著者
松本 直樹
出版者
東京大学
雑誌
東京大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13421050)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.325-334, 2006-03-10
被引用文献数
1

This paper aims to investigate the budget making process of public libraries. The focus is not on the library in isolation, but in relation to various forms of local government level. I interviewed seven library administrators in Saitama Prefecture about factors affecting the budget making process. On the basis of the data collected, I conclude that not only the administrator's negotiation ability and available human network resources affect the allocation of budgets, but also the council, the local administrative chief, the long-term plan, and the level of citizen support each play a significant role in this process.
著者
松本 直樹
出版者
東京大学
雑誌
東京大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13421050)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.367-374, 2008-03-10

The aim of this study is to investigate the budgets of public libraries from a financial point of view. We analyzed historical data of nationwide public library budgets. We especially examined it from three aspects, the total budget, funding sources, purposes of budgets. We also used data of local government budgets and budgets for social education to compare the library budgets. The results showed that the trend of local government budgets had strong influence over library budgets. The trend of library budgets bore a striking resemblance to budgets for social education. Capital expenditure of libraries had drastically decreased from late 1990s in line with the burst of economic bubble.
著者
矢澤 徳仁
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

膠原病におけるB細胞の活性化は自己抗体産生のみならず種々の症状発現にも関与することが示唆されている。CD40リガンド(CD40L : CD154)はT細胞や血小板に発現し,CD40からのシグナルを介してB細胞やマクロファージ,樹状細胞などを活性化する作用をもつが,血中に存在する可溶性のCD40L(soluble CD40L ; sCD40L)が膠原病の病態に関与していることが示唆されている。われわれは全身性強皮症患者血清中のsCD40Lの値をELISAを用いて測定した。対象は全身性強皮症70例で,うちdiffuse型が42例,limited型が28例であった。これらの症例はすべてアメリカリウマチ学会の診断基津を満たしており,他の膠原病を示唆する所見は認められなかった。年齢,性を一致させた健常人25例をコントロールとした。全身性強皮症患者ではコントロール群と比較して有意にsCD40L値が高値であった。コントロールの平均+3SDをカットオフ値としたところ,全身性強皮症患者70例中31例(44%)にsCD40L値の上昇が認められた。病型別にはsCD40L上昇例はdiffuse型に多く,%VCおよび%DLCOと正の相関が認められ,肺線維症の存在との相関していた。以上より,sCD40Lは全身性強皮症の病態,特に肺線維症に関与している可能性が示された。さらに血清sCD40L値の上昇している例において末梢血リンパ球のCD40L発現量を検討したが有意な上昇は認められなかった。
著者
高橋 祥子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

α-シクロデキストリンとポリエチレングリコールによる包接錯体形成について研究を行った。α-シクロデキストリンとポリエチレングリコールによる包接錯体は、環動高分子材料の前駆体であるポリロタキサンを合成するために最も広く用いられている組み合わせである。包接錯体形成時に形成される環状分子に軸高分子が貫通した構造が環動高分子材料の特異な物性をもたらすため、環動高分子材料にとって包接錯体形成はカギとなる反応といえる。しかし、包接錯体形成に伴ってα-シクロデキストリン同士は凝集を起こし、反応系が溶液から固体まで大きく変化するため、包接錯体形成反応の詳細は未解明であった。そこで、本研究では高分子鎖の片末端を基板上に固定することでポリマーブラシとし、環状分子と高分子の包接反応を2次元系において追跡することにした。主に中性子反射率測定、斜入射広角X線散乱測定、表面プラズモン共鳴測定を用いて研究を行った。中性子反射率測定から包接錯体中で高分子鎖が屈曲した構造をとっており、斜入射広角X線散乱測定からは基板に対して包接錯体結晶が配向していることがわかった。また、表面プラズモン共鳴から、形成された包接錯体量の時間変化がわかった。このように、3次元系では系のゲル化や沈殿形成により知ることが出来なかった、配向性など包接錯体の構造と包接条件との関連や、包接錯体結晶が結晶核の形成と成長の様式を示すことを明らかにすることが出来た。
著者
加藤 孝久
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

