著者
八木 久義 酒井 徹朗 大橋 邦夫 山本 博一 門松 昌彦 堺 正紘 有馬 孝禮
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究によって、文化財修理用資析調査及び需要予測、高品位材の市場調査及び供給能力の予測、フィールド分布調査を整理した上で、分布台帳を作成するとともに、必要資材量について検討し、檜皮の剥皮実験を行った。その結果、1.文化財建造物の保存にとって修理技術者の育成と修理用資材の確保が不可欠であること、2.建造物文化財は、既指定数が増加傾向にあり、修理件数は必然的に増加すること、3.修理用資材を木材に限定した場合、その需要に対して重要な材は、樹種では、ヒノキ、スギ、マツ、ケヤキ、クリであり、材質等では大径材、高品位材、特殊材であること、4.一般市場に出回る木材は、規格材の生産に止まり、文化財修理に必要な木目の細い木目の詰んだ材は既に確保が困難な状況となっていること、5.大径材等については、天然林において修理用資材を採取出来る立木の確認が必要であり、これらの立木を育成できる森林を確保し、そのための育林方法の確立を図る必要があること、6.大径木のフィールド分布調査によると文化財修理用資材の安定的確保と言う観点からみて、大学演習林では十分な資源量とは言えないこと、7.供給サイドからはアカマツが資源として厳しい状況にあること、8.修理用資材の供給源の確保や整備を行うためには、修理用資材に求められる形質を明らかにし、立木の状態で選別できる基準を設定する必要があること、9.大経木のフィールド分布調査の対象を国有林や公有林に広げる必要があること、10.文化財の修理用資材確保を目的とした備林を設定する必要があること、11.文化財修理の資材調達の困難さの実状を社会的に明らかにし、森林所有者とともに、林業、木材業界全体の協力体制を大学演習林が率先してモデルを構築することが必要であり、それらを基礎に大学演習林を中心にして地域の関係者との体制作りへと進むべきであること、が明らかになった。
著者
岡田 謙介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-07-18

本研究は、熱帯半乾燥地域の中でも近年稲生産国として着目されているタンザニアを例に、圃場試験・モデリングおよび経済分析の各手法を統合することにより、灌漑水田・天水低湿地・天水畑地間の最適資源配分の導出方法を開発し、延いては安定的な米供給の実現に資することを目的とするものである。平成29年度には現地への訪問は行わなかったが、タンザニアにおける天水ネリカ普及JICAプロジェクトであるTANRICEの長期専門家から、まず2017年8月にスカイプで研修内容に関する詳細な聞き取りを行った。次に解析に必要なデータについては、2017年8月と2018年3月にメールを通して情報を入手しモデル解析を実施した。すなわちタンザニアにおける同プロジェクトの2013以降5年間に渡るタンザニア全土の各地におけるのべ29回のネリカ栽培研修会における詳細なデータを入手した。その中には各研修会に参加したのべ1179名の参加者の農地における収量等の栽培データが集積されている。現在、それらのデータを統計的に解析を行うとともに、これを用いて各地・各年にAPSIM-Ozyzaを完全天水畑地と仮定して走らせ収量解析を実施している。一方でタンザニア各地においてネリカ導入を、農民における既存栽培作物のネリカへの置換ととらえた場合の、ネリカの収量だけではなく、既存作物の種類および収量、およびそれらの各作物の販売収入についても考察の対象として、本当にネリカ導入に対する農民の意欲を測定する手法について、文献調査も含めて検討を行いつつある。
著者
伊藤 亜聖
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2012-08-31

本研究プロジェクトでは、中国沿海部に集中してきた製造業が、2000年代後半以降にどのような変化を遂げつつあるかを、産業立地に注目して検討した。地域・産業データを用いた分析の結果、沿海部の産業集積地での「集積の経済性」の発生と、労働集約的産業の内陸部への移転は同時に観察された。このことから、中国製造業は、沿海部での規模を維持しつつも、内陸部へと取引ネットワークと立地が拡散しつつあったと言える。地域別貿易データの分析からも、中国中西部の輸出額の急増が確認され、とりわけエレクトロニクス製品の組み立てを担うEMSの移転が大きなインパクトをもたらしていることが判明した。
著者
浦 環 THORNTON Blair
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

