著者
近藤 亮介
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

研究2年目にあたる本年は、19世紀中葉のアメリカにおけるピクチャレスクについて、「パーク(park)」概念に焦点を当てて検討した。主な対象としては、アメリカ最初の郊外住宅地であるニュージャージーのルウェリン・パーク(1853)とアメリカ最初の公園であるニューヨークのセントラル・パーク(1857)を扱った。この研究成果は、「2つの公園―ルウェリン・パーク(1853年)とセントラル・パーク(1857年)」として、日本臨床政治学会(専修大学、2015年10月24日)にて口頭発表(招待講演)を行った。また、前年度の研究成果を踏まえ、トマス・ジェファソンの私邸・大農園である「モンティチェロ」の造園を英国風景式庭園およびピクチャレスク美学との関係から分析した「アメリカのピクチャレスク移植―19世紀前半の農園と霊園を中心に」を、日本18世紀学会第37回大会(東京大学、2015年6月20日)にて口頭発表した。さらに、前年度から引き続き、19世紀前半の英国におけるピクチャレスクについての理解を深めるために、1790年代以降の美学言説の精読を行った。その研究成果の一部として、美学言説と植物学・旅行との関係性からピクチャレスクの社会的受容を考察した論文「ジェームズ・プラムトリが見たピクチャレスク美学―『ザ・レイカーズ』(1798)を読む」を『日本18世紀学会年報』(日本18世紀学会、第30号、2015年6月)で発表した。その他、夏期休暇には、ルウェリン・パークおよびセントラル・パークの実地調査だけでなく、ヨセミテ国立公園とイエローストーン国立公園の実地調査・資料収集も行うことができた。1860~70年代にかけてオルムステッドが深く関与した国立公園構想と環境主義についての論文をまとめることが、今後の課題である。
著者
小野 秀樹 松本 欣三 太田 茂
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

フェニルエチルアミン(PEA)は生体内に存在する微量アミンであり,精神機能と関わりがあると考えられている。その化学構造や薬理作用は覚醒剤のものと類似している。これらの薬物は様々な薬理作用を発現するが,作用と立体構造の関係は不明である。著者らはすでに、これらの薬物は脊髄反射の系において,少量では下行性ノルアドレナリン神経の終末よりノルアドレナリンを放出させることにより、単シナプス反射(MSR)を増強し、高用量ではセロトニン受容体へ作用することによってMSRを抑制することを示している。本研究においては、ノルアドレナリン放出作用・セロトニンアゴニスト作用と立体構造との関係について実験した。PEAのフェニル基とアミノ基窒素が近い形で固定されていると考えることができるノミフェンシンおよびマジンドールは下行性神経からのノルアドレナリン放出により、MSRを増強した。さらにMSR増強作用と腺条体の〔^3H〕マジンドール結合阻害作用の間には良い相関があった。PEAのフェニル基とアミノ基窒素が遠い形で固定されている2-アミノテトラリン類はセロトニンアゴニスト作用によりMSRを抑制した。光学活性体についてはR体に活性があった。これらの結果から,PEAおよび覚醒剤のノルアドレナリン放出作用は、フェニル基とアミノ基が近い形のコンフォメーションの時に生じ、セロトニンアゴニスト作用は遠い形のコンフォメーションの時に生じることが示唆された。以上、単純な系であり定量的な実験が可能な脊髄反射を用いて得られた結果ではあるが、この解釈は運動量増加作用(脳でのノルアドレナリン放出による)および幻覚作用(脳でのセロトニン_2アゴニスト作用による)にもあてはまるものと考えられた。
著者
池上 高志
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2019-04-01

自己シミュレーションを実装したロボット実験を行いながら、ホメオスタティックな自己維持と運動生成の研究を行う。具体的には、ロボットに実装したカメラを使って人間のポーズを学習し、そのポーズの模倣を生成するシステムを構築する。模倣に関してはミラーニューロン以来色々と脳科学で研究が進んでいる。ここでは脳の持つ、自己シミュレーション機能を新しく構築し、模倣を通してみた脳のホメオスタティックな新しいモデルを構築する。
著者
甲斐 知恵子 間 陽子 小船 富美夫 斉藤 泉 山内 一也 宮沢 孝幸
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

