著者
稲浪 正充 西 信高 小椋 たみ子
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.33-41, 1980-12-30 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
4 3

障害児の発達には、両親の心的態度を理解し、両親に対し受容的、支持的に働きかけることがきわめて大切である。ここでは、Holroydの開発した15尺度に分けられた206項目の質問紙を用いて、自閉症児、精神薄弱児、肢体不自由児、視覚障害児の母親の心的態度の検討を行なった。自閉症児の母親では、15尺度のうちの6尺度:すなわち、自己の心身不健康、障害児に時間のかかりすぎること、拒否的であること、過保護であること、障害児の活動性の欠如、障害児の人格上の問題で、肢体不自由児の母親では、家庭の経済的困難、障害児の身体能力欠陥の2尺度で、他の3グループの母親に比べ、統計学的に有意に高い心的ストレスを認めた。また、日本とアメリカの自閉症児の母親、精神薄弱児の母親の心的ストレスの比較を行なったが、異文化圏にありながら同一の障害をもつ母親の心的態度は類同的であった。
著者
小椋 たみ子 浜辺 直子
出版者
言語科学会
雑誌
Studies in Language Sciences (ISSN:24359955)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.1-18, 2021-12-23 (Released:2021-12-21)
参考文献数
40

本研究では前言語期から文法出現期の9ヶ月から24ヶ月児の母子の遊び場面の観察録画データから、第一に、母親の事物をあらわす育児語と動作をあらわす育児語の特徴を音韻面と形態統語情報から明らかにし、子どもの年齢による育児語使用に違いがあるか否か検討した。育児語の特徴は、事物育児語、動作育児語とも特殊モーラを含む語や自立モーラの反復が大部分であった。形態統語情報については、事物育児語は格助詞を伴うあるいは格助詞の省略された育児語が単独の事物育児語より多く発せられていた。動作育児語は「する」の動詞や動作誘発助詞を伴っていた。事物育児語、動作育児語とも子ども年齢で有意差はなかった。第二に、養育者は成人語と育児語で子どもに働きかけていることから、事物語と動作語の育児語率(育児語/(育児語+成人語))がその後(33ヶ月)の子どもの幼児語、成人語の事物語、動作語獲得へ及ぼす効果と効果をおよぼす月齢について検討した。その結果、14ヶ月児の母の事物育児語率タイプ、トークンは、33ヶ月事物成人語獲得に正の効果を、また、14ヶ月児の母親の動作育児語率トークンが33ヶ月動作幼児語に正の効果を及ぼしていた。一方、24ヶ月児の母親の動作育児語率は33ヶ月の動作幼児語、動作成人語に負の効果を及ぼしていた。母親の育児語の言語入力の効果は事物語、動作語で異なり、また、子どもの年齢においても異なっていた。
著者
藤本 早苗 小椋 たみ子 渡辺 俊太郎
雑誌
大阪総合保育大学紀要 = Osaka University of Comprehensive Children Education (ISSN:18816916)
巻号頁・発行日
no.14, pp.13-28, 2020-03-20

女性の社会進出が進み、一日の多くの時間を保育施設で過ごす子どもの数も増加する中で、集団への適応の如何は子どもにとって大きな課題となり得る。本研究では、社会的スキル、実行機能及び言語能力の3者を適応に関わる領域として捉え、幼児期におけるそれら3領域の関連を検討することを目的とした。近畿圏内の保育所、幼稚園、認定こども園の担任保育士に質問紙調査を実施し、3歳後半から6歳の就学前児 652 名に対する回答を得た。それらの保育者評定の得点について因子分析した結果、社会的スキル3下位尺度(主張スキル・協調スキル・自己統制スキル)、実行機能2下位尺度(抑制力・状況対応力)、言語能力2下位尺度(外言活用力・メタ言語活用力)を抽出した。分散分析の結果、7下位尺度の全てにおいて、性別と年齢の交互作用は有意ではなく、それぞれの主効果のみが有意であった。具体的には、女児が男児よりも有意に得点が高く、また、5歳前半児がそれ以前の年齢群よりも有意に得点が高かった。パス解析の結果、言語能力から社会的スキルと実行機能への影響が大きいこと、そして、言語能力の中でも、外言やメタ言語を活用する能力の発達が、幼児期における社会的スキル及び実行機能の獲得・発達に対して、共通の重要な要件となっている可能性が示唆された。
著者
小椋 たみ子
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.132, pp.29-53, 2007 (Released:2022-03-08)
参考文献数
36

