著者
竹谷 徳雄
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.185-190, 1989-01-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
19
被引用文献数
1 2

機能的夜尿症と考えられる62例に漢方随証治療を行った。頻尿が著明でない尿保持群20例において85%の有効率を示し, 全例に何らかの効果を認めた。一方, 頻尿を認める自発覚醒群10例, 夜尿群27例においては無効例がそれぞれ20%, 40%にみられ, 何らかの併用療法を必要とし, 難治な例がみられた。漢方方剤として葛根湯, 麻杏甘石湯, 越婢加朮湯, 柴胡桂枝湯, 桂枝加竜骨牡蛎湯, 小建中湯, 甘麦大棗湯を多用した。特にどの方剤が有効ということではなく, 病型に左右された。しかし越婢加朮湯については有効例がなく, 証の取り違いが考えられた。夜間覚醒困難を麻黄剤の証の一部に取り入れて用いたが, 有効率が他と変らず妥当であったと思われる。漢方治療は副作用が少なく, 長期にわたって容易に継続でき, かつ精神的・肉体的ストレスを和らげて目覚めやすくし, 頻尿も改善するので有用な治療法であると結論できる。
著者
小山 誠次
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.529-534, 1995-01-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
23
被引用文献数
2 1

加味逍遙散の出典は書物により一定しない。今日の10種薬物の処方からみれば,『和剤局方』には単に逍遙散のみ収載され,『女科撮要』,『内科摘要』には生姜, 薄荷を含まない8種薬物の処方が収載されているだけである。薛己以後,『万病回春』に初めて10種薬物の処方が登場する。また四物湯合方の出典も書物により一定しない。『和剤局方』には四物湯合方の記載はないが,『内科摘要』に8種薬物処方の加味逍遙散合四物湯の医案例がある。更に『勿誤薬室方函口訣』には10種薬物処方の加味逍遙散合四物湯は確かに記載されているが, 今回の調査でそれより約90年前の『療治経験筆記』に周身痒瘡に対する同合方の記載を見出した。一般的に方剤の出典は, 加味逍遙散のように成立経緯が複雑な場合, 構成の各段階に貢献のあった所作は全て出典の一部分をなし, 合方については原則的に複数処方を用いて著明な治験例があった所作が出典になると考察した。
著者
西岡 五夫
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.631-644, 1996-03-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

大黄の向精神作用について, 化学的, 行動薬理学的及び神経化学的検討を行い, 下記の結論を得た。1. 大黄の向精神作用成分は, RG-タレニンである。2. 大黄の向精神作用は, 典型抗精神病薬の作用によく一致するが, 行動毒性を伴わない特長がある。これは, カタレプシーなどを惹起しないこと, また脳内ドパミン神経系の黒質―線条体路に対する影響が少ないことから立証された。
著者
浜田 幸宏 赤瀬 朋秀 田代 眞一 佐川 賢一 島田 慈彦
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.645-650, 2003-05-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

最近, 使用量が急増している大建中湯エキス顆粒の使用実態を北里大学病院において6ヵ月間にわたり調査した。またその調査から剤形に関する問題点が浮かび上がったので大規模病院8施設において実際に服用実態を把握している看護師にアンケート調査を行った。大建中湯エキス顆粒は, 北里大学病院において, 主に婦人科および外科から処方されており, いずれも手術後が多かった。こうした患者への投薬は経管など看護師の手で行われていたことから大建中湯エキス顆粒を与薬する際に生ずる問題点を抽出する目的で行ったアンケート調査の結果, 与薬した患者からの苦情のうち8割以上は味や剤形に関する指摘であった。今回の調査において,臨床現場においてエキス顆粒という剤形の使い勝手のよくない事が明らかとなった。このことは粉砕・溶解など看護師の与薬業務に負担になっている可能性が示唆された。特に, 嚥下能力の低下した患者に投与する際にはさらに一歩すすんだ改良が必要であり, 煎剤を個別包装したスティック入り液状製剤のように, 使用性の優れた新しい漢方製剤が必要であると考えられた。
著者
塩谷 雄二 寺澤 捷年 伊藤 隆 嶋田 豊 喜多 敏明
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.615-623, 1998-03-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
23
被引用文献数
1

