著者
落合 和徳 松本 和紀 寺島 芳輝
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.365-369, 1994-10-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
9
被引用文献数
1

月経前症候群 (PMS) は月経前, 3~10日の間続く精神的あるいは身体症状で, 月経開始とともに減退ないし消失するものと定義されている。原因としては, エストロゲン・プロゲステロン失調説, βエンドルフィン上昇説, ビタミンB6欠乏説, 低血糖説, 自己免疫説などが提唱されているが, いまだ定説はない。したがって治療も多岐にわたって試みられており, 治療効果を客観的にとらえる必要がある。そこで我々は臨床症状を精神, 神経, 乳房, 水分貯留, 胃腸, 皮膚などの各症状に大別しそれぞれに0-20点を与え総計100点となるPMSスコアを作成した。治療前後で比較し, 治療前値の30%以下になったものを著効, 31~60%を有効とし桂枝茯苓丸エキス剤 (TJ-25) の効果を検討した。実証のPMS患者4名に投与したところ2名が著効, 2名が肩効であり副作用もなく, TJ-25の有効性が示された。
著者
後藤 博三 新谷 卓弘 三潴 忠道 寺澤 捷年
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.459-465, 1995-11-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
8
被引用文献数
1 2

慢性関節リウマチ (RA) においてアミロイドーシス (ア症) による腎障害は予後増悪因子として重要である。今回我々は, 全身性ア症による腎障害を伴ったRAに対し, 大防風湯を投与しRAの活動性と腎機能の改善を認めた一例を経験したので報告する。症例は64歳の女性。主訴は多関節痛。約10年前にRAの診断をうけ金製剤・副腎皮質ステロイド製剤等の投与を受けた。1993年2月に腎機能低下を認め, RAおよび腎障害の加療を希望し同年〓飯塚病院漢方診療科入院となった。入院時RAは Class II, Stage IV で, 胃十二指腸粘膜と腎糸球体にアミロイドの沈着を認め全身性ア症と診断した。大防風湯を投与し2週間後にランスバリー指数は64%から39%に改善し, 4週間後にS-Cr値が1.7mg/dlから1.5mg/dl, 1日尿蛋白が約4gから約2.5gに改善した。退院後, 1年以上を経過しているが, RAおよび腎機能とも増悪なく経過している。
著者
関口 由紀 畔越 陽子 河路 かおる 長崎 直美 永井 美江 金子 容子 吉田 実 窪田 吉信
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.268-272, 2014
被引用文献数
1

間質性膀胱炎/慢性骨盤痛症候群の疼痛緩和と自律神経失調症状の治療に漢方薬を西洋薬に併用した症例を4例提示した。1例目は42歳女性で,膀胱部痛・陰部痛にたいして竜胆寫肝湯を投与し,自律神経失調症状の改善と慢性疼痛による血流障害の改善に加味逍遥酸を用いた。2例目は51歳女性で,内臓を温めて下腹部痛を改善する安中散を用いた。3例目は49歳女性で,全身の冷えに対して真武湯合人参湯を用いた。4例目は27歳女性で,下半身の冷えに対して当帰四逆加呉茱萸生姜湯を用いた。間質性膀胱炎/慢性骨盤痛症候群の自律神経症状改善をめざす漢方治療が結果的に患者の気血水のバランスを整えていた。
著者
日沖 甚生 大萱 稔 舘 靖彦 村嶋 洋司
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.609-613, 1998-03-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
8
被引用文献数
1 2

芍薬甘草湯による副作用を呈した4症例を報告した。患者はすべて女性で年齢は60歳以上, 中間証から虚証であった。低カリウム血症が4例, 脱力感が3例, 浮腫が1例にそれぞれ認められた。副作用に対する治療は, 全例に対し芍薬甘草湯の投与を中止し, 過度の低カリウム血症を来した2症例に対してはカリウム製剤の投与を施行した。その結果血清カリウム値の是正に比例して, 脱力感と浮腫は改善した。過去の報告を含めて検討した結果, 芍薬甘草湯による副作用が発症する危険因子として, 患者が女性, 高齢者, 虚証, 水毒傾向であることなどが考えられた。
著者
周防 一平
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.147-154, 2015

岡部素道は昭和の日本鍼灸界における第一人者であった。その功績は,経絡治療の樹立,GHQ 旋風時のGHQ との直接交渉,北里研究所東洋医学総合研究所設立への貢献など数知れない。そこで筆者は昭和鍼灸史の見直しを目的とし,戦前における岡部の治療方法とその成立過程についての調査を行うこととした。岡部晩年の内弟子であった相澤良氏に対する岡部本人の談話の聞き取り調査,岡部最初の論文「古典に於ける補瀉論に就て」を中心とした岡部の著作,論文等の調査を行ったところ以下のことが判明した。<br>戦前の岡部の治療は,晩年の比較脈診による69難本治法とは異なり,六部定位による脈位脈状診に基づき診断を行い,単刺による一経補瀉を行っていた。<br>現在一般にいわれている昭和14年(1939)3月3日の新人弥生会結成が経絡治療の始まりではなく,昭和11年(1936)の段階で経絡治療の理論・臨床体系が出来上がっていた。
著者
井上 雅 横山 光彦 石井 亜矢乃 渡辺 豊彦 大和 豊子 公文 裕巳
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋醫學雜誌 = Japanese journal of oriental medicine (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.359-362, 2011-05-20
参考文献数
11