フラーレン系ナノ構造体であるC_<60>やカーボンオニオンは優れた機械的・電気的特性を有することが期待されるものの、そのサイズ制御が困難であるため現状その応用がほとんど進んでいない.本研究では貴金属へのカーボンイオン注入法を用い、カーボンオニオンの粒子径の制御とその増大を試み、スパッタAg貴金属薄膜内へのCH_4プラズマイオン注入により、Ag結晶粒界におけるカーボンオニオンの形成が確認され、イオン注入後の真空アニール処理によって、その粒径は17. 4±1. 7nmに増大することが確認された.本研究により明らかとなったカーボンオニオンの粒子成長プロセスを応用することで、今後のマイクロメートルスケール巨大フラーレン粒子の合成が大いに期待される.
著者
渡邊 亜美
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では当研究室で樹立したヒトiPS細胞からの膵島形成培養系をベースとし、ヒト膵島前駆細胞から膵島様構造物形成に至るまでのメカニズムを解析すること、および得られた知見を応用して生体外で大量に膵島を作製する系を確立することを目的に研究を行なった。その結果、分化誘導系において内分泌前駆細胞は, 自己凝集することで膵島様構造を形成することを見出した。この結果をもとに膵島形成培養系を改良したところ, 膵島形成効率を向上させることに成功した
著者
杉 達紀
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

TgMAPK1がトキソプラズマの生態に果たす役割を解析するために、TgMAPK1の染色体位置上に変異を導入した。発現誘導が可能である、Destabilizing Domain (DD)タグをタンパク質N-末に融合した形で発現するように組換に成功した。DDタグが付加されたTgMAPK1はDDタグの低分子リガンドであるshield-1存在下において、濃度依存的にタンパク質の蓄積量の増加した。Shield-1の処理により強発現となったDDタグ融合TgMAPK1は原虫の生育を止めたことから、DD-TgMAPK1がDDタグの存在により機能を損なっていることが示唆された。HAタグをN末に付加したTgMAPK1に種々の変異を導入した配列により、原虫が持つTgMAPK1位置でノックインした原虫を作成した。低分子化合物であるBKIの一つである1NM-PP1による感受性が変化する感受性決定アミノ酸位置が、G, A, T, F, Yのそれぞれのアミノ酸に置換された変異体を作出した。Alanineを感受性決定アミノ酸に持つTgMAPK1をコードする組換原虫RH/TgMAPK1Aは、1NM-PP1により低濃度(100nM以下)で増殖が阻止されたのに対して、Tyr。sineを持つTgMAPK1をコードする組換原虫RH/TgMAPK1Yは耐性を獲得していた。1NM-PP1処理時において、核のDNA量の変化についてフローサイトメトリーで観察した。その結果RH/TgMAPK1AとRH/TgMAPK1Yともにゲノム複製の完了を示す細胞内DNA量2Nまでは相違なく進んだが、RH/TgMAPK1A (1NM-PP1感受性株)においては核分裂および細胞分裂期の進行を示す1NのDNA量を持った細胞が減少した。これは、TgMAPK1がDNA合成以降の細胞周期の中でチェックポイントとして働いていることを示唆している。
著者
遠藤 秀紀 横畑 泰志 本川 雅治 川田 伸一郎 篠原 明男 甲能 直樹 佐々木 基樹
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