アトピー性皮膚炎は東洋医学的に風湿熱・血熱・血虚・〓血などと捉えられている。一般に温清飲, 治頭瘡一方, 消風散, 十味敗毒湯, 越婢加朮湯, 白虎加人参湯, 駆〓血剤などの方剤が広く用いられているが, 成人型のアトピー性皮膚炎の治療は容易ではないというのが実状である。これまでアトピー性皮膚炎の治療とされているものでは, アトピー性皮膚炎に特有の皮膚の乾燥症状 (ドライスキン) が改善されないことが多く臨床上の課題である。今回, 治療に難渋していた乾燥性紅斑型の5症例に対して加減一陰煎加亀板膠の加減方に転方したところ奏効が得られた。加減一陰煎加亀板膠は養血潤燥, 養陰生津, 養陰清熱の働きがあり, 皮膚の炎症だけでなく, ドライスキンも改善され, ステロイド外用剤の離脱が比較的容易にできた。アトピー性皮膚炎患者の皮膚はドライスキンによってバリアー機能が障害され, 汗, 衣服, 掻破などの機械的な刺激, あるいはダニなどの環境アレルゲン因子に対して敏感になっている。そのため, 治療としては消炎だけでなく, ドライスキンも改善しなければ, アトピー性皮膚炎の治療とはならない。ドライスキンは表皮角層の水分量の減少が主因であり, 治療上考慮されなければならない重要な側面であると考える。
著者
岡 洋志 犬塚 央 永嶺 宏一 野上 達也 貝沼 茂三郎 木村 豪雄 三潴 忠道
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.947-951, 2005-11-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
13
被引用文献数
3 1

黄耆桂枝五物湯は痺れや痛みに用いられる方剤であるが, 今回我々は同方を投与した29症例において, 有効例が18例で無効例が11例であった。有効群と無効群の自覚症状の違いを解析し, それらが処方決定の指標となると思われた。「寒がり」,「体全体が重い」はこれまでの報告にもみられた症候であり, 今回の検討でも強い傾向と特異性が見られた。さらに,「関節が痛む」,「皮膚が乾燥する」,「怒りっぽい」が無効群に比較して有効群に多く見られた。これらは今後, 黄耆桂枝五物湯を投与する上で特異性の高い使用目標となる可能性がある。
著者
中村 謙介 村山 和子 太田 東吾 貝田 豊郷 佐橋 佳郎 富田 寛 村山 暉之 盛 克巳
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.221-225, 1989-01-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
7

咽喉痛, 疲労倦怠感を主訴とした夏風邪の患者に麻黄附子細辛湯加甘草を与えたところ, 風邪症状と共に疲労倦怠感が消失した。以後患者は風邪とは無関係に疲労倦怠感の治療のために本方を服用するようになった。この症例にヒントを得て, 疲労倦怠感を主訴とする虚弱体質, 自律神経失調症, 術後疲労に本方を投与し効果を得ている。いまだ少数であるが印象に残った数例を報告し, 本方の有効な疲労倦怠感を明確にする目的で, 患者の自他覚症状の病態分類を試みた。この結果麻黄附子細辛湯証は陰証寒候, 虚証, 表証, 肺 (呼吸器) 症状, 水毒の五つの病態の混在したものであり, このうちの虚証が顕著となった易疲労倦怠に本方が有効であると結論した。
著者
伊東 俊夫 中山 志郎
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.445-449, 1998-01-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
17
被引用文献数
1 3

症例は64歳, 女性。平成7年10月より胸部, 下肢に点状出血斑が出現したため受診。ITPと診断し, ツムラ加味帰脾湯を投与したが, 血小板数の増加を認めないために入院。入院時血小板数は4.3万/μl。プレドニゾロン50mg/日の投与を開始したところ, 血小板数は20.0万/μlまで増加した。しかし, プレドニゾロンの漸減後は4.4万/μlまで低下した。そのために加味帰脾湯を併用で再投与したところ, 血小板数は最高27.1万/μlまで増加した。現在, プレドニゾロン8mg/日と加味帰脾湯の併用で外来通院中であるが, 血小板数は約10万/μlで, 経過良好である。本症例は加味帰脾湯単独投与では効果がみられなかったが, 副腎皮質ホルモン剤の減量後の再発時に再投与して血小板数の著しい増加を認めた点が興味深い症例である。今後, 副腎皮質ホルモン剤の減量の時に加味帰脾湯を併用することは再発を予防するために有意義であろうと結論した。
著者
田村 哲彦 石川 博通 田代 真一
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.623-628, 1999-01-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
6