尿管結石の疝痛発作に対して芍薬甘草湯を投与し,その臨床的有用性を非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)と比較検討した。対象は尿管結石患者25名で,11名に対し芍薬甘草湯5.0gを内服させ,コントロール群として,14名にNSAIDsを内服させた。内服時,内服後15分,30分,60分にNRS(numerical rating scale)を用いて比較検討した。NRSは0点を全く痛みなし,10点を最も強い痛みとした。結果は芍薬甘草湯内服群では内服時NRSは6.7 ± 2.3点で,内服後15分で3.4 ± 3.5点と有意に軽減した。NSAIDs内服群では内服時8.3 ± 1.8点で,内服後15分では7.0 ± 1.9点と有意な鎮痛効果は認めたが,鎮痛効果は芍薬甘草湯の方が有意に優れていた。その他の時点においても同様の結果で,芍薬甘草湯は尿管結石の疝痛発作に対して即効性があり,NSAIDsよりも有意に鎮痛効果を認めた。
著者
谷川 久彦 遠田 裕政 岡本 洋明 森山 健三
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.91-94, 1986
被引用文献数
3 1

酸棗仁湯が嗜眠傾向に対して有効であった1症例につき報告した。患者は52歳の主婦で体格は小さく痩せており, いつも身体が疲れていて, 夜は十分眠れるのに昼間もなお眠く感じ, ともすれば横になり眠ってしまうような嗜眠傾向の状態であった。腹力はやや軟で臍上に動悸と臍傍に圧痛点を認めた。<br>初め, 当帰芍薬散料加附子と酸棗仁湯を交互に服用させたが, 後には, 酸棗仁湯を主として, 当帰芍薬散を兼用とした。約2ヵ月余で, 嗜眠傾向は全く改善された。<br>すでに報告した酸棗仁湯で有効な不眠症の2症例をも考慮してみると, 酸棗仁湯は不眠にも嗜眠にも有効であることが確かめられた。また, 不眠や嗜眠に対して, 酸棗仁を妙る妙らないは必ずしも関係なく, むしろその成分が煎液によく出ることが必要なのではないかと思われる。
著者
伊東 俊夫
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.349-352, 1992
被引用文献数
6

副腎皮質ホルモン剤投与中に柴苓湯を併用したところ, 血清補体値が正常化し, 副腎皮質ホルモン剤の減量が可能になったSLEの症例を経験した。21歳, 女性。平成2年5月より全身倦怠感, 食欲低下, 発熱, 多発性関節痛, 皮疹が出現, 入院。水着の露出部にほぼ一致して皮疹あり。軽度の貧血とリンパ球数の減少, 軽度蛋白尿陽性, 軽度の肝機能障害を認めた。抗核抗体, LE細胞, LEテストの陽性, 抗DNA抗体の増加, 血清補体C3値の低下を認めた。lupus band test 陽性。SLEと診断し, プレドニゾロン30mg投与を開始。解熱, 関節痛, 皮疹消失。血清補体値の正常化, 抗核抗体, 抗DNA抗体の低下を認めた。プレドニゾロンを漸減したところ, 血清補体C3値の低下を示し, 柴苓湯を併用したところ, 血清補体C3値が正常化したので, さらに漸減可能になった。SLEの治療において, 副腎皮質ホルモン剤の効果が不十分な場合や減量の際に柴苓湯の併用を考慮されるべきと思われる。
著者
上辻 章二 山村 学 權 雅憲 奥田 益司 山道 啓吾 山本 政勝
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.211-214, 1991
被引用文献数
1

正常ラットに閉塞性黄疸を作製し, 胆汁うっ滞型肝障害時に閉塞を解除, 解除後より小柴胡湯合茵〓蒿湯を投与し, 肝機能障害改善効果について検討した。<br>非投与群では, GOT, GPT, T-Bil, ALP 値は, 閉塞解除後徐々に改善し, 2週間後にはほぼ閉塞前値に回復するのに対して, 投与群では, GOT値およびALP値が解除3日目で非投与群に比べ有意に改善された (p<0.01およびp<0.001)。T-Bil値は解除5日目で有意に改善された(p<0.001)。<br>以上より, 小柴胡湯合茵〓蒿湯の閉塞性黄疸解除時よりの投与は, 胆汁うっ滞型肝障害に対し, 速やかな改善傾向を示し有効であった。
著者
加藤 耕平 及川 哲郎 花輪 壽彦
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋醫學雜誌 = Japanese journal of oriental medicine (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.374-381, 2011-05-20
被引用文献数
1 1

