著者
芳賀 猛 後藤 義孝 上間 亜希子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

牛属はパピローマ(乳頭腫)が最も多く見られる家畜で、その病原体であるパピローマウイルス(PV)のゲノム型と病態との関係を解析した。本研究により、以下の成果が得られた。[1]牛属のヤクの皮膚乳頭腫から新規のPV型を発見し、ヤクの学名 (Bos grunniens)にちなみ、BgPV-1と命名された。[2] これまで皮膚の乳頭腫病変からしか見つからなかったBPV-10を舌病変部から発見し、BPV-10 の新たな病態を明らかにした。[3]我々が発見したBPV-12の感染病変部に、全長ゲノムにあわせて欠損ゲノムが存在していることを発見し、BPV病変に見られる欠損ゲノムの初めての報告がなされた。
著者
加藤 滋子 脇 嘉代 中村 禎子 長田 早苗 藤田 英雄 李 花映 小林 春香
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

2型糖尿病患者を対象に、基準となる料理画像を見て、料理単位で栄養素等摂取量を推定するマニュアル(主食料理)を開発した。基準量や料理リストなどいくつかの修正が必要であるが、有用性ならびに有効性が示唆されたさらに、スマートフォンアプリ(DialBetics)で撮影した料理画像を用いて、管理栄養士によるアプリの栄養素等摂取量の推定の有効性についても検討した。アプリを用いた料理名およびエネルギー・栄養素等摂取量の推定は料理グループとして有効であることが示唆された。
著者
尾田 正二 久恒 辰博 三谷 啓志
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

亜致死線量の放射線照射よりも拘束ストレスの方がメダカ成魚の心拍により大きな影響を及ぼしたことから、低線量の放射線照射が脊椎動物の自律神経に与える影響も極めて小さく誤差レベルと結論する。ただし低線量率での慢性的な放射線の影響は未検証であり今後の課題である。マウス頭部への高線量放射線照射によって認知機能の一過的な低下を確認した。メダカ稚魚、成魚の遊泳を自動追尾して軌跡を数値化する手法を開発し、首都圏ホットスポットでの空間線量に相当する極低線量率にてメダカ胚、稚魚、成魚を慢性照射し、その高次脳機能への影響を検証・評価する手法を開発した。低線量慢性曝露実験の実施が将来のタスクとして残された。
著者
山辺 弦
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

2008年度は予定通り、三次資料の読み込みを基に研究計画を発展させ、その成果の一部を発表することを主眼に置いた。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻の学術雑誌『年報地域文化研究』第12号に掲載を許可された論文はその具体例である。ビルヒリオ・ピニェーラの小説『圧力とダイヤモンド』を「デイストピア性」というキータームを軸に論じた本稿は、文学テクストを具体的歴史状況に照らして分析するという研究意図を実現しつつ、先行研究において欠如していた新鮮な論点が見える点を高く評価されまたレイナルド・アレナスの小説『襲撃』における同様の特徴を論じた私の過去の論文と相神的な形で両者の文学的類縁性を明らかにした点でも、本研究の予想以上の進展を示すきわめて重要な成果であった。「デイストピア性」という概念は研究計画における出発点の一つであった「自己転覆性」という概念と結びつくものであるが、同様にレサマニリマとの比較、あるいは「分裂症的横断」という他の論点についても様々な形で有益な論の発展を見ることができた。2009年3月に実施したスペインの研究旅行では、ピニエーラ研究の第一人者であるMercedes Serna氏と面会しそれまで入手が困難であった希少な資料の提供および有益な助言を得た。同様に現代キューバ研究において最重要な雑誌Encuentro de la Cultura Cubanaの編集長Luis Manuel Garcia氏、ならびにキューバ文学関連書に強い出版社Verbumの主催者であるPio Serrano氏といった重要な人物と面会を許され。多数の資料提供を受けたことも、特別研究員制度が与える経済的支援及び学術的信用の帰結した研究活動の成果として特筆されるべきものである。その他の活動としては、数多くの読書会や研究会に出席してキューバ文学の精読と研究発表を精力的に行った。上記の論文もこのうちの一つでの口頭発表に基づいて執筆されるなど、これらの活動も研究成果に直結する有意義なものであった。
著者
中山 和則
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