代表者らは平成18年度に続き三次元姿勢制御が可能なZero-G型水中ロボット「IKURA」が自律型(Autonomous Underwater Vehicle, AUV)として水中画像観測を行うためのハードウエアと物理電池システムの開発を進めた。水中画像観測に関してはロボット単独でターゲットを見分けターゲットから相対的な位置及び姿勢の変化をリアルタイムに推定する必要がある。さらに、自律型ロボットとして水中観測を行うには、障害物を認識して回避しなければならない。このため、レーザとカメラを使った水中画像観測システムを開発し、シミュレーションを終え、現在水槽実験を行っている。物理電池システムに関しては、IKURAの姿勢制御システムとして搭載されたジャイロで発電する姿勢制御装置とエネルギー源を一体化させるシステムを開発した。陸上試験を行い、水中での実験で発電と三次元姿勢制御を同時に行うことに成功した。このシステムの実現は世界初であり、本成果について論文投稿準備中である。今後は、レーザとカメラをべースとしたビジュアル観測システムをIKURAに設置し、水槽でのビジュアル観測の実験を行って本システムの有効性を実証する予定である。IKURAはユニークな自由姿勢制御性を持つため、本研究により、今までのAUVには不可能だったビジュアル観測が可能となり、海洋調査技術と水中ロボットの技術が向上することが期待される。
著者
瀧本 彩加
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、モラルの基盤となる高次感情の制御の柔軟性と、協力行動の発達レベルや家畜化との関連に着目し、モラルの系統発生的起源を解明することである。前年度までに実施した研究では、ウマが他個体よりも不利に扱われる状況に対して不公平感を示すことが明らかになった。具体的には、ウマはそのような状況では課題に取り組むモチベーションを低下させ、課題達成までに有意に長く時間をかけるようになった。しかし、そうした不公平感が他個体との何の違いによって生じているのかを究明するには至らなかった。そこで、本年度では、新たに実験条件を1つ追加し、その不公平感が他個体との何の違いに起因して生じているのかを区別することを目的とした検討をおこなった。参加個体は、ヒト実験者が手にもつ標的物体を鼻でつつき餌を得るという課題を訓練された。本実験では、並んだウマ2個体のうち、実験個体は課題をおこなって常に価値の低い餌を得た。他方、相手個体は条件によって、課題をおこなって価値の低い報酬を得たり(公平条件)、課題をおこなって価値の高い報酬を得たり(報酬不公平条件)、課題を行わずに価値の低い報酬を得たり(労力不公平条件)、課題を行わずにただで価値の高い報酬を得たりした(両方不公平条件)。また統制条件(相手なし条件)では、相手個体がその場におらず、価値の高い報酬を実験個体に見せるだけ見せ、実験個体に課題を課し、価値の低い報酬を与えた。10頭(5ペア)のデータ収集・分析したところ、実験個体の課題遂行にかかる反応時間は両方不公平条件と労力不公平条件において最も長くなり、それらの反応時間は公平条件や相手なし条件よりも有意に長い傾向を示した。この結果は、ウマは他個体との報酬の質よりも労力の量における不公平に敏感であることを示唆している。しかし、まだサンプルサイズが小さいので、今後、参加個体数を増やしていく必要がある。
著者
太田 有子
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.19-36, 2006-03-28
被引用文献数
1

歴史社会学は,社会学における一般理論への偏重に対する自省から,分析対象地域の歴史経験や固有の事情をふまえつつ理論構築を志向する試みとして発達したが,同分野の定義をはじめ,さらには分析方法から理論の射程範囲に至るまで,現在もなお議論が続いている.なかでも比較分析は,歴史社会学分野において主要な分析方法として用いられ,また近年は広く社会科学分野においても,その意義が注目されているが,そのあり方をめぐっては諸論が展開している.本稿では,「歴史社会学」の軌跡を辿りつつ,比較分析の方法論ならびに研究例を通じ,その内容を検証すると同時に今後の課題を考察する.
著者
藤田 弘夫
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.117-135, 2006-03-28

日本の社会学者は都市社会学者にかぎらず,何よりも「現代」社会の研究者であることに意義を見出してきた.したがって,都市の歴史社会学的な研究は多くはなかった.もっとも,これも都市の定義や歴史社会学をどう考えるかでかなりの違いがある.日本は都市社会学をアメリカから導入した.アメリカの都市社会学はアメリカ社会の非歴史的性格を反映して,歴史への関心が欠如している.このため日本の都市社会学は最近までほとんど歴史に関心を持ってこなかった.現在,都市社会学者は歴史家の研究に影響を受けながら研究を進めている.これに対して,都市社会学者の歴史家への影響は少ない.矢崎武夫の統合機関理論による日本都市の発展史,中川清の生活構造論による近代化論,藤田弘夫の権力論による都市の発生論や飢餓論などわずかしかない.とはいえ,最近の佐藤香の社会的移動論,中筋直哉の身体の本源的対他相関性論などにもとづく研究は,新しい歴史社会学的研究の可能性を拓いている.この意味では,都市の歴史社会学的研究はようやく,はじまったばかりである.
著者
青木 一勝
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

