著者
羽鳥 剛史 鄭 蝦榮 小林 潔司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.148-167, 2008

本研究では,第3者委員会の実施が,住民のプロジェクト計画に対する信頼形成に及ぼす影響を分析する.その際,第3者委員会の役割として,1)プロジェクト評価情報の集約,2)プロジェクト計画に対する住民の信頼形成,という2つの役割に着目する.その際,公開の場で実施される第3者委員会を,2つのコミュニケーションモデルを統合した連結ゲームとして定式化する.具体的には,行政と第3者委員,行政と住民のコミュニケーション関係を主観的ゲームとして記述する.その結果,連結ゲームでは,委員の戦略的発言により,非効率的なコミュニケーション均衡が実現する可能性があることを指摘する.さらに,第3者委員会の公開制度が有する問題点を克服するための方策について理論的に考察する.
著者
横松 宗太 湧川 勝巳 小林 潔司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.24-42, 2008

自然災害により家財を喪失した家計は,復旧のために自己資金以外に外部資金を調達することが必要となる場合がある.しかし,家計が金融機関から借入れができないという流動性制約に直面する場合,家財の復旧過程が遅延することによる被害が発生する.本研究では,流動性制約下における家計による家財の復旧行動をモデル化し,家財が低い水準に止まることや,復旧過程が遅延することにより発生する流動性被害について分析する.そして,防災投資が「期待被害額の減少効果」のみならず,低所得層の家計に対して「期待部分復旧被害額の減少効果」や「期待復旧遅延被害額の減少効果」をもたらすことを明らかにする.また,災害保険や政府による復旧資金の貸付制度というリスクファイナンス手段が,家計の復旧過程に及ぼす機能について考察する.
著者
大本 俊彦 小林 潔司 大西 正光
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:02897806)
巻号頁・発行日
vol.2001, no.693, pp.231-243, 2001 (Released:2010-08-24)
参考文献数
32
被引用文献数
3 3

本研究では建設工事において発注者と請負者の間に生じる紛争解決のメカニズムに関してゲーム理論を用いた分析を試みる. 建設工事における紛争は当事者の間で建設工事契約に関する解釈が異なることにより生じる. 紛争解決の手段として和解もしくは仲裁が存在する. 本研究では工事契約に対する解釈の違いや紛争の程度が, 紛争解決の手段選択に及ぼす影響を分析するとともに, 第3者裁定が紛争解決の効率化に果たす役割を分析する. さらに, 日本型紛争解決方式と国際紛争解決方式の相違点について考察し, 日本型紛争解決方式に残された今後の課題をとりまとめる.
著者
貝戸 清之 小林 潔司 青木 一也 松岡 弘大
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.255-271, 2012 (Released:2012-10-19)
参考文献数
36
被引用文献数
12

社会基盤施設の劣化過程においては,施設の構造特性や使用・環境条件の違いにより劣化速度に多大な異質性が存在する.個々の施設に特有な異質性がもたらす劣化速度の過分散の問題を克服するために,施設グループ間の劣化速度の異質性を明示的に考慮した混合マルコフ劣化ハザードモデルが提案されている.本研究では,劣化速度の過分散が,施設グループ間における劣化速度の異質性と,グループを構成する個々の施設間における異質性というレベルの異なるつの異質性が複合された結果により発生すると考える.その上で,階層的異質性を導入した混合マルコフ劣化ハザードモデルを定式化し,その階層ベイズ推計法を提案する.最後に,橋梁床版に対する目視点検データを用いた実証分析を通して,本研究で提案する手法の妥当性を検討する.
著者
大西 正光 小林 潔司 中野 秀俊
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.67_I_231-67_I_242, 2011 (Released:2012-12-28)
参考文献数
16
被引用文献数
2