近年PAMELA衛星、Fermi衛星によって宇宙線陽電子、電子フラックスの超過成分が観測され、これが暗黒物質対消滅の痕跡である可能性が指摘されている。これを受けて、暗黒物質対消滅とビッグバン元素合成との関係、銀河外拡散ガンマ線への暗黒物質の寄与、銀河中心方向からの高エネルギーニュートリノによる検証可能性などを調べた。将来観測によって暗黒物質対消滅の証拠を検証、あるいは排除出来ることが明らかになった。また、最近CDMS実験が暗黒物質起源と解釈され得るシグナルイベントを報告した。これに関して、超対称標準模型のパラメータへの示唆、および将来実験での観測可能性を調べた。一方、宇宙の構造形成の種となる密度揺らぎに関する研究を進めた。特に、密度揺らぎの非ガウス成分と、その素粒子物理への示唆を中心に研究を行なった。暗黒物質の有力候補の一つであるアクシオンにより、等曲率揺らぎの中に非ガウス性が現れる可能性があり、その特徴を詳しく調べた。また、超対称性模型において、超対称性を破る場によって同様の大きな非ガウス性が生成される可能性があることを明らかにした。また、非ガウス性と重力波の観測を組み合わせることで、カーバトンシナリオを検証可能であることを示した。
著者
三浦 篤
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

1860年代のフランス絵画をクールベ以後の「ポスト・レアリスム」という切り口から捉え、マネ、ファンタン=ラトゥール、ドガ、ルグロ、ホイッスラーの5人の画家たちに共通する美意識や造形手法を総合的に考察した。その結果、絵画の枠組みの意識化と作品の切断、画像のアッサンブラージュ、画中画や鏡の挿入、多様なマチエールの併用等々の特質が浮かび上がった。西洋絵画史における「近代的なタブローの生成」とも言うべき現象が出現したのがまさに1860年代のフランスであり、マネを中核とする「ポスト・レアリスト」たちがそれを担ったのである。
著者
尾花 和子 土田 嘉昭 上井 義之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

N-myc遺伝子の増幅は、神経芽細胞腫の予後を反映することが知られているが、その遺伝子産物であるN-Myc蛋白の発現を調べるために抗N-Myc抗体を精製した。N-Myc蛋白の既知のアミノ酸配列の中から二種のペプチドHGRGPPTAGSTAQSPG(codon.136-151)およびGVAPPRPGGRQTSGGDH(codon.223-239)を選び、これを合成し、lisine coreにmultiple antigen peptide(MAP)methodにより結合させ、抗原として家兎に免疫した。得られた家兎血清のIgG分画をアフィニティ・カラムにかけて精製した。精製されたIgGの特異性を検定したところ、抗GVAPPRPGGRQTSGGDH特異IgGは、N-myc遺伝子の発現が知られているヒト神経芽細胞腫の細胞株についてN-Myc蛋白と思われるバンドの発現を示したが、ヒト横紋筋肉腫細胞株や、ヒトユーイング肉腫細胞株では反応を示さなかった。また、免疫染色においても、抗GVAPPRPGGRQTSGGDH特異IgGによりN-myc遺伝子の発現が知られているヒト神経芽細胞腫の細胞株の核内に強い染色がみられ、抗GVAPPRPGGRQTSGGDH特異IgG(anti-17M)は抗N-Myc蛋白ポリクローナル抗体であると考えられた。さらにその他の神経芽細胞腫細胞株およびxenograft、神経節芽腫組織、正常副腎組織、横紋筋肉腫細胞株、ユーイング肉腫細胞株、肺小細胞癌細胞株を用い、上記抗GVAPPRPGGRQTSGGDH特異IgG(anti-17M)を用いてimmunoblotおよび免疫染色を行ったところ、N-myc遺伝子の増幅のある腫瘍においてのみ陽性の反応がみられた。
著者
柳澤 純 加藤 茂明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

