著者
三尾 裕子 末成 道男 中西 裕二 宮原 暁 菅谷 成子 赤嶺 淳 芹澤 知広
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、主に東南アジアの現地化の進んだ中国系住民の研究を中心に据えて、これまで等閑視されてきた周縁に位置する中国系住民の事例研究から、従来の「華僑・華人」概念を脱構築することを企図した。特に、彼らの社会・文化そしてエスニック・カテゴリーの変容のプロセスを分析することを通して、中国系住民の文化が、移住先でのホスト社会やその他の移民との相互作用によって形成されることで、もはやその文化起源を分節化して語りえないほど混淆するあり様を明らかにし、これを「クレオール化」と概念化した。主な成果は、2007年8月にクアラ・ルンプールで行われたInternational Conference of Asia Scholarsで2つのパネルを組織、また、11月にも日本華僑華人学会の年次大会において、パネルを組織した。それぞれの学会では、中国系住民が中国的な習慣や中国系としての意識を失って土着化していく過程、再移住の中でのサブエスニシティの生成過程、宗教的な信仰や実践と民族カテゴリーの変容、国家の移民政策と移民の文化変容などについて、現地調査に基づく成果を発表した。また、現地の研究協力者を3回ほどに分けて招聘し、メンバーとの共同研究の成果を発表するワークショップを行った。そのうち、2006年度に実施したワークショップについては、Cultural Encounters between People of Chinese Origin and Local People (2007)という論文集を出版した。そのほか、国際学会の発表をもとに、英語による論文集の出版を予定している。
著者
黒沢 直俊
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

ポルトガル北部からスペインの北部に分布するアストゥリアス・レオン諸語の、アストゥリアス語とミランダ語という上層言語の異なる変種を歴史言語学的観点から考察した。アストゥリアス州での前後3回の現地調査で、現地の専門家などと協力しながら言語状況の把握や資料の収集を行い、コーパス構築に向けた作業を開始した。この分野は、中世ポルトガル語研究にも様々な視点を提供し、この間、所有詞に関しポルトガル語研究の枠では指摘されなかった研究展開の方向を示した。日本では研究者は少ないので、現地と関係を保ちながら研究調査する意義は大きい。今後、研究代表者の専門のポルトガル語研究にも新たな知見を提供出来る。
著者
亀山 郁夫
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、スターリン時代における検閲システムを、主として権力の側から考察するものである。研究のテーマそのものは、ソ連崩壊後、にわかに浮上してきたトピックで、ロシア国内および国外でも地道な研究が続けられている。それらの実績にかんがみ、この3年間にわたって、主として2004年に没後50年をむかえたセルゲイ・プロコフィエフ、2006年に生誕100年を迎えるドミートリー・ショスタコーヴィチとスターリン権力との相互関係について調べ、さらに私がいま試みているスターリン学(stalinology)の構築に向けて、次のような論文を発表した。なお、現在、私は、ここに掲げる論文とは別個に、本科研費の助成による成果として、『大検閲官スターリン-20世紀ロシアにおける文化と政治権力のカコフォニー』と題する著作を準備しており、2005年10月に小学館から刊行される予定である。1 プロコフィエフとスターリン権力を扱った論文では、約15年にわたった異国放浪の末に、1936年にソビエトへの帰還を決意した理由と動機を明らかにし、その後、約3年間において作曲されたソビエト礼賛ないしスターリン礼賛の音楽の政治的意味と、それに対する、実質的には当時のソビエト最高の検閲機関の対応を歴史的に意味づけ、そのなかで純粋に芸術的な営みとしてどう成り立っているかを分析した。2 ドミートリー・ショスタコーヴィチの1920年代の作品における音楽的実験が、スターリン体制の確立のもとでどのような変貌を強いられるかを考察した(ただしこの論文は未完である)。3 遺伝学者ルイセンコおよび言語学者マルの二人とスターリン権力との関係を扱った論文では、従来の彼らに対する評価をあらため、ロシア・アヴァンギャルド運動および詩学、世界観との観点から新たな照明を当てることによって、その現代的な意味を浮かびあがらせた。4 メイエルホリドとスターリン権力との関係を扱った論文では、これまであまり知られることのなかった最晩年の彼の伝記上の謎、とりわけその死の真相をめぐって、最新の資料を用いながら明らかにした。5 ボリス・パステルナークにおけるスターリン崇拝の現実と、彼の代表作『ドクトル・ジバゴ』の時代設定の問題の相関性について考察し、彼がスターリンへの傾斜を強める1929年以降の時代がこの小説の時代の枠組みには入ることが不可能だった理由を明らかにした。
著者
宮田 敏之
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究の成果は次の三点に整理しうる。(1)タイ農業・貿易統計等により、1980年代以降、ジャスミン・ライスの生産・輸出経済が急速な発展したことを明らかにした。(2)産地として有名な東北タイの「トゥングラー・ローン・ハイ」地域におけるジャスミン・ライスの栽培と精米業が、タイ政府の地域開発計画(道路、灌漑等)の実施や海外の需要に刺激されて、1980年代以降急速に発展したことを明らかにした。(3)海外市場の重要性、特に、1970年代以降、香港においてジャスミン・ライスに対する需要が拡大したこと、さらに2000年代以降、経済成長に伴い、中国広東省を中心に、その需要が急拡大したことと、米の不正混入問題等を指摘した。