著者
投野 由紀夫 三宅 登之 周 育佳 パルマヒル フロリンダ 川本 渚凡 根岸 雅史 西畑 香里 藤縄 康弘 秋廣 尚恵 ティプティエンポン コシット 王 ウェイトン 山田 洋平 望月 圭子 加藤 晴子 森田 耕司
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究は、ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)を我が国の外国語教育に応用するため開発された CEFR-J の開発成果を応用し、多言語教育資源をコーパス言語学や自然言語処理の手法を援用して組織的に整備する手法の考案と、その資源を具体的な教育システムに結びつけるための言語共通の汎用シラバスを開発、実際のコースコンテンツを開発し東京外国語大学の28言語専攻のうち、実験的に実装をいくつかの言語で試みるものである。特に汎用のCan-Do リストと汎用シラバスを組み合わせた教材を開発し、その教授結果を測定評価する Can-Do テストをセットで考案することで、国際的に価値のある言語教育資源の開発を目指す。
著者
鈴木 真弥
出版者
東京外国語大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究はグローバル化の趨勢が指摘されるインドにおいて、急速に変貌しつつあるカーストとダリト運動の動態を検討すると同時に、英国のダリト移民にも注目することで、人びとのカースト意識やダリト運動の展開に与える影響を検討した。バールミーキ・コミュニティを事例として、インドで1990年代以降から試みられてきた公益訴訟という手法を活用して自コミュニティの権利や不平等を訴える動きを分析した。さらにバーミンガムのバールミーキ移民に着目し、ライフヒストリー、カースト差別の経験、カースト別の宗教・社会活動を検討することにより、英国のカースト問題や国境を越えた運動のネットワーク形成の可能性と課題を明らかにした。
著者
中川 裕 大野 仁美 高田 明
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の主要な目的は、(i)コエ語族における知覚動詞とそれに関連する意味領域語彙や文法化、語彙化、多義構造の事例を組織的に観察・分析すること、(ii)当該語彙の多義性と意味拡張に関する従来の普遍性仮説を批判的に検証すること、(iii)この意味領域における従来の普遍性仮説との関連を踏まえて、コエ語族の事例が示す特徴について探求すること、であった。4年の研究助成期間で、上記(i)と(ii)に該当するデータ収集と分析、それに主要な討議をすべて終えた。そして、最終年度の翌年度に下記の国際学会での発表および海外研究機関からの招待講演で、上記(iii)に該当する研究課題に直接かかわる問題に対しての解答を示すことができた。まず、コエ語族のグイ語、ガナ語およびカバ語の知覚動詞体系には、そこに観察される非視覚的4知覚を包括する多義的動詞の存在と、その内部構造を特徴づける特異な意味拡張パタンを発見した。そして、それが世界の言語のなかでも極めて特殊であることを確かめ、従来の研究(Viberg 1984)で提案されほぼ定説とされてきた、基本知覚動詞が表現する5知覚モダリティーの階層性に対して、実証的根拠を示すことによってその改訂を提案した。さらに、コエ語族に観察される知覚動詞体系の類型論的特徴と、これらの言語が持っているユニークなふたつの語彙化領域(特殊味覚語彙と食品テクスチャー語彙)との関連について解釈を提案した。このほかに、本研究の構想には、上記の検証・探求に先立って行う言語調査の過程で、記述の乏しいコエ語の言語構造や言語社会構造の重要な側面を記述することが含まれており、この点では、詳細なグイ語音韻論・音声学の記述(博士論文)やグイ語話者の社会言語学(学術論文)を発表した。またガナ語群の統語論を概観する論文が刊行予定である。
著者
中川 裕 稗田 乃 中川 裕
出版者
東京外国語大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