脂溶性ホルモンであるエストロゲンは、エストロゲン標的組織の細胞内に存在するエストロゲンレセプターに結合する。エストロゲンの結合してエストロゲンレセプター(ER)は、DNA上の特異的な配列に結合し、標的遺伝子の転写を制御することにより、様々な生理作用を現わす。ERの転写制御には、リガンド依存的に結合する一群の蛋白質複合体が必須であることが知られている。これらは、転写を活性化する転写活性化因子複合体と転写を抑制する転写抑制因子複合体に分けられる。われわれは、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ融合ER蛋白質を用いたカラムを作製し、新規ER結合蛋白質複合体を精製した。質量分析による同定により、この蛋白質複合体はTRRAP, GCN5,TAFなどを含み、TRRAPを介して、エストロゲンの結合したERに結合することが明らかとなった。In vitro転写系において、この蛋白質複合体は、ERの転写活性を促進することから、転写活性化因子複合体として機能するものと考えられた。TRRAPのアンチセンスmRNAはERの転写活性を著しく阻害することから、この複合体がERの転写活性化において重要な役割を担っているものと考えられた。さらに、乳がん由来の細胞株であるMCF7に、このアンチセンスRNAを恒常的に発現させたところ、エストロゲン依存的な乳がん細胞増殖が顕著に抑制された。この抑制はER結合領域を持つが複合体を形成しないTRRAPドミナントネガティブ体を細胞内に導入した場合にも観察されることから、TRRAP/GCN5複合体はエストロゲン依存的な乳がんの増殖に関与している可能性が示された。今後さらに解析を進めることにより、エストロゲン依存的な乳がんの増殖機構が明らかになり、新たな抗がん剤の開発に結びつくのではないかと期待している。
著者
柳澤 純 加藤 茂明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

核内ステロイドレセプターの一つであるPPAR(パーオキシソーム増殖剤応答レセプター)α、γ、δは脂質代謝、脂肪細胞分化誘導、血管内皮での泡沫細胞形成等の多彩かつ特異的な生理作用を司っている。PPARはリガンド誘導性転写制御因子として働き、リガンドのシグナルに応じて標的遺伝子の発現を転写レベルで調節する。この際、PPARはRXR(レチノイドXレセプター)とヘテロダイマーを形成し、PPAR、RXR各々のリガンド依存的に転写共役因子群を獲得し、基本転写装置と共に転写を開始する。このようなPPAR機能発現には、リガンドの結合が必須であるが、内因性PPARリガンドは複数存在することが知られている。そのためPPARによる多様な生理作用は、多様なリガンド各々固有の作用が担うと予想されている。その分子メカニズムとして、様々なPPARリガンドが転写共役因子群を選択的に使い分けることで、リガンド固有の作用をもたらしている可能性が考えられる。また、一般に既知核内レセプターリガンドの生合成はリガンド産生酵素により厳密に制御されているため、PPARリガンド産生酵素には未同定酵素の存在が考えられる。そこで、本研究ではPPARリガンド群の特異的生理作用をもたらす分子メカニズムの解明を目指し、I.リガンドによる選択的なPPARgと転写共役因子の相互作用、II.PPAR(a,g)リガンドの同定を目指した新規リガンド産生酵素の検索、の2点を検討した。
著者
津江 光洋 中谷 辰爾
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

極超音速飛行を行うためのエンジンとして水素を燃料とした予冷ターボジェットがある.離陸からマッハ6に至る幅広い作動レンジで環境負荷物質の排出の少なく高効率のエンジンを実現するためには燃焼現象の理解が必要である.本研究では,予冷ターボジェットアフターバーナーにおける燃焼状態を把握するため,モデル燃焼器を用いた実験を実施した.また,同時に詳細反応モデルを使用した数値流体解析も実施した.高エンタルピ―風洞内の水素噴射において,高効率の燃焼形態の把握と窒素酸化物生成メカニズムを明らかにした.また,粒子添加二色法による非接触の水素火炎温度測定手法を提案し,有効性を示した.
著者
加藤 茂明
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