日本の子どもの初期の語彙の構成を日本語マッカーサー乳幼児言語発達質問紙(JCDIs)標準化データ,縦断データ,横断データから明らかにした。特に子どもの初期の語彙が名詞優位か動詞優位かの問題を検討した。第1にJCDIsで語彙の構成を調べた結果,名詞が一番高い比率を占めていた。第2に,JCDIsで20ヶ月児158名の名詞,動詞,形容詞,閉じた語の語彙の構成を調べた結果,名詞の比率が高く,Bornstein et al.(2004)の7カ国の結果と一致していた。第3に2名の子どもの縦断データから語彙急増期の後は名詞優位,その後,文法発達に伴い動詞優位になることを明らかにした。母親の語彙は動詞優位であった。第4に,31名の日本の子どもと養育者の玩具場面と絵本場面の観察では絵本場面では一貫して名詞優位であったが,玩具場面では言語発達に伴い動詞優位に移行していった。玩具場面の養育者の発話は動詞優位で子どもの結果とは一致していなかった。以上の結果から,言語発達初期の子どもは名詞を学習しやすい概念的な傾向を有していると結論づけた。最後に名詞優位を引きこす語学習のメカニズムについて論じた*。
著者
小椋 たみ子 増田 珠巳 浜辺 直子 平井 純子 宮田 Susanne
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.153-165, 2019 (Released:2021-09-30)
参考文献数
39
被引用文献数
1

本研究は9,12,14,18,21,24ヶ月児の158名の母親の5分間の発話を分析し,対乳児発話の語彙面にあらわれた特徴を明らかにした。また,このうち127名の子どもの言語発達の追跡調査を33ヶ月時点で行い,対乳児発話がその後の子どもの言語発達へいかなる効果を及ぼすかを明らかにした。対乳児発話の種類を育児語(名詞系,動作名詞系,形容詞系,コミュニケーター系),オノマトペ,接尾辞の付加,音韻転化の4種類に分類し,タイプとトークンの発話単位頻度を算出した。観察時点ではオノマトペだけが年齢間で有意な差があった。各対乳児発話の語彙の内容を詳しくみると,オノマトペは反復,および特殊拍がついたオノマトペ標識の頻度が高かった。育児語は動作名詞系が有意に高かった。音韻転化は語の一部が拗音で発音されていた。対乳児発話のその後の子どもの言語発達への効果は,14ヶ月時点の母親の育児語が追跡33ヶ月の子どもの成人語表出語数を予測していた。育児語は,子どもが語と対象の間の恣意的な結びつきのルールを学習する足場づくりの役割をもっていることを育児語の類像性の観点から考察した。
著者
小椋 たみ子 窪薗 晴夫 板倉 昭二 稲葉 太一 末次 晃
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

第一に言語構造、養育環境(親の働きかけ、メディア環境、家族環境など)、個体要因(物理的世界の認知能力、社会的認知能力、気質、出産時情報など)の言語発達への影響を明らかにした。第二に親の報告から言語発達を測定するマッカーサー乳幼児言語発達質問紙の妥当性が実験と観察データから高いことを明らかにした。第三に言語構造の違い(複数の形態素の有無)が認知へ寄与するかどうか明らかにした。第四に大人の言語との比較を基調に、子供の言語を(i)非対称性、(ii)「幼児語」の音韻構造、(iii)アクセントの獲得、(iv)促音の出現、以上の4つの観点から明らかにした。
著者
小椋 たみ子 松尾 雅文 松嶋 隆二 常石 秀一 竹島 泰弘
出版者
神戸大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

1.Duchenne型筋ジストロフィー児165名に対して知能、発達評価を行なった。(1)IQ69以下の精神発達遅滞は25,6%、IQ 70-89が39.6%、IQ 90-109が28.7%、IQ 110以上が6.1%で精神遅滞が1/4であった。知能(IQ, DQ)の平均は80.2であった。(2)PIQとVIQの差はWISC(94名)、新版K式(26名)においては有意差なし、WPPSI(45名)においてはPIQIQ(84.8)がVIQ(74.2)より有意に高かった。(3)下位検査の評価点はWISCでは類似問題が最低点(7.0)、迷路が最高点(11.0)、WPPSIでは理解問題が最低点(5.2)、迷路が最高点(9.1)であった。言語概念化能力と言語表出能力が低かった。(4)32名の1年以上後の再検査(平均26.6ヶ月間隔)でFIQ, PIQ, VIQとも有意差はなかった。進行に伴う知能の低下はないと考えられる。2.Duchenne型筋ジストロフィー児43名(平均7.1歳)にITPA言語学習能力検査を実施した。「ことばの表現」「ことばの類推」の評価点が低かった。3.サザンプロット法、PCR法、RT-PCR法、直接塩基配列解析法により遺伝子異常を同定した症例について、遺伝子異常と知能との関連を検討した。欠失・重複例(97名)と微小変異例(53名)で、IQの平均値の差はなかった。欠失・重複例と微小変異例について大脳、脊髄をコントロールするエクソン44と45の間にあるdp140のプロモーターと知能の関係をみると、両例とも遺伝子異常がイントロン44より上流にとどまる群はイントロン45より下流に及ぶ群に比べ、IQ、VIQ、PIQとも有意に得点が高かった。なお、欠失・重複例はイントロン45より下流に及ぶ群(65.4%)、微小例はイントロン44より上流にとどまる群(74.1%)で出現率に有意差があった。ITPAにおいてはdp140のプロモーターとの関係は見出されなかった。4.筋ジス児の言語音の有標性を検討するために構音検査を実施したが、誤構音は少なかった。