前年度までに蓄積してきた、コイサン諸語コエ語族ガナ語群の統語論、音韻論、声調論の資料を総合し、それらの重要な側面を記述した。また、日本国内のコイサン研究者を訪問して、ガナ語群グイ語の語彙に関する情報交換や討議を行い、その結果(とくに意味記述に関する情報と討議結果)を、構築進行中のグイ語語彙データベースに組み入れた。さらに、この語彙データベースの意味記述の重要な部分を英訳し、英語による公開の準備に着手した。以上に加えて、研究協力者をナイジェリアとウガンダに派遣し、以下(1)(2)のような調査研究を行った。(1)ナイジェリア北部に分布するチャド語系少数民族語であるブラ語の記述調査:主にブラ語の名詞形態論の解明を目的とした調査を行い、特に可譲渡/不可譲渡性がこの言語における名詞分類の根幹を成すこと、また屈折的な形態論を持つ多くのチャド諸語に対し、この言語が主に膠着的な手法で語形成を行い、さらに語形成の方法として重複が重要な機能を果たしていることなどを説明する論文を作成した;またブラ語の語彙調査も継続して行い、音声の録音資料などを収集した。(2)ウガンダのにおける言語使用と言語態度についての調査:首都カンパラの7つの地域およびウガンダ東部のトロロ・ディストリクトのブタレジャで社会言語学的調査を行った。その結果、各調査地点でのリンガフランカ(ガンダ語)と民族語の使用についての諸側面が明らかになり、また、それらの言語に対する言語態度(とくに重要なのはリンガフランカヘの反対意識と民族語保持意識)の実態が明らかになった。
著者
中川 裕
出版者
東京外国語大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

1992年8月以来、現地調査を行い蓄積してきた、グイ語(中部コイサン語族)の資料のうちまだ非公開で量的に大きな比重を占める語彙データを学際的な利用にたえる「辞書」として編纂するために必要な基礎的な分析総合作業を行った.その具体的な内容は以下の通りである:1)これまで未解決であった3音節語根の声調組織を解明した;2)音韻的に対立する分節音および声調を表記する言語学的に妥当な正書法を作製した.以上の結果の一部は論文のなかで報告済みである.同時に、日本国内在住のブッシュマン研究者および研究機関への取材を行い、非言語学的情報の提供を受けた。入手情報と取材先は以下の通りである:1)地名と地点(GPSによる観測データ)の同定、および昆虫・小動物の名称と学名の同定(三重大学人文学部);2)人名とその起源に関する情報および動植物の名称および利用法と学名の同定(京都大学人間総合学部、アフリカ地域研究センター);3)狩猟に関する特殊語彙の意味記述に関する情報収集(兵庫県立人と自然の博物館生態研究部);4)親族名称の体系記述に関する情報収集(麗澤大学外国語学部)。15EA03:以上の新たな表記法と情報とを組み込んだ辞書のコンピュータ入力および編集は、主要な語彙項目のほぼすべてについて(2000項目以上)を終了した.このほかに、昆虫など小動物の標本写真や物質文化の実測図や写真の一部はフォトCDなどの形で変換し、将来的に計画している当辞書への統合の方法を予備調査した.この試みもある程度の成功をおさめた.
著者
中川 裕
出版者
東京外国語大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

1992年から毎年行ってきた現地調査で採集したグイ語語彙のデータベースを、次の3つの点で修正と改訂をした:すなわち、1)1995年と1996年の調査結果を加える;2)クリック伴音表記の新しい方法の導入;3)データの並べ変え(ソ-ト)のための情報の入力である。これまで、現地調査で撮影をした物質文化に関連する写真をすべてフォトCDの形でデジタイズし終えた。それには、道具など、物質文化の要素それ自体の写真に加えて、道具の製作過程や利用過程の写真も含まれる。データベース化するこれらの写真資料は、検索のためのキーワードが必要となる。キーワードの設定のために、関連する文献の調査を行った。対象としたものは『文化項目分類表』や『基礎語彙集』の意味分野のリスト、動植物の利用を扱った生態人類学的研究論文である。その結果、一般的な枠組みを準備するのは困難であることがわかり、結局、当該の民族を対象とした生態人類学的民族誌(田中二郎とシルバ-バウアーによるもの)で用いられている項目や記述のラベルに基づくことにした。キーワードの付与は、他の研究者からのフィードバックも取り入れながら試行錯誤的に進めざるを得ないため、部分的に進行中というのが現状である。データベース化に用いているソフトウエアが、今年度途中にバ-ジョンアップを行い、リレーショナル機能をあらたに付け加えたので、写真資料は独立のデータベースにして、語彙データベースとの相互参照機能を構築するよう研究方針を修正した。このシステムのほうが、ツァイルが軽くなり、検索にかかる時間が短縮されるからである。現在、上記の検索キーワード付与とリレーショナルデータベースへの改編を進めている。
著者
中川 裕
出版者
東京外国語大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

