著者
村田 好正 福谷 克之 藤本 光一郎 小林 紘一 小牧 研一郎 寺倉 清之
出版者
東京大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1992

共鳴核反応を用いた水素の高分解能深さ分析法の開発を行った。6.385MeVの^<15>Nビームは東京大学原子力総合センターのタンデム型加速器により発生させた。N原子の電子親和力が負であるため入射する負イオンとしては分子イオンであるNH^<2->またはCN^-を用いた。高い深さ分解能を達成するためには共鳴幅程度の単色性の良いビームを作ることが必要である。これは分析電磁石の磁場を安定させることで達成する。プロトンのNMRのスペクトル変動を電磁石の電源へフィードバックすることで磁場の相対変動を10^<-5>に抑えた。分析電磁石の出口スリットにはスリットフィードバックシステムを準備し、加速用のターミナル電圧の安定をはかる。入り口と出口のスリットを0.5mm幅にすることでエネルギーの広がりを2keV以下に抑えらた。実験は超高真空中で処理した試料に、加速器で発生させた6.385MeVの^<15>Nビームは、同センター2Cコースにおいて2段の差動排気を介して解析用超高真空槽へと導いた。ビーム形状をモニターするビームプロファイルモニターと収束用マグネットを設置し、試料上でビーム径2mm、50nAのビームを得ることに成功した。水素との核反応に伴って放出される4.43MeVのγ線は直径4インチのBi_4Ge_3O_<12>シンチレーターを用い、真空槽の外、試料から20-40mm離れた所で測定した。宇宙線によるバックグランドは0.07cpsであり、1/100原子層程度の水素が測定可能となった。この手法を用いて、(a)a-Si/H/Si(001)、(b)Olivine/Aqueous Solution Interface、(c)H/Au(001)、(d)Ag,Cu,Pb/H/Si(111)の試料について深さ分解測定を行った。
著者
五味 紀真
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

特別研究員報告書にも書いた通り、当初の研究実施計画を変更する必要があった。なお、変更に当たって研究の最終的な目標、および概略に関しては一切変更していない。本年度は第一に、一神教・多神教問題と精神分析との関係性についての基礎的な文献や先行研究を分析した。4月に行った発表「Den Entzug eines Gottes nachbereiten一神教の脱構築とエクリチュールの歴史についての覚書」では、デリダの脱構築と、フロイトの『モーセと一神教』を中心とした問題との関係性をある程度明確に分析することができた。また、レヴィ=ストローズから始まりジャン=ピエール=ヴェルナン、ピエール・ヴィダル=ナケに至る構造主義的な神話分析の研究を読解することによって、これまで本研究が主に依拠してきたハイデガー-キトラーによる「解釈学的・存在論的神話分析」と前者との差異を子細に分析することができた。後者においては木庭顕『政治の成立』から多くの示唆を得ることができた。また、精神分析に関しては、これまで主に分析してきたフロイト、ラカンに加え、メラニー・クラインら対象関係論の分析家たちの著作の読解も始めた。対象関係論は、研究実施計画にも記したドゥルーズらによる資本主義分析において大きな役割を果たしているため、デリダの脱構築と一神教の問題、およびドゥルーズの資本主義分析を関連付けて論じるために、ラカン派に劣らず重要であると思われる。残念ながら計画に記したように本年度中に以上の研究を博士論文としてまとめることはできなかった。今後も研究を継続し、実施計画にある通りの研究を完遂することを目指し、本研究を続けていきたいと思う。
著者
蛭子 はるか
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

