著者
上田 耕介
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.59-69, 2015-07-16 (Released:2018-03-28)
参考文献数
16

マイケル・マンの斬新な理論には,歴史研究・現代社会分析にとって,大きな可能性が秘められている.従来の社会学理論の主流は,全体社会を想定したうえで,その諸要素(次元,下位システム等)のいずれかに社会形成の要因を見いだす,というものであった(「要因論」的分析).マンは,明確に境界づけられた全体社会の存在を否定し,「境界を異にする多様なネットワーク群」から社会が構成される,と見る.その上で,支配的ネットワークの「間隙」から新ネットワークが成長し,社会変動を引きおこす,とする(「組織論」的分析).そうした新旧ネットワークのうち,大きな力を持つのが,「イデオロギー」「経済」「軍事」「政治」の4つの「力の源泉」である.この枠組には,従来の社会理論において軽視されてきた軍事と国家間関係が含まれており,マン理論は,社会学理論の発展にとっての重要な貢献となっている.
著者
上田 耕介
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.39-61, 2015-07-10 (Released:2022-01-21)
参考文献数
26

本稿は、資本主義の現状擁護論者と考えられていたダールの思想を検討し、その通説的解釈の誤りを指摘し、ダール思想の意義を論じる。最初に、ダール思想の解析の手がかりとすべく、あまり注目されてこなかったダールの生い立ちを少し詳しく見ていき、その上で、著作の検討に入る。ダールは、資本主義と社会主義の二分法を否定し、言わばダール版「イデオロギーの終焉」を宣言する。経済のあるべき姿は、「社会的諸目標」による。「社会的諸目標」とは「平等な自由の拡大」であり、ダールは格差擁護論を批判する。ダールの見るところ、最大の問題は、市場イデオロギーであった。こうしたダールの思想は、市場原理主義が世界を覆っている今日こそ、意義を持つものである。最後に、ダールの議論を手がかりに、市場イデオロギーの弱い日本で市場原理主義が力を持つ理由を論じる。
著者
上田 耕造 松井 久次 MALHOTORA Ripudaman 野村 正勝
出版者
公益社団法人 石油学会
雑誌
石油学会誌 (ISSN:05824664)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.62-70, 1991
被引用文献数
3

石油精製の過程で副生する減圧残さ等の重質油を熱分解や水素化分解により使いやすい燃料に変換する接術開発において, 反応物の化学組成に関する情報は重要である。減圧残さは分子量の大きい複雑な炭化水素の集合体であり, 原産地が違えばその化学組成が大幅に違い, 熱分解や水素化分解に対する反応特性も異なったものとなる。減圧残さをキャラクタライズする方法としては組成分析法やNMRによる平均構造解析法があるが, プロセスの過程における化学組成の変動や得られる生成物の性状を理解するためには原料油の複雑なマトリックスの中から反応により大きく影響をうける化合物群を抽出し, その割合や同族体の炭素数分布といった化学組成について詳細で定量的な情報が必要である。石炭液化油についてはHPLC/FI-MSを組み合せた方法を用いてこれまで相当詳しく調べられているが, 石油系重質油については非常に複雑な化学組成をもつため研究例が少ない。HPLC/FI-MSによる分析で最も詳細な研究は Bodusznski1) が vacuum gas oil (650~1,000°F) を蒸留によりせまい範囲の留分にカットし, その各留分を更にHPLCで分離した後, FI-MSの測定により化合物群を同定したものがある。また減圧残さ (>1,000°F) については, 飽和成分2)やペンタン可溶分1)で試みた例があるが全成分についての詳細な分析例は見当たらない。<br>我々は既報3)で述べたHPLC/FI-MSによるコールタールの化学組成のルーチン分析システムをより複雑な化学組成をもつ減圧残さに適用できるようにHPLCの分離スキームの改良を行い, アラビア原油の減圧残さを対象に全成分の分析を行った。HPLCの分離では試料油をシリカゲルカラムにより予備的に4フラクションに極性分離した後, 飽和成分と芳香族成分はさらにシアノカラムで, 極性成分はイオン交換樹脂により22のサブフラクションに分離した。これらサブフラクションのFI-MSデータはMW (分子量)=14<i>n+U</i> (<i>n, U</i>: 整数, -11≦<i>U</i>≦2) として14カラムをもつパターンテーブルに整理した。同族化合物群がグルーピングされているパターンテーブルをもとに試料油の含有成分を帰属可能な75の化合物群に分類した。化合物群への帰属にはFT-IR, NMRおよびUVを補助的に使用した。本方法の有用性を確認するため, パターンテーブルに示されている各化合物群の分子量分布データから試料油中の各元素の存在割合 (wt%), %C<sub>ar</sub>, %H<sub>ar</sub>, 数平均分子量を計算し, 元素分析値や<sup>13</sup>C-NMRより求めたそれらの実測値を比較した。硫黄を除く各元素の含有割合および数平均分子量の計算値と実測値が比較的よく一致することがわかった。硫黄の量が少なかったのは試料油中に含まれている硫黄化合物をチオヘンタイプのみに注目したためであり, また%C<sub>ar</sub>値が計算値と比較して低いのは, 試料中にFI-MSによる分析が不可能な不揮発性の多環芳香族クラスターが含まれることによると推察される。
著者
長谷川 公一 青木 聡子 上田 耕介 本郷 正武
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

