著者
中山 幹康
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

国際河川や国際湖沼の流域国が,「エスポー条約」に準拠する越境環境影響評価の枠組み策定に合意する要件は,カスピ海のように流域国への悪影響が非対称的ではなく全ての流域国が影響を受ける場合,カナダと米国間の国際河川のように幾つかの河川では一方の国が上流国であるが他の河川ではその国が下流に位置するという地政学的な関係にある場合,メコン川のように地域内での経済的な統合が進み流域国間には相互依存関係が存在する場合,であることが判明した。
著者
新藤 浩伸
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、市民文化活動の支援方策の国際比較として、(1)文化政策、生涯学習政策における市民活動支援プログラム、(2)民間の文化活動支援ネットワーク、(3)劇場を含めた文化施設・機関の教育プログラムという三つの観点から、イギリス(平成23年度)、アメリカ(平成24年度)、EU(平成25年度)における文化施設および団体の訪問調査を実施した。調査からは、ハイカルチャーだけでなく、文化多様性を重視し、福祉等の関連領域も視野に入れた多様な文化活動支援がなされていること。そして、民間の文化活動支援ネットワークが緊密に市民文化活動への情報提供およびエンパワメントを実施していることが明らかになった。
著者
馬場 香織
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度4月から9月までは,制度的変化と発展に関する理論を勉強する一方で,全世界における年金改革の状況を特に民営化を焦点に量的分析を行ない,第二世代改革を説明するにあたって制度的要因に注目することの妥当性を示すことができた。平成22年10月からは約1ヶ月間メキシコシティに滞在し,米州社会保障研究所図書館などで関連資料の収集を行ない,また,同研究所教育担当長のアントニオ・ルエスガ氏へのインタビューを行なった。11月末からはアルゼンチンに移り,連邦社会保障庁(ANSES)資料室での一次資料収集および各界関係者へのインタビューを行なった。インタビュイーは元ANSES高官ミゲル・フェルナンデス氏,元民間年金基金運用会社監視局高官ラウラ・ポサーダ氏,元民間年金基金運用会社組合長オラシオ・ロペス氏,アルゼンチン労働センター社会保障担当局長リディア・メサ氏,年金問題専門弁護士アレハンドロ・シベッティ氏などである。これらの資料やインタビューを通じて,アルゼンチンにおける年金制度第二世代改革についての各方面からの見方を知ることができ,こうしたデータを理論にフィードバックすることで,理論の精緻化も可能となった。第二世代改革がなぜ起こり,そしてなぜ各国間で違いが見られるかについて,短期的要因と長期的要因を複合的に見る必要がある。とりわけ,長期的要因,すなわち制度的発展の様態・第一世代改革におけるveto構造・財政的移行コストという,制度的・構造的要因を詳しく明らかにすることは,ラテンアメリカ年金制度改革に関する研究においても新しい視点であり,これを政治・経済状況といった短期的要因と組み合わせてみることで,より高い説明力をもった理論枠組みを期待できる。
著者
江口 正登
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究の目的は、20世紀後半以降のパフォーミング・アーツにおけるメディアの利用の様態を包括的に検討し、その歴史的な変遷およびそこから見出される理論的な展望を明らかにすることである。しかし、研究を進めていく中で、こうしたメディアの問題が位置づけられるべき、より大きなパースペクティヴ自体をまず明確化することの重要性が強く意識されるようになった。それは、パフォーマンス研究という研究領域や、パフォーマンスという概念そのものが、我が国ではまだほとんど認知を得ておらず、研究者の数も極めて少ないという現状を認識してのことである。そこで、最終年度となる本年度も、アメリカ合衆国における芸術実践および知的言説の両面における「パフォーマンス的転回」について検討する作業に集中的に取り組んだ。特に、2012年8月後半からは、ニューヨーク大学に滞在して調査を進める機会を得た。本研究においては、資料の圧倒的大部分がアメリカ合衆国に蓄積されており、また、パフォーマンスの記録映像などは、国内からは入手はもとより参照も不可能な場合が多いため、この機会を十分に活用し、精力的な調査・収集を行っている。日本を離れていることもあり、本年度中にこれを研究成果としてまとめることはできなかったが、2013年8月の帰国以降、順次その成果を発表していく予定である。三年間の研究期間の総括として、上記のような経緯により、研究計画の重点に変更が起きたこと、すなわち、基礎的な調査としての性格が増し、それによって研究成果をまとめるのに多少の遅れが生じたことを述べておかなければならない。しかしその分、当初の研究目的を越えて、パフォーマンス研究の問題設定や手法を我が国の研究状況にどのように取り入れていくべきかということまで含めて、より生産的な基盤を確保することができたと考えている。これを引き継ぎ、今後も本研究を発展させていきたい。
著者
山田 淳夫 BRAPANDA Prabeer BARAPANDA Prabeer BARPANDA Prabeer
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