脳神経系の細胞構築には、大脳皮質に代表される「層構造」と脳深部に存在する「神経核構造」の2つがあり、脳神経系の形成メカニズムの統合的理解にはこの両者の理解が必須である。従来、大脳皮質などを用いて層構造の形成メカニズムは集中的に解析されてきたが、神経核構造の形成メカニズムは不明な点が多かった。そこで、申請者は神経核構造に着目し、マウス視床をモデルとして神経核のパターン形成の分子メカニズムを解析してきた。具体的にはこれまでに、予定視床領域で転写因子Foxp2の発現量が前後軸方向に勾配を持つこと、また機能不全型のFoxp2を発現するFoxp2(R552H)ノックインマウス(以下ノックインマウスとする)を用いて、Foxp2が視床パターン形成および視床皮質軸索投射を制御することを示した。さらに、Foxp2を発現制御する上流分子を同定するために子宮内電気穿孔法を用いて、視床の外から分泌され視床パターン形成を制御するFGF8bの発現を操作した。FGF8bを過剰発現した結果Foxp2の発現は抑制されたことから、FGF8bはFoxp2の上流である可能性がある。平成27年度はまず、視床パターン形成におけるFoxp2の視床自律性について検討した。具体的には、子宮内電気穿孔法を用いてFoxp2 shRNAを視床に導入した結果、ノックインマウスで見られた視床パターン変化と同様の変化が観察された。すなわち、視床パターン形成は視床内のFoxp2が制御していることが示唆された。また、ノックインマウスで観察される視床パターンの変化がより早期の胎生期から生じているか検討するために、胎生14.5日齢のノックインマウスで視床亜核マーカーの発現分布を解析した結果、既に視床パターンは変化していた。このことは、胎生期よりノックインマウスの視床パターン形成における表現型は出現していることを示唆している。
著者
武田 展雄 水谷 忠均 水口 周
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2014-05-30

炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastic、以下CFRP)は、航空機構造の軽量化を図るため、主要な一次構造部材にもCFRPが適用されてきており、かつ日本の製造技術が多く用いられている。しかし、いまだ成形・組立などの製造上の問題および損傷後強度保証の難しさがあり、従来金属製航空機と比較して製造コストが高くまた十分な軽量化にも至っていない。本研究では、ライフサイクルモニタリングによる構造高信頼化技術と,製造技術に課題はあるものの低コスト・高機能性のポテンシャルを有する新規CFRP製造プロセスを融合させる「複合材構造の知的ものづくり科学」を構築することで初めて可能になる、革新CFRP 構造コンセプトを世界に先駆けて提案・実証することを目的としている。[1]光ファイバ援用成形中その場物性評価基盤技術、[2]低圧成形CFRP、[3]熱可塑CFRP、[4]CFRP二次接着接合構造、[5]複雑形状CFRP構造、を主な対象とした光ファイバライフサイクルモニタリング技術を構築し、これらを用いた構造部材の品質保証・保守技術を確立する。最終的には、これら個別要素を最適配置した低コスト・高信頼性革新CFRP構造を実証する。具体的には、これまでに構築した光ファイバひずみ計測技術の計測速度を新規成形プロセスに適用可能なレベルまで向上させ、各製造プロセスにおける材料内挙動を詳細に評価する。光ファイバを考慮した複合材料モデルによる新規成形プロセスシミュレーションおよび損傷発生・進展解析を行い、実際の試験から得られる光ファイバ応答と照らし合わせることでCFRPの品質・健全性を評価する手法を確立する。最終的に補強板構造の部分構造供試体を用いて[6]実用模擬CFRP構造、の実用環境下でのライフサイクルモニタリング実証を行う。
著者
川合 豊
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究では,デバイスの演算能力が低い場合にも運用可能な暗号認証方式の研究を行った.現在PRIDのようなデバイスが実運用されるにあたり,デバイス内の個人情報などの流出や,運用システムへの攻撃などが危倶されている.そこで本研究では個人情報を秘匿したまま認証が可能な暗号方式の設計と,その方式の省リソースデバイス上での運用を検討した.個人情報(ここではIDと呼ぶ)を直接認証に使うのではなく,IDを何かのグループに所属させ,IDがグループに属しているかのみで認証を行うSecret handshakeという方式を主軸に置き,その匿名性について研究を行った.Secret handshakeでは,たとえば会社Aに所属しているIDならば認証可能だが,ID自体は認証に用いない方式を構成可能である.ただし,(認証自体は正しく行うが)不正を働いたIDを有事の際に特定するためにある特権を持つ管理人のみその匿名性をはく奪することが可能である.既存の方式は,管理人が何の制約もなく匿名性をはく奪することができた.しかしながらこれは正しく運用しているユーザであっても匿名性をはく奪される危険性があることを示している.そこで,まず,認証システム側から要請があった時のみ管理者が匿名性をはく奪できる方式を構成した.しかしながら,前述の方式では管理者が「自分のグループのユーザが認証したかどうか」ですらわからない方式であった.これは,たとえばSecret handshakeを会社の入退場システムに使った場合,会社の人間がどれほど入退場しているかすら管理人は感知することはできない(匿名性をはく奪しIDを取得すれば可能).そこで,管理者が「自分のグループのユーザが認証したかどうか」は単体でチェック可能だが,「IDが何であるか」は認証システムからの要請がなければ不可能な方式を提案した.これが本研究の成果である.
著者
石垣 琢麿 丹野 義彦 松島 公望 井村 修
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