現在のところmRNA分解制御の分子メカニズム自体が不明な点が多く、その制御メカニズムを明らかにすることはステロイドホルモン依存的mRNA安定化(不安定化)制御機構解明に向けて必須の課題である。そこで本年度は特に以下の3点に焦点を当て検討した。1)AUUUA配列結合タンパクの機能解析:新規AUUUA配列結合因子(AUF2)のmRNA分解における役割をin vitro mRNA分解活性測定系に導入し検討した。本システムの概要は血清刺激プロモーターに繋いだレポーター遺伝子(β-globin遺伝子)をNIH3T3細胞に導入し、血清刺激により遺伝子産物を一過的に誘導した後、そのmRNAの残存量をノザンブロットにて測定することにより半減期を算出した。2)AUUUA配列結合タンパク共役因子群の検索:AUUUA 配列上に形成される複合体の構成因子を明らかにする目的で酵母を用いたTwo-hybridシステムを導入し、AUF2をbaitにしてヒト脳由来cDNAライブラリーからTwo-hybridスクリーニングによりAUF2とタンパク-タンパク相互作用する共役因子を検索した。3)AUUUA配列結合タンパク共約因子の機能解析:(2)のTwo-hybridスクリーニングによって得られたAUF2結合因子をコードするcDNA断片を用い、ヒト脳由来 cDNAライブラリーから全長cDNAを取得した。得られた全長cDNAを(1)のin vitro mRNA分解活性測定系に導入し、因子の存在下あるいは非存在下においてレポーターmRNAの半減期を測定することによりmRNA分解制御に対するその因子の関与を検討した。更に因子の存在下においてステロイドホルモン存在下および非存在下でも同様にレポーターmRNAの半減期を測定し、ステロイドホルモンの影響も併せて検討した。
著者
加藤 茂明 高田 伊知郎 山本 陽子 大竹 史明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本年度、研究実施計画にある2. 細胞及び軟骨細胞での各種核内受容体群の機能については、各種骨細胞種特異的受容体遺伝子欠損動物を作製、その骨変異を引き続き解析した。昨年度、骨芽細胞特異的なエストロゲン受容体欠損マウスの解析と骨細胞特異的な核内受容体欠損マウスを作出したが、骨芽細胞特異的なエストロゲン受容体欠損マウスに関しては、雄が骨形成と骨吸収が低下することによる低回転型の骨量減少を示し、この表現型についてさらなる詳細な解析を引き続き行なった。具体的には、昨年度骨芽細胞におけるエストロゲン受容体の骨量維持機構の分子メカニズムを明らかにする目的で、骨芽細胞特異的エストロゲン受容体ノックアウトマウスと対照群でマイクロアレイ解析を行ない、その結果発現変動を示した遺伝子がいくつか得られので、これら候補の遺伝子群の発現を定量的PCRなどにより確認し、有意に変動する遺伝子を同定した。また新たな骨細胞特異的なCreトランスジェニックマウス作出に関して昨年度は、Dmplプロモーターを用いたCreトランスジェニックマウスのキメラマウスの作出に成功し、1個体のキメラマウスを取得した。現在得られたキメラマウスと野生型マウスの交配を行い、染色体レベルでの相同組換えを確認している。さらに研究実施計画にある1. 破骨細胞内のゲノムネットワークの解析と3. 細胞及び軟骨細胞特異的な核内受容体転写共役因子群の生化学的同定については、成熟破骨細胞の機能においては性ホルモン受容体が極めて重要な役割を果たすことが分かりつつあるので、性ホルモン受容体群に結合する複合体群を生化学的に同定しその分子機構をさらに解析するために、タグ付きの性ホルモン受容体の発現ベクターを作製し、安定細胞発現株の作製を行っている。
著者
武山 健一 加藤 茂明 高田 伊知郎 北川 浩史
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

