- 著者
-
積山 幸祐
黒野 祐一
- 出版者
- 日本鼻科学会
- 雑誌
- 日本鼻科学会会誌 (ISSN:09109153)
- 巻号頁・発行日
- vol.53, no.4, pp.566-571, 2014 (Released:2014-12-26)
- 参考文献数
- 21
- 被引用文献数
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放線菌は嫌気性・非抗酸性のグラム陽性桿菌で口腔内常在菌であり,しばしば気管支,消化管,女性性器から分離される。特に齲歯,歯垢,扁桃陰窩などに無害性に存在し,組織の損傷や他の感染によって宿主の抵抗が失われてはじめて病原性を発揮する内因性感染として放線菌症を起こす。放線菌症の好発部位は,顔面・頸部40~60%,腹部20~30%,胸部10~20%であり,鼻副鼻腔は非常にまれである。今回我々は,鼻腔放線菌症の一症例を経験したので,報告する。症例は19歳の女性で頭痛,左鼻閉を訴えて当院を受診した。左下鼻道に肉芽と黒褐色塊を認め,CTでは下鼻甲介と接する石灰化陰影とその周囲に軟部組織陰影を認めた。同部位の生検による病理組織学的検査で鼻腔放線菌症と診断とされた。放線菌症に対しアモキシシリン(AMPC)1500mg/日を投与し,約2か月間保存的治療を施行したのちに局所麻酔下に摘出術を施行し,術後約1か月AMPC 1500mg/日を投与した。その後約3か月間は慢性副鼻腔炎(右前頭洞,左蝶形骨洞)に対しマクロライド少量投与を施行したが改善はなく,全身麻酔下で内視鏡下鼻内副鼻腔手術(ESS)を施行した。ESS後約1年が経過したが放線菌症の再発は認めていない。治療に関してはペニシリンの大量長期投与が推奨されているが,早期に治癒せしめるために内視鏡下鼻内手術による病変の完全切除と鼻副鼻腔の好気的な環境作成が肝要と考えられた。