妄想や幻覚を改善するためにハンブルク大学のMoritzらが開発したメタ認知トレーニング集団療法用(MCT)と個人療法用(MCT+)の日本語版を作成した。MCTに関する知識の普及と実践活動の相互扶助のためにMCT-Jネットワーク(Mネット)を設立した。Mネットの会員により臨床研究が行われ、統合失調症患者への有用性は確認された。
著者
齋藤 類
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

①観測を行ったアリューシャン渦の構造とその時間変化について記述し、平成28日3月に発表した論文の内容を示す。西部亜寒帯循環(WSG)域に存在した渦の中冷水の最低水温がアラスカンストリーム(AS)域に存在した渦よりも低かった。この水温差は冬期の冷却と春期加熱期の渦周辺水の影響に起因すると考えられた。渦解像モデルを用いた粒子輸送実験によると、WSG 域に存在した渦は春季加熱期においても周辺の冷水の巻き込みにより中冷水を冷却されることを示唆した。中暖水の水温は渦間で差は無かった。渦がAS域からWSG域の伝播において、中冷水は時間の経過とともに変質するが、中暖水は形成時の性質を維持することを示した。②低次生産が高い春季から秋季にかけての渦の一次生産への影響に関する成果を示す。先行研究によってアリューシャン列島南岸で形成された渦の存在が確認されたAS域からWSG域までの範囲を対象域とし、表面 CHL、水温、一次生産量(NPP)と海面高度偏差(SLA)の偏差を比較した。春季及び秋季のSLAの変動があった列島南岸からWSG域までの範囲で一次生産に変動があったため、渦がWSG域にあると生物生産が高くなることを示唆した。2010年7月に観測した渦の変動を見ると、AS域を移動した冬季は水温が低く、一次生産も低かった。夏季の水温上昇により CHLは7~9月まで上昇した。秋季の水温の低下によって、一次生産は減少し、秋季のCHLは渦内で高かった。秋季の他の渦内もCHLが渦外よりも高く、対象域に渦が存在すると、一次生産が高くなることを示した。③沿岸水の影響を受けない外洋域での渦の生物生産への影響を生態系モデルを用いて評価したところ、外洋域に存在する渦内で生物生産が高くなることが示唆された。渦の中冷水・中暖水は表面水に比べると、列島南岸の形成時に巻き込んだ沿岸水を維持しながら、WSG 域に達するためと考えられる。
著者
横澤 一彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本プロジェクトの目的は、高次視覚と行為への理解であり、多くの認知心理学的実験が行われた。第1に、同時に提示される2つの日常物体の奥行き回転による方位差を弁別させる実験課題における反応時間と誤答率を測定した(Niimi & Yokosawa, 2008)。その結果、視覚系は正面、側面、後面に特異的であり、高速で正確であったが、斜め方向では時間がかかり不正確であった。このような特性は水平線や対称性などの方位特異的な特徴に基づくことが分かった。日常物体の方位の視覚判断の効率性は方位依存的であり、前後軸を基に知覚されている可能性が考えられる。第2に、刺激と反応が対応しているときに効率的であるという刺激反応適合性がまったく無関係な次元間でも生ずるかを調べた(Nishimura & Yokosawa 2006)。その結果、直交型サイモン効果と呼ぶ上右/下左が優位となる結果が得られた。この直交型サイモン効果は、左反応が正極になると減弱するか、逆転した。この結果は、刺激の正負の符号化によって、反応の正負の符号化が自動的に生起することを示している。第3に、時間的に系列的に提示された文字列中の標的において、報告される標的の正答率の違いを調べた(Ariga & Yokosawa, 2008)。その結果、提示系列の後半に比べ、前半に標的が提示されるとき、その正答率が低下することが分かった。この新しい現象を「注意の目覚め」と命名した。
著者
野崎 久義 関本 弘之 西井 一郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

