著者
樹林 千尋 阿部 秀樹 山崎 直毅 青柳 榮
出版者
東京薬科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

エクアドル産ヤドクガエルから発見されたエピバチジンは、ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)に結合することによってモルヒネの200倍の極めて強力な非オピオイド性鎮痛作用を示すことが判明し、本化合物が画期的な非麻薬性物質であることが確認された。しかし、エピバチジンの臨床応用についてはその毒性が問題となっており、エピバチジンのアナログ開発は毒性克服の観点から重要な課題となっている。エピバチジンの活性発現には、ファーマコフォーとして2-クロロピリジル基及び脂肪族2級アミンの存在が必要であると指摘されているが、これ以外に窒素原子間距離が活性と毒性の発現に深く関わっている可能性がある。そこでわれわれは、エピバチジンのシンN-N及びアンチN-N配座固定アナログを合成し、両者のnAChRに対する親和性を比較することにより、エピバチジン立体配座と鎮痛活性の相関性を明らかにする目的で本研究を行い、次の結果を得た。アシルニトロソ化合物のヘテロDiels-Alder反応を鍵反応としてエピバチジンの合成中間体であるアザビシクロケトン体を合成し、2-クロロピリジル基を導入後分子内環状エーテル化によりスピロ化合物とすることによりシンN-N及びアンチN-N配座固定アナログの合成を達成した。次いで、これらのアナログについて中枢性nAChR(ラット)に対する親和性を測定したところ、シンN-NアナログはアンチN-Nアナログよりも受容体親和性が少なくとも2倍以上高いことが明かとなり、エピバチジンの活性配座がシンN-N配座であることを示す最初の実験例を示すことができた。
著者
湯淺 宏
出版者
東京薬科大学
巻号頁・発行日
1981

博士論文
著者
林 良雄 PILLAIYAR THANIGAIMALAI
出版者
東京薬科大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

受入研究室におけるこれまでの研究から、SARSシステインプロテアーゼを阻害できる新しい阻害機構として、親電子性アリールケトン構造が有効であることを確認し、P1部位側鎖部にピロリドン型環状構造を有するアミノ酸誘導体およびカルボキシル基部分にチアゾール-2-ケトンを有するトリペプチド型化合物(Cbz-Val-Leu-amino-3-oxo-3-(thiazol-2-yl)propyl)pyrrolidin-2-one)が比較的良好なウイルスプロテアーゼ阻害活性を有することが解っていた。実用的創薬化合物の創製に向た阻害活性向上のために、平成23年度はP4部位およびアリールケトン部位の構造活性相関を進め、親水性構造をP4位に有し、10nMレベルの強い阻害活性(Ki)を示すトリペプチド誘導体を見いだすに至った。本年度においてはこの研究を更に進め、P3部位を除去した「ジペプチド型ペプチドミメティクス」の創製に新たに挑戦した。即ち、P3位Val残基の除去した。その結果、最初は酵素阻害活性が大きく低下したが、種々の誘導体を合成し、構造活性相関を検討したところ、阻害活性が徐々に向上し、先ずは中程度であるが興味深い酵素阻害活性を示すジペプチド型化合物を得ることに成功した。そこで、この化合物のP3位にあるN-arylglycine構造に注目し、構造最適化を行なった結果、酵素阻害活性(Ki)値が6nMという強力な阻害活性を示すジペプチドミメティック化合物を得た。標的プロテアーゼとのコンンピューターを用いたドッキングスタディーから、この化合物のIndole環窒素原子が、プロテアーゼのGlu166残基と新たな水素結合を形成することが示唆された。この相互作用は、化合物がプロテアーゼを強力に認識する上で有効であったために、阻害活性が大きく向上したものと考えられる。
著者
別府 正敏
出版者
東京薬科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究では、我々がすでに見いだしていたマクロファージの酸化細胞認識機能について、1)マクロファージ側の細胞表面レセプター分子である50kDaのレクチン様分子(p50)の実体解明、2)酸化細胞表面において認識される糖鎖リガンドの生成機構の解明、の両面から検討した。その結果以下の成果を得た。また、この認識様式は酸化細胞だけでなく、アポトーシスによって死につつある細胞の認識にもはたらくことを新たに見いだした。1.単離したp50の部分アミノ酸配列情報をもとに、PCR法にてヒト細胞のcDNAライブラリーから候補タンパク質をクローニングした。今後、このcDNAがコードするタンパク質が酸化細胞認識機能を有するかなどの同定作業を行う予定。2.p50の部分アミノ酸配列に対する抗体を作製し、この抗体を用いた蛍光抗体法により、マクロファージ細胞表面にp50が存在することを顕微鏡レベルで証明した。さらに、この抗体がマクロファージによる酸化細胞の認識を阻害することを確認し、p50が酸化細胞認識タンパク質であることが改めて裏付けられた。3.マクロファージはアポトーシスを起こした細胞を認識するが、アポトーシスT細胞の認識においても、酸化細胞に対する認識と同様、細胞表面のsialylpolylactosamine糖鎖を介した認識機構がはたらくことを見いだした。興味深いことにこの認識様式は、アポトーシス初期の細胞に対して働き、よく知られているホスファチジルセリン(PS)を介した認識よりも早く起こることが判明した。4.こうした認識を受ける細胞表面糖鎖は、T細胞ではCD43膜糖タンパクの糖鎖であることが判明した。さらに、酸化やアポトーシスを起こしたT細胞では、初期にCD43がクラスタリングすることが顕微鏡レベルで確認され、「細胞膜糖タンパク質がクラスタリングを起こすことによって細胞表面に糖鎖クラスターが形成され、マクロファージのレセプターにより認識されるようになる」という我々の提唱する仮説が証明された。
著者
市田 公美 細谷 龍男 細山田 真 松尾 洋孝 中村 真希子
出版者
東京薬科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