古生代日本の形成・発達プロセスを明らかにするため、西南日本外帯に分布する黒瀬川帯中にレンズ状に産するシルル紀花崗岩類(三滝花崗岩類)からジルコンを分離し、LA-ICPMSを用いてU-Pb年代測定を行った。研究試料には、愛媛県西部の三滝花崗岩類模式地の三滝山地域の花崗閃緑岩、九州中央部祇園山地域の花崗閃緑岩、および紀伊半島西部名南風鼻地域の石英閃緑岩とトーナル岩を用いた。1. 三滝花崗岩類は成因の異なる少なくとも2種類の花崗岩類から成る。2. 三滝花崗岩類のうち、閃緑岩類はどの地域においても約445-435Maの明瞭なピークを持ち、古い粒子は含まないことから、オルドビス紀最末期-シルル紀に形成した新規弧地殻であったと考えられる。本研究で得られた結果とこれまで報告されている研究結果を踏まえると以下のことが考察される。3. トーナル岩に含まれる500Ma以前のジルコンは、約445-435Ma花崗閃緑岩類の元となった弧マグマが貫入・定置することにより融解した既存の大陸/弧地殻岩もしくはその砕屑物に由来すると考えられる。4. トーナル岩中に含まれる900-700Maを示すジルコンは、東アジアで唯一同時期の基盤を持つ南中国地塊の基盤岩から由来したと判断されるので、古生代日本は南中国地塊東縁の弧-海溝系であったと考えられる。5. 本研究により、オルドビス紀-シルル紀の南中国地塊東縁の弧-海溝系では当時の弧地殻や堆積体が広く分布していたことが示された。現在の日本列島においてそれら地質体の分布は非常に限られている。恐らくそれらの大部分はシルル紀後の構造浸食によって日本列島の基盤から消滅したと考えられる。
著者
割澤 伸一 石原 直 米谷 玲皇
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

ポリスチレンとポリメチルメタクリレートのジブロック共重合体が持つ自己組織化現象によって構成される30~100nm程度のピラー,ポア,膜の各自己組織化ナノ構造を三次元ナノ構造として作製する技術を開発した。具体的には,(1)三次元ナノ構造表面に自己組織化構造を配置する方法,(2)ナノテンプレートを利用して三次元的に自己組織化構造の配列を制御する方法,(3)自己組織化構造をテンプレートにした多層膜を作製する技術,(4)三次元ナノフレームに自己組織化自由膜を作製する方法,(5)エネルギービーム照射による自己組織化構造のナノパターンニング技術,(6)集束イオンビーム照射による薄膜接合技術を提案し,実験により可能性を示した。
著者
武田 洋幸 工藤 明
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

2006年までに、メダカドラフトゲノム(2007)、および詳細なSNP地図、BACライブラリー等の情報が充実し、メダカ突然変異体から原因遺伝子同定の労力と時間は飛躍的に減少した。2005から2009年の間に、武田研究室および工藤研究室において、それぞれ9系統(肝臓、体軸形成、原腸形成、左右軸変異体、内耳形成)と15系統(心臓、血球、血管、椎骨、頭蓋・ヒレ骨形成、ヒレ形成変異体、ヒレ再生)の原因遺伝子を特定し、目標を達成した。
著者
ゴルゴル リカルド ミゾグチ (2014) ミゾグチ ゴルゴル リカルド (2013) ゴルゴル リカルドミゾグチ (2012)
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

