- 著者
-
田之倉 優
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 基盤研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2001
オリザシスタチン(OC)はコメ(Oryza sativa)中に含まれ、システインプロテアーゼ(CP)を特異的に阻害する蛋白質である。この蛋白質はパパインを化学量論的に阻害し、炊飯条件下でも活性を失わない耐熱性を持ち、酸やアルカリに対しても安定である。この蛋白質は、種子内蛋白質分解に関与するCPの働きを制御することにより、代謝を調節するとともに、昆虫、細菌、ウイルスなどの外敵や感染源に存在するCPを外来性標的酵素として認識して、その活性を阻害することにより生体防御を担っていると言われている。本研究では、生化学的解析および立体構造解析により、OCの機能構造相関の解析を行った。温度、濃度、pHなどの溶液条件を変化させる、あるいは、変性剤により変性させることでOCを自由にダイマーやモノマーに変換することに成功した。各成分のプロテアーゼ阻害活性を比較したところ、ダイマー状態の方がモノマー状態より活性が低下することが明らかとなった。このことから、本タンパク質は、イネの生育段階における様々な環境変化に応じて、自分自身の状態(構造)変化を起こすことでプロテアーゼ活性の制御を行い、調節因子として働いていることが示唆された。また、NMR構造解析により、OCはダイマー化すると、阻害活性に重要とされている第一ループと第二ループの構造が変化していることが示され、このために阻害活性が低下することが示唆された。さらに、OCのホモダイマーの結晶化に成功し、2.9Å程度の分解能のデータを得た。OCは、医薬品や機能性食品としての適用が検討されている。本研究の成果により、溶液条件を変化させることでその活性が制御できることが明らかになったので、その機構を利用し、熱や酸に対しても耐性があり、pHによって制御が出来るナノマシン等更なる応用が期待される。