1.ボツワナでの実地調査によって採集したグイクエ=ブッシュマンの言語(グイ語)の記述資料(フィールドノート)を音韻分析した。その結果、この言語の音素目録、および語彙的語根ならびに機能語の音素配列、声調の体系、さらに主な動詞形態音韻論的現象を明らかにした。2.上記の分析に基づき、この言語の約2500項目の基礎語彙についての情報をカード型データベースに入力した。(1)表記法は音素表記を原則とする簡略音声表記を用いた。(2)表記のための特殊記号を含むグイ語専用フォントを一組作成した。(3)様々な音韻的条件からの検索を可能とするソ-トフィールドを、音素配列分析、声調分析の結果をもとに作成した。(4)語彙の形態論的、意味論的および民族学的な情報を入力した。(意味的・民族学的情報の入力に先立ち調査地を同じくする人類学者との意見交換、情報交換をおこなった。)3.録音資料(アナログテープ及びDATによる記録)を編集し、その一部を音響分析した。さらにこの音響資料をカード型データベースに画像データとして入力した。(ただしこの作業は現在も進行中である。)4.調音器官の図版(上顎と舌の断面図)を作成し、画像ファイルとして入力した。5.言語調査がまだ初期段階である現時点では、資料が非常に流動的であるため、枠組みを変更しやすいカード型データベースを用いているが、録音、画像、文字という異質な資料を統合的に扱うには、リレーショナルデータベースのほうが好都合である。将来的にはリレーショナルデータベースに移行する予定である。また、現在用いているパソコンの処理能力では検索に時間がかかり過ぎる。データベースの公開には高速マシンが必要である。
著者
中川 裕
出版者
東京外国語大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究は、ボツワナ共和国のカラハリ地域でブッシュマンの1グループによって話されている、グイ語(中部コイサン語族)が有する極めて複雑な子音組織の理解のために、この組織を特徴付ける4つのクリック種、13種類のクリック伴音、4つの“軟口蓋化"歯茎閉鎖音([tx,tx',tsx、tsx'])、またこれらの音韻分析に直接関連する口蓋垂摩擦音と軟口蓋側面破察放出音の音響的特徴を、CSL-Computerized Speech Labを用いて分析した。その結果は、これまで私が行ってきた伝統的な主観的音声観察に主に基づく記述を大筋では支持し、それに音声的詳細に関する新たな事実を付加するものであった。細かい点では再考や修正に有益であった(たとえば破擦的放出伴音における喉頭の調節に関する推測に関して)。本研究の結果の一部として、すでに、Nakagawa,H.(1998)Unnatural Palatalization in Gui and Gana?Quellen zur Khoisan-Forschung 15,245-263で非クリック子音に関する議論を、また中川裕(1998)「コサイン諸語のクリック子音の記述的枠組み」『音声研究』ではクリック子音の記述に関する議論を、さらにNakagawa,H(1998)A cluster analysis of clicks and their accompaniments,Linguisitics and Phonetics 98(Sept.1998,Ohaio State University)ではクリック子音および“軟口蓋化"歯茎閉鎖音の新子音クラスター解釈の可能性を、それぞれ報告した。本研究の結果の主要部分にあたる子音組織全体の詳細な記述は現在進めているところである。そこでは、クリック子音と非クリック子音とを統一的に記述し分類するのに妥当な弁別特徴に関しても議論をする予定である。
著者
中川 裕
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究では、私自身がこれまでに現地調査によって収集し蓄積してきた中部コイサン語族のグイ語の語彙資料を、アンソニー・トレールが記述した南部コイサン語族のコン語の語彙資料と詳細に比較することによって、両言語の接触史に関する新たな知見をもたらすことに取り組んだ。この取り組みの主要な成果の一部はすでに「1.研究発表」の欄に記載のTraill & Nakagawa(2000)に発表してある。グイ・コン間の語彙比較研究をすすめる過程で、両言語のあいだに共有される音韻論的特徴や語彙要素、また特殊な語彙意味が多数浮かび上がってきた。その結果、これらの情報を豊富に含む、従来はまったくなしとげられなかった精密で詳細な語彙対応データベースができあがった。また、その語彙対応データベースを対象とした分析は、このコイサン地域に特有とみられる(コイサン諸語動詞の接触に起因する)音変化や意味変化を特定するために重要な資料を組織的にとらえることを可能にした。グイ語の方言調査の結果を分析し、カデ方言・クーテ方言・ホウ方言という3変種を同定しそれらの方言区画を発見した。そして、コン語との共通特徴や共通要素をもつのはどの変種であるかについて考察した。コイサン諸語内部における言語接触史の解明を今後さらに拡大発展させるために、私が編纂しつつあるグイ語語彙データベースを、ひろく海外の他のコイサン言語学者に容易に利用してもらうことを目標として、意味記述や博物誌的情報の英訳を本研究の下位プロジェクトとして開始した。現時点で、全体の約10%の初版英語翻訳ができあがった。
著者
中川 裕
出版者
東京外国語大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