本研究の目的は、組み換えアデノウイルスを用いることにより、多くの高等動物で汎用できるウイルス感染における自然宿主での細胞性免疫機構の解析法を開発することである。各種動物において以下の様な知見を得た。(1)本研究では、イヌジステンパーウイルス(CDV)膜蛋白(H)遺伝子の組み換えアデノウイルスを作製した。また、CDV-H組み換えアデノウイルスを用いて細胞障害試験を樹立するため、標的となる自己細胞の確立するを試み、皮膚からの細胞株樹立に成功した。その結果、複数のイヌからの樹立に成功し、標的細胞の作製法はほぼ確立した。さらに、その他の条件を決定し、細胞障害試験の確立を試みている。また、組み換えアデノウイルスの発現効率の改良も試みている、(2)細胞障害活性及び液性免疫能を誘導するエピトープが牛疫ウイルスのN蛋白に存在することが明らかとなった。H蛋白の免疫により長期に免疫賦与される事も明らかになった。また、immune-stimulating complex(ISCOM)の利用により、組み換えH蛋白でも細胞性免疫賦与が可能であることが明らかとなった。(3)牛白血病ウイルス(BLV)の主要組織適合性遺伝子複合体(BoLA)クラスII分子には白血病に抵抗性を示すBoLA-DR3アリルが存在することが明らかとなった。羊を用いた接種実験で、これを確認したため、現在BLVの組み換えアデノウイルスを作製して、さらに詳細な解析を試みている。
著者
金子 邦彦 藤本 仰一
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2017-06-30

(i)表現型進化の方向性と拘束の理論:触媒反応ネットワークモデルを用いて、大自由度の表現型が進化により低次元に拘束されることを固有値スペクトル解析で明らかにした。さらにそれにより進化の方向が拘束されるがその一方で新たな環境への進化が加速されることを示した。また遺伝子制御ネットワークそして統計力学のスピングラスモデル、またタンパクのデータを用いて、この進化的次元縮減が普遍的であることを示した。(ii)階層進化理論:原始細胞においてその分子数がある程度以上になると遺伝と機能を担う分子の役割が対称性の破れで生じる、つまり分子生物学のセントラルドグマが出現することを発表した。次に細胞と細胞集団の階層では細胞が有用成分をもらすことで多種共生が生じること、最後に個体ー社会の階層に対してはゲーム理論による搾取構造の形成を示し、さらに未開人類社会での婚姻構造の形成を明らかにした。(iii)進化発生対応の理論:発生過程と進化過程の対応関係において、遅く変化する遺伝子発現の意義を調べた。特にエピジェネティック過程を考慮して、発生過程の安定性(homeorhesis)の現れる仕組みを明らかにした。また倉谷班との共同で発生砂時計仮設をサポートするシミュレーション結果を得た。[藤本G]完全変態昆虫のサイズ進化の法則(各種の最終体重は臨界体重に比例)を発見した。ボディプラン(器官の数と空間配置)の進化発生対応では、被子植物の左右対称な花の多様性を包括する発生特性を数理モデルから予測した。加えて、動植物のボディプランに揺らぎを見出した。基部双子葉植物の花器官配置では、らせん状と同心円状の2型のみが同種内で共存し、この拘束された種内多型は発生過程に起因することをモデルから示した。刺胞動物のイソギンチャクでは、器官配置の左右対称性と放射対称性の種内多型を、配置過程の計測を通じて見出した。
著者
山本 寛 長瀬 隆英 新藤 隆行
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

Adrenomedullin(AM)ヘテロ接合体ノックアウトマウス(AMKO)とその同腹子(野生型)を用いてOvalbumin(OVA)腹腔内投与により感作した喘息モデルマウスを作製した。対照群には生理食塩水の投与を行った。マウスを麻酔・人工換気下におき気道内圧、気流を測定し、肺抵抗、肺コンプライアンスを算出した。気道反応性を評価するためメサコリン(MCh)吸入負荷を施行した。その結果、AMKOマウスにおいて有意に気道過敏性が亢進していることが判明した(EC200RL : saline-treated・AM^<+/+>, 16.81±2.01mg/ml ; saline-treated AM^<+/->, 16.73±2.34mg/ml ; OVA-treated・AM^<+/+>, 7.95±0.98mg/ml ; OVA-treated AM^<+/->, 2.41±0.63*mg/ml, respectively, *P<0.05 vs. the other groups)。MCh負荷前後の組織AM濃度を検討したところ、AMKO群ではMCh負荷後のAM濃度が有意に低く、組織AM濃度の不足が気道反応性の亢進に関与している可能性が示唆された。また、肺組織の形態学的解析を行ったところ、OVA感作AMKO群では野生型群と比較して有意に気道内腔が狭窄しており、気道周囲の平滑筋層の面積の増加、気道上皮細胞層の面積の増加もあわせて認められた。したがって、AMの不足が何らかの機序で気道周囲の平滑筋を腫大・増生させたり気道上皮細胞を膨化させるため、結果として気道内腔が狭窄すると考えられた。なお、気道周囲の好酸球浸潤の程度、気道分泌・杯細胞増生の程度、TH1、Th2系サイトカイン、ロイコトリエンについても検討したが、AMKO群と野生型群の間に有意な差は認められなかった。