「持続可能な都市形成」が議題設定され、NGOメンバーなどの間で社会的な認知が進み、政策決定過程にフィードバックし、形成・遂行された政策がどのように中・長期的な波及効果をもちうるのか。本研究は、ソーシャル・キャピトルをもっとも基本的な説明変数として、環境NGOメンバーと地域社会に対するその社会的効果を定量的に分析した。都市規模・拠点性などから仙台市、セントポール市(米国)に拠点をおく環境NGOの会員を対象に行った郵送調査結果の分析にもとづいて、仙台市の環境NGOのソーシャル・キャピトル的な性格・機能の強さに対して、セントポール市の環境NGOは、政策提案志向型の専門性の高い団体を個人会員が財政的に支援するという性格が強く、ソーシャル・キャピトル的な性格は弱いことが明らかとなった。
著者
上田 耕介
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.59-69, 2015

<p> マイケル・マンの斬新な理論には,歴史研究・現代社会分析にとって,大きな可能性が秘められている.従来の社会学理論の主流は,全体社会を想定したうえで,その諸要素(次元,下位システム等)のいずれかに社会形成の要因を見いだす,というものであった(「要因論」的分析).マンは,明確に境界づけられた全体社会の存在を否定し,「境界を異にする多様なネットワーク群」から社会が構成される,と見る.その上で,支配的ネットワークの「間隙」から新ネットワークが成長し,社会変動を引きおこす,とする(「組織論」的分析).そうした新旧ネットワークのうち,大きな力を持つのが,「イデオロギー」「経済」「軍事」「政治」の4つの「力の源泉」である.この枠組には,従来の社会理論において軽視されてきた軍事と国家間関係が含まれており,マン理論は,社会学理論の発展にとっての重要な貢献となっている.</p>
著者
谷澤 浩二 水野 隆弘 上田 耕司 小山 生子
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
日本獸醫學雜誌(The Japanese Journal of Veterinary Science) (ISSN:00215295)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.1041-1043, 1986
被引用文献数
2

5例の猫において, 癲癇発作に対して長期のタウリン経口投与が効果的であった。抗癲癇薬を使用することなく, 脳波上の棘波と臨床症候は消失又は著明に減少した。
著者
上田 耕介
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.103, pp.73-93, 2019-10-16 (Released:2021-10-24)
参考文献数
9