民間資金を活用して,インフラストラクチャーの建設及び維持管理運営を行うPPP (Public-Private Partnership)は世界的な潮流となっている.PPP事業における資金調達先も多様化する中,イスラーム金融が果たす役割が大きくなっている.本研究ではイスラーム金融の発展がPPP投資に与える影響を分析するため,イスラーム金融における金利決定メカニズムを明示的に表現したイスラーム金融市場モデルを定式化する.その結果,イスラーム金融の利益配分率(疑似利子率)は,預金,貸出の両市場において,通常金融の利子率よりも小さくなることが示された.さらに,預金者のイスラームに対する自覚が高まるほど,疑似貸出利子率が低下する一方,イスラーム金融に伴う取引費用が軽減されれば,疑似貸出利子率が増大することが示された.
著者
石 磊 宮尾 泰助 小林 潔司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D (ISSN:18806058)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.414-430, 2010 (Released:2010-10-20)
参考文献数
23

本研究では,開発途上国における建設プロジェクト契約を不完備契約モデルとして定式化し,発注者・受注者双方が関与するダブルモラルハザードの発生メカニズムを分析する.その際,発注者・受注者の努力水準が第3者に対して立証不可能であり,プロジェクト費用リスクに対して互いに正の外部性(補完性)を有する場合に着目する.発注者が努力義務を怠り発生した超過費用を受注者へ移転しようとするモラルハザードが発生すれば,受注者によるモラルハザードが発生し,プロジェクトの効率性が低下するというダブルモラルハザードが発生する.本研究では,開発金融機関の立場から,現地政府と事業者の間で発生するダブルモラルハザードを抑制し,プロジェクトの効率性を担保できるような望ましい融資契約スキームに関して理論的なアプローチを試みる.
著者
大西 正光 村上 武士 Wu Peiwei 小林 潔司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.I_309-I_322, 2017 (Released:2017-12-27)
参考文献数
21
被引用文献数
1

水道コンセッション事業の経済的価値は,主に水道料金及び水道の接続数(普及率)に依存する.政府が契約条件として望ましい水道料金及び接続数を設定するためには,民間事業者が有する技術に関する情報を有しておく必要がある.政府が技術に関する十分な情報を有していない場合には,技術提案型入札が適用される場合も少なくない.本研究では,技術提案型入札の下での最低単価落札方式と最大接続数落札方式という2つの落札方式の経済的帰結を理論的に分析する.さらに,水道コンセッション事業では,しばしば事後的に初期契約の見直しが行われることを指摘する.その上で,事業者の戦略的ホールドアップ行動の帰結を分析し,各落札方式の得失について考察する.
著者
小林 潔司
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:02897806)
巻号頁・発行日
vol.1992, no.449, pp.27-36, 1992-07-20 (Released:2010-08-24)
参考文献数
74
被引用文献数
1
著者
奥村 誠 小林 潔司 吉川 和広
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木計画学研究・論文集 (ISSN:09134034)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.171-178, 1987-11-20 (Released:2010-06-04)
参考文献数
17

This paper presents the concept of fiscal effects of public investment, which explains an employment effect in public sector and fiscal flexibility, in the non-metropolitan area that consists of well-developed part and under-developed part. We point out that we must analyze two trade-off problems; one is regional equities versus total development of prefecture; the other is developments effects versus fiscal flexibility, which gives main perspective for the public debt management. For this analysis, an econometric model having hierarchical structure between prefectural government and sub-areas is presented. By case study in Shiga prefecture, the validity of the model is evidenced and some comments about investment allocation and public debt management are proposed.
著者
瀬木 俊輔 小林 潔司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.I_353-I_371, 2016 (Released:2016-12-23)
参考文献数
39

本研究は,マクロな社会資本投資政策の便益の世代別帰着分布を評価可能な動学的応用一般均衡(DCGE)モデルを構築した.その上で,構築したモデルを我が国に適用し,社会資本投資政策と長寿命化政策について分析を行い以下のような知見を得た.社会資本投資には,その水準を増やすと将来世代の厚生が増加する一方で現在世代の厚生が減少するという世代間厚生のトレードオフの問題が生じる.起債による世代間所得移転はこの問題を効率的に緩和できるが,これは公債残高を一時的に増加させる.長寿命化政策は,現在世代を含む幅広い世代に対して便益をもたらし,損失を受ける世代への補償は現在世代の中だけで行うことが可能である.
著者
羽鳥 剛史 小林 潔司 鄭 蝦榮
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.101-120, 2013 (Released:2013-05-20)
参考文献数
92
被引用文献数
4 3

