著者
松永 康生 神田 径 高倉 伸一 小山 崇夫 小川 康雄 関 香織 鈴木 惇史 齋藤 全史郎
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

草津白根山は長野県と群馬県の境に位置する、標高2000mほどの活火山である。山頂に位置する湯釜は強酸性の湖水を有し、その地下では度々活発な地震活動が観測されている。また、本白根山麓には草津温泉や万代鉱温泉などの湧出量の豊富な源泉が存在することから、山体の地下には熱水系が発達しているものと考えられている。地球化学的な研究によれば山頂部の噴気や湯釜湖水、また山腹の幾つかの温泉は、気液分離した貯留層由来である一方、本白根山麓の草津温泉や万代鉱温泉などは、より初生的なマグマ性流体がこの貯留層を経由せずに天水と希釈され噴出したものと解釈されている(Ohba et al., 2000)。白根山を東西に横断する測線にて行われたAMT法による調査では、深さ3~4kmまでの比抵抗構造が明らかにされ、山体の西側に厚さ最大1kmほどの低比抵抗体が見つかった。これは変質した第三紀火山岩であると解釈されている。地球化学的な調査と合わせるとこの変質帯が不透水層として働くことで、山腹の温泉と山麓の温泉のそれぞれの経路を分け、混合を妨げていると考えられた(Nurhasan et al., 2006)。また、万代鉱周辺で行われたAMT法による調査では、源泉より地下へと広がる低比抵抗体が確認され、こちらは流体の供給路と解釈されている(神田ほか, 2014)。このように源泉ごとの生成過程の違いや、地下浅部の構造はある程度は分かっているものの、より詳細な深部の構造については未だによく分かっていない。そのため今回は表層への熱水の供給経路やその供給源、さらには草津白根山の火山活動全体の駆動源であるマグマ溜りの位置を明らかにすることを目的とした広域帯MT観測を本白根山において行った。調査は山体西側の万座温泉から本白根山頂を経て万代鉱温泉に至る東西約10kmの測線上の計12点において広帯域MT観測を行った。得られたデータのうち三次元性の強いデータを除去し、Ogawa and Uchida(1996)によるコードを用いて2次元インバージョンを行った。このようにして得られた比抵抗構造の特徴として、①山頂から西側の万座温泉地下へと細長く伸びる長さ数キロほどの低比抵抗体②東斜面の表層付近に広がる低比抵抗体③東斜面深部に見られる高比抵抗の大きなブロックの存在があげられる。②については、前述のAMT法観測(Nurhasan et al., 2006)により推定された変質した第三紀火山岩であると考えられる。この低比抵抗体の下部には深部へと続く高比抵抗ブロック(③)が見られる。ただし、観測データのうち特に長周期側で得られたデータは人工ノイズ源の影響を受けている可能性もあり、このような構造が実際に存在するかはよりデータを精査し検討する必要がある。ポスターでは、これまでに得られている結果について発表する。
著者
松尾 良子 中川 光弘
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

ニセコ火山群は,南西北海道火山地域の北端に位置する東西25km,南北15kmにおよび,10以上の成層火山や溶岩ドームからなる第四紀火山群である.これまでのニセコ火山群の地質学的研究は,広川・村山(1955)による図幅調査に始まり,大場(1960)や NEDO(1986,1987)により行われている.これらの結果からその噴火活動は約160万年前には開始し,西から東へと新しい火山体を形成しながら現在まで活動が継続していることが明らかになった.地形や噴気活動の有無から,イワオヌプリ火山は,ニセコ火山群の中でも最も新しい火山体とされる.奥野(2003)によって,イワオヌプリ起源と考えられるテフラが見出され,その年代として約6000年前の14C年代値が報告された.しかしながら,奥野(2003)では測定された14C年代値についての信頼度は低いことを指摘しており,またその噴火の様式や給源火口については明らかにされていない.そこで我々は,ニセコ火山の特に完新世の噴火活動履歴と様式を明らかにすることを目的として,地質学的研究を進めている. これまではイワオヌプリとニトヌプリの両方が,ニセコ火山群では最も新しい山体として捉えられることが多かった.イワオヌプリ火山及びニトヌプリ火山を構成する岩石は,斑晶として斜長石,単斜輝石,斜方輝石および磁鉄鉱を含む安山岩である.これに加えてイワオヌプリ火山の岩石は斑晶として角閃石を含まないが,ニトヌプリ火山の多くの岩石は角閃石斑晶を含む.また,全岩化学組成では,両火山はハーカー図上で多くの元素でそれぞれ別の組成変化を示していることで区別できる.