URAT1/SLC22A12とGLUT9/SLC2Aは近位尿細管における尿酸再吸収に働くトランスポーターで、この欠損は腎性低尿酸血症を引き起こす。URAT1/SLC22A12とGLUT9/SLC2A9の変異で、尿酸輸送能に影響を与えないと報告されていた変異を検討し、アフリカツメガエルの卵母細胞を用いた輸送実験の条件を変更することにより、変異による尿酸取り込みの減少を示し、腎性低尿酸血症を惹起する可能性を明らかにした。ABCG2は尿酸の分泌に働くトランスポーターであり、この機能低下や欠損を認める一塩基多型により高尿酸血症を来たしやすくなる。血清尿酸値における、ABCG2の機能の重要性を示した。
著者
吉川 大和 野水 基義
出版者
東京薬科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

ラミニンα5 鎖はβ1鎖およびγ1鎖とヘテロ三量体を形成し、ラミニン-511として成体基底膜の主要な構成分子として存在している。ラミニン-511は、正常細胞を秩序よく基底膜へ接着させ組織を安定化させている。一方、癌細胞の基底膜浸潤では足場として利用されるが、そのメカニズムは十分に解明されていない。本研究では、ラミニン-511とその細胞接着に着目し、癌細胞による基底膜形成阻害、癌細胞の基底膜への接着および運動メカニズムにアプローチした。その結果、ラミニン-511の不足は基底膜形成を抑制すること、ラミニン-511への細胞接着を弱めながら細胞運動を促進する細胞内シグナルが明らかになった。
著者
樹林 千尋 阿部 秀樹 青柳 榮
出版者
東京薬科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