本研究の最終年度である今年度は、主に次にあげる3項目の研究を遂行した。まず一つ目として、昨年度までつづけてきたグイの韻文ジャンルである「ハノ」と、「歌」と翻訳することのできるジャンル「ツィー」のテキストを、音韻論的に妥当な記述の枠組みを用いて、言語学的に文書記録化すること(linguistic documentation)をさらに進めた。次に二つ目として、グイにおける、マザリーズ(motherese「子守ことば」)というスピーチ・スタイルと、上記「ハノ」という韻文ジャンルと、上記の「ツイー」のうち旋律のないタイプという3つの特殊スピーチを、音声学的・音韻論的な視点から精密に比較し、それらに共通する韻律的特徴に焦点をあてて精査を行った。最後に三つ目として、韻文ジャンル「ハノ」のテキストのモチーフとなっている自然・野生の側面について、環境認識の専門家との討議をとおして考察を行った。以上の3つの研究項目は、すべて、これまでのコイサン研究では取り上げられることのなかった、音韻論的接近法と民族言語学的接近法による民族誌研究の先駆けとなる研究といえる。コイサン言語民族学的研究は、ここを端緒として、民族詩学や音韻民族誌をさらに展開することができるはずである。また、本研究がクローズアップして、その実態に迫った韻文ジャンル「ハノ」については、ロマン・ヤコブソンの言語機能論との関連で、その伝達行為としての特異性の解明という新しい問題も浮かび上がってきた。本研究は、このように、言語民族学的文脈においても、また、言語機能論的文脈においても、きわめて興味深く新しい視座をもたらすことに成功した。
著者
中川 裕
出版者
東京外国語大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2018-06-29

2021年度の主要な調査活動は、(1)蓄積してきた資料の整備と精密な観察・分析と、(2)副産物的な成果として開発した正書法と識字学習ツールの拡張と更新だった。本来予定していたボツワナ共和国カラハリ地域における現地調査はコロナ感染状況がいぜんとして深刻なため実現することができず、その実施は研究期間を延長して、2022年度にする申請を行い承認を得た。上記(1)については、2020年1月までに収集したグイ語音韻獲得データに、さらに1990年代の資料を加えた:すなわち過去において現地調査で収集した録音とフィールドノート記録に子供の発音資料を「発掘」して整理したデータを併せて資料群を拡大整備した。そして、昨年度に引き続き、クリック獲得の過程で観察される置換音パタンがもつ理論的含意に関する考察を、追加資料分析をもとに進めた。この考察の結果は、日本音声学会で行った特別講演「多数のクリック子音をもつ言語は音韻体系をどう組織化するか:コイサン諸語の子音・母音・音素配列」の内容に含まれる子音の音韻的解釈にも反映している。(2)については、研究代表者と研究協力者が、日本アフリカ学会第58回学術大会でポスター発表した。またその後、識字学習用のイラストを追加してオンライン・ツールを充実させた。従来の研究では探求されてこなかった「多数のクリック子音をもつコイサン諸語の音素体系を子供はどのように獲得するか?」という問いに取り組む本研究は音韻獲得研究の射程を拡張しつつある。また、音韻獲得の研究指針に「獲得の難しい音類に関する探求」を組み入れることで、音韻獲得の言語相対性(個別性・類型性)の理論の発展に新しい光を与えつつある。
著者
中川 裕
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2020-04-01

