- 著者
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名和 克郎
- 出版者
- 日本文化人類学会
- 雑誌
- 民族學研究 (ISSN:24240508)
- 巻号頁・発行日
- vol.57, no.3, pp.297-317, 1992-12-30 (Released:2018-03-27)
本稿の目的は, 「民族」に関する議論を, 理論的な側面において前進させることにある。前半では, 主観的定義と客観的定義, 重層性, 相対性, 「名」の問題など, 従来行われてきた「民族」に関する幾つかの議論を批判的に検討する。後半では, 筆者の「民族」に関する基本的な立場を, 内堀の民族論を大幅に援用しつつ述べる。民族は実体としては存在せず, 「名」と実体をめぐる民族論的状況のみが存在していること, 「民族」の原初的側面と手段的側面の関係は, 「民族」による個体の死の代替という仮説によって説明出来ること, 「民族」とは, 内堀が抽出した機構を通じて, 個体の死の代替物として想像される集団と定義出来ること, ネイションやエスニシティの問題もこうした機構無しには考えられないこと, ネイションとエスニック・グループの連続性を見失うべきでないこと, 民族誌家は「○○族は」という抽象化にはあくまで慎重であるべきことが主な論点である。