著者
日置 俊次
出版者
青山学院大学
雑誌
紀要 (ISSN:05181194)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.29-49, 2011
著者
北本 正章
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

「子ども学の構成と展開に関する比較教育社会史的研究」というテーマのもとに進めた本研究は、欧米各国で精力的に進められてきている子ども観の社会史研究の世界的な研究動向を構造的かつ領域区分ごとに詳細に検討することによって、わが国における新しい「子ども学」(Childhood Studies)がその学術的基盤の構築を目指す上で必要な構成カテゴリーと課題の所在を明らかにすることを目的とした。本研究では、「子ども学」の構成カテゴリーを「子ども観の歴史人類学」、「子ども社会学」、「子ども文化の学際的研究」の3つの領域の研究成果から再構成するとともに、少子高齢化社会における子ども理解の構造を「子ども学の構成と展開」という文脈で解明するために比較教育社会史的アプローチを試みた。
著者
小林 信之
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

高速搬送される柔軟体の挙動解明のために,Absolute nodal coordinate formulationを用いてモデル化し,ローラと柔軟体の接触を拘束方程式で記述した運動方程式の構築を行った.MATLAB上でプログラム化して,一定速度で搬送される場合と周期的に往復動する場合について数値シミュレーションを行った.その結果,一定速度で搬送される場合には,搬送速度が速くなるとダイバージェンス型の不安定が生じ,周期的に往復動する場合には,柔軟体の曲げ1次固有振動数の2倍の振動数で駆動することによりパラメトリック共振が生じることが明らかになった.Finite segment methodを用いたモデル化も行い,さらに既存の実験装置の改造と実験を行い,数値シミュレーション結果と比較した.その結果,一定速度で搬送される場合には低い速度領域でフラター型の不安定が,また,早い速度領域で搬送される場合にはダイバージェンス型の不安定が生じることが分かった.実験と解析に若干の差異があったことから,実験装置の改良およびモデル化に関する更なる検討を行う必要がある.また,柔軟体が周期的に往復動する場合には,柔軟体の曲げ1次固有振動数の2倍の振動数で駆動することによりパラメトリック共振が実験によっても計測されて,数値シミュレーションと実験が比較的良く一致することが分かった.接触問題をユニラテラルコンタクト問題と考えたモデル化手法について検討を行い,多点接触問題を伴う柔軟構造物の地震時の挙動解析に適用した.MATLAB上でプログラム化して,重心位置の高い大型構造物を対象に地震応答シミュレーションを行った.その結果,構造物のロッキング振動と下端部のすべりが連成した地震応答特性が明らかになり,本研究で展開した解析方法の有用性を示すことができたとともに柔軟体の不安定挙動についての知見を得た.
著者
小張 敬之 木村 みどり 木村 みどり
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ELPcoは、日本ユニシスと協力してLMsを開発してきた。LMsが、iPod等の携帯ツールを利用することにより、e-1earningやm-1earningを可能にし、新しい技術を統合的に利用して学習することが、学生の興味・関心を高め、自立した学習者を養成し、効果的な学習成果をあげている。ネットワークを利用した英語学習において、携帯電話は小さなコンピューターとして機能し、ドリルやテスト、チュートリアルやWeb上でのSocial learningも可能である。我々の研究により、新しい技術を融合したブレンド型の学習を通して、より理想的な指導と学習環境を提供できることが判明した。学習者は現在、モバイルコンピューターの技術発展により、時間と場所を問わずにあらゆるテーマに関する学習ができる。
著者
堀真 理子 佐藤 亨 外岡 尚美 伊達 直之
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