リチウムイオン電池の正極材料として様々な鉄の2価化合物が注目を集めている。鉄は豊富な元素であり低コスト化の可能性も秘めるが、2価鉄の原料は高価であり化合物の生成には高温での長時間熱処理が必要である。また、電極特性を高めるには粒子サイズを抑制する必要があるが、これは長時間熱処理とは相反する方向である。これらの技術的障壁により、鉄系電極材料はその低コスト化可能性が議論され高い電極性能についての実証もされているものの、実際には工業化段階での様々な追加措置の必要性があり、十分にその潜在能力が社会還元されていない状況である。これを打開する手法として、3価の鉄原料と還元剤かつカーボン源としての有機物との燃焼反応時の自己発熱により、2価鉄からなる均一性の極めて高い前駆体を生成させ、これを比較的低温で短時間処理することでカーボンコートされた最終生成物を得る方法を昨年度開発した。今年度は、この合成手法の特徴を用いピロリン酸アニオンを骨格とする新規正極材料の探索に展開した。また、リチウム電池のみならずナトリウムイオン電池用電極材料にも探索範囲を拡大した。その結果、複数の新規機能材料ならびにその低温準安定相を発見した。特に、ピロリン酸鉄ナトリウムは3V付近の高電位で作動し、ナトリウム電池用正極としてはこれまでで最も優れた負荷特性を示した。国際的な研究ネットワークを構築し、多くの開発材料の低温磁気特性を明らかにする研究を短時間で完成させるとともに、実用的な見地から安全性に関する熱力学的データの実験的収集を行い、高度に安全性が確保できることを実証した。
著者
浦野 東洋一
出版者
東京大学
雑誌
東京大学教育学部教育行政学研究室紀要 (ISSN:02880253)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.85-112, 1988-03-25

In 1957, the Ministry of Education in Japan asked local education authorities to evaluate teachers' work every year and showed the Ministry's plan for it. Japan Teachers' Union fighted against it severely. In 1959, the education authority in Nagano Prefecture ruled the system of evaluation different from the Ministry's plan. Nevertheless, many teachers resisted it, and Nagano Teachers' Union of Senior High School went to suit. But this suit was rejected finally in 1972 by the Supreme Court. After the negotiation for many years between the authority and teachers' unions, the evaluation was stopped in 1973. But in 1976, the authority ruled the new system of evaluation. This report aims to write the processes of the first and the second teacher evaluation problems.
著者
松本 有
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

核酸内包薬物送達システム(Drug Delivery System; DDS)開発では、細胞外環境における高い安定性と標的細胞内における効率的な核酸分子の放出という二律背反的な性能が要求される。本研究では生体内における蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence Resonance Energy Transfer; FRET)計測を行った。DDSの血中安定性、組織移行性、細胞内安定性、核酸放出といった評価法を確立した。
著者
金井 求
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