人類の言語音の多様性を探求する研究分野「音韻類型論」は、本来、言語音の普遍的傾向と言語音の限界範囲の両方の解明に向かうべきものだ。ところが、これまでの音韻類型論は前者が重視されすぎて、後者に関わる「言語音の限界縁はいかなるものか?」と「その限界縁をなす稀少特徴はどう説明できるか?」という重要問題をなおざりにしてきた。本研究は、これらの問題に取り組む。そのために音韻類型論に3つの新手法を導入する:第1に、めずらしい音韻特徴を重視する新接近法を採用する。第2に、コイサン諸語の精査によって言語音の複雑度の限界範囲の解明に挑む。第3に、音素目録・語彙・テキストの3基軸データセットによる頻度調査を行う。
著者
中川 裕 高田 明 松平 勇二
出版者
東京外国語大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2018-10-09

2021年度の主要実績は次のように要約できる:(1)過去に記録されたブッシュマン音楽のアーカイブ編纂を継続・拡大し、その派生的な成果を進展させた;(2)グイ語の言語的韻律とグイの歌の音楽的律動の比較分析を行った;(3)グイの歌の類型・リズム・楽器の側面を取り上げた小論を刊行した;(4)グイの治療ダンス音楽のリズム分析を行い、その結果の一部を学会発表した。(1)に関しては、昨年度に引き続き、1990年代までに収録した音楽を対象に資料目録の整備を実施した。また、中川が、歌を含む原文のテキスト表記の監修を担当した田中二郎(2020)『ブッシュマンの民話』(京都大学学術出版会)英訳刊行プロジェクトが最終段階に入った(現在は校正プロセス)。(2)の成果を一部反映した(3)については、研究代表者(中川)と研究分担者(松平)とが、それぞれ言語リズムと音楽リズムを分担して、これまでの考察結果を持ち寄りアンソロジー『地球の音楽』(東京外国語大学出版会)に「カラハリ狩猟採集民グイ人の歌」を執筆し、刊行した。(4)については、松平が日本アフリカ学会第58回学術大会で「グイ・ヒーリングダンスのリズム」を報告した。それら以外にも、本研究課題に関連する実績として、高田が日本発達心理学会第33回大会で「音楽性の学際的探究からの提言: 「音楽的な子どもたち」に導かれる発達観へ」を発表し、また、中川が日本音声学会第35回大会特別講演として「多数のクリック子音をもつ言語は音韻体系をどう組織化するか:“コイサン”諸語の子音・母音・音素配列」を発表した。
著者
中川 裕
出版者
東京外国語大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2022-06-30

アフリカ識字活動はカラハリ狩猟採集民をいわば置き去りにしてきた。それには彼らの音韻的特異性・文化的特殊性・現実的諸事情が識字教育の障壁となったという経緯がある。一方で、現在のカラハリ狩猟採集民たちは母語を文字で綴ることを望み、当事国政府もそれを奨励し始めた。本研究は、新しい着想により、母語話者を中心とする現地関係者たちと協働することで、社会に馴染み持続しやすい識字学習インフラを考案し発展させる。この実践のために、世界最大級の音素対立を表記するアルファベット系正書法を設計する。また、「この極限域において、文字で母語を書き綴る営みにはどんな現象が起きるか?」という新しい文字学的問題を探求する。
著者
中川 裕 佐野 洋 鈴木 玲子 降幡 正志 上田 広美 匹田 剛 望月 源 田原 洋樹 原 真由子
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

聴覚・音響音声学的な事実と音韻論的構造との相互関係を理解するために、広範囲の言語事例を使い、言語横断的比較の手法を用いながら、聴覚実験や音響分析によって新知見をもたらした。さらにその新知見を音韻構造との関連で解釈した。解釈の過程で、音韻素性理論に聴覚・音響的特性をどう位置づけるかという理論的問題を探求するための、多くの具体的手がかりを得ることができた。それと同時に、このプロジェクトで蓄積した、聴覚音声学的な新手法と新知見を用いて、言語学習の過程における第2言語(L2)の発音の諸問題に取り組み、実り多い議論を発展させることができた。
著者
中川 裕 大野 仁美 高田 明 Sylvanus Job Christfried Naumann Lee Pratchett
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