本年度は,二つの異なるアプローチでフラーレン二重膜ベシクルのようなナノカーボンから形成される階層的複合材料の研究を行いました.①フラーレン二重膜ベシクル上での金ナノ粒子の配列を制御しました.静電相互作用によるベシクルの表面修飾は凝集を起こす原因として広く知られていますが,ここでフラーレンベシクルが水中に形成する界面の自由エネルギーの減少を吸着の駆動力として利用することで,ベシクル上に金ナノ粒子を高密度に集積化させることに成功しました.さらに,ベシクル表面上でナノ粒子をさらに成長させることも可能であり,ナノ粒子同士の表面プラズモン共鳴のカップリングを観測することに成功しています.このハイブリッド構造はフラーレン二重ベシクルを用いた光電変換システムの構築に非常に重要な技術になります.②高分解能電子顕微鏡による単一の有機分子で修飾されたカーボンナノホーンの観察技術を開発しました.有機単分子の電子顕微鏡観察においては測定温度がその立体配座変換の速度に影響を与えないため,電子顕微鏡で有機単分子の動きを観察することが困難であったが,新たな分子デザインと測定条件を用いることで、複雑な有機分子の段階的な立体配座の変化を観察することに成功しました.また,画像解析により分子の動きを定量化する方法を確立し,これを用いて分子動力学の観点から有機単分子の動画を解析することで,観察された分子の動きが高エネルギー配座から低エネルギー配座への変化であることを明らかにしました.このような有機単分子の動的挙動を研究できる実験手法は他に例がなく,有機分子の構造解析と配座変化の研究に大変有用であります.本研究は,交付申請書で提案した研究を大きく超えて,電子顕微鏡を用いた分子運動の観察技術として重要な成果になりました.
著者
三宅 なほみ 大島 純 白水 始 中原 淳
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009-04-01

人とロボットが,それぞれの立場で相手の存在を認識し,互いに学び合い,育っていくような人ロボット共生による新たな協創社会の実現に向けて,「A03班:知恵の協創班」では人の持つ潜在的な学習能力を洗い出し,それを活かした新しい学びを実践的に創造する実践学的学習科学を発展させた.斬新な方法論として,遠隔操作によるロボットを「よい聞き手」「共に学び合う仲間」として協調学習場面に参画させ,人と人との相互作用を制御・支援することによって,学習科学の経験則を再現性のある理論研究へと発展させる基盤を形成した.
著者
張 睿
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

Ge channel is one of the most promising solution for CMOS devices in post-Si age. Mobility enhancement is the most critical issue limiting the application of Ge MOSFETS. Recently, although many progresses have been achieved for high mobility Ge MOSFETs, mobility degradation in high normal field region is still severe which strongly reduces the ON state current in Ge MOSFETs. The mechanism of this phenomenon is not clear yet, in spite of importance. Therefore, in our research the physical origins causing high normal field mobility degradation were systematically investigated. Through the evaluation of Hall mobility in Ge MOSFETs, it is found that large amount of surface states exist inside valence and conduction band of Ge, which results in significant decrease of mobile carrier concentration in the channel and rapid reduction of effective mobility of Ge MOSFETs.Additionally, it is confirmed that the surface states inside conduction band of Ge can be passivated by annealing the Ge nMOSFETs in atomic deuterium ambient. Besides of surface states, it is also confirmed that the surface state roughness scattering dominates the mobility in high normal field for Ge MOSFETs, similar with the situation in Si MOSFETs. With decreasing the post oxidation temperature, the surface roughness at GeOx/Ge interfaces can be sufficiently reduced without losing the superior electrical passivation much. As a result, around 20% and 25% mobility enhancement can be realized for Ge pMOSFETs and nMOSFETs, respectively, in a high normal field region of N_s=10^<13> cm^<-2> by reducing the post oxidation temperature from 300℃ down to room temperature.
著者
大村 吉幸
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

人の手指運動の巧みさの仕組みの解明のために、本研究では、手になじむ触覚センサグローブの開発を行った。独自の小型圧力センサをフレキシブル基板に埋め込む技術を開発し、手になじむ触覚グローブを構成した。また、手指の運動を計測するためのモーションキャプチャ装置を独自に開発し、組み合わせ、日常物体を操作するときの、手指の接触と運動の同時計測を行い、解析を行った。以上の成果により人の手指運動の巧みさを調べる基盤技術の進歩に寄与した。
著者
古関 潤一 宮下 千花 並河 努
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

2011年東日本大震災では東北から関東地方にかけて広域で多数の液状化が生じ、道路・住宅・産業施設や下水管路などのライフラインが甚大な被害を受けた。これらの液状化被害は、埋立て地盤のなかでも特に浚渫土砂をポンプ輸送して造成した砂質地盤で著しい一方で、自然堆積した砂質地盤での被害は限定的であった。そこで本研究では、浚渫埋立てにより造成した砂質地盤の特殊な堆積構造に着目した実験的検討を系統的に実施した。その結果、分級構造を有する砂質土の液状化特性とこれに影響を及ぼす要因、および効果的な改質方法を明らかにするとともに、これらを精度良く評価するための各種の実験・計測手法を確立させた。
著者
堀之内 妙子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