旧食虫類における多系統的な形質を機能形態学的に検討した。筋骨格系、消化器系、泌尿生殖器系、感覚器系、皮膚・表皮系などを旧食虫類の諸目間で形態学的に比較検討を行った。その結果、それぞれの器官において、形態学的類似や差異を確認することができ、真無盲腸目、皮翼目、登攀目、アフリカトガリネズミ目などの旧食虫類諸群間の多系統的進化史理論を確立することができた。
著者
池田 誠
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本年度はコード帳符号化方式において、コード帳をデータに応じて更新し、時系列データのの繰り返しにたいして効果的に信号遷移頻度の削減を可能とする適応型コード帳符号化方式の検討を行い、試作したチップの測定評価を行った。この結果、乱数データを用いた場合、信号遷移頻度を25%から50%削減出来ることが分かった。この結果を実証するために次の特徴を有するチップの設計試作を行った。1)コード帳のコード数16,ワード幅:16ビット,2)距離最小コード検出回路としてはWallance-tree型コンプレッサー回路を使用。本チップの測定の結果、符号化回路の消費電力が電源電圧3.3V,動作周波数10MHzにおいて3.6mWとなり、16ビットのバスにおいては、負荷容量が30pF以上場合に本チップが有効であることが分かった。また、本チップは0.5umプロセスで試作を行っているが、現在の最先端プロセスである0.18umもしくはそれより微細なプロセスで試作することで符号化回路の消費電力の削減が可能となり、さらに適用範囲が広まるものと期待できる。また、更なる消費電力削減およびデータ転送効率の向上を目指して、これまでに提案されている圧縮アルゴリズムのうち代表的なものとして、ハフマン符号化、LZ77符号化,LZ78符号化手法を取り上げ、そのLSI化を行った場合のハードウエア量とデータ圧縮効率のトレードオフに関しての検討を行った。その結果、データが既知である場合にはハフマン符号化が圧縮率が最大となるが、一般の場合、過去のデータ列を保持し、その最大一致長を送信するLZ77方式およびその派生の符号化方式であるLZSS方式が、ハードウエア量に制約を課した場合、他と比較して圧縮率が高くなることが分かった。
著者
熊木 俊朗
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本年度は、昨年度から引き続きモヨロ貝塚資料の調査と分析を行った。調査対象はモヨロ貝塚調査団が過去に調査した資料である。詳細は以下のとおりである。1.東京大学文学部所蔵資料の調査東京大学文学部には、モヨロ貝塚調査団が昭和22・23年に発掘調査を行った際に出土した考古資料が収蔵されている。それらの資料のうち、特に土器について実見・図化・写真撮影を行った。これらの一部についてはすでに図版の浄書や各種属性の統計解析等を行っている。2.昨年度調査データの分析昨年度作成したデータのうち、ガラス乾板のデジタル画像データについては整理と内容の分析をほぼ終了し、CD-Rにデータベース化した。また、函館市立博物館・北海道立北方民族博物館の収蔵資料のデータについても、土器図版の浄書や各種属性の統計解析等のデータ分析を行い、考古学的解釈のための基礎データを整えた。3.画像資料の解析モヨロ貝塚の地形や遺構に関する過去の画像データについて、(株)タナカコンサルタントに画像解析の協力を依頼し、研究代表者立ち会いのもと画像から平面図データを作成した。これらの平面図は、遺跡・遺構の立地や分布を分析するための基礎データとして活用が期待される。
著者
早尾 貴紀
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

ヨーロッパ近代思想史上の最大の課題とも言える国民国家/多民族共存の問題が、現在のパレスチナ/イスラエルに転移しているという認識、つまり、ユダヤ人問題の外部化によってユダヤ人国家イスラエルが誕生し、同にパレスチナ人が難民化したという認識から、二つの課題に取り組み発表論文を執筆した。一つは、パレスチナとイスラエルのあいだで際限なく繰り広げられる暴力(テロリズムもその一つ)の所在を突き止めること。パレスチナ/イスラエルにおける暴力は、端的に、相手の存在を否定し、自らの存在を確保するために行なわれる。だが、相手との対称性をもつその論理は無限に反転し、「暴力の連鎖」は止まることがなくなる。また、それぞれの暴力は同時に自らの存立基盤をも崩壊していく。それに対して、たんに絶対平和主義に立つのでもなく、またどっちもどっちという相対主義の立場に立つのでもない、暴力批判の倫理のあり方を考察した。もう一つが、ユダヤ人とアラブ人の、イスラエルとパレスチナの共存の枠組みを探ること。一般に宗教対立と思われがちなパレスチナ/イスラエルの民族問題の解決は、ヨーロッパ近代的な理念である、世俗国家・民主国家によって得られるのか。あるいは、それとは異なる国家原理はありうるのか。これまでの歴史のなかで実際に謳われたいくつかの国家理念(それには、二民族が一つの国家の中で共存をすることを目指す「バイナショナリズム思想」も含まれる)を検討しながら、それらがどれだけの現実可能性と批判力をもつのかを検討した。
著者
猿渡 洋 鹿野 清宏 戸田 智基 川波 弘道 小野 順貴 宮部 滋樹 牧野 昭二 小山 翔一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では、高次統計量追跡による自律カスタムメイド音声コミュニケーション拡張システムに関して研究を行った。具体的なシステムとして、ブラインド音源分離に基づく両耳補聴システムや声質変換に基づく発声補助システムを開発し、以下の成果が得られた。(1)両耳補聴システムに関しては、高精度かつ高速なブラインド音源分離及び統計的音声強調アルゴリズムを提案し、聴覚印象の不動点を活用した高品質な音声強調システムが実現できた。(2)発声補助システムに関しては、データベース間における発話のミスマッチを許容する声質変換処理を開発した。実環境模擬データベースを用いてその評価を行い、有効性を確認することが出来た。
著者
杉松 治美 浦 環 小島 淳一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