英国のEU離脱、トランプ政権の誕生などの動きに対して、それを非合理な反動と見るリベラル左派から、盛んに批判が行われている。しかし本稿は、これらの動きが合理的であると論じていく。そのために本稿は、ロバート・ダールの晩年の論考を手がかりにする。それは、移民の増加と、国際組織の影響力増大、国民国家の弱体化に関するものである。 ダールによれば、①移民は民主制にとって厄介な問題を引き起こすため、移民を無制限に受容すべきでない。②国際組織は非民主的であり、民主化する見込みもない。③国民国家が近い将来消滅することはなく、国民国家の民主制が機能するためには、ナショナリズムが欠かせない。 こうした議論からすれば、近年の「極右」台頭は、当然の帰結であり何ら驚くべきことではない。それをもたらしたのは新自由主義者とリベラルの連合である。かつてのポランニや近年のトッドが、ダールと同じ方向で議論を展開している。
著者
上田 耕一郎 田村 寛
出版者
社団法人 日本写真学会
雑誌
日本写真学会誌 (ISSN:03695662)
巻号頁・発行日
vol.67, no.Suppliment1, pp.96-97, 2004-05-27 (Released:2011-08-11)

Partial Amendment of Copyright Law passed through the Diet in December 1996.Accordingly the said protective period was finally placed on an equal footing with that of general works only to fructify the long-cherished campaign of the photographic association concerned, which resulted in the 50-year protective period after authors death as well as that in Europe and America.
著者
朝治 啓三 渡辺 節夫 加藤 玄 青谷 秀紀 西岡 健司 中村 敦子 轟木 広太郎 大谷 祥一 上田 耕造 横井川 雄介 花房 秀一 亀原 勝宏 小野 賢一
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

従来の一国完結史観で捉えたイングランドやフランスの王国史を乗り越え、13世紀西欧世界の権力構造の中での、アンジュー帝国の果たした役割を検証した。イングランド在住諸侯は共同体を結成し、イングランド国王としてのプランタジネット家と共同で王国統治を担う体制を構築した。フランスでは現地領主や都市が相互に抗争して共同体を結成し得ず、カペー家の王は侯、伯と個別に封建契約を結んで自衛した。王家は北仏のごく一部しか直接統治しなかった。プランタジネット、カペー両家はフランス、ブリテン島の諸侯の帰属を取り付けるために競合した。中世の「帝国」を、諸侯や都市の核権力への帰属心をキーワードに説明し得ることを実証した。
著者
森本 慶太 道越 奈苗 大西 吉之 森下 瑶子 上田 耕造 玉村 紳 松本 智憲 安井 倫子
出版者
大阪大学西洋史学会
雑誌
パブリック・ヒストリー (ISSN:1348852X)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.209-245, 2016-02

斯波照雄・玉木俊明編 『北海・バルト海の商業世界』 悠書館、2015 年5 月刊、四六判、480 頁、4500 円+税、ISBN978-4-86582-003-4藤川隆男・後藤敦史編『アニメで読む世界史2』 山川出版社、2015 年1 月刊、A5 判、248 頁、1500 円+税、ISBN978-4-634-64074-0踊共二編『アルプス文化史 : 越境・交流・生成』 昭和堂、2015 年3 月刊、A5 判、268 頁、2700 円+税、ISBN978-4-8122-1507-4藤田拓之著『居留民の上海 : 共同租界行政をめぐる日英の協力と対立』 日本経済評論社、2015 年2 月刊、A5 判、295 頁、6500 円+税、ISBN978-4-8188-2361-7Khyati Y. Joshi and Jigna Desai (eds.) Asian Americans in Dixie : Race and Migration in the South Urbana, University of Illinois Press, 2013, x + 299 pp.,ISBN978-0-252-03783-2中野耕太郎著『20世紀アメリカ国民秩序の形成』 名古屋大学出版会、2015 年2 月刊、A5 判、408 頁、5800 円+税、ISBN 978-4-8158-079-3南直人著『〈食〉から読み解くドイツ近代史』 ミネルヴァ書房、2015 年3 月刊、四六判、304 頁、3500 円+税、ISBN978-4-623-07279-8坂本優一郞著『投資社会の勃興 : 財政金融革命の波及とイギリス』 名古屋大学出版会、2015 年2 月刊、A5 判、496 頁、6400 円+税、ISBN978-4-8158-0802-0