テロや戦争、災害や貧困、環境汚染といった現代の我々が世界で抱える問題を過去一世紀にわたって現代アイルランド、アメリカ、イギリスの詩人、劇作家、アーティストがどのように取り組み、それぞれの作品を通してどんな知と癒しを提供してきたかを考えるうえで、とくに古典ギリシア劇・神話に人間の知の原点を求めて作られたものに焦点を絞り、具体的にどのように古典が翻訳・翻案・脚色されてきたのか、その社会的役割や美学的意義を考察した。
著者
佐藤 亨
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は北アイルランドの文化、歴史、社会について、とくにアイルランドが南北に分断した 1921 年以降を中心として、広く、かつ深く研究し、北アイルランドの詩的想像力の諸相(文学作品やミューラル)を検証した。その主なる研究成果は『北アイルランドのミューラル』と北アイルランドないしアルスターを代表する詩人論(サミュエル・ファーガソン論とルイ・マクニース論)である。ほかに、プロテスタント地区とカトリック地区の境界であるインターフェイスを取り扱う論文も書き、北アイルランド紛争の現状についても考察した。北アイルランドに特化した本研究は、ポスト・植民地、ナショナリズム、少数派の問題などを抱える、世界中の他の紛争地域の研究にも貢献すると自負する
著者
田中 愛治
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究では、戦後の日本政治を特徴づけた「55年体制」と呼ばれたものが、国民意識の中では実態としては存在せず、一党優位体制を支えた有権者の意識と1993年の政権交代を引き起こした有権者の意識とは同一のものであるという仮説を検証しようとした。そこで「政治システム技術(system support)」という概念を導入することによって、戦後の変化を包括的に説明できる理論モデルを構築し、そのモデルを実証的に検証しようと試みた。研究は概ね研究計画通り進み、平成7年度には1989〜95年の自民党一党優位体制崩壊期の分析をし、平成7年10月には拙論「『55年体制』の崩壊とシステム・サポートの継続」を発表した。平成8年度には1972〜88年度までの自民党一党優位体制確立期まで遡って分析し、平成8年12月にはその成果を拙論「国民意識における『55年体制』の変容と崩壊」にて発表した。平成9年度には、「55年体制」が形成されたと考えられている1948〜60年までの日本人の政治意識を分析し、拙論「国民の政治意識における55年体制の形成」を平成9年9月に発表した。厳密には1960年代の時期の分析が完全には終了しておらず、成果を十分に発表していないが、対象となる期間の世論調査の結果は入手し、基本的な分析は終わったので、近いうちにこの部分も併せて、研究成果全体を発表したい。
著者
西川 雅史
出版者
青山学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

市町村の意志決定は、少なくとも住民による選挙(手による投票)と住民の移動(足による投票)とによって規律付けされていると考えられる。しかし、私たちの日常的感覚からすれば、こうした理論的前提を首肯し得ないことが多い。本研究プロジェクトでは、市町村データを用いて地方財政と地方議会選挙との関係を考察し、上記の前提の妥当性を疑う事実のいくつかを明らかにした。なお、あわせて「足による投票」の基礎的考察も行った。
著者
根岸 隆之
出版者
青山学院大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究では内分泌撹乱化学物質のヒトにおけるリスク評価、特に神経発達影響のリスク評価について有用な情報を提供するためにカニクイザルを用いた神経発達影響評価系の確立を試みた。まず、カニクイザルの神経発達を分子生物学的に評価した結果、生後直後から60日にかけて急激に発達することを明らかにした。また、この時期に甲状腺ホルモンを欠乏させると抑制性神経伝達システムの発達が妨げられることを明らかにした。加えて影響評価に適したカニクイザル胎仔由来神経系細胞の培養法を確立した。
著者
小林 信之 渡辺 昌宏 張 亜軍
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