当量のホウ素化合物を用いたカルボン酸の求核的活性化を既に見出している。本予備的知見を踏まえ、ホウ素化合物の触媒化と世界初のカルボン酸をドナーとする触媒的不斉アルドール反応の実現に注力した。まず当量反応条件を確立した。ホウ素上の置換基のチューニングにより、電子求引性のリガンドを用いたときに、芳香族、脂肪族双方のアルデヒドに対して有効に機能するカルボン酸アルドール反応を見出した。触媒の電子密度と立体障害、配位飽和度等を最適化し、生成物と触媒の解離を加速することで触媒再生を促進することを試みた。その結果、トリフルオロメチルケトンを基質として用いると、カルボン酸アルドール反応でホウ素触媒の回転が観測された。この基質依存性の原因を探るべく、トリフルオロメチル基を含む2級アルコールと3級アルコールをそれぞれ共存させて反応を行ったところ、3級アルコール存在下では触媒回転が達成できたのに対して、2級アルコール存在下では触媒回転が見られなかった。以上の結果は、アルドール生成物の立体項が触媒回転の有無に重要な役割を果たしていることを示している。この知見をもとに、今後、ホウ素上の置換基を立体的に嵩高くすることにより基質一般性のより高い触媒回転の実現を目指して行く予定である。この研究で開発した方法を用いると、カルボン酸類が化学選択性高く求核的に活性化することができる。カルボン酸は特に医薬等の生物活性化合物に数多く含まれる官能基であり、医薬のlate-stage構造変換に有用な反応が開発できたと考えている。
著者
松本 幸夫 渡辺 正 河内 明夫 松本 堯生 加藤 十吉 森田 茂之 西田 吾郎
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1988

本研究の性格上、研究成果は多岐にわたるが、ここではその全般的特徴を述べ、特記すべき事項を挙げる。全般的には、低次元多様体に関連する分野で特に活発な研究が行なわれたことが目立つ。研究計画で述べた数理物理学と低次元多様体論の関連はその後も深く追求された。個別的な事項を掲げる、C^*環の研究の中で発見された結び目の新しい多項式(Jones多項式等)の位相幾何的統制力は河内の「イミテ-ション理論」によりかなり明らかになった。ゲ-ジ理論と4次元多様体論の共通の基盤であるインスタントンのモジュライ空間は、計量構造(松本堯生を中心とする広大グル-プ)と位相構造(東大グル-プ)が共に深く研究された。最新の成果として、2次元共形場理論に由来する新しい3次元多様体の不変量の発見(河野)が著しい。この不変量は、曲面の写像類群と本質的に関係するが、写像類群のコホモロジ-は、森田茂之の研究によって、その構造がかなり明らかになった。とくに、写像類群の特殊な部分群(Torelli群)とCasson不変量の関係の解明は深い成果と言える。ゲ-ジ理論の3次元版と言うべきFloerホモロジ-群の計算が吉田朋好によって精力的に遂行され、シンプレクティック幾何のマスロフ指数との関連が発見された。3次元双曲幾何の分野では、小島、宮本による測地境界を持つ3次元双曲多様体の最小体積の決定は特筆に値する。低次元多様体論以外の分野では、幾何構造の入った葉層構造(稲葉・松元)、Godvillon-Vey類(坪井)、同変sコボルディズム論(川久保)、複素空間への代数的群作用に関する上林予想(枡田等)、完全交差特異点(岡睦雄)、Approximate Shape理論(渡辺)がある。昭和63年〜平成元年に20余の研究集会と2つの合同シンポジウム(静岡大学・福島大学)を開催した。結論として、本研究は当初の目標を十分に達成し、更に新たな研究課題を見出したと言える。
著者
石綱 史子
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

花蓮は観賞用の植物として優れた特質を持つが、その利用は必ずしも盛んではない。その理由の一つに、利用者が望む時期に開花を誘導する技術が確立されていないことが挙げられる。花蓮の栽培方法自体は、これまでに概ね確立されているが、花芽分化に関する研究はほとんど行われていなかった。本研究は花蓮の花芽分化が生長過程のどの段階で起こるかを明らかにすることを目的とする。本題を実施することで、花蓮の開花調整技術を開発するための鍵となる知見を得ることができると考えた。平成20年度奨励研究費の補助を受け、光条件と花蓮の開花の関連を明らかにするための研究を行った。遮光率の異なる4種類の寒冷紗による遮光条件下ならびに非遮光条件下で、花蓮二品種(漁山紅蓮、知里の曙)を栽培し、異なる光条件の下で生育・開花状況にどの程度の差が生じるかを検討した。その結果、光量の違いにより花の数に違いが生じ、光量と開花数には、正の相関があることが明らかとなった。さらに、出蕾(水面に花蕾が現れる)から開花までの日数は、遮光率に依存しないことも示された。以上の結果は、花芽分化または花芽の休眠打破が光量に依存して決まることを示唆している。現段階では花蓮の花芽形成がどの段階で生じているか判明していない。
著者
福谷 克之
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