両者の噴出中心の位置的違い,被覆関係および岩石学的性質から,両者は独立した火山として考えるべきである.よって本研究では,ニトヌプリ火山活動後に活動したイワオヌプリ火山のみを,ニセコ火山の最新の活動期として取り扱う. イワオヌプリ火山(標高1,116m)は,ニセコ火山群東部に位置し,ニトヌプリ火山活動後,その東側に形成された比高約350m,基底直径約2kmで,火砕丘や複数の溶岩ドームおよび溶岩から構成される火山である.火山体の西側には,直径約800mのイワオヌプリ大火口火砕丘があり,その頂部には直径約1kmのイワオヌプリ大火口が開口している.その火口内部には小イワオヌプリと呼ばれる小型の溶岩ドームが形成されており,それを覆って,大イワオヌプリと呼ばれる山体が形成されている.下部の溶岩ドームと山頂部から東側にかけての複数枚の溶岩から形成されている.さらに,五色温泉火口などの複数の小火口が火山体全域に認められる.イワオヌプリ火山については,被覆関係と噴火様式,噴出中心の違いから,①イワオヌプリ大火口火砕岩類②小イワオヌプリ溶岩ドーム③大イワオヌプリ下部溶岩ドーム④大イワオヌプリ上部溶岩類⑤イワオヌプリ水蒸気噴火火砕岩類の5つのユニットに区分できる. 最初の活動である,イワオヌプリ大火口火砕岩類を形成した活動は,まず水蒸気噴火から始まり,その後はマグマ噴火に移行し爆発的噴火により噴煙柱を形成し,その過程で断続的に火砕流が発生した.この噴火に伴うテフラが奥野(2003)で見出したNsIw-1テフラである.このテフラは東方から西方に向かって層厚および構成物の粒径が増大し,イワオヌプリ大火口火砕丘に対比できる.今回新たに試料を採取し,火砕流中の炭化木片からは9480 cal. yBP,テフラ直下の土壌からは10910 cal.yBPの14C年代が得られた.よってイワオヌプリ火山の活動開始は約9500年前であることが明らかになった.その後は,溶岩ドームの形成や溶岩流出を繰り返し山体が成長した.これらの山体には多くの爆裂火口が形成されており,水蒸気噴火やマグマ水蒸気噴火なども並行して頻発したと考えられる.確認された最後のマグマ噴火は,山頂部から大イワオヌプリ上部溶岩類の流出であるが,水蒸気噴火はその後も発生している可能性が高い.実際に五色温泉近くでの爆発角礫岩層の年代としてmodernという炭素年代測定結果が得られた.今回の調査では最初期の活動年代は明らかにできたが,その後の噴火史についてまだ十分な議論はできない.しかし,9500年前の噴火後の山体の成長と,多数の新しい爆裂火口の存在を考えると,イワオヌプリ火山は完新世を通じて活動した,活動度の高い火山の可能性が高い.
著者
三反畑 修 綿田 辰吾 佐竹 健治 深尾 良夫 杉岡 裕子 伊藤 亜妃 塩原 肇
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

2015年5月2日に鳥島の近海で発生したM5.7の地震は,震央から約100km北方の八丈島では60cmの津波が観測されるなど,地震の規模から想定されたよりも大きな津波を引き起こした「津波地震」であったと言える.Global CMT解の震源は,伊豆・小笠原海溝に沿った火山体である須美寿カルデラ付近の地下浅部に定まっている.この地域では規模・震源メカニズムの類した地震が,1984年,1996年,2006年に観測され,同様に津波を発生させている(Satake and Gusman, 2015, SSJ).1984年の地震に関して,Satake and Kanamori (1991, JGR) は長波近似を用いた津波伝播シミュレーションにより,円形の隆起の津波波源モデルを提案した.震源メカニズムは地下浅部でマグマ貫入に伴う水圧破砕(Kanamori et al., 1993)や,カルデラの環状断層(Ekström, 1994, EPSL)の火山活動に伴うCLVD型の地震モデルが推定されている.2015年の鳥島地震による津波は,海洋研究開発機構が設置した10の海底水圧計から成る観測点アレーによって観測された.水圧計アレーでの観測波形は,波束の到達時間が長周期ほど遅くなる分散波としての特徴を示しており,特に位相波面の到来方向が観測点と震源を結ぶ方向から,低周波の位相波面ほど大きく外れるという特異な傾向が確認された(深尾ほか,本大会).本研究では,津波を分散性の線形重力波として扱い,周波数ごとの位相波面およびエネルギー波束の波線追跡をおこなった.まず,線形重力波の理論式と平滑化した水深データを用いて,各周波数での二次元位相速度場・群速度場を反復計算により帰納的に計算した.位相速度・群速度の両速度場を用いることで,周波数ごとの位相波面およびエネルギー波束の伝播時間の測定が可能になる.