1 0 0 0 OA 大日本史料

著者
東京大学史料編纂所 編
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
vol.第11編之8, 1952
著者
菊地 達也 鎌田 繁 柳橋 博之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は、シリアにおいて大きな政治的影響力を持つイスラム少数派、アラウィー派(ヌサイル派)の思想形成の過程を解明し、彼らとの類似点が多く関係も深いドゥルーズ派との比較を通じ歴史的シリアにおける少数派の文化的特徴を明らかにすることであった。研究の結果、アラウィー派の源流思想はイラクにおけるイマーム派系の極端派伝統の中から生まれたものであり、少数派相互の関係性の中でそれぞれの独自の思想が形成されたことが判明した。
著者
山下 桃
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

本研究では,中生代の海生爬虫類モササウルス類の視覚復元をするために,近縁関係にある現生トカゲ類の眼球の軟組織と硬組織の関係性を明らかにし,化石として保存される鞏膜輪を用いた古脊椎動物の眼球構造の復元指標を構築することを目指した.鞏膜輪とは眼の中に形成される輪状の骨組織であり,魚類や鳥類を含む爬虫類に見られる.本研究では,現生トカゲ類54属58種について,鞏膜輪の内径・外径(硬組織)と水晶体の径,入射瞳の径,視軸長(軟組織)の相関関係を明らかにするために線形回帰分析を行った.その結果,鞏膜輪の内径と水晶体の径・入射瞳の径,鞏膜輪の外径と視軸長に強い相関関係があることが示された.またそれぞれの硬組織と軟組織の相対成長については,硬組織に対して軟組織が劣成長を示すことが明らかになった.さらに,系統一般化最小二乗法(Phylogenetic Generalised Least Squares:PGLS)による解析を行い,系統的影響を取り除いて各組織の関係性を求めた場合においても,劣成長の傾きはやや異なるが,それぞれの組織は相関関係にあることが示された.これらの結果を用いることで,絶滅爬虫類において鞏膜輪から眼球の軟組織の大きさをより正確に推定することが可能となり,視覚機能の推定と生態の復元が可能となった.また,水生適応が鞏膜輪の形態に及ぼす影響を調べるために,カメ類の鞏膜輪を比較した.カメ類は完全水生適応した現生爬虫類である.陸生種・水生種の鞏膜輪の形態を比較することで,水生適応による鞏膜輪の形態の変化の有無を明らかにできる.4種の陸生種,3種の海生種,2種の淡水性種の鞏膜輪の形態を比較したところ,1種のリクガメ類を除いて全ての種において鞏膜輪の形態に変化はなかった.このことから,カメ類においては鞏膜輪の形態に水生適応の影響はなく,系統的制約が強く働いていると考えられる.
著者
清水 誠
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

TGR5は胆汁酸をリガンドとするGタンパク質共役受容体であり、その活性化は抗肥満・抗糖尿病効果を示すことが知られている。本研究では、TGR5を活性化する食品成分のスクリーニングを行い、ノミリンを含む複数の食品成分を同定した。動物実験の結果から、ノミリンは肥満や耐糖能異常を改善する事を明らかにした。また、TGR5を活性化する他の成分(成分A)に関しても、高脂肪食による体重増加を抑制する効果がある事を明らかにした。
著者
芦原 聡
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
2003