我々は群体性ボルボックス目の雌雄の配偶子をもつプレオドリナから、オスに特異的な遺伝子"OTOKOGI"(PlestMID)を発見し、オスが同型配偶の優性交配型(クラミドモナスのマイナス交配型)から進化したことを明らかにした(Nozaki et al.2006, Curr.Biol.)。その結果、"メス"が性の原型であり、"オス"は性の派生型であることが示唆された。この研究では、従来的なモデル生物を用いた研究では不明であった進化生物学的大問題(オス・メスの起源)が、独自に開発した材料(プレオドリナの新種)を用いることで解き明かされ、生物学の一般的な教科書で示されている同型配偶から異型配偶/卵生殖への進化がはじめて遺伝子レベルのデータで説明された。また、本研究におけるオス特異的遺伝子の同定はこれまでに全く未開拓であったメスとオスの起源を明らかにする進化生物学的研究のブレークスルーになるものと高く評価された(Kirk 2006, Curr.Biol.16 : R1028 ; Charlesworth 2007, Curr.Biol.17 : R163)。「雌雄性の誕生」とは性によって配偶子に差異が生じることであり、この差異を生み出した分子生物学的要因を特定するには、性によって異なる性染色体領域ゲノムの比較研究することができれば最適である。オス特異的遺伝子"OTOKOGI"はクラミドモナスの性染色体領域に存在する性決定遺伝子MIDのオーソログであり、プレオドリナのオスの性染色体領域に存在することが推定される。従って、本遺伝子のオーソログを同型配偶~卵生殖に至る様々な進化段階の群体性ボルボックス目の生物から得ることができれば、各進化段階の性染色体領域を探索するプローブとして使用できる。これらの性染色体領域に着目した比較生物学的な研究を実施すれば「雌雄性の誕生」の分子細胞学的基盤が明らかになるものと思い、群体性ボルボックス目の同型配偶のゴニウムからMIDオーソログ(GpMID)を探索し、その分子遺伝学的な特性を調査した(Hamaji et al.2008, Genetics)。
著者
秋野 有紀
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

「文化的な創造活動への広域的共同支援に関する国際研究-ドイツと日本を例に」をテーマに、本年度は調査研究を進めつつ、これまでの研究成果の発表を積極的に行った。とりわけこの3年間従事してきた研究・調査については、11月にドイツの国際セミナーで口頭発表を行い、3月には日本で査読論文として発表した。研究成果としては以下の点が明らかになった。(1)ドイツは伝統的に舞台芸術への公的支援は極めて大きいが、近年では自治体の財政難を背景に超域・広域的な支援に向かいつつあることを具体例から示した。(2)その背景として、公共サービスの自由化や人の移動の加速化があるが、ドイツの芸術環境における観劇者層の非対称性という課題も公的支援の根拠を動揺させている要因である。(3)日本は確かにドイツと比べると公的な支援は相対的に小さいが、習い事や商業劇場、演劇人たちの自主的な劇団活動など、私的な領域からの芸術活動への寄与度は極めて高く、そのことがドイツでは見られない自由で多様な表現の土壌を準備する潜在性となっている。(4)だが日本では一般的に、個人の〈芸術消費(受容)〉意識の高さとそれとは相対的に低い〈創造性(生産)への支援〉の必要性への意識という非対称性が、「創造環境としての公立劇場」を公的に支援する際の障壁になるという構図がしばしば現れる。この比較により、舞台芸術領域において〈公の強いドイツ〉と〈私の強い日本〉という特徴に優劣をつけるのではなく、双方の課題を可視化し、(日本では従来、専ら欧州から学ぶという姿勢をとってきたが)お互いに学びうる可能性を示し、市民社会における豊かな文化環境を形成する上での政策的・実践的基盤に関して、国際的に論点を共有することが出来たことは有益であった。ドイツの事例についての分析の一部は日本で論文としてすでに発表したが、来年度秋頃には、日独比較の部分をドイツで共著として発表する準備を進めている。
著者
秋山 英文
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

半導体レーザーの利得性能計算には、自由電子近似に基づくバンド理論が用いられてきた。本研究では、計算パラメータをk・p 摂動論に基づいて決定し、1 次元量子細線系と2 次元量子井戸系用のキャリア間多体クーロン相互作用を平均場近似で取り入れ、レーザーのモード利得を定量的に計算する理論を、コードとして試作した。遮蔽クーロン相互作用の波数依存性を無視した計算も行った。実験では、高品質3周期T型量子細線試料を用いて、利得スペクトルのキャリア密度依存性を精密測定した。理論により得られた定量的利得スペクトルやピーク利得値を実験と比較して、開発した理論の有用性を明らかにした。
著者
伊藤 伸子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