ガンジス河のナローラからカルナバス流域に棲息する15. 18頭のガンジスカワイルカの6ヶ月におよぶ長期観測を3年間にわたり実施し、取得したデータ解析により、ガンジスカワイルカの特異な音響特性が解明されてきた。また、日/月/季節/年による環境変動等に対応したイルカの特定場所への滞留傾向、子育て、移動等について、科学的データが蓄積、変動する河川環境に適応して行動を変化させるガンジスカワイルカのエコーロケーション戦略を解明することで、ガンジスカワイルカの保護活動に益する知見が得られている。
著者
五味 正一 (三石 正一)
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

遺構を恒久的に露出・展示しながら保存するために,遺構の乾燥化を防ぐ親水性ポリマーが土壌中の水分移動に与える影響をあきらかにするために研究をおこなった.実験に使用した試料土には立川ローム,供試ポリマーにはポリシロキサン-ポリオキシアルキレンオリゴマー(分子量700、以下SAO)と,ポリエチレングリコール(分子量400、以下PEG)を用いた.土壌の水分蒸発に影響を与えている供試ポリマーの浸透深さを知るために,供試ポリマー散布後の土壌中の水分ポテンシャル分布をWP4-Tを用いて測定した.その結果,SAOは深さ1cm,PEGは深さ1.5cmまで浸透していることがわかり,この結果から,乾土重あたりの供試ポリマーの比,すなわち混合ポリマー比を計算した.そして供試ポリマー混合試料土を作成し,水分保持特性曲線をWP4-Tを用いて作成した.水分保持特性から,PEGを混合した土壌の水性はSAOを混合した土壌の2倍の保水性を有することがわかった.また供試ポリマー混合試料の水分保持特性曲線をもちいて,供試ポリマー浸透層中の水通過抵抗係数をあきらかにした.その結果,SAO混合試料の水通過抵抗係数は1×10^<-13>cm s^<-1>,PEG混合試料は1×10^<-12>cm s^<-1>となり,PEGよりもSAO浸透層中の水は移動し難いことがあきらかになった.これまで得られた実験結果をもとに,供試ポリマー浸透層による輸送抵抗を考慮した土壌水分蒸発速度の予測をおこなった.輸送抵抗を組み込んだバルク式を用いて蒸発速度を計算した結果,蒸発速度を低く見積もった.その理由として,ポリマー浸透層中では水蒸気ではなく液体水が移動していることが考えられる.本研究では,供試ポリマーの添加による土壌の保水性の上昇と,ポリマー浸透層中の水分移動の相関はみられなかった.親水性ポリマーによる土壌の水分蒸発の抑制や水分蒸発量の予測には,土壌間隙中のポリマーの存在形態および水分子との関係の把握が必要であることがあきらかになった.
著者
湧田 雄基
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究の目標は,人間が持つ解釈因果関係を含む動的事象(イベント)に対する柔軟な解釈能力や状況説明能力をロボット上で実現することであり,そのために必要となる概念構造をロボットにより自立的に獲得・構造化するためのシステムを構築することを目的とする.我々はこれまでに,ロボットが観測した実世界のイベントを解釈するための概念構造“Cognitive Ontology(認知オントロジ)”を提案してきた.本研究では,この概念構造を外部の補助なく自立的に獲得可能なシステム構築のために,以下の実現を研究課題として分け, 研究を進めた.1) 色/幾何パタン/3次元構造/動き軌道の認識を高速かつ安定に実行する機能2) 相互作用の予測に基づき因果関係を構成する注意対象を選択/更新する技術3) リアルタイムで観測しながら,概念構造を自動的に抽出・獲得する機能4) ロボットの相互作用への参加とCognitive Ontologyの能動的な確認機能
著者
高島 響子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