背景と目的//超短光パルスは基礎研究から光通信・光情報処理などの応用分野で不可欠な存在となっており、その発生・波長変換・波形制御技術の重要性は疑う余地が無い。カーレンズモード同期の成功以来、Ti3+ :Al2O3レーザーを中心に固体レーザーの超短パルス化は急速に進展しているが、これら発振器や増幅器から直接得られるパルス幅はレーザー媒質の蛍光スペクトルなどにより制限される。そこでいわゆるパルス圧縮技術が必要となるのである。//これまでは一般に、光ファイバー中の自己位相変調効果とその後段の分散補償を組み合わせたパルス圧縮法が研究されてきた。この方法は極短パルス化が可能である反面、系が複雑でエネルギーロスが大きいという欠点をもつ。非常にシンプルなパルス圧縮システムとしてファイバーソリトン圧縮器があるが、これら光ファイバーを用いる方法ではガラス中の3次非線形光学効果(光カー効果)を利用しているため、大きな光強度と長い相互作用長が必要である。またファイバーソリトン圧縮は、ガラスの異常分散領域でしか実現できないという欠点もある。//一方、2次非線形光学効果の多段過程によっても実効的に3次非線形効果を得ることが可能である。この「カスケード2次非線形光学効果」は、高速かつ大きな非線形応答を示す。また位相不整合量の調整により、非線形効果の符号と大きさを制御可能という特徴をもつ。カスケード非線形効果に関してはこれまで、光スイッチングや空間ソリトン形成などの応用研究がなされてきたが、そのほとんどはナノ秒〜ピコ秒領域であり、フェムト秒領域での研究は数少なかった。//本研究では、カスケード非線形効果の高速応答性が最大限に生かされる超短光パルス制御応用にターゲットを絞り、「フェムト秒光パルスにおけるカスケード非線形効果の諸特性評価とそれを利用したソリトン圧縮の実現」を目的とした。2次非線形光学ソリトンは基本波と高調波が互いにトラップしながら伝搬するという物理的に興味深い現象である。本研究では特に、媒質自身の分散とカスケード非線形効果のバランスを利用した、実用的なソリトン圧縮システムの理論解析および実験的研究を行った。//BBO非線形結晶を用いた光ソリトン圧縮//本研究の第一段階として、β-BBO非線形結晶のタイプI角度位相整合を用いた実験を行った。Ti: sapphireレーザーのフェムト秒光パルス (800nm, 80fs, 82MHz) を用い、長さ1mmのBBO非線形結晶中に誘起されるカスケード非線形効果を測定した。位相不整合量を制御しながら測定した結果、カスケード非線形効果による実効的な非線形屈折率効果は正負それぞれについて|n2casc(BBO)|〜(4.1±0.9)×10-15cm2/W が得られた。//次にTi: sapphireの再生増幅パルス (800nm, 120fs, 82MHz) を用いて光ソリトン圧縮を行った。基本波波長800 nmはBBO結晶中で正常分散領域に入るため、ソリトン圧縮を実現するためには負の非線形効果が必要となる。光強度・位相不整合量・伝搬長をパラメーターとして伝搬計算を行い、ソリトン圧縮特性を理論的に評価した。数値計算によれば長さ32mmの伝搬で最短約25fsへのパルス圧縮が可能であることが明らかになった。数値計算で得られた知見を基として実験を行った結果、入射基本波135fsから約3分の1である45fsへのパルス圧縮に成功した。//周期分極反転LiTaO3におけるカスケード非線形効果の評価//本研究の次なるステップとして、擬似位相整合 (Quasi phase matching: QPM) 法の利用へと展開した。QPM法に用いられる強誘電体材料は一般に2次非線形光学定数が大きい。またQPM法はドメイン反転構造の設計如何で任意に位相整合条件を設定できる。このような観点から、強誘電体QPM素子はカスケード非線形素子として大きな潜在能力をもつ。//Ti: sapphireレーザーの波長で動作するQPM素子として、周期分極反転LiTaO3素子 (Periodically-poled lithium tantalate: PPLT) を選んだ。電場印加法による分極反転を用いて、厚み0.3mm、周期3.1μmのPPLT素子を作製した。周波数分解2光波混合法により、カスケード非線形効果の大きさとして|n2casc(PPLT)|〜5.6×10-15cm2/W を得た。しかし、正味得られた負の非線形効果は非常に小さかった。この原因は、基本波と第2高調波の間の群速度不整合によるカスケード非線形効果の低減と、LiTaO3自体がもつ大きな光カー効果との競合である。光カー効果を測定したところ、異常光線ではn2E (LT) 〜3.0×10-15cm2/W 、常光線ではn2O(LT)〜1.7×10-15cm2/W であった。結局、PPLTを用いたソリトン圧縮は実現できなかったが、LiTaO3に関して非常に有益な知見を得た。LiTaO3は重要な波長変換用材料である上、光カー効果は超短光パルスのカスケード非線形素子や波長変換素子を設計する上で必須の物質定数であるが、本研究でその値を初めて明らかにしたのである。//周期分極反転MgO:LiNbO3を用いた光ソリトン圧縮//PPLTに関する研究から、効率的なカスケード非線形光学素子を実現するためには、2次非線形光学定数の大きな材料を用いた上に群速度整合を満たす必要があるとの教訓を得た。そこで次に、周期分極反転MgO: LiNbO3 (Periodically-poled MgO-doped lithium niobate: PPMgLN) の非対角成分 d32 を用いることにより、通信波長で群速度整合条件を満足させ、大きなカスケード非線形効果を発現させた。PPMgLN素子は長さ10mm、厚み0.5mm、分極反転周期20.4μmであり、用いた光源はフェムト秒光パラメトリック増幅器 (1560 nm, 〜100fs, 1kHz) である。位相不整合量を調整することで、正負それぞれの符号の大きなカスケード非線形効果 (|n2casc(PPMgLN)|〜30×10-15cm2/W) を得た。これはフェムト秒パルスのカスケード非線形効果として報告された値としては最大である。//この素子を用いて光ソリトン圧縮を行った。基本波波長1560nm およびその第2高調波波長双方において正常分散であるため、ソリトン圧縮のためには負の非線形性が必要となる。素子温度と入射光エネルギーを最適化することにより、パルス幅110fs、中心波長1560nmの基本波入力から、基本波・高調波の同時35fsパルス圧縮を実現した。このような周期分極反転素子における光ソリトン圧縮の実現は、本研究によるものが初めてである。//非平行な擬似位相整合配置を利用した群速度整合法//このようにPPMgLNにおける群速度整合条件を利用することで効率的なソリトン圧縮を実現したが、この群速度整合条件は材料の屈折率分散から決まるものであった。すなわち、動作波長が異なれば群速度不整合の問題に直面する。そこで本研究では、分極反転格子の傾斜およびパルス面の傾斜を利用した新しい群速度整合法を提案した。この方法を用いると、構造の設計如何により任意の波長で擬似位相整合と群速度整合を両立させることが可能となる。擬似位相整合と群速度整合を表す方程式を導出し、具体的に周期分極反転LiNbO3 (Periodically-poled lithium niobate: PPLN) に適用した例を示した。この方法を用いると、位相整合許容バンド幅は通常の方法に比べて、波長0.8μmでは110倍、波長1.55μmでは32倍に広がる。また、通信波長において群速度整合を満たすPPLN素子を設計・作製し、それを用いたSHG原理確認実験を行って本手法の有効性を実証した。//結論と展望//以上のとおり、本研究では角度位相整合および擬似位相整合を用い、2次非線形媒質中のソリトン効果を利用することで効率的なパルス圧縮が可能であることを理論的・実験的に実証した。このような2次非線形ソリトン圧縮法の特徴は、大きな非線形性の恩恵により低パワー動作が可能であること、エネルギー利用効率が高いこと、正常・異常分散を問わず実現できること、基本波と高調波が同時にパルス圧縮されて出力されることなどである。ただしその反面、精密な分散補償が困難であるため、例えば10fs以下への極短パルス化には適さないかも知れない。以上から、この2次非線形光学ソリトン圧縮法は、低パワーかつサブピコ秒動作のモードロックレーザー光源、例えばEr: glassレーザーやYb: YAGレーザーなどとの集積化に適しているといえる。//今後の展望として、分極反転構造の非周期化などの設計による短パルス化および圧縮パルスの高品質化や、本研究で提案した群速度整合法をスラブ導波路と結びつけるなどしてより低パワー化することなどが挙げられる。また、2次非線形ソリトン伝搬を用いた量子光学的応用も興味深い展開であろう。
著者
伊藤 元己
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