ミュオンは質量が水素の1/9の粒子で,物質中で水素の同位体としてふるまう.本学術領域で開発される超低速ミュオンを利用し,入射ミュオンのエネルギーを変化させることにより,プローブする深さを表面からサブサーフェス領域で制御し,それぞれの深さでの水素の電子状態を解析するのが本研究の目的である.本年度は,これまでに確立したアモルファス氷作製法を利用して,軽水および重水の蒸気を30Kに冷却した基板に蒸着することで,J-Parcのビームラインでアモルファス氷試料を作製した.作製中の試料をカメラで観測し,さらにμSRの非対称度をその場測定した.非対称度が約50%のところで飽和する様子が見られ,十分な厚さの試料が作成できたと判断した.この50%の減衰は試料中でのミュオニウム形成によるものと考えられる.作製したこの試料について,20Gおよび2Gの横磁場μSR,ゼロ磁場μSR測定を行った.20G横磁場では,ミュオンの歳差運動に伴う振動が見られた.一方2Gでの横磁場μSR測定では,重水試料ではミュオニウムの回転に伴う振動が観測されるのに対して,軽水試料では同様の振動は観測されなかった.またゼロ磁場μSRでは,測定初期に急激な指数関数様の信号の減衰が観測された.これらのことから,入射ミュオンの1/2は試料中の電子とのスピン交換により緩和し,さらに反磁性ミュオンは隣接する陽子および重陽子による双極子磁場により緩和しているものと考えられる.さらに,同様の方法で作成した氷試料について,赤外吸収分光による評価を行った.測定条件ではアモルファス氷特有のスペクトルが得られことがわかった.これに対して不純物の水素が混入すると,3量体から6量体の氷クラスターが形成することがわかった.
著者
板東 洋介
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

三年間の研究の最終年度となる本年度は、(I)これまでで得られた国学の情念論の総まとめ、および(II)その近・現代日本への射程を探ることの二点を軸として研究が進められた。その中心的な成果は、論文「悲泣する人間-賀茂真淵の人間観-」(『倫理学年報』61集)にまとめられ、査読を経て公表された。本論文は国学四大人の一人・賀茂真淵の生涯と著作のうえで反復される死者への悲泣の情念の構造を明らかにした上で、その死者への悲泣を人間の基底的リアリティーとする思想が、人倫・国家・市場といった生者の共同体における効用を至上価値とする近世および近代の通念に対する根本的な反措定となっていることを明らかにしたものである。本論文は前半の思想史的な理解のみでなく、後半のアクチュアリティーの探究についても高い評価を受け、本年度の達成目標である上記の(I)・(II)の両方を達成する、本年度の中心的な業績であると位置づけることができる。また一般向けに日本思想史の最新の知見を提供する雑誌『季刊日本思想史』の『源氏物語』特集号に、「『源氏物語』享受の論理と倫理」を、巻頭論文として発表した。本雑誌は本年度中での出版には至らなかったが、平成24年6月発売を期して校正作業に入っており、すでに一般広告としても告知されている。本居宣長の「もののあはれ」がその具体的文拠を『源氏物語』にもつように、国学の情念論にとって『源氏物語』は大きな思想源泉である。本研究でも国学情念論解明のための予備部門としてその研究を予定し、実際に研究を進めていたが、最終年度になってその研究成果を広汎な読者をもつ雑誌に公表しえたことは、本研究の進展および一般へのその意義の周知という点で、大きな意義をもつものである。以上二点の論文を中心業績とする本年度の研究は、研究全体の総括と、一般へのその意義の提示という両面において、着実な成果を挙げたと判断できる。
著者
狩野 泰則
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

