- 著者
-
寺尾 智史
- 出版者
- 京都大学大学院人間・環境学研究科
- 雑誌
- 人間・環境学 (ISSN:09182829)
- 巻号頁・発行日
- vol.22, pp.137-150, 2013-12-20
グローバリズムの進展にともないますます流動化する人間社会について, 従来の地域的区切りで分類・把握し, その特徴に合致した施策を展開することは困難となりつつある. このような「領域性原理」による管理・統治は限界を呈している一方で, 「非領域性原理」によるガバナンス, すなわち, 区割りによる領域を定めない普遍的な管理・統治はその方法論が確立しておらず, 実効性を持ち得ていない. 本稿は, こうした社会科学, 人文科学上のジレンマに対して新たな視角を提供するため, 河川工学や環境科学で一般的になっている「流域圏」という圏域把握を「領域性」の文脈で捉えなおすものである. 本考察をすすめるうえで, 対象としたのは加古川流域である. この水系は, 歴史的境界をはじめ従来から流域内の文化的一体性が希薄であり, 従って, 現在の多様な文化的背景を持つ, 逆に言えば帰属を把握しづらい人聞が混住する社会を鳥瞰搬する枠構造としての「自然領域」として想定するには好適だからである. この観点から本稿では, 液状化し, 流動性が高くなっている人間社会におけることばの多様性を継承する枠組みのひとつとして, 流域国という舞台を適用可能か, 「加古川流域」を対象に考察する. 本稿を通じて過疎等に起因した従来の地域コミュニティの崩壊を通じて, 「地域意識」がソフトな, もしくはヴアーチャルな繋がりに移行している中, 治水, 水資源の確保, 環境保全において鍵概念となっている「流域圏」を, これまでの領域概念を補完する, 新たな領域性として認知する意義を論じた.