花の形態形成遺伝子を解析した成果として、ABCモデルと呼ばれる花の形態形成モデルが提唱され、広く受け入れられている。その後の研究で、特殊な花の形態をしているイネ科の植物にもABCモデルが成り立つことが示され、今では、ほとんどの被子植物にほぼ当てはめることができると言われている。ドクダミの花は3本の雄しべと3枚の合成心皮からなり花被をもたない。しかし、総苞片と呼ばれる花序の基部に白く大きな花弁状の形態をもつ器官がある。これは、花序の最下部につく苞葉が変化したものといわれている。今回、特にこの総苞片の形態形成にABCモデルで示されるような花弁形成のメカニズムが関与しているのか、それとも独自の進化の過程で獲得した異なるメカニズムで形態形成がなされているのかを調べることに焦点を当てた。そこで、ドクダミより花器官の形態形成に関与すると思われるMADS-box遺伝子を単離し、遺伝子系統樹を構築し各遺伝子の相同性の検討を行なった。また、定量的RT-PCRやin site hybridizationにより各遺伝子の発現を調べた。その結果、ドクダミの総苞片でAP1グループ、PIグループ、AP3グループ、SEPグループに属する遺伝子の発現が確認された。これらの遺伝子発現の組み合わせは、シロイヌナズナにおいて花弁の器官決定を行なうのに必要十分なものであることが明らかになっている。ドクダミの花弁状の器官でこれと同様の発現様式を示したことは、形態学上、花弁とは異なる総苞片の形態形成において、花弁形成同様のメカニズムが働いている可能性を示唆するものである。
著者
内田 麻理香
出版者
東京大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究では、申請者が所属している東京大学・科学技術インタープリター養成部門において、1.アクティブ・ラーニング型の科学随筆ライティングの授業と、2.様々な研究分野の科学者による対談イベントの両方を実施することにより、グループ討論を通じた科学随筆ライティング教育プログラムを開発する。さらに、他の授業担当者もそれを実施可能にするために、その授業方法を取りまとめて公開することを目的とする。授業とイベントの企画を設計する際に、1950年代から科学随筆を継続的に発表し、日常生活の中で出会う科学の面白さを広く読者に伝えた物理学者の同人会、ロゲルギストの活動を調べ、その活動方法を参考にする。
著者
遠藤 秀紀 村田 浩一 鯉江 洋 中山 裕之
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