メディカルツーリズムにおいて、患者の「渡航行為」により新たに生じる問題を抽出するために、近年英国で問題となっている英国からスイスへの渡航幇助自殺について、事例研究、文献調査、ならびに英国にて当事者への聞き取りを行った。その結果、英国内では実施することのできない自殺幇助を、実施可能なスイスに渡航して実現する人(患者)が登場したことで、英国内の議論に変化が生じたことがわかった。英国は、積極的安楽死ならびに自殺幇助を法律で禁じており、それらを望む人々による法改正等を求める裁判や運動が、20世紀初頭より繰り返されてきた。行方で、スイスは利他的な理由からなされた自殺幇助は法的に罰せられず、事実上実施可能である。2002年頃より、英国からスイスへと渡航して自殺幇助を受ける人が報告されるようになった。こうした「渡航幇助自殺」の増加に伴い、英国内において1.国内での自殺幇助実施を認める要請、2.渡航幇助自殺を認める要請の2方向で議論が起きた。現在のところ1.の要請は成功に至っておらず、一方2.については、2009年Debbie Purdyの貴族院判決において、渡航幇助自殺を求める原告が初めて勝訴し、渡航幇助自殺が事実上容認されたともとれる状況が生まれたことがわかった。国内では禁止規制により解決できない問題が、合法的に実施可能な他国の存在を利用した渡航医療を包含することで解消されるという構図が生じた。これを「一応の解決」とみなすことも可能だが、国内における実施容認へのさらなる要請、また受入国側の規制変化(渡航医療の受入制限)の可能性が考えられ、すでにそうした動きもみられた。以上のような渡航医療と国内規制および受入国との構図は、国によって法規制が異なる他の医療にも当てはまりうるものであり、日本において問題視される渡航臓審移植や渡航生殖補助医療の今後の議論の在り方に有用な示唆を与えた。
著者
林 香里 前田 幸男 丹羽 美之 KALIN Jason JAMES Curran SHARON Coen TORIL Aarlberg SHANTO Iyengar GIANPIETRO Mazzoleni STYLIANOS Papathanassopoulos JUNE-WOONG Rhee HERNANDO Rojas DAVID Rowe RODNEY Tiffen PAUL K. Jones
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、世界11か国の主要ニュース番組や新聞(紙とインターネット)の内容を一斉分析するとともに、同時期に各国民の政治知識、ならびに政治関心や有効感覚をアンケート調査して、双方の連関があるかどうかを検討した。一般的には、公共放送制度のある国のほうが、国民の政治知識(とくに国際的政治ニュースの知識)のスコアも高かった。しかし、日本は、公共放送制度があるとはいえ、とりわけ国際政治ニュースへの知識や関心度も高いとは言えなかった。本研究では、日本のマスメディアの諸問題を、比較研究の手法とともに国際的文脈から批判的に検討することができた。
著者
大清水 裕
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

今年度は研究計画の最終年度であり、これまでの研究をまとめ、公開することに精力を傾けた。他方、研究計画に沿って小アジアの諸遺跡、特にエフェソスやアフロディシアスの調査も行なっている。まず、学会での口頭発表としては、5月の日本西洋史学会第61回大会で「『マクタールの収穫夫』の世界-3世紀北アフリカの都市参事会の継続と変容-」と題した報告を行なった。「マクタールの収穫夫」とは、チュニジア中部の高原地帯に位置する都市マクタールで発見された3世紀後半の墓碑に登場する人物である。この碑文は、現在、ルーヴル美術館の所蔵となっており、2010年5月に行なった実地調査の成果を交えて報告を行なった。従来、「3世紀の危機」を反映したものと扱われてきた有名な碑文だが、その内容だけでなく、碑文の刻まれた石の形状や遺跡のコンテクストも含めてその位置づけを見直し、「危機」とされる時代の再評価を行なっている。次に、雑誌等に発表したものとしては、「マクシミヌス・トラクス政権の崩壊と北アフリカ」(『史学雑誌』121編2号、2012年2月、1-38頁)がある。この論文では、238年の北アフリカでの反乱で殺害された人物の墓碑の再評価を行なった。従来、その文言から、親元老院的な都市名望家とされてきたこの人物を、その石の形状や発見地などの情報をもとに、帝政期の北アフリカ独自の文化環境に生きた人物として描き出している。また、Les noms des empereurs tetrarchiques marteles: lesinscriptions de l'Afrique romaine,Classica et Christiana,6/2,2011,549-570も公表されている。四帝統治の時代の碑文から皇帝たちの名前が削り取られた理由を検討したもので、従来想定されてきた理由とは別に、碑文の刻まれた石の再利用という目的を重視するよう指摘した。遺跡での現地調査としては、今年度は9月にトルコの諸遺跡を訪れた。その成果は、今後何らかの形で公開していきたいと考えている。
著者
森山 茂栄 小汐 由介 福田 善幸 竹内 康雄
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