社会基盤整備事業に関わる合意形成を行う上で,パブリック・インボルブメントをはじめとする公的討論が重要な役割を担っている.本研究では,社会基盤整備における公的討議の意義と課題について整理し,社会的意思決定における正統性を様々な討論過程を通じて担保するための理論的枠組みについて考察する.その際,討論システムの概念を導入し,公的討論が特定の公的討論を対象としたミクロ討論,討論システム全体を対象としたマクロ討論で構成されており,パブリック・インボルブメント等が,ミクロ討論とマクロ討論を接合させる役割を果たすことを指摘する.その上で,討論システムを構成する公的討論の基本原理や望ましい討論を実現するための課題や問題点,討論の望ましさを評価するための基本的な考え方について考察する.
著者
津田 尚胤 貝戸 清之 青木 一也 小林 潔司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:02897806)
巻号頁・発行日
vol.2005, no.801, pp.801_69-801_82, 2005 (Released:2006-05-19)
参考文献数
17
被引用文献数
17 16

本研究では橋梁部材の劣化予測のためのマルコフ推移確率モデルを推定する方法論を提案する. その際, 橋梁部材の劣化状態を複数の健全度で定量化するとともに, 時間の経過により劣化が進展する過程をハザードモデルで表現する. その上で, 一定期間を隔てた時点間における健全度の推移関係を表すマルコフ推移確率を指数ハザード関数を用いて表現できることを示す. さらに, 定期的な目視検査による健全度の判定結果に基づいて, マルコフ推移確率を推定する方法を提案する. ニューヨーク市の橋梁を対象とした実証分析により提案した方法論の有効性を検証するとともに, サンプル数と指数ハザードモデルの推定精度の関係について考察する.
著者
林田 理惠 横井 幸子 黒岩 幸子 宮崎 衣澄 金子 百合子 山本 有希 柳町 裕子 熊野谷 葉子 堤 正典 小林 潔 小田桐 奈美 角谷 昭美 加藤 純子 北岡 千夏 佐山 豪太 竹内 敦子 ボンダレンコ オクサーナ 三浦 由香利 宮本 友介 依田 幸子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

国内ロシア語教育各機関における教育カリキュラムの質的評価を行い,問題点を明確化,さらに各機関における語学能力到達度の相互比較を実施した.また全国高校・高専・大学ロシア語学習者1114名を対象にアンケート「ロシア語とロシア語学習に対する意識調査」を実施,量的・質的分析に基づき学習者の動機づけと学習環境との相関性観察を行った.国内外でその結果を発表,ロシア語学習者の傾向を明らかにし,ロシア語教育のあるべき方向性について明確な指針を提示した.さらに,カリキュラム・教材開発,指導方法,評価システム,就職関連情報等について,各機関教員の共同利用サイト『ロシア語教育支援・就職情報』を構築し公開した.
著者
堀 倫裕 鶴田 岳志 貝戸 清之 小林 潔司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F4(建設マネジメント) (ISSN:21856605)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.33-52, 2011 (Released:2011-02-18)
参考文献数
29
被引用文献数
1 2