申請者はポリグルタミン伸長異常タンパクによるSBMAモデルショウジョウバエを用いた神経変性誘導を指標とした(1)分子遺伝学的アプローチおよび(2)生化学的アプローチによる候補因子探索と、(3)その性状解析からクロマチン構造変換機能異常によるエピジェネティック制御破綻への情報基盤を構築した。(1)分子遺伝学的アプローチによる新規神経変性制御因子の探索SBMAモデルショウジョウバエのpolyQ-AR誘導性の個眼神経変性を指標として、神経変性の変動が観察された25系統を単離した。中でも神経変性を顕著に回復する遺伝子としてRbfの同定に成功し、RbfによるE2F-1転写活性化を破綻させている事を見出した(Suzuki et al.,投稿中)。(2)生化学的アプローチによる新規polyQ-AR相互作用因子の探索クロマチン画分からのpolyQ-ARタンパク複合体精製はトランスジェニックショウジョウバエ個眼より精製後、MALDI-TOF/MS法あるいはLC/MS法にて同定する。その結果、ヒストンシャペロンやelongation factor、RNA結合タンパク等を同定した。3 候補因子の性状解析とエピジェネティック制御情報基盤の構築(1,2)で同定した相互作用因子のクロマチン構造変換能をヒストン修飾や構造、クロマチン構造変換能に着目した生化学的解析を行った。具体的にはヒストンアセチル化、メチル化、ユビキチン化およびリン酸化assay、MNase assay、クロマチンsupercoiling assayやdisruption assayによりin vitro系を構築した。これに必須材料となるヒストン八量体およびDNAとのクロマチン再構築は、HeLa細胞核抽出液およびrecombinant系を両者で整えた。
著者
岡崎 具樹 加藤 茂明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

PTHrPおよびPTHrP遺伝子に存在する、負のビタミンD反応性配列nVDREを組み込んだレポーター遺伝子の細胞導入実験によって以下の結果を得た。1)クロマチン免疫沈降(ChIP)法を用いて、HDAC2がビタミンD存在下で特異的に、nVDREを含むプロモーター周囲のクロマチンに動員されるのに対しHDAC1はビタミンD非存在下でのみ動員された。2)ビタミンD存在下ではHDAC2だけでなく、VDRもまた、このクロマチン構造をとったプロモーター領域に動員され、この2者の選択的動員がビタミンDによるnVDRE-VDRを介する転写抑制の主役を担っていると考えられた。これらがヒストンのアセチル化、脱アセチル化を反映していることは、抗アセチル化ヒストンH3、および抗アセチル化ヒストンH4抗体、さらにHDACの特異的阻害剤のトリコスタチンAを用いて行ったChIP法で確認された。3)これらのChIP法の結果は、nVDREを元来持っている内因性のPTHrP遺伝子プロモーター領域でも、異なるプライマーを用いたPCRで確認された。3)さらに免疫共沈降法によって、VDRとHDAC2の両者はお互いに結合しその結合がビタミンD依存的に増強することを確認した。4)ヒト乳癌MCF7細胞にエストラジールを投与して種々の抗体およびnVDREを用いた同様のChIPアッセイを行ったところ、ビタミンD存在下はかりでなくE2存在下でもHDAC2がクロマチン-プロモーター領域に動員され、さらにE2存在下ではERも同様に動員されており、これらの動員はnVDREのDNA配列特異的であった。さらに抗アセチル化ヒストンH3、抗アセチル化ヒストンH4抗体、および抗HDAC1抗体によってこれらの抗体が認識する各蛋白は、ビタミンDの時と全く同様にE2存在下での動員が阻止された。以上よりER、VDRのそれぞれのリガンドによる転写抑制機構に共通のメカニズムがあることが示唆された。
著者
加藤 茂明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

ビタミンDはカルシウム代謝に中心的な役割を果たし、更に細胞分化・増殖、また癌化などにも深く関与することが知られている。同じビタミンであるビタミンAをリガンドとするレセプターには、RAR(α、β、γ)、RXR(α、β、γ)などがあり、リガンドに対し複数のレセプターが存在する。しかしながら、ビタミンDではそのレセプターはVDR1種のみが報告されており、数多く生体内に存在するビタミンD類緑体群を考えると、VDR1種のみでは十分その生理作用を説明することができない。本研究では、VDRと類似したオ-ファンレセプターを探す過程で見出したVDRアイソフォームVDR1の機能解析と、他のビタミンD類緑体との関連を探った。その結果、VDR1は本来のビタミンDレセプター(VDR0)mRNAのスプライシングによって生じるアイソフォームであり、いわゆるイントロンがスプライトアウトされないものであった。このイントロン中には終止コドンが存在するため、VDR1タンパクはC末端に存在するリガンド結合領域を大半失っており、活性型ビタミンD[1α、25-(OH)_2D_3]では結合せず、逆にVDR0の転写促進能を阻害するいわゆるドミナンドネガティブ型のVDRであることがわかった。そこで更にビタミンD関連化合物、また未然の類似体による転写促進能を調べたところ、いずれもVDR1による転写促進能を活性化することはできなかった。一方、VDR1の標的エンハンサー配列を各種ビタミンD応答配列を用い、VDR0に比較したところ、いずれも差異が認められず、同じ配列を認識すると考えられた。
著者
加藤 茂明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

