著者
矢野 久
出版者
慶應義塾経済学会
雑誌
三田学会雑誌 (ISSN:00266760)
巻号頁・発行日
vol.109, no.1, pp.1-48, 2016-04

会長講演本稿では, 1970年代後半から80年代半ばに(西)ドイツの歴史学において議論された問題, 「歴史的社会科学」か「社会史の文化論的転回」かという議論に焦点を当てる。歴史的社会科学とそのパラダイムに対抗した「日常史」・「歴史人類学的社会史」における歴史研究の方法と観点, 問題設定や研究対象に関する議論を追い, この「社会史の文化論的転回」への歴史研究の展開過程を解明する。欧米の歴史学との比較において(西)ドイツ歴史学の特徴を浮き彫りにする。This study focuses on a problem discussed from the mid-1970s to the 1980s in West Germany : the controversy over ,,historical social science" or ,,cultural turn in social history." This study follows discussions regarding approaches, aspects, question setting, and subjects of historical studies in ,,everyday history" (Alltagsgeschichte) and ,,anthropological social history" (Anthropologische Sozialgeschichte) as opposed to historical social science and its paradigm. Further, it investigates the process of how the ,,cultural turn in social history" evolved. In addition, this study compares (West) German historiography with traditional and social science historiography, in the process clarifying its characteristics.
著者
山崎 彰
出版者
社会経済史学会
雑誌
社会経済史学 = Socio-economic history (ISSN:00380113)
巻号頁・発行日
vol.81, no.4, pp.587-608, 2016

本研究は,ブランデンブルクの貴族家であるマルヴィッツ家を対象として,19世紀に同家の所領(農場)の所有形態がレーエン(封)から世襲財産へと移行した歴史的意義を検討した。レーエンでは所領は狭く領主家に限らず,親族全体の経済的基盤としての意味を持たされ,遺産相続においては共同相続人に対する平等の分割を前提としていた。しかし18世紀に領主家によるフリーデルスドルフ領の開発が進み,所領の評価価値が上昇するにつれ,共同相続人に対して遺産配分のために発行される抵当債券の残高が増大し,かえって領主家の財務状況を悪化させた。領主家は,18世紀後半には富裕な貴族家との縁組みを通じた嫁資の獲得によって債券の回収をはかったが,しかし19世紀前半には農場収益の大半が利払いによって費消されるほど,財務状況は悪化した。マルヴィッツ家によるレーエン制の廃止と世襲財産の導入(1854年)は,新規借入を停止し,農場資産の一括した継承権を長子に認めた上で,相続人から傍系男子親族を排除することによって,貴族家における親族制度の解体と小家族制の成立を意味するものとなった。