船舶などで推進器として使用されているスクリューは,推進効率と運動性能の向上に限界がある.一方,進化の過程で最適化された水棲生物の泳動方法を見てみると,高い運動性能と高推進効率を有する泳動を行っていることが分かる.このことから,高効率で運動性能の高い船舶を開発する上で,水棲生物の泳動を模倣した研究は有益な知見をもたらすと考えられる.このため,本研究は柔軟なヒレの波動運動における波の数と振動数を変えられる水中推進機構の開発とその波動運動を滑らかに制御するための制御手法を構築した。水中推進機構の開発では、カムとフォロワーから構成されるスコッチヨーク機構を用いて柔軟なヒレに波動運動を発生させる水中推進機構を開発し,その機構を水槽内で泳動させることにより,柔らかいヒレの波の数と振動数の推進力と泳動速度への影響を調べた.また、波動運動を滑らかに制御する目的のために、水中推進機構の運動をマルチボディ・ダイナミクスの手法を用いて定式化した。運動方程式は幾何学的な拘束により非線形な微分代数方程式により表される。そして、運動制御のための制御系設計するための効率的な線形化手法を開発した。また、出力を用いたスライディングモード制御系の設計において、PD制御を併用する方法を提案し、より高い制御性能を得られる超平面設計を可能にした。実験から得られた以下の結果をいかに示す.(1)製作した水中推進機構は波の移動方向を変えることで前進と後進が可能である.(2)波の数が多くなると推力と泳動速度の変動が小さくなりスムーズな泳動が可能である.しかしながら,平均推力は小さい.(3)振動数が大きくなると平均推力と推力の変動は増大する.また,泳動速度は増大する.(4)波の数n=1程度の時,大きな平均泳動速度を得られる.(5)無次元振動数が大きくなると推進力と平均泳動速度は減少し,無次元振動数の値にかかわらず泳動速度の変動はほぼ一定である.
著者
大屋 多詠子
出版者
青山学院大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

読本演劇化作品について調査をすすめ、特に山東京伝の読本の演劇化作品の分析とその上演状況、またこの上演が曲亭馬琴に与えた影響について考察した論文を発表した。また馬琴と交流のあった上方の版元河内屋太助の出版活動について、特に読本と根本(歌舞伎台帳を出版したもの)の出版に注目し、その活動が読本作者に与えた影響を考察し、口頭発表を行った。
著者
平野 隆文
出版者
青山学院大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

1年目は,主に16世紀後半から17世紀初頭に多く刊行された。民衆的な小冊子である『カナール』 (瓦版)を採り上げ,そこに於ける悪魔の表象に関し分析を施した。瓦版の悪魔は,神の敵という側面を希薄にしており,専ら神の「エージェント」として,天の怒りを人間にもたらす存在へと変貌を遂げている。そのため, 「黒衣の男」として登場し,極めて残虐な「肉体的」刑罰を人間に加えている。ある意味で「人間的」な「暴力装置」として機能しており,魂を狙う伝統的な悪魔像は,ほぼ姿を消しているのである。また,医師ジャン・ヴァイヤーの「魔女論」にも分析を施し,この書が従来言われてきたように,魔女狩りの中止を訴えた「人道的」な書であるという固定観念を括弧に括り,その多様な側面を明らかにした。特に,数々のノンフィクションを差し挟んでいる点で,魔女論というジャンルでは,極めて異色な存在であることを明らかにできたと思われる。2年目は,ヴァイヤーの論敵として,常に激しい非難を浴びせた,16世紀後半のユマニスト,ジャン・ボダンの「魔女論」を主に採り上げた。ボダンのこの書は,帰納法的論理学を基に著された,厳密な意味での「論考」であり,魔女撲滅を狙った扇動的な文書であるという定説を覆すことができたと思われる。また,ボダンが,従来異端の範疇に括られていた魔女から,その宗教的な側面を徐々に剥ぎ落とし,刑事犯として裁こうとしている点も明らかにした。ボダンは,魔女の問題を.国家という観点から把握しており,国家を神の怒りから護るために,世俗の裁判権を重視したのである。尚,以上の研究成果は,約2年間に亙る雑誌『ふらんす』での連載(「悪魔のいるルネサンス」)及び1999年3月に東京大学に提出した博士学位論文という形に結実している。
著者
岩下 誠
出版者
青山学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

