、今後の課題である。