【発芽停止因子(Germination Arrest Factor : GAF)であるFVGの全合成研究】現在広く用いられている除草剤は作物と雑草間の選択性が低く、また除草剤の利用という行為自体が耐性株の出現リスクを負うことが問題となっている。そのため、今後は新たなメカニズムによる優れた選択性を有する除草剤の開発が望まれる。4-Formylaminooxyvinylglycine(以下FVG)は、根圏バクテリアの一種Pseudomonas fluorescence WH6から単離された二次代謝産物である。FVGは、雑草として広く知られるスズメノカタビラなどの単子葉類の種子の発芽を停止する一方で、ニンジンやタバコなど双子葉類の生長にはほとんど影響を与えない。そのため選択的除草剤としての可能性を有している。そこで筆者は、FVGが有する特異なホルムアミドオキシビニル構造の構築法の確立、作用メカニズムの解明に貢献しうる環境に依存しない恒常的な試料供給、類縁体展開による優れた除草剤候補化合物の創製につながると考え、FVGの合成研究に着手することとした。L-メチオニンからチオアセタールを調製し、SMe基を脱離させることでFVGの骨格構築を試みた。しかしながら塩基存在下で銀塩や水銀塩を作用させたところ、アルデヒドが少量得られるのみであった。そこでチオアセタールを酸化して得たスルホキシドの熱分解によるFVGの骨格構築を試みたが、この際は系中で生じたFVGの保護体がN-O結合の開裂を伴い分解したことを示すような副生物が得られた。この知見をもとに、よりマイルドな反応によるFVGの骨格構築法を考案し、L-メチオニンから調製したデヒドロ体に対し、ヒドロキサム酸を用いてオキシマーキュレーションと続く逆チオマーキュレーションを行うことでFVGの保護体をE体選択的に得、保護基の除去によりFVGを重水溶液として得た。水銀を用いた本反応は新規性を有し、ビニルグリシン類縁体など他の天然物を始めとする生理活性有機化合物の合成研究に応用可能であると考えられる。本研究成果はFVGの類縁体展開も可能とするものであり、新規除草剤開発に向けてその礎を築くことができたと考えている。
著者
庄司 興吉 佐久間 孝正 矢澤 修次郎 古城 利明 犬塚 先 元島 邦夫 武川 正吾
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1992

上記研究課題のもとに、1992年から94年にかけて、関西国際空港の建設と開港をめぐる大阪地域の動向調査を中心として、東京都中野区、墨田区および秋田県稲川町における住民意識調査、ならびにパイロット・スタディーとして日本の「周縁」沖縄・離島地域の調査研究を行った。それらを、大阪地域の調査結果を中心として、報告する。大阪調査の全体をつうじて明らかになったのは、首都圏の場合とは対照的に意識的に民間主導で進められてきた関西地域浮揚策の、政治的文化的に個性豊かな積極面と技術的経済的に経営困難な消極面とのコントラストである。これは、関西のめざす「双眼型国土形成」が東京一極集中の流れに抗して行われねばならぬ以上、かなりの程度まで不可避の矛盾であるが、われわれが調査したかぎり、この矛盾を根本的に解決する展望は経営者団体や自治体あるいはそれらの協議機関にも現れていない。そのため関西地域の自己浮揚策は、しばしば「イベント型の連続」などといわれるような、一回生起的で不安定な側面をもたざるをえなくなっている。今年1月になって阪神地域が大震災に見舞われたが、この事件が関西地域の長期的浮揚策にいかなる影響を及ぼしていくか、なお今後が注視されなければならないであろう。日本全体の社会構造と社会意識については、世界経済の情報化と円高のなか構造改善を要求されている企業システムと、高齢化と少子化による社会問題をかかえる家族・生活体とを基礎に、やみくもに「国際化」しようとする文化装置のかたわら、「国際協力」などについて確固とした道が見いだせず、ますます混迷の度を深めていく政府システムの姿が鮮明になってきた。これについては、これからなお検討を加え、研究成果を刊行する予定である。
著者
笹川 千尋
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