強力な白血球活性化作用を持つロイコトリエンB4(LTB4)とその受容体BLT1の急性痛への関与について、BLT1遺伝子欠損マウスを用いて研究を行った。ホルマリン足底注入による急性痛モデルでの疼痛行動は、BLT1遺伝子欠損マウスで有意に減弱していた。脊髄での痛覚感作に関わる急性活性化因子CREBの活性化がBLT1欠損マウスで減弱し、またホルマリン注入局所の炎症所見が低下していた。さらにBLT1拮抗薬投与にても疼痛行動の減弱が認められた。急性痛病態形成においてLTB4-BLT1シグナルが局所の炎症反応とそれに続く脊髄での痛覚感作両方に関与している可能性と、BLT1拮抗薬の有効性が示唆された。
著者
黛 秋津
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

日本における近代黒海地域史研究の確立を目的とし、本研究は18・19世紀における黒海地域の国際化の過程を、オスマン、ロシア、西欧の三つのそれぞれの一次史料に基づき検討した。特に、ワラキアとモルドヴァをめぐる国際関係を従来のバルカン史ではなく黒海地域史の枠組みの中でとらえ直し、さらに18世紀のオスマン政府によるクリム・ハーン国支配を考察した。その結果、黒海周辺のオスマン帝国の付庸国支配の変容が、黒海の国際化を考える上で重要であることが明らかとなった。
著者
石田 尚敬
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2013-08-30

本年度は、研究の開始にあたり、インド仏教最後期の論理学者モークシャーカラグプタ(13世紀頃)の綱要書、『論理の言葉』について、これまで出版されたサンスクリット語校訂テキストを可能な限り収集し、調査した。その結果、手書き写本を参照し、そこに見られる異読等を検討したものは、バッタチャリアにより校訂されたGOS(Gaekwad's Oriental Series)版(1942年)と、アイヤンガーによるマイソール版(第2版、1952年)のみであることを確認した。それ以外の校訂本は、それまでに出版された校訂本を参照し、訂正を加えたに止まっている。さらに、『論理の言葉』原典写本の研究も開始し、カンナダ文字で書写されたマイソール写本、ナーガリー文字で書写されたパタン写本(2本)について、これまでに撮影したカラー写真を用いて解読した。これらの写本の系統関係などは、校訂テキストの序文に記載する予定である。また、本年度の研究期間中、科学研究費補助金を用いてグジャラート州、ヴァドーダラー市にあるバローダ東洋学研究所を訪問した。同研究所では、『論理の言葉』写本について、カタログに記載のある4点すべてを、現物を手にして調査することができた。調査の結果、うち2点は、20世紀初頭に作成されたと思われる、パタン写本2本(上述)の複製(写真)であることが判明した。それらは経年劣化が進んでいるものの、報告者が2009年に撮影した時点の同写本よりも破損による欠落箇所が少なく、資料として有用である。さらに、うち1点は、パタン写本の複製を用いて新たに作成されたと思われる、ナーガリー文字による手書き紙写本であり、残りの1点は、おそらくGOS版出版のために用意されたと思われるノートであった。本年度の調査により、『論理の言葉』の資料状況は、これまでに所在が知られているサンスクリット語原典写本も含め、ほぼ明らかとなった。
著者
山本 芳久
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

現代の世界情勢において、キリスト教世界とイスラーム世界との文明間対話が焦眉の課題となっている。こうした課題に本格的に取り組むためには、政治や経済の動向の分析のみではなく、両文明の世界観の基礎を為している哲学・神学の次元での比較思想的考察が不可欠である。本研究においては、西洋中世とイスラーム世界の法概念を比較哲学的・比較宗教学的に分析することによって、両文明の知的営みの連続性と非連続性の双方を明らかにした。
著者
見田 悠子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