1資料・史料蒐集と読解:平成21年3月より翌22年3月まで一年間にわたってバーミンガム大学において在外研究に従事し、Lambeth Palace Library等を始め複数の図書館や地方文書館を訪れて史料調査を行う傍ら、バーミンガム大学のデジタル・アーカイヴズを駆使して史料蒐集と整理を行った。現時点で、21年度に蒐集した史料の5割程度の読解を完了した。2研究論文の執筆その他:今井康雄編『教育思想史』(有斐閣、2009年)にジョン・ロックの教育思想に関する論文を寄稿した。また、サラ・トリマーの教育活動に関する論文を21年7月に脱稿した。これは、Malcolm Dick and Jane Martin(ed.), Recovered from Hisrory : Women, Children and Education in the Eighteenth Century(Brewin Books, 2010)に掲載予定である。さらに、国教会系の民衆教育団体である国民協会の設立に関する論文を脱稿した(平成22年4月に、History of Education Society(UK)に投稿予定)。3学会発表その他:ユトレヒトで行われた国際教育史学会、イギリス・シェフィールドで行われた教育史学会をはじめ、複数の学会や研究会に参加し、内外の研究者と交流した。また、平成21年12月には、バーミンガム大学において国民協会の設立に関する口頭発表を、DOMUS Seminarで行った。4研究成果の意義と重要性:ロックに関する論文は、ロック思想を重商主義国家の統治技術として読解したものであり、本研究の思想史的側面の一部をなす。トリマー論文は2007年に発表した論文の英訳であるが、在外研究中に蒐集した一次史料を加えてより実証性を高めた。国民協会に関する報告および論文は、国民協会成立における国教徒内部の葛藤と調整の存在を明らかにし、19世紀初頭における国制変化の一部として国民協会の設立を理解する視座を示したものであり、このテーマに関する内外初の研究としてオリジナリティを有するものであると同時に、本研究の中核をなす成果であると確信している。
著者
ポダルコ ピョートル エルマコワ リュドミラ 太田 丈太郎 サヴェリエフ イゴリ ミハイロワ ユリア 清水 俊行 中村 善和 安井 亮平 長縄 光男 清水 俊行 澤田 和彦 長縄 光夫 中村 喜和 中嶋 毅 安井 亮平
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

平成18年4月より22年3月までの4年間に例会を20回、研究会合宿を2回(神戸市立大学、東北大学)行い、この間、研究会のニューズレター『異郷』(年3回発行)をno.21-32計12号を刊行し、論文集『ロシアと日本』を2冊(vol.7,8,2008年3月、2010年3月)を刊行した。
著者
鈴木 豊 杉山 学 斎藤 真哉 會田 一雄 隅田 一豊 筆谷 勇
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