この研究は、ボツワナ共和国のカラハリ地域で話される、カラハリ盆地言語帯コエ・クワディ語族カラハリ・コエ語派を対象として、(i)語派の3語群の構造的特徴とその変異を総合的に理解し、(ii)その変異パタンに着目して各語群の類型論的特色を解明し、(iii)その特色を明瞭に描き出す音韻論と文法と語彙を文書化することに取り組んだ。その結果、学術論文14点、学会発表32点、辞書編纂1点、を成果として生み出した。記述の対象となった言語は、当該語派の3語群の7言語(シュア語、ツィハ語、クエ語、ナロ語、ハバ語、グイ語、ツィラ語)に加え、それらと接触するコン語を含む。
著者
中川 裕
出版者
東京外国語大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

音韻論的言語類型論の領域に「拡張韻」という新しい音韻的単位を導入することによって、南部アフリカのコイサン諸語と東アジア・東南アジアの一部の言語を横断する類型論的言語比較を試みた。これによって、従来は広く認識されていなかった当該言語群間にある構造的な類似性が観察された。この観察から、あらためてコイサン音韻論がもつ世界の言語における独自の特徴を再認識することが可能になった。そのための分析概念装置、①通コイサン子音チャートと②通コイサン音素配列テンプレートを整備した。さらに、今後のコイサン言語学の発達のための調査指針を具体的にコイサン横断的比較音韻論の研究調査票として発表した。
著者
中川 裕
出版者
東京外国語大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究はコイサン諸語コエ語族グイ語を対象に、未記述で無文字の危機言語の辞書編纂・語彙意味研究にとって斬新な接近法である「モノリンガル意味記述」を導入することによってつぎの3つを目指している。(1)危機言語の言語学的記録のための新しい方法論を具体的事例をもって提示すること。(2)コイサン言語研究における語彙意味論に新しい展開の糸口を与えること。(3)モノリンガル意味記述が危機言語コミュニティーでの識字教育・言語維持という言語学応用分野にどのように利点をもたらすかを模索すること。最終年度にあたる今年度は、(1)(2)(3)に関して本研究がこれまでに達成した成果を、コイサン語の先端的研究をしている国外の2人の言語学者に示し、討議をすることができた。5月に来日したベルリン大学教授トムグルデマンとボツワナ大学教授アンディチェバネと面談し、グイ語のモノリンガル意味記述のテキストの分析結果と、それをもちいた識字教育応用の素材に関する議論を行った。本研究が目指すモノリンガル記述の独創性は高く評価された。他のコイサン語研究では、媒介言語であるツワナ語や英語を通して調査が行われているので、本研究のアプローチは実現が困難であり、その意味でも肯定的な評価をうけた。表記法の原則の通言語的統一、識字教育へのインパクトについても、意見交換を行った。8月にアフリカ言語学国際会議で研究発表を行い、コイサン関係者と辞書編纂および、アフリカにおける識字教育一般にかんする情報交換を行った。12月~1月にボツワナのカラハリ地区のグイ集落であるニューカデに滞在し、モノリンガル記述を利用しての識字教育に関する、意見の聞き取り調査をした。英語の読み書きができる若いグイ人の協力をえて識字資料のインターフェースの問題点について示唆をうけた。現在、これまでの調査結果の総括を行っている。
著者
中川 裕 佐野 洋 望月 源 高田 明
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は言語音の多様性を探求する分野「音韻類型論」における未開拓の重要な問題、「言語音の限界縁はいかなるものか?」と「その限界縁をなす稀少特徴はどのように説明できるか?」に取り組んだ。そのために次の3つの新接近法を導入した:(i)世界中に遍在する「ありふれた音韻特徴」を重視する従来の手法を逆転させて、地理的に偏在する「めずらしい音韻特徴」を重視する点;(ii)極度に複雑な音類を多用するコイサン諸語の精査によって、言語音の複雑度の限界範囲の解明に挑戦する点;(iii)音素目録に基づく頻度調査に依存しがちだった従来の研究に対し、語彙内における頻度調査を体系的に実施する点である。
著者
中川 裕 大野 仁美 高田 明 大野 仁美 高田 明
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

コエ語族カラハリ・コエ語派ナロ・ガナ語群は、コエ語族の歴史を探るために重要な役割をはたす。その重要性は、最近トム・グルデマンが提案したコエ・クヮディ祖語仮説の検証のためにますます高まってきた。このナロ・ガナ語群内部の系統的分類を、未記述のハバ語とツェラ語の現地調査に基づき、グイ語とガナ語の諸方言の最新資料と比較することによって、ライナーフォッセンによる定説とは異なる新しい当該語群の系統関係を解明することに成功した。