- 著者
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青谷 秀紀
- 出版者
- 史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
- 雑誌
- 史林 (ISSN:03869369)
- 巻号頁・発行日
- vol.98, no.1, pp.69-102, 2015-01
中世後期のキリスト教世界では、信徒たちが、煉獄での滞在期間を可能な限り短くするため、様々な方法で贖宥を獲得しようとした。個人が限定された空間で想像のうちに聖地へと旅立つ仮想巡礼や、都市空間にエルサレムやローマの表象を重ね合わせることで都市を聖地化するプロセッションなどの集団的儀礼はその有力な手段であった。本稿では、内省的な宗教運動が広まりを見せると同時に、高度な都市化を経験した中世後期のネーデルラントを対象に、一見対照的とも思われる双方の実践が、ともに聖地の表象を喚起することで聖なる時間と空間を追体験し、救霊のための祈りを試みるという同質性を有していたことを明らかにしたい。そこからは、中世後期のキリスト教世界に特有な集団と個、公と私の関係性が浮かび上がってくるだろう。