世界保健機構がWHO方式癌疼痛治療方針を発表して以来、モルヒネの消費は増大しており、先進国ではモルヒネ消費の主目的は癌治療と言われている。しかしながら、モルヒネには連用による耐性や依存を生じる深刻な欠点があり、モルヒネに代わる強力な非麻薬性鎮痛薬の開発が世界的に求められている。インカビラテインは最近角高Incarvillea sinensis(ノウゼンカツラ科)より発見された新奇モノテルペンアルカロイドである。本アルカロイドはモルヒネに匹敵する強力な鎮痛作用を示すことが見出され、その作用はオピオイド受容体よりもアデノシン受容体の関与が大きいことが示唆されていることから、非麻薬性鎮痛薬のリード化合物として期待される。本研究は、このような特異な化学構造と顕著な薬理活性を有するインカビラテインの全合成を完成させ、さらに、アデノシン受容体アゴニスト性の解明及びアナログ合成・活性評価へと展開し非オピオイド性鎮痛薬創製を目的とする。角嵩抽出物中にインカビラテインと共にインカビンCが共存することから、インカビラテインの生合成前駆体はインカビンCであると推定される。そこで初めにインカビンCの合成を行った。L-酒石酸より導いたシクロペンテノン誘導体、アルケニルスズ化合物、ヨウ化メチルの3成分連結法によりトリ置換シクロペンテノンを合成し、次いで分子内還元的Heck反応を経て(-)-インカビンCの合成を行った。次に、同様の経路により6-エピインカビリンを合成し、フェルラ酸の[2+2]光二量化反応によって得られたα-トルキシル酸と光延反応により結合することにより、目的とした(-)-インカビラティンの最初の全合成に成功した。
著者
野水 基義 吉川 大和 保住 建太郎 片桐 文彦
出版者
東京薬科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

ラミニン-111の由来の活性ペプチド(60種類)を高分子多糖のキトサンに固定化したペプチド-マトリックスを作成し、線維芽細胞と神経細胞を用い生物活性を測定し、活性の違いにより5種類のグループに分類した。各グループの中で最も活性の強いエッセンシャルなペプチド-マトリックスを選定した。さらに高活性なペプチド-マトリックスを作製するため、ペプチドと多糖の間のスペーサーの検討を行い、各ペプチドの最適なスペーサーを見いだした。最適なスペーサーを用いてエッセンシャルなペプチド-マトリックスを組み合わせることにより、組織工学に応用可能なバイオマテリアルの開発が可能になった。
著者
須賀 哲弥 力久 忠昭 山内 盛 吉田 武美 三澤 美和 永井 恒司 富岡 清 鮫島 啓二郎 佐用 博照 三輪 亮寿 三川 潮 首藤 紘一 北澤 式文 辻 章夫 寺尾 允男 粟津 荘司 野村 靖幸 狐塚 寛 濱田 昭
出版者
東京薬科大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1991

1.薬学はpharamaceutical sciencesと言われる通り多くの分野の学術の複合または総合とみられ、したがって各境界領域もまた多数にのぼっていて、学術擁護に多くの問題をかかえている。このため、当面薬学全域を8分野((1)衛生化学・裁判化学・公衆衛生学・微生物学・香粧品学、(2)薬理学(関連する医学)・臨床生理学・代謝学・毒性学、(3)薬事法規と関連分野、(4)調剤業務・薬品処理・処方箋と関係分野、(5)薬剤学・調剤学・薬剤製造学・製剤工学・臨床薬学(臨床薬剤学)、(6)生薬学・天然物化学・薬化学・物理化学、(7)分析化学・分析機器(試験法も)、(8)薬局法と関係分野(局法収載品名・測定法名・試薬名等)に分け、各分野に研究総括者と分野統括者を置き、その他に多数のチェッカーを置いて、新語、従来と同一語の他、カナ書き用語、略語で汎用されている語等々問題のある学術用語の収集に総力を傾注して遺漏なきを期した。2.初年度は基本方針を立て、基礎データの収集を行い、2年度は薬学会方式の、一語一語に評点をつけて重要度を客観的に評価する方式を十分活用して、基礎データを増やしながら、現に使用される度合いの低いものを減らして、現在の薬学用語集とした。これにつき日本薬学会の年会時等の折りを利用して広く意見を聞きコンセンサスを得たものとした。3.領域間の調整は、特に青戸邦天氏(学術情報センター)のお手を患わせて精細なチェックデータを得、これに基づき十分時間をかけて検討し、領域別による語義の差、用法の差などを番号によって区分し、標準化を明晰な形で行うことを心掛けた。4.以上のようにして、標準化された約8000語の薬学用語を選定した。
著者
深見 希代子 山口 英樹
出版者
東京薬科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