1.ピロリ菌のcag pathogenicity island(cag PAI)遺伝子群にコードされているIV型分泌装置の構造を解析するために、Agrobacterium tumefaciensのIV型分泌装置構成成分と相同性の高いcag PAI上のHP0532(VirB7),HP0528(VirB9),HP0527(VirB10),HP0525(VirB11),HP0524(VirD4)に着目して、それぞれの菌体における局在を、特異的なポリクローナル抗体を用いた蛍光免疫顕微鏡および免疫電子顕微鏡により観察した結果、ピロリ菌のIV型分泌装置は、赤痢菌やサルモネラ菌の菌体表面に存在するIII型分泌装置にみられる注射針のような構造とは大きく異なる不定形の突起物であることが示唆され、ピロリ菌の病原性に深く関与するIV型分泌装置の超分子的構造の概要が初めて明らかになった(Cell.Microbiol.(2003)5,395-404)。2.IV型分泌装置を介して分泌される菌体因子として唯一同定されているCagAタンパク質は、宿主細胞内でGrb2,SHP-2,Cskなどと結合して細胞運動能や増殖能を促進することが報告されており、CagAは様々なシグナル伝達分子を結合しうる多機能タンパク質であることが明らかにされている。今回新たにCagAの宿主内結合因子として、アダプタータンパク質Crkを同定した。ドミナントネガティブ体の過剰発現、もしくはsiRNAによるCrkのノックダウンの結果、CagAによって誘導される宿主細胞運動能亢進が抑制された。また、阻害剤等を用いた実験から、Crkによるシグナルカスケードの下流で活性化されるH-Ras,Rap1,Rac1の活性化がCagAに起因する宿主細胞応答に必要であることが示唆された(論文投稿中)。3.ピロリ菌感染と胃上皮細胞のアポトーシスを解析した結果、感染に伴い注入されるCagAによって、アポトーシスが抑制されることが明らかになった。阻害剤やsiRNAを用いた実験の結果、CagAによる宿主MAPKの活性化が、アポトーシス抑制能に関与することが示唆された(投稿準備中)。これらの結果から、ピロリ菌の胃粘膜長期定着を通じて、CagAタンパク質により引き起こされるシグナル伝達カスケードの亢進が、正常な胃粘膜におけるアポトーシスと細胞増殖のバランスを崩し、病態の発症と悪性化に寄与することが推察された。
著者
北澤 大輔 韓 佳琳
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

波エネルギーを吸収して、乗り心地を向上させた船を開発した。船は、フロート、サスペンション機構、キャビンから構成され、最大電力点追跡法によってエネルギー吸収量を最大化し、スカイフック制御によってキャビンの動揺を抑制した。フロートの運動をストリップ法によって計算した後、得られた流体パラメータを用いて、最大電力点追跡法とスカイフック制御を含む制御プログラムを開発した。規則波を想定して、波エネルギー吸収や動揺制御のための抵抗値等のパラメータを計算した。これらのパラメータを用いて、水槽模型実験を実施したところ、エネルギー吸収量やキャビンの運動に関して、シミュレーション結果と概ね同様の結果が得られた。
著者
大條 弘貴
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

水ストレス下にある植物の道管内の液には高い陰圧がかかる.このとき,木部にある気体が道管表面にある壁孔を通して内部に引き込まれ,その気泡が道管内腔を満たすこと(キャビテーション)で水の輸送が妨げられる.一方で,灌水による水ストレスの緩和に伴い,通水性が回復することが多くの植物で確認されてきた.この通水性の回復は,木本植物を用いた研究から,道管周囲の柔細胞から道管内に浸透的に水を入れ込み,道管を再充填させる可能性が示唆されている.また,木部内のデンプンの分解とショ糖濃度の上昇がみられ,浸透物質としての糖の関与が考えられている.しかし近年,木部に高い陰圧がかかった状態で通水性を測定するための試料を作製すると,水切りの際の切り口から道管内に気泡が侵入し,通水性の低下を過大評価してしまう可能性が示唆されている(cutting artifact; Wheeler et al. 2013).このため,観察されてきた通水性の回復現象の多くは空洞化した道管に水が再充填された結果ではなく,cutting artifactによるものではないかと疑問視されている.平成26年度はひまわりの葉柄を用い,このようなartifactがない状況で水ストレスによって生じたキャビテーションが灌水時に解消されるのか調べた.またそのとき,浸透物質としての関与が示唆されている糖の量の変化を調べた.結果,ヒマワリの葉柄において,灌水による通水性の回復,つまり道管の再充填現象が確認された.一方で,通水性の回復に伴った葉柄内のグルコース,ショ糖,デンプンの濃度に変化はみられなかった.葉柄内の道管の再充填は,篩部を通した葉身からの糖輸送に依存している可能性がある.