深海の熱水噴出孔・冷湧水域の化学合成群集,クジラ骨・沈木などの生物遺骸群集に生息する腹足綱貝類の6系統(ユキスズメ科・ネオンファルス上目・ホウシュエビス上科・ワダツミシロガサ上科・ワタゾコニナ上科・ミジンハグルマ科)について, DNA塩基配列の比較に基づく分子系統樹を構築した.その結果,深海の化学合成生物群集がこれまでの一般的認識より開放的な系である可能性が示された.
著者
溝口 勝 山路 永司 小林 和彦 登尾 浩助 荒木 徹也 吉田 貢士 土居 良一 鳥山 和伸 横山 繁樹 富田 晋介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

SRI 農法が東南アジアの国々で爆発的に普及しつつあるが、その方法は国や農家ごとに異なり、適切な栽培管理技術は未だ確立できていないのが現状である。そこで本研究では、日本で気象や土壌・地下水位等の科学的なパラメータを測定するための最新のモニタリング技術を開発しつつ、主としてインドネシア、カンボジア、タイ、ラオスの東南アジア4 カ国にこのモニタリング技術を導入して、農業土木学的視点からSRI 農法の特徴を整理し、SRI栽培の標準的な方法について検討した。加えて、現在懸念されている気候変動に対する適応策として、各国の農家が取り得る最善策を水資源・農地管理に焦点を当てながら考察した。
著者
村山 英晶
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

約6mの複合材料製翼ボックスおよび約1mのアルミ製風洞模型に光ファイバセンサを設置し,構造試験または風洞試験で得られたひずみ情報をもとに逆解析手法を用いて荷重を同定した.複合材料製翼ボックスには,1系統あたり30~40個の光ファイバひずみセンサを直列に配置し,翼長手方向に7系列設置した.極めて高い精度でひずみ分布が測定でき,同定した荷重もよい推定精度を示した.アルミ製風洞模型には,母材,フラップ,スラットに全長にわたりひずみ計測が可能な1または2本の光ファイバひずみセンサを設置し,風洞試験時の測定ひずみから圧力を同定し,おおよそ良い一致を示した.
著者
井上 暁子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