高齢動物の骨格を標本化、マクロ形態学的変化を検討し、三次元画像情報の構築に成功した。アジアゾウ、カバ、シロサイ、キリンなどにおいて、脊椎や四肢、頭蓋におけるマクロ形態学的異常を検出し、骨老化の基礎理論を構築した。アジアゾウでは、高齢での顎と臼歯の問題点を画像情報を用いて議論した。中型獣では顎や顔面の機能異常を観察、鳥類と爬虫類でも加齢と形態変化について、生理学的背景とともに把握することができた。成果は、高齢動物の直接的な研究にとどまらず、飼育動物に関する基礎生物学的また病理学的データ収集の機会を大幅に拡大することに成功した。また、動物園水族館に向けた動物福祉的提言を発展させることができた。
著者
磯崎 行雄 谷本 俊郎 平田 岳史 圦本 尚義 丸山 茂徳 中村 保夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

現在の環太平洋地域では、いずれも海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込んでおり、典型的なプレート沈み込み帯型の造山帯をなしている。本研究計画の前半では、その造山帯成長を司る二つの主要なプロセス、すなわち付加体の形成と花崗岩帯の形成についての地質学的研究がなされ、日本列島に分布する顕生代の付加型造山帯の基本構造と形成過程が解明された。また、そこで開発された研究手法は、日本列島からみると太平洋の対岸にあたる北米西岸のカリフォルニア州のコルディレラ造山帯においても適用され、新たな成果をあげた。この一般的な造山帯形成過程に対して、都城型造山運動と命名した。これは超海洋の誕生から消滅に及ぶ一つのウイルソンサイクルの中での一般的プロセスと理解される。一方、これらのプレート沈み込み型造山帯の基本的体制が何時成立したのかについては従来不明であったが、本研究後半では、本邦における最古期岩石群の特徴に着目し、それらの起源が約7-6億年前に超大陸ロディニアが分裂した時に出現したリフト帯にあったことを明らかにした。すなわち、日本列島の成長核になる揚子地塊の海洋側に産する5億8千万年前のオフィオライト(西九州および北上山地)が太平洋の最古断片を代表することをつきとめた。この事実は、先に解明した付加型造山帯の成長極性と調和的で、揚子地塊の太平洋側大陸縁が、もともとの受動的なものから、約4.5億年前に活動的大陸縁に転換したことを示す。一つの超大陸の分裂から大海洋が生まれ、同時にそれをとりまく新しい大陸縁辺のグループが生じる。その海洋が面積を拡大していゆくと、やがて地球の反対側で別の海洋が開き始める頃には、もとの大陸縁はプレート収束帯に進化してゆくという大陸縁造山帯の一般的成長プロセスが、日本列島の研究から導かれたことになる。