我々はPhospholipase C d1(PLC d1)の遺伝子欠損(KO)マウスを作製し、PLCd1KOマウスが毛包の形態異常を伴う顕著な体毛の減少を示すことを報告してきた。今回PLCd1KOマウスとよく似たマウスとして転写因子Foxn1が先天的に変異しているヌードマウスに着目した。ヌードマウスでは、毛を構成する主なヘアケラチンの一つであるmHa3遺伝子の発現が低下し、無毛となる。PLCd1KOマウス体毛減少のメカニズムを詳細に検討した所、ヌードマウスと同様にPLCd1KOマウスの皮膚においてもmHa3遺伝子の発現が低下していた。またヌードマウス皮膚では、PLCd1の発現が低下していた。こうした結果は、毛包形成において、Foxn1→PLCd1→mHa3というシグナルの流れが存在していることを示している。
著者
根岸 洋一 丸山 一雄 高木 教夫 新槇 幸彦 高橋 葉子 野水 基義 田野中 浩一 丸ノ内 徹郎 片桐 文彦 小俣 大樹 濱野 展人 石井 優子 小栗 由貴子 塩野 瞳 秋山 早希 間山 彩 菊池 太希
出版者
東京薬科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では,微小気泡(ナノバブル) の一つとして開発してきた超音波造影ガス封入リポソームにデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)治療用アンチセンスモルフォリノ(PMO)を搭載させたバブルリポソーム(BL)の開発に成功した.さらにBLと超音波照射との併用システムによりDMDモデルマウス骨格筋や心筋へのPMO送達・導入を行うことで,超音波照射部位におけるエクソンスキッピング誘導に伴う顕著なジストロフィンタンパク質の発現回復が可能となることを明らかとした.よって本システムは,DMDの核酸治療において全身筋組織への効率的PMO送達・導入とDMD治療における有用な一手段となると期待された.
著者
上川内 あづさ
出版者
東京薬科大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は、ショウジョウバエが音・重力・風の情報を検知するための感覚神経と脳中枢を解析し、ショウジョウバエの「耳」にあたる触角の付け根にある数種類の感覚神経(ジョンストン器官神経)が、触角の小さな振動に強く反応する細胞と、一定の方向への持続的な変位(角度の変化)に強く反応する細胞とに分類できることを発見した。細胞特異的に神経毒素を発現させてそれぞれの細胞群の神経伝達を特異的に遮断した個体群の行動を解析したところ、前者を遮断すると音に対する応答行動が、後者を遮断すると重力に対する応答行動が、それぞれ特異的に失われた。さらに、音を検知する神経と重力を検知する神経は脳内の別々の中枢に分かれて投射しており、これらの中枢の神経回路は、人間の脳の聴覚や重力感覚の中枢の回路とそれぞれよく似た構造になっていることを発見した。また、ショウジョウバエは強い風が来ると身構えて飛ばされないようにする習性がある。強い風は重力と同じように、触角の傾きを変化させる。このような風検知も、重力と同じ脳中枢で処理されていることを見出した。ショウジョウバエと人間は進化の過程で6億年以上前に分かれた、別々の枝のそれぞれ先端に位置している。このように進化的に遠く離れたショウジョウバエと人間において音や重力の情報処理回路が似ていることは、特定の種類の情報を処理するために最適な方法を求めてそれぞれが独自に進化した結果、同じような構造に行き着いた収斂進化の可能性を示している。