今年度は、博士論文の執筆に費やした。私の博士論文(題目『私の神話、私たちの神話』)は、1980年代にドイツ連邦共和国へ移住した3人のポーランド人作家の文学を、「神話とくわたし語り」」という観点から論じるものである。彼らは皆、1960年代にドイツ=ポーランド国境地帯に生まれた人々で、体制転換以後もドイツで暮らしている。ポーランド語作家ヤヌシュ・ルドニツキや、ドイツ語とポーランド語のバイリンガル作家ダリウシュ・ムッシャーは、国家、地域、歴史、民族的文化的アイデンティティをめぐる様々なディスクールを、移動する一人称語り手の視点から、鋭く脱神話化しつつ、個人とそれらのディスクールとの不安定な関係を描き出している。他方、ポーランド語作家のナタシャ・ゲルケは、ドイツやポーランドといった具体性を一切持ち込まない、寓話的なポストモダン小説を書くことによって、1990年代のポーランド国内で流行する脱神話化傾向と一線を画している(ゲルケの文学については、東京大学現代文芸論紀要『れにくさ』へ寄稿)。さらに、前年度末、ドイツのパッサウ大学で開かれた国際学会での報告内容を、報告集用に書き直した(20枚程度の論文)。国際的なイベントと言えば、2009年11月、名古屋市立大学で2日間にわたり、ドイツ語を執筆言語とする(ないし執筆言語の一つとする)作家5人を招いて、国際シンポジウム「アィデンティティ、移住、越境」(主催は土屋勝彦教授を代表者とする科研費研究グループ)が開催された。パネリストの中には、旧ソ連出身のユダヤ系作家が二人(ヴラディーミル・カミーナー氏、ヴラディーミル・ヴェルトリープ氏)が含まれており、私の研究対象であるポーランド人作家ムッシャーと比較することができた。また、多和田葉子氏や、その他のトルコ系の作家による報告も、「今日のドイツ語文学」について考察する上で、大変参考になった。名古屋市立大学訪問の後、ヴェルトリープ氏の講演について報告を頼まれ、そのテキストは東京大学文学部スラヴ語スラヴ文学研究室のHPにアップされた。さらに、2009年6月、北海道大学スラブ研究センターを訪問し、博士論文の一部を報告した。2010年3月には、再びスラブ研究センターを訪問し、私が論じている移民作家の文学と、ドイツ=ポーランド国境地帯の「地域文学」との共通点と差異について考察し、資料収集にあたった。「ドイツ・ポーランドにまたがる越境的文学研究」という私の専門分野は、日本で先行研究者のいない、未踏の沃野であるが、私の研究は、理論的な応用可能性と普遍性をもち、異文化接触や越境文化論に大きな貢献をする可能性を秘めている。この研究を一日も早く、形にしたい。
著者
中地 義和 月村 辰雄 塚本 昌則 野崎 歓 シモン=及川 マリアンヌ 深沢 克己 新田 昌英 畑 浩一郎 本田 貴久
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は、19世紀初頭から現代までのフランス文学史の尾根をなす作家のうち、その創作が歴史的出来事の経験や歴史をめぐる深い省察に根ざしている例を精選し、彼らがいかに歴史を内面化しながら作品を創出しているかを探ることを目的とした。またその様態を、各時代の文学理念、言語美学、人文知と関連づけながら、独自の視点からの文学史的通観の構築をめざした。対象になりうる事例の数はおびただしく、個々の事例は作家の生涯に根を張っているため、本格的に扱う対象の数を限らざるを得なかったが、第二帝政期から第三共和政初期、第二次世界大戦期、戦後のポストコロニアル期の文学を中心に、当初の計画に見合う成果が得られた。
著者
平出 克樹
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、岐阜県飛騨市にある神岡鉱山の地下1,000メートルに設置した大型の液体キセノンシンチレータ検出器XMASSを用いて、超新星爆発に伴うニュートリノを観測することで、中性カレントニュートリノ-原子核コヒーレント弾性散乱の世界初検出を目指すものである。本年度は、安定したデータ収集を続けながら、これまでに収集したデータの解析を進めてきた。また、当初の研究計画にはなかったが、LIGOによる重力波の直接検出が報告されたことに伴い、XMASS検出器においても重力波事象GW150914と同期した事象が観測されていないか確認を行った。今後も引き続き、超新星ニュートリノにとどまらず様々な天体活動に同期した事象の観測の可能性についての研究が期待される。
著者
高橋 聡
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011-08-24

,1.連続地層試料の採取:野外地質調査岩手県北部に露出するペルム紀・三畳紀の連続地層をエンジンカッターで切断し、分析試料の連続採取を行った。2.コノドント化石処理採取した試料よりコノドント化石を見出した。化石年代は現在検討中である。3.岩石試料の切り分け、研磨面・薄片の作成採取した岩石試料を研磨用と粉砕用に切り分け、一方を研磨した。研磨面の観察の結果、黒色粘土岩中にラミナ構造、生物擾乱の構造を確認することができ、当時の堆積環境を知るデータを得た。4.岩石研磨面の元素組成マッピング:XGT分析連続性が確認できた岩石研磨試料をXGT分析装置でスキャンし、各元素の存在度を観察した。結果、モリブデンの濃集層を複数箇所で確認し、その側方連続性を確認することができた。5.岩石試料の粉砕・粉末化処理遊星ミル粉砕装置を実験室に導入し、微量元素成分の汚染の少ないメノー製の粉砕装置を使って岩石試料を粉末化する準備を行った。6.モリブデン同位体比の測定アリゾナ州立大学の協力を得て、検出されたモリブデンとウランの安定同位体比について予察的な分析値を得た。分析値は大量絶滅時の還元的海洋水の大規模な発達を指示する。