本研究では、標的組換え動物(いわゆるノックアウトマウス)などの分子生物学的手法を用いることで、今まで知られていなかったビタミンA、Dの作用を探ることを目的に以下の2点に焦点を当て、これらビタミンの遺伝情報を介した分子メカニズムの解明を試みた。1. 新たなビタミンA、D標的遺伝子の検索:ビタミンA、Dの広汎な生理作用から、無数の標的遺伝子群が存在すると予想されている。同定された標的遺伝子群のみでは、これらビタミンの生理作用を十分●説明できないのは明らかである。そこで上記のレセプター欠損マウスでは、ビタミンAあるいはビタミンDの標的遺伝子の発現が極端に変化していると予想されているため、この標的遺伝子群の発現の差に着目し、RT-PCRを利用したDiffential Display法を用いて標的遺伝子cDNAの単離・同定を試みた。更に得られたcDNA断片をプローブとして全長cDNAの取得を試みた。またクローン化したcDNAを用いコードするタンパクの機能をin vitro系で解析するとともに、当該遺伝子のノックアウトマウスを用いることで全動物での機能を検討した。2. ビタミンA、Dレセプター欠損マウスにおけるビタミンA、Dの代謝:ビタミンA、Dの生合成及びその代謝は複雑な制御を受け、生体には数多くの類縁体が存在する。これらの生合成・代謝の制御を行う当該酵素の性状は不明なものが多い。レセプター欠損マウスは究極のビタミン欠乏動物であるため、これら生合成・代謝酵素活性は大きく変動していると考えられる。そこでこれらのマウスに活性型または代謝型のビタミンを投与し、その生体内での動態を探った。また動態を経時的に迫ることで、各種酵素の性状を検討した。
著者
加藤 茂明 武山 健一 北川 浩史 高田 伊知郎 大竹 史明 武山 健一 北川 浩史 大竹 史明
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

乳癌、子宮内膜癌、卵巣癌などのホルモン依存性癌の治療薬として用いられている「選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)」は、組織特異的な転写制御能を発揮するがその分子機構は明らかではない。我々は、SERM依存的にエストロゲン受容体ERαに結合するタンパク質群の精製を試み、ブロモドメインを有するBRD4を同定した。BRD4はpositive transcription elongation factor b(P-TEFb)と共に転写伸長反応を促進する因子であることから、SERMによる転写制御は、転写伸長の促進/抑制による可能性が示唆された。
著者
加藤 茂明 四釜 久隆
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

本研究では、核内レセプターの転写促進能に基づいたホルモン評価系を、分子生物学的手法に基づき動物細胞内で構築し、この評価系をもとに以下の2点に焦点を当て、核内レセプターと共役因子との機能的相互作用を中心としたホルモン関連化合物の新たな評価系の構築を試みた。1. ステロイドレセプター群に相互作用する共役因子群の検索及び同定:前年度でクローニングされた共役因子cDNAは断片なので、この断片を用いた生体内での発現部位(臓器)を同定し、発現部位由来〓DNAライブラリーから全長cDNAを取得した。更に全長cDNAを用いることでtransient expression系にてcDNAがコードする因子の転写促進能を調べた。またステロイドレセプターを強発現させた培養細胞(いわゆるstable transformant)を確認し、この細胞核抽出液からレセプター特異的な抗体によりレセプター複合体を免疫沈降させ、この複合体からレセプターと結合している因子群を単離後、ペプチドシークエンンスからcDNAの取得を試みた。取得されたcDNAのコードされた因子の活性は上記の手法と同様に行い、転写共役因子であるか否かを検討した。2. 機能を保持したステロイドホルモンレセプターを用いてのホルモン結合能の評価系の確立:ステロイドレセプターへのステロイドホルモンの結合能は、通常レセプターを含む細胞由来の核抽出液が古くから用いられてきた。しかしながら、生体組織より調製された核抽出液はロット差が大きく、それ以上に調製は煩雑である。本年度では、生合成させたタンパクが最も本来の主体構造を取ると考えられている昆虫細胞内での大量発現を、バキュロウイルス系を用いて行った。次に発現したレセプタータンパクの機能を、in vitro転写系で調べることで検定し、レセプターの主機能である転写促進能を有したレセプターの大量発現系の確立を試みた。
著者
加藤 茂明 今井 剛
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