そして,球面上の地震波表面波の波線方程式(Sobel and Seggern, 1978, BSSA; Jobert and Jobert, 1983, GRLなど)と同様な方程式について数値積分を行い,須美寿カルデラを波源とする各周波数の波線を追跡した.周波数に依存する波線追跡の結果,低周波の波ほど水深の影響を受けて波線が大きく曲がる様子が確認された.特に,波源から北東へ射出した波線が北側に大きく曲がり,周波数が低いほど波面の進行方向が変化する傾向が見られた.この結果は,水圧計アレーに入射する位相波面の到来方向が周波数に依存して変化するという観測結果と調和的である.また,波線追跡に基づくエネルギー波束(群速度)の到達時間は,水圧計アレーの各周波数帯における波束の最大振幅の到達時間によく一致した.さらに,周波数帯によらず波源の北方向で波線が集中する様子が確認された.この結果は,北側の広い方向に放射された波が地形変化による速度勾配によりエネルギーが集中することで,八丈島での振幅が大きくなった可能性を示唆している.本手法による周波数に依存する波線追跡により,長波近似がよく成り立つ長周期の波動だけでなく,分散効果により後続波として到達する高周波の波についても同様に波線を追跡し,津波伝播の特徴をより詳細まで捉えることができる.例えば,周波数帯ごとの津波の伝播経路上の特徴的な地形が波形に与える影響を考察することや,高周波の後続波を含むエネルギー波束の到達時間を,少ない計算量で推定することが可能になる.
著者
村瀬俊樹 岩崎俊#
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第59回総会
巻号頁・発行日
2017-09-27

問 題 自己決定理論(Deci & Ryan, 1970)では,動機づけを内発的なものに促進するものとして,自律性への欲求,有能さへの欲求,関係性への欲求という3つの心理的欲求の充足が関連していると考えられている。本研究は,自己決定理論に基づき,大学生の運動部活動における動機づけに,以上の3つの心理的欲求の充足がどのように関連しているのかを明らかにすることを目的とする。また,動機づけと心理的欲求の充足との関係が,学年によって異なるのかどうかを検討することも目的とする。方 法調査対象者 運動部に所属している島根大学生1~4年生74名を対象とした(1年生29名,2年生21名,3年生16名,4年生8名; 男性58名,女性16名)。質問項目 質問項目は,部活動への動機づけ(12項目),自律性への欲求の充足(8項目),有能さへの欲求の充足(10項目),関係性への欲求の充足(11項目)から構成され,6件法で回答を求めた。結 果部活動への動機づけ 動機づけに関する質問項目を因子分析した結果,内発的・同一化動機づけ因子,外的調整動機付け因子,取り入れ動機付け因子の3因子が抽出された。心理的欲求の充足 自律性への欲求の充足,有能さへの欲求の充足,関係性への欲求の充足について,それぞれ因子分析を行った。その結果,自律性については,1因子構造であった。有能さについては,身体的有能感と統制的有能感の2因子が抽出された。関係性については,被信頼感と安心感の2因子が抽出された。動機づけと心理的欲求の充足との関係 動機づけの各因子に対応する尺度得点を目的変数,3つの心理的欲求の充足の各因子に対応する尺度得点を説明変数として重回帰分析を行った結果,内発的・同一化動機づけ得点へは,統制的有能感得点と身体的有能感得点から有意な正の標準偏回帰係数が見られた。外的調整動機づけ得点へは,自律性得点から有意な負の標準偏回帰係数が見られた。学年による違い 1年生29人,3・4年生24人それぞれについて,動機づけ各得点を目的変数,心理的欲求の充足各得点を説明変数として重回帰分析を行った。その結果,内発的・同一化得点へは,1年生では信頼感と統制的有能感から有意な正の標準偏回帰係数が見られ,3・4年生では統制的有能感と身体的有能感から有意な正の標準偏回帰係数が見られた。また,外的調整得点へは,1年生も3・4年生も,自律性から有意な負の標準偏回帰係数が見られた。考 察 自己決定理論では,自律性を最も重視しているが,本研究の結果では,内発的な動機付けを最も説明していたのは,統制的有能感であった。これには,文化的な要因,すなわち,日本人の「努力」を重視する傾向が働いている可能性がある。ただし,自律性への欲求の充足も,それが満たされないことが動機づけを外的調整的なものにしているという点で働いている。 学年による違いでは,内発的・同一化動機づけに対して,統制的有能感がいずれの学年でも正の関連性を示していたが,1年生では関係性についての1つの因子である信頼感への欲求の充足が正の関連性を示していたのに対して,3・4年生では身体的有能感が正の関連性を示すというように,他者との関係性から部活動を行う上での身体的能力へと動機づけと関連する欲求が変化している。
著者
郡司菜津美