〔背景と目的〕漢方医学は食事を重視してきた医学であり,漢方薬には食用となる様々な植物が用いられている。したがって,栄養学との関連性があり,栄養学科の学生に対する漢方医学教育の必要性があると考えられる。しかしこれまで栄養学科の学生を対象にした意識調査は行われていない。このため栄養学科の学生に対して漢方薬(漢方医学)の意識調査を実施した。<br>〔方法〕管理栄養士養成課程の3年生に質問項目13のアンケートを行った。<br>〔結果〕9施設延べ509名から回答を得た。漢方薬(漢方医学)に「興味がある」と答えた学生は全体の59.3%であった。「興味がない」と答えた学生の86.4%は,その理由は「漢方薬(漢方医学)に触れる機会が少なく,よく分からない」と回答した。一方「授業で漢方薬を取り扱って欲しいですか」という問いに対して81.3%が「そう思う」と回答した。<br>〔結論〕漢方医学は,栄養学科の学生に対して教育的ニーズがあることが示唆された。
著者
篁 武郎
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋醫學雜誌 = Japanese journal of oriental medicine (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.533-537, 2009-09-20

大気とは胸中に居を定めて全身を支持する諸気の綱領である。心身に対する能力以上の負荷,空腹時や病後の重労働,下痢,破気薬の過剰摂取,極度の気虚などが原因となって大気は胸中から下陥し得る。<br>今回瀉下薬によって大気下陥した一症例を報告する。症例は39歳,女性。焦燥,情動失禁の治療中に,随伴する便秘に対して瀉下薬(麻子仁丸)を用いたところ,便秘の改善と共に大気下陥して呼吸困難,無気力などの症状を呈した。昇陥湯加減によりこれらの症状は軽快した。
著者
高 鵬飛 宗形 佳織 詹 睿 今津 嘉宏 松浦 恵子 相磯 貞和 渡辺 賢治
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.131-137, 2012
被引用文献数
3

日本の医学部における漢方医学教育と中国の中医薬大学(中医・中西医の教育課程)および医科大学(西洋医の教育課程)における中医学教育を比較した。日本の漢方医学教育は2001年に文部科学省の医学教育モデル・コア・カリキュラムに組み込まれたものの,6年間の約4000コマの講義数に対して,わずか8コマ程度である。一方,中国の中医薬大学では5年間の5割を中医学,残り5割を西洋医学の課程が占めている。また医科大学においても80コマの中医学講義がある。一方,教育内容に関しては日本の漢方教育や卒後教育は「傷寒論」と「金匱要略」を重視しているが,中国の中医学教育は中医陰陽五行学説や臓腑経絡理論などを重視している。現在,日本では卒後教育の強化により専門医数が増えつつある。一方で中国は中医学を専門とする医師が減少している。伝統医学を継承する根源となる教育は両国の伝統医学の発展にとって非常に重要であると示唆された。
著者
木村 容子 杵渕 彰 稲木 一元 佐藤 弘
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋醫學雜誌 = Japanese journal of oriental medicine (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.722-726, 2010-07-20
参考文献数
7

浅井貞庵の『方彙口訣』中暑門では,暑気あたりは,暑さだけでなく湿も関与し,寝冷え,納涼や冷飲食などで身体を冷やすことが原因であると述べている。湿度の高い暑さは胃腸内の気の巡りを阻害するが,五苓散は水気を取り除くことにより,暑気あたり全般に幅広く応用できる処方と解説している。本報告では暑い夏の最中に冷房室内で冷飲食をした後に心窩部痛を訴え,この心窩部痛に五苓散が有効であった2症例を経験したので提示する。症例1では安中散,また,症例2では六君子湯が無効であった。さらに,夏季の冷飲食後に生じた心窩部痛に五苓散を用いた19症例をまとめて検討したところ,舌苔が白かつ腹診で心下痞鞕を認める場合に効果が高いと考えられた。五苓散の腹証としては心下振水音が有名であるが,心下痞鞕が有効な場合もある。今回,冷飲食を誘引とする心窩部痛,舌白苔,心下痞鞕の併存は五苓散投与の目標となる可能性が考えられた。
著者
木下 恒雄
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.59-63, 1984

症例は昭和52年12月13日当院初診の顔面の熱 (ほてり) 感を主訴とする43才の男性である。52年12月16日よりTocopherol nicotinateを用い, 血圧のコントロールはほぼ良好であったが, 初診以前からある顔面の熱感が持続するので, 53年11月6日より黄連解毒湯を併用したところ, 12月下旬よりこの症状は次第に軽減し, 54年1月には消失した。初診前にみられた狭心症様発作は現在まで出現せず, しばしばみられた最低血圧の上昇も殆んどみられず, 良好なコントロールが得られた。56年11月28日からは証の変化により黄連解毒湯を中止し, 釣藤散に転方したが, その後も順調な経過を辿っている。<BR>本治験を通じ, 熱にも種々のパターンがあり鑑別が重要であること, 西洋薬との併用が有意義な場合があること, 慢性疾患であっても経過中の証の変化に注意すべきこと, 個の医学の重要性等の教訓を得た。