下水処理施設は,保全管理方式が異なる複数の資産群から構成されており,補修や再構築に要する財源も様々である.したがって,維持管理計画を最適化し,事業の安定性・継続性を確保していくためには,異なる資産管理方式および資金調達方式を同時に考慮したライフサイクル費用分析が必要となる.さらに,下水道事業体は公営企業として財務会計を有する場合も多く,財務会計と有機的に連携した管理会計を構築することが重要である.本研究では,下水処理施設のアセットマネジメントに資する管理会計システムを提案するとともに,管理会計シミュレーションを通じて,ライフサイクル費用の低減に貢献するようなアセットマネジメント戦略を検討するための方法論を提案する.さらに,適用事例を通じて方法論の有効性を検討する.
著者
小林 潔
出版者
日本スラヴ・東欧学会
雑誌
Japanese Slavic and East European studies (ISSN:03891186)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.87-102, 2004-03-22

O.O.ローゼンベルク(1888-1919年)は、大正時代に来日し漢字研究および仏教研究に従事したペテルブルク東洋学派の日本学者である。仏教学者シチェルバツコイの高弟で、日本語はペテルブルク大学で黒野義文に、ベルリンで元東京大学教授ランゲおよび辻高衡に学んだ。1912年〔明治45年〕に来日。これは師であるシチェルバツコイの意向であった。シチェルバツコイは当時、日本をも含めた各国の研究者と倶舎論(5世紀の仏教書)研究を推進しており、日本に残る伝統的な教学を学ばせるためにローゼンベルクを東京に派遣したのである。留学時の指導教授は姉崎正治、専門の仏教研究では、シチェルバツコイとともに倶舎論研究グループを形成していた荻原雲来が指導に当たった。日本の同僚とも親しくつきあい、また同時期に留学していた同窓の日本研究者ネフスキーやコンラットとも交流を続けている。また、ドイツ東洋文化研究協会(OAG-Tokyo)で仏教論を発表したほか、日本の学界に向けて倶舎論研究上の問題点について問う文書を公開している仏教研究を続ける一方、彼は、外国人にとっても使いやすい用語辞典と漢字典が無いことを嘆き、これらの制作を決意し、日本人と協力しつつ在日中に2つの辞書を実際に刊行した。1つは、仏教研究に必要な術語、日本史、神道の用語を集めた一種のコンコーダンス『佛教研究名辞集』(1916年〔大正5年〕)である。ここでは術語は漢字毎に排列されており、発音を知らない外国人でも検索しやすいものになっている。また、中国語音、対応する梵語術語を掲げ、語の解説に関しては別の然るべき便覧への参照指示がつけられている。もう1つは、外国人にとって日本語学習のネックとなっている漢字を解説した字典『五段排列漢字典』(1916年〔大正5年〕)である。ここで彼は従来の部首引きを批判し、ペテルブルク中国学の伝統に基づいた新たな漢字分類法を提唱、それに基づいて漢字を排列している。これは漢字の図形的要素に注目した分類であった。1916年〔大正5年〕に帰国。ペテルブルク(ペトロダラート)大学でエリセーエフらと日本研究に従事する中で、1918年、日本・中国の伝続的教学の知見と倶舎論研究に基づいて博士論文『仏教哲学の諸問題』を執筆する。ここで彼は、仏教の基本概念である「法(ダルマ)」について詳細な分析を行った。翌1919年に亡命、31歳でレヴァル(タリン)にて死去した。没後、彼の博士論文は、独訳されて世界の東洋学者に影響を与えることとなった。日本の和辻哲郎もローゼンベルクの独訳論文を活用しつつ仏教研究を行っている。独訳からの重訳で日本語訳も刊行され、ローゼンベルクのこの著作は現在の日本の仏教学界でも基本文献とみなされている。ローゼンベルクが提唱した漢字排列方法は、ソ連・ロシアで刊行される中国語辞書で採用され、今日まで用いられている。また、アメリカでもローゼンベルク方式を採用した漢字字典が刊行されている。ローゼンベルク方式は今なお生きているのである。ローゼンベルクは、仏教学及び漢字研究に於いてアクチュアルな意義を有する業績をあげた。この意味でロシア東洋学史上の重要人物である。また、その業績は、在日中の研鑽の結果であり、日露の学者の協同の成果でもあった。日露文化交流史上でも価値ある存在であり、その生涯と業績について更なる研究が侯たれる。