ステロイド・甲状腺ホルモン、ビタミンA・D核内レセプタースーパーファミリーは、リガンド誘導性転写制御因子であり、リガンド結合依存的にリガンドのもつ信号を遺伝情報に伝達する。核内レセプターが基本転写因子群とともに転写を促進する際には、これら2者間を機能的に介在し、両者に直接結合されている転写共役因子群の存在が知られている。更に現在までに同定されている転写共役因子と核内レセプターの相互作用は、リガンド活性とほぼ相関することもわかっている。そこで本研究では、核内レセプターによる転写促進能の分子メカニズム解明を目的に、核内レセプターと相互作用する新規共役因子を検索した。またリガンド結合によるレセプターの立体構造変化の可能性についても探った。その結果、ビタミンDレセプター(VDR)に特異的に相互作用する転写共役因子の同定に成功した。これらの因子は核内カルシウム結合タンパクであり、またVDRとの相互作用はカルシウム存在量によって左右されることがわかった。現在これら新規因子と、既に同定されている共役因子群との相互作用についても現在解析しているところである。また同様にエストロゲンレセプター、ミネラルコルチコイドレセプターとの共役転写因子群の同定を急いでいる。またエストロゲンレセプターのリンガド結合による構造変化を調べたところ、レセプターN末端とC末端が、リガンド依存的に相互作用し、かつこの相互作用には共役因子が関与することが明らかになった。
著者
加藤 茂明 武山 健一 北川 浩史
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

染色体構造調節因子複合体について、新規複合体の同定及び構成因子の検索や機能調節を調べる事を目的として、15年度は、前年度の1〜3の課題を継続するとともに、特に課題4に焦点を当て、研究を進めた。1.新規ゲノム発現制御複合体の同定:in vitro転写系及びクロマチンヌクレオソーム再構成系(当研究室で研究済み)を用いてHeLa細胞核抽出液から精製し、精製された複合体構成因子群をMALDI-TOFMASSにより同定した。更にcDNAスクリーニングにより各々の構成因子の機能を調べた。2.細胞種特異的複合体構成因子の同定:これら核内複合体の機能は細胞種特異的と考えられる。そこで既知複合体の既知構成因子を各種組織株に高発現させ、複合体を精製することで細胞種特異的構成因子を同定した。3.染色体構造調節複合体の機能調節の分子メカニズムの解明:最近ではアセチル化、ユビキチン化などの各種タンパク修飾によって機能調節される例が報告されているが、染色体構造調節複合体の構成因子のタンパク修飾による機能調節は全く不明である。そこで、既知核内レセプターコアクチベーター(p160、p68/ファミリー)を用い、各種培養細胞での他の複合体構成因子を同定し、構成因子の複合体構成能とタンパク修飾による機能調節の可能性を検討した。4.ショウジョウバエを用いた新規染色体構造調節のスクリーニング:申請者らは既に、ヒトアンドロゲン(男性ホルモン)レセプターを組織特異的に発現するショウジョウバエのラインを確立し、リガンド依存的な転写促進をGFPで検出することに成功した。本システムを用いることで哺乳類特異的染色体構造調節因子を発現する各種ラインを確立し、次に特定染色体部位を欠失した各種変異体を交配することで、染色体構造調節因子機能に必須な因子を分子遺伝学的にスクリーニングを行った。更に同定された因子をプローブに複合体を同定及び解析した。