国・地方自治体及び国・公営機関に対するアカウンタビリティの履行要求がわが国においても急速に高まっている。その理由は、税金の使途に対する国民、納税者の不満である。国・地方自治体は、租税収入及び公金収入そしてこれらの支出及び使途について法規準拠性のみならず近年では行政成果又は政策評価についてそのアカウンタビリティの履行を積極的に諸外国では開示し、監査を受けている。開示の基準が公会計基準であり、監査の基準が公監査基準である。公監査の内政府、自治体に対するものが政府監査基準である。本研究は、政府監査の構造とあるべき政府監査基準についてわが国及び諸外国の制度を研究し、わが国で今後設定されるべき基準を構築すべく検討したものである。第一年度は、各委員が分担して諸外国の制度と基準を研究した。第二年度は、これらをもとに総合的に論点をまとめわが国には存在しない、一般に認められた政府監査基準を構築するための研究を行った。これらにより下記の知見が得られこれを第一部「政府監査基準の構造と体系」にまとめ、第二部「政府・自治体外部監査の諸制度と基準」にまとめ最終報告とし、平成17年5月に書物として公刊した。第一部では、政府監査の基礎構造として特に、パブリックアカウンタビリティ、政府監査目的の類型化、政府監査人の独立性、政府監査公準、情報の保障、法律的、会計的、社会科学的、経営的アプローチを明らかにした。ついでこれら基礎概念をもとに政府監査の(1)一般基準、(2)財務監査基準、ここではリスクアプローチ、内部統制、(3)準拠性監査基準、ここでは、合規性、合法性の監査基準、(4)業績監査基準では、3E監査、VFM監査、業績(行政監査)について検討し、最後にあるべき政府監査基準の体系を提示した。第二部は、諸外国の制度と基準について、その特徴とわが国への導入の論点を包括的に研究したものである。
著者
山口 理沙
出版者
青山学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本年度は、前年度までの展開する教育関係について、総括的活動を試みた。その詳細は以下のとおりである。前年度より試みている『利休百首』について、論文の形にまとめることができた。茶の湯において文字として残された教育論を見出す作業として、道歌をその対象とし、検討を試みた。そのうえで、課題としていた『不白筆記』に見る教育論の位置づけを試みた。茶の湯における教育が、必ずしも口伝ではなく、テキストとして残されていた事実について、見出すことができた。関連して、茶の湯におけるテキストである茶書から教育論を見出す考察について、『不白筆記』を中心に、茶書の成立から位置づけをたどることから、教育史学会において提示した。教育史学へのアプローチを用いることによって新たに明らかとなったことは、ディシプリンとしての歴史、そして資料検討の重要性を重んじたうえで、教育史研究と教育思想研究の学際的見解から教育関係としての師弟関係の研究という展開余地である。教育学からの芸道教育の研究は先学に見出すことはできるが、それは方法論への還元を急いだ傾向がある。また、芸道広域を対象とするため、ひとつの技芸からの詳細な検討は展開余地がある。対象とする近世の茶の湯の教え学びの営みを「教育」のタームで扱うことについての妥当性については、「教育」の用語の成立背景を考えるならば、慎重にならねばならない。しかしながら、教え学びの営みという共通項を抽出することで、教育学の俎上で検討を試みることは、可能と考えられる。
著者
橋本 修 渡邊 慎也 松本 好太 KUMAR Pokharel Ramesh
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

無線通信環境の問題点を解決する設置環境側の対策手法の一つとして電波吸収体の適用が注目され、これまでにレイトレーシング法による解析や実験用ブースなどを使った実験的研究が広く行われ、種々の吸収体が提案されてきた。しかし、このような吸収体の提案に対して、1.無線LANを想定した環境で実際に無線LAN対応の電波吸収体を設置し、その通信環境の改善効果を実験で検討した例は極めて少ない。2.オフィス内の中央などで使用されるパーティションにおいても、電波が乱反射して影響を及ぼすといった恐れがあるが、パーティションなど室内に設置されたものに電波吸収機能を付加し、無線LANに対応した電波吸収体を検討した例は少ない。そこで、無線LAN環境改善をメインとし、下記の検討をそれぞれ行った。1.一般的な建物への適用を想定し、取り扱いが容易な一般内装建材を組み合わせた無線LAN対応の三層型電波吸収体を、小規模オフィスを模擬した空間に設置し、無線LAN実機を用いた伝搬実験を行った。この結果、まず壁1面への一般建材を用いた三層型吸収体の設置により、通信速度は設置前後で全ての測定点で向上し(平均40%)、吸収体設置による無線LAN通信速度の改善を確認した。2.パーティションに電波吸収機能を付加することで、無線LANで使用される周波数帯域に対応したパーティションタイプ電波吸収体について検討した。この結果、無線LANの使用周波数帯域である2.45GHzおよび5.2GHzにおいて、垂直入射で20dB以上、TE・TM両偏波および円偏波において、入射角度が5度から20度まで、15dB以上の吸収量が得られることを確認した。以上のことから、無線LAN用のパーティションタイプ電波吸収体の実現性を理論的かつ実験的に確認することができた。