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第59回総会
巻号頁・発行日
2017-09-27

問題と目的 学校教員の指導の基礎となる生徒指導堤要には,性に関する指導は「すべての教育活動を通して実施するもの(文部科学省,2010)」と記されている。しかし,大学の教員養成の段階で,性教育指導に関する必須カリキュラムは未だ組まれておらず,教員志望の学生らは,性教育に関する指導スキルを十分に身につけていないまま現場に出て行くことが課題であると指摘されている(天野ら,2001:西田ら,2005:児島,2015:長田ら,2016)。一方で教員を志望する学生自身は,性教育の指導を自己の生活との関わり(自己関与性)の高いものであると捉えており,その理由には取得予定免許種間で質的な差があることが明らかになっている(郡司, 2016)。同調査では,こうした結果から,学生の性教育に対する捉え方や,性に関する指導観の多様性に配慮した授業実施の必要性が指摘された。そこで,本研究では,こうした学生の指導観の多様性を資源化するアクティブ・ラーニングの手法を用いた性に関する指導に関する授業を実施し,多様な価値観を交流させ,その学習効果を検討することを目的とする。方 法 首都圏の私立A大学の教職に関する講義を受講する学部生104名(主に2年生)を対象に,2016年7月,「性に関する正しい知識を指導できるようになろう」という課題を解決するProject Based Learning形式で授業を実施した。授業では筆者が高等学校を対象とする性教育講演で用いるPPT資料を配布し(内容は❶第2次性徴&デートDV❷妊娠と中絶❸性感染症❹性的マイノリティ),1チーム4グループ(3〜4人×4G)で構成し,それぞれの内容の資料を元に授業案を作成,その場で互いに模擬授業を実施させた。授業後に感想を記入させ,それをデータとした。感想記入への協力は事前に(1)授業・成績とは無関係 (2)匿名 (3)データは研究以外の目的に使用されないことを確認した。結果と考察 記入された感想を意味のあるまとまりに切片化したところ,205切片に分けられた。それらをKJ法を用いて分類したところ,「①学習内容について(72)」「②伝え方・教え方(57)」「③性教育観(29)」「④聞き手・学習者の立場(20)」「⑤仲間との交流(7)」「⑥恥ずかしさ(6)」「⑦担当内容について(6)」「⑧自己認識(4)」「⑨その他(4)」の九つに分けられた。以下,幾つかの結果と考察を簡潔に述べる。 「①学習内容について」では「感染症とかも気づかないうちにどんどん広がっていくというのは怖いなと思いました」「コンドームは最初から正しく清潔に行うことが必要と感じた」「最近ではLGBTなどが増えてきているがこれは別におかしいわけではないことがわかった」「初めてデートDVという言葉を知りました」といったように授業内で取り扱った内容について学習者の視点で記述されたものが分類された。仲間と相談し学習内容を教える,グループの仲間に教えられるという経験から具体的な内容が記述されたと考えられる。 「②伝え方・教え方」「③性教育観」「④聞き手・学習者の立場」では,それぞれ「②表現方法,伝達方法によって生徒の受け止め方が大きく異なってくると大きく感じた」「③子供達の人生を守っていくために私たちが『やらなければならない』という使命感が次第に生まれてきた」「④高校生相手だともっと伝えるのが大変で受け入れ難いかもしれない」といったように授業者としての視点で記述されたものが分類された。性教育の指導経験を通して,学習者から指導者としての新たな気付きを得る機会となったと考えられる。 「⑤仲間との交流」では「同じ世代の率直な意見を言い合える場があってよかった」といったように授業の場に意義を感じる記述が分類された。性教育指導について「学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく(中央教育審議会,2012)」経験となった可能性があるだろう。 「⑥恥ずかしさ」では「初めての性授業はやっぱり恥ずかしかった」といったように性教育に特有の恥ずかしさに関する記述が分類された。一方で「筆者の授業を通して性教育と関わる機会が多くなったので人前で性について真剣に話すことに抵抗がなくなってきた」と記述する学生もおり,協働の機会によって教師としての振る舞いを学習し,性教育特有の恥ずかしさを乗り越えるための「慣れ」を経験している可能性が示唆された。 以上の結果から,多様な仲間との対話的な協働機会としての性教育指導の経験は,学習者・指導者としての両側面の認識に影響を与え,恥ずかしさを伴う深い学びの機会となった可能性がある。こうした学びはアクティブ・ラーニング形式の授業による主体的な場の効果であり,未来の教職への備えとして期待できるだろう。