今年度前半の主な活動は、ガルシア=マルケスを育んだコロンビア共和国での調査である。世界的にも長らく見過ごされていたバランキーリャ・グループについては、日本国内にはほとんど情報がない。研究計画作成当初は、コロンビアは渡航が危険とされていたことや、どのような情報があるのかも知られていなかったため、今回の渡航調査は計画外のものである。しかし、ガルシア=マルケス研究やカリブ海沿岸地域文学の研究を進めるにあたっては必須かつ有意義なものであった。*ガルシア=マルケスの生地/アラカタカガブリエル・ガルシア=マルケスの弟であるハイメ・ガルシア=マルケスの案内によってアラカタカのガルシア=マルケス博物館や資料館となっている電信技師の家、公民館、図書館において『百年の孤独』の舞台となっている村の当時の様子を見聞した。*カリブ海沿岸地方/バランキーリャカリブ海沿岸地域の文化そしてガルシア=マルケスの専門家アリエル・カスティーリョ博士から論文や雑誌記事の提供を受け、今後の研究に際して助言を得られることとなった。バランキーリャを代表する小説家、ラモン・バッカからもバランキーリャにおける文学活動について情報を得た。ホセ・フェリクス・フエンマジョールやアルバロ・セペダ=サムディオの著作とガルシア=マルケスの比較研究をするという課題をみつけた。*カリブ海沿岸地方/カルタヘナFNPI(国際ヌエボ・ペリオディスモ基金)においてガルシア=マルケスの新聞記者時代に関する資料を入手した。*首都/ボゴタ国際ブックフェアや古本屋において、日本もふくめ諸外国では手に入りにくい資料を多く入手した。
著者
渡辺 裕 佐藤 守弘 輪島 裕介 高野 光平
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

学生運動が盛り上がりをみせた「1968年」は、日本戦後史における社会の転換期とされるが、この時期は同時に、芸術や文化の諸領域においても大きな変化が生じた時期でもある。この研究では、視覚文化、聴覚文化、大衆文化、メディア研究の専門家が協同して同時代の言説研究を行い、その変化を検証した。その結果、それらが政治や社会の変化を反映しているというこれまでの理解とは異なり、この時期は人々の感性や心性が大きく変化し、文化の枠組みや価値観全体が構造的な転換を蒙った時期であり、政治や社会の変化もまたその大きな動きの一環をなすものであることが明らかになった。
著者
小山 太一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

昨年度における資料収集およびアントニー・ポウエルの戦前諸作品の研究を踏まえて、本年度は、論文The Novels of Anthony Powell : A Critical Study(90,000 words、未発表)を完成させることにもっぱら努力を傾注した。本論文は、まずポウエルの喜劇小説創作の傾向と諸問題、文学史的コンテクストを整理解説したうえで、ポウエルの戦前・戦後の全テクストに詳細な読解を加え、とりわけ戦後の膨大な12連作『時間の踊り』(A Dance to the Music of Time,1951-1975)の全体像を一望の下に置いたうえでその語りのテクニックとテーマを掘り下げるものである。その論述過程においては、喜劇小説家ポウエルの長いキャリアに「コミックなるものの構造転換、喜劇の持つ教育機能をみずから脱構築してゆく語り」という一貫したテーマを見出し、彼が英国の社会喜劇小説の伝統にもたらした革新(あるいは英国の社会喜劇小説の伝統への反逆)の持つ意味とその限界を明らかにすることを第一の目標とした。本論文は、現在、英国アントニー・ポウエル協会(http://www.anthonypowell.org)を通じて英国ないし米国の出版社との出版交渉を準備中である。また、本年度は、ポウエル以降の英国小説における「コミックなるもの」のありかたにも視野を広げ、文学史的通観を現代まで接続する試みも開始した。論文「イアン・マキューアンにおけるコミックの要素」は、現代において創作活動を展開している英国小説家について、彼の小説の語りの構造そのものに内在する不条理な喜劇性を考察したものである。
著者
小早川 光郎 山本 隆司 太田 匡彦 山本 隆司 太田 匡彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、2004年に行われた行政事件訴訟制度改革に対して、理論的側面及び実際的側面から検証を加えた。理論的側面からの検証の主たる成果として、原告適格、義務付け訴訟、差止訴訟を中心に、その理論的基礎及び法的問題点等を明らかにした。かかる理論的側面からの検証の成果を前提として、主として2004年改正後に出された裁判例の分析を行い、処分性、原告適格、義務付け訴訟を中心に、制度改革による実際的影響を明らかにした。
著者
鹿園 直毅 梅野 宜崇 原 祥太郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では,炭化水素燃料を用いた究極の発電効率を実現するために不可欠な固体酸化物形燃料電池(SOFC)を対象とし,その経時劣化において大きな課題となる燃料極Niの焼結挙動を解明することを目的とする.そのために,第一原理計算,分子動力学法,レベルセット法を用いて,物性値情報を共有させたナノからミクロンスケールまでの連成数値シミュレーション手法を開発する.実際のSOFC燃料極構造データおよび実験結果を用いつつ,世界に先駆けて開発する数値シミュレーション技術を駆使することで,SOFC燃料極のNi焼結挙動の解明を行った.