ニュートリノが出ない二重ベータ崩壊を観測することにより、ニュートリノの性質を決定するとともに、ニュートリノの絶対質量を測定することが期待されている。本研究の目的は、そのための基礎原理及び技術を開発することにある。本研究では、キセノンに含まれる136Xeが二重ベータ崩壊可能な原子核であるとともに、液体キセノンが良いシンチレーターであることを利用する。特にバックグラウンドを低減するために、常温高圧の液体キセノンを透明な容器にいれ、特殊な光学系で測定することにより、感度の向上を図るものである。ここに含まれる研究開発は、1耐圧アクリル容器の開発、2波長変換材の開発、3常温液体キセノンの発光量測定、4ダブルフォーカス型検出器の開発、5バックグラウンドの見積もり、6プラスチックシンチレータを用いた容器の開発である。本研究で最も重要であったのが、2の波長変換材および3の常温液体キセノンの発光量である。1については、アクリル容器からの水の放出が問題となるため、(2)で開発する波長変換材等の膜により保護することとなった。2については、興味ある一定の成果が得られた。ポリスチレンの母材に、TPB(テトラフェニルブタジエン)を4%混合させることで、49±4%の変換効率が得られた。この効率とは、液体キセノンの発光である175nmの真空紫外線が入射した場合に、可視光として放出される光子の数の比である。この変換は、液体キセノンの発光よりも早く、発光の信号の時定数は、液体キセノンの発光の時定数との違いは見られなかった。残念ながら、この波長変換材を液体キセノンにいれて測定した場合、波長変換材が液体キセノンにより浸食されることがわかり、効率として20%程度に下がってしまうことがわかった。アクリルの保護の役割や、長期安定性などを含めて、今後研究が必要である。3常温液体キセノンの発光量については、大変面白い結果が得られた。圧力5.57MPaG、摂氏3度における発光量と、圧力0.06MPaG,摂氏-100度における発光量とを比較すると、前者が後者の0.85倍という結果が得られた。両者で光の収集効率が異なる可能性がありその効果を現在見積もり中であるが、常温高圧での液体キセノンの発光量を測定するのはこれまでに無く、重要な進展である。4については、装置を作成したところ、検出器内面の反射率が低いことがわかった。今後測定・改良を続けていく予定である。5、6については、4までの成果の延長上にあるため、今後の課題となった。
著者
上條 俊介
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

本研究では、公共空間における歩行者監視および道路空間における安全運転支援をアプリケーションとして、実価値のあるセンサーネットワークを開発することを目的としている。歩行者監視のための画像センサーネットワークの開発では、人物監視においては、挙動不審人物を検出し、画像センサーネットワークに渡って自動追跡するための自律分散型の画像センサーネットワークを開発することを目的としている。今年度は、まず時空間MRFモデルを適用してオクルージョンに頑健な人物の領域分割およびトラッキングを行い、その結果から人物の歩行軌跡を得る技術を開発した。オクルージョンの際には、システムが学習した画像上での人物の高さ情報から、足元を推定して正確な軌跡を得ることができた。次に、人物領域のシルエットを画像の水平および垂直軸に投影することで16次元データ化し、これらをクラスタ分類することで、人物のシルエット識別を行う手法を開発した。同じ姿勢を取っている人物でも撮影する方向によってシルエットが異なる問題を解決するため、光軸を90度異なる方向に設置した2台のカメラで撮影されたシルエットを比較することで、正しい人物姿勢を推定する手法を開発した。カメラ間の同一人物マッチングについては、4点マーカーを用いた簡便なカメラ間座標キャリブレーションにより、人物座標変換を行うことで、マッチングが可能となった。最後に、人物の軌跡および姿勢の時系列変化、ならびに複数人物間の相関関係をシナリオ化することで、酔客、けんか、病気、荷物置き去り等の様々な事象を検知するためのフレームワークを開発した。これにより、様々なシーンに汎用的に適用可能な人物行動把握技術が開発されたと考えられる。