これまで精液所見不良例に対して漢方療法が行われてきたが, エキス剤を画一的に使用した例が多く, 漢方本来の四診 (望診, 聞診, 問診, 切診) により証を決定し, 漢方処方を適用する弁証論治が行われた例は少ない。精液所見不良を主訴とする男性不妊33例に弁証論治による漢方湯液療法を試みた。気・血・津液 (水)・臓腋などに基づく症候を漢方四診により分類した結果, 肝気鬱証 (11例), 腎虚証 (5例), 脾気虚証 (9例), 痰湿証 (5例), 湿熱証 (3例) であり, 各々柴胡疏肝湯, 八味地黄丸・牛車腎気丸, 補中益気湯, 柴胡加竜骨牡蛎湯, 竜胆潟肝湯を基本とした処方を用いた。方剤は煎剤とし, 6ヶ月間投与した。この間, 証の変化に伴い方剤の変更, 加減を行った。従来, 男性不妊の漢方療法は腎虚証並びに脾気虚証を指標とする場合が多かったが, 本研究では肝気鬱証が11例 (33%) を占めた。投与前後の精液所見, 血清中のホルモンを比較した結果, 精子濃度, 運動率に有意差を認めなかったが, 血清テストステロン, エストラジオールは有意的に減少していた。妊娠例は肝気鬱証で4例, 脾気虚証, 痰湿証, 湿熱証の各群で各々1例認められた。
著者
中田 敬吾 細野 義郎 細野 八郎 坂口 弘 細野 史郎
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.257-276, 1986-04-20 (Released:2010-12-13)
参考文献数
12

慢性膵炎患者62名に対する臨床調査を行った。本疾患に対する有効率は著効有効合せると38.8%であった。主訴では腹痛が最も多く, 次いで腹部ガスによる腹部膨満感, 排便異常 (主に下痢または軟便), 背部痛の順であった。投与処方は加減方を入れると52種にのぼったが, 最も多く用いられていたのは柴胡桂枝湯およびその加味方であった。次いで疎肝湯, 半夏瀉心湯, 延年半夏湯, 安中散加茯苓, 六君子湯および加味方, 他の順であった。すなわち柴胡剤と補脾の剤がその主体をなしていた。このことはすなわち, 本疾患の病態として脾虚証の存在とともに肝の失調があることを示唆している。本疾患の原因に胆石の存在, アルコールの摂取過剰などが報告されているが, 今回の調査ではこれが該当する例は少なく, むしろ元来消化器が虚弱で, 低蛋白, 低栄養に起因すると考えられる例が多くを占めていた。
著者
張 瓏英
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.231-237, 1984-04-20 (Released:2010-12-13)
参考文献数
6
著者
寺澤 捷年 土佐 寛順 檜山 幸孝 三浦 圭子 今田屋 章
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.1-10, 1987-07-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
11
被引用文献数
3 2

奔豚気病と考えられた5症例を報告した。第1例は19歳女性, 発作性の胸内苦悶感と動悸を主訴とし, 苓桂甘棗湯が著効を奏した。第2例は30歳主婦。交通事故を契機に発症した発作性の身体の熱感と動悸である。桂枝加竜骨牡蠣湯と苓桂朮甘本湯のエキス剤で完治した。第3例は63歳男性。息切れ, めまい感を主訴に来院した。苓桂味甘湯に加味逍遥散を兼用して好結果を得た。第4例は35歳主婦。右半身のシビレと筋肉のヒキツリを主訴に来院。良枳湯が一時奏効したが, 再発し, 小品奔豚湯により寛解している。第5例は47歳主婦で, 動悸発作を主訴に来院。苓桂甘棗湯で主要な症状は改善したが, 心下の痞鞭と熱候があり金匱奔豚湯で良好な経過である。文献的にみると奔豚湯は金匱, 肘後, 小品, 広済など数多く, その方意も異なっている。治験としては苓桂甘棗湯がもっとも多く, 良枳湯, 桂枝加竜骨牡蠣湯, 金匱奔豚湯, 肘後奔豚湯も数例ずつみられる。しかし苓桂味甘湯と小品奔豚湯の報告はなく, 本報告が近年においてははじめての記載である。浅田宗伯は奔豚気病の認識と関心が深く,「独嘯庵, 奔豚気必ずしも奔豚湯を用ひずと言はれたれど, 余の門にては, 奔豚湯必ずしも奔豚を治するのみならずとして, 活用するなり」と貴重な口訣を残している。