著者
鈴木 紀子 竹内 勇剛 石井 和夫 岡田 美智男
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.1328-1338, 2000-05-15
参考文献数
15
被引用文献数
8

人間は自分の発話や動作の一部を相手に真似されると,その相手の模倣的な振舞いの背後に自分に対して積極的に働きかける姿勢や感情を見いだしてしまう.その結果,相手に対する共感的な感情が生まれ,情緒的な関係の形成・維持が促進される可能性が高い.このことを検証するために本論文では,直前に発せられた発話を非分節音に変換し,音声の大きさ,リズム,イントネーションといったプロソディのレベルで模倣する機能を備えた仮想的なクリーチャをコンピュータ上に構築した.また,このクリーチャに対して発した音声を模倣されることによって引き起こされる心理的な影響について調べた.心理的評定実験では,直前に発した発話のプロソディを反響的に模倣する模倣的音声が占める割合と,一定のプロソディの音声を発する非模倣的音声が占める割合とが異なる3種類のクリーチャを用意し,各クリーチャとの相互作用に対する印象の評定を行った.その結果,被験者の発した音声に対する応答のうち,模倣的音声の占める割合の高いクリーチャほど,被験者のそのクリーチャの態度に対する好感度の評定値が高くなることを確認した.この結果は,自分の発話を反響的に模倣されることによって,非生物である仮想的なクリーチャに対しても共感的な感情をいだく可能性があることを示唆している.In this paper we describe results from an experiment of an interactionwith an artificial creature that mimics human voice echoicly usinginarticulate sound.We consider that humans are apt to find apartner's intention or emotion to themselves,when the partner mimics their utterance echoicly under prosodic level.As a result,we regardthat empathic interaction emerge among them.We test this hypothesisby having subjects interact with three artificial creatures that givedifferent rates of their respective response,mimicked prosody voice or constant prosody voice.Subjects' evaluations of the creature werecollected with a questionnaire according to impression of interactionwith the creature.The result suggests that the higher the mimicryrate is for the creature,the more positive the impression of the subject is.We consider that the result supported our hypothesis thatthe echoic mimicry is a key for the emergence of empathic interactionbetween humans and computers.
著者
村上 亮
出版者
史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.99, no.4, pp.558-586, 2016-07

本稿は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ併合(一九〇八年一○月) を題材として、ハプスブルク独特の二重帝国体制に従来とは異なる角度から光をあてることを目的とする。とくに今回は、他の首脳に先がけて併合を上奏した共通財務相ブリアーンに着目する。具体的には彼による二つの『建自書』を中心に、併合に至るハプスブルク国内の動向の検討から、オーストリアとハンガリーの枠組みをこえた帝国全体に関わる案件(「共通案件」) の決定過程を浮き彫りにする。考察の結果、ブリアーンが占領状態に起因する民族運動をおさえるために併合を発意したこと、ブリアーンの計画が共通外務相エーレンタールらの影響を受けつつも、併合への道筋を整えたことが示される。ただし、ハプスブルク家の継承法(「国事詔書」) をめぐる折衝の不調は、ボスニアの「合法的」な併合を不可能とした。ここからは、帝国中枢における政策決定の多元性と機能不全がみてとれるのである。
著者
藤岡 真樹
出版者
史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.99, no.3, pp.419-456, 2016-05

本稿は、ハーヴァード大学ロシア研究センターが空軍の人材開発研究所との契約研究に基づいて実施したソ連研究である難民聞き取り計画(RIP、一九五〇年~五四年) の歴史的経緯を大学と軍部との人的ネットワークに注目しつつ解明しようとするものである。一九五〇年、人材開発研究所とロシア研究センターは、ソ連空爆にあたっての都市選定を目的とした研究契約を締結し、ドイツとオーストリア等に居住していたソ連人難民への聞き取り調査を開始した。しかし研究者達が人々の行動に関する行動科学研究への強い関心を抱いていたことから、RIPは「ソ連の社会制度の研究」へと変貌した。これに対し連邦議会をはじめとする反共主義者が激しい攻撃を浴びせた結果、RIPは中止に追い込まれた。RIPの研究成果はその後に刊行されたものの、それらは軍部との人的ネットワークの緊密さゆえに、ソ連人難民に関する貴重な資料を用いながらもソ連の制度や社会に対する画期的な視座や知見を提示することができないという意味で、学術的な「停滞」に陥ったことを示すものとなった。ただし、こうした「停滞」状況は軍部